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第6章 聖獣、一方的な契約
21.呼ばれぬ客の想定外(3)
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言われた言葉で、右肩の脱臼跡が痛くないと気付いた。肩をぐるぐる回してみて、本当に痛みがないことに驚く。外れた関節を戻してもしばらく痛いのが脱臼だ。驚きついでに、右足首の痛みも消えていた。
「足も痛く…ない」
呆然としながら呟くと、目の前に伏せた黒豹が偉そうな態度で両手を重ねた。クロスする形の前足に顎をのせ、何でもないことのように呟く。
『治しておいた』
「ありがと」
反射的に礼を言うが、まだあちこち確認している。木の枝か何かが刺さった腹部の傷も、しっかり治癒して跡形もない。破れた服がそのままなので、かろうじて記憶にある傷の存在が確認できる程度だった。
「すごい能力だな」
「聖獣なんて初めてみた」
ユハやライアンは遠巻きにしながら声をかける。そりゃ、こんな大きな肉食獣に近寄るのは怖い。さっきジャックやノアが助けようとしてくれたのは、破格の対応だった。気持ちの上で恩を感じているので、いずれ彼らに返したいと思う。
『我は聖獣ゆえ、人が傷つけることは出来ぬ。そして契約した主も然り』
得意げな大きな黒猫は、尻尾を左右に大きく振った。褒めてもらいたいのかも知れない。手を伸ばして、首の辺りをわしわしと掻いてやった。さらに尻尾が揺れる。
やっぱりただの大きな猫だ。
「ユハだったか、亡命希望でいいのか?」
「はい、よろしくお願いします。ルリ、挨拶して」
「お願いします」
いつの間にやら騎士達とユハが事務的な手続きをしている。注意書きを渡されたユハと少女――ルリというらしい――は、一時的に騎士団の預りとなった。これで殺される心配はないので、一安心だ。
「ユハはオレの部隊に頂戴」
「シフェルに確認してからになるが、問題はないだろう」
「やった」
オレ名義の予算が余っていれば雇えるんじゃないかと考えたが、正解だったようだ。皇帝陛下自らの裁可なので、そう簡単に覆される心配もなかった。
「シフェルは?」
リアムの警護で真っ先に顔を見せると思ったが、見回す面々の中にいない。しかもいつの間にか、奥さんのクリスも消えていた。帰ってきたときは確かにいたのに。
「作戦会議だ。攻め込ませて受ける予定だったが、今回の誘拐事件でキレたらしい。こちらから攻めて一気に滅ぼすと聞いた。意外と血の気が多いからな」
「へ…へえ……」
オレのせいか? オレが悪いのか? ひきつった顔で話を逸らそうとしたところで、助けの手が伸ばされた。多少どころでなく太くて毛むくじゃらの手だ。
『主殿、名は?』
「そうだよな、オレもお前の名前知らないもん」
ぽんぽんと撫でると、まるでビロードのような手触りだった。絹も近いかもしれない。とにかくすべらかで気持ちよかった。
「足も痛く…ない」
呆然としながら呟くと、目の前に伏せた黒豹が偉そうな態度で両手を重ねた。クロスする形の前足に顎をのせ、何でもないことのように呟く。
『治しておいた』
「ありがと」
反射的に礼を言うが、まだあちこち確認している。木の枝か何かが刺さった腹部の傷も、しっかり治癒して跡形もない。破れた服がそのままなので、かろうじて記憶にある傷の存在が確認できる程度だった。
「すごい能力だな」
「聖獣なんて初めてみた」
ユハやライアンは遠巻きにしながら声をかける。そりゃ、こんな大きな肉食獣に近寄るのは怖い。さっきジャックやノアが助けようとしてくれたのは、破格の対応だった。気持ちの上で恩を感じているので、いずれ彼らに返したいと思う。
『我は聖獣ゆえ、人が傷つけることは出来ぬ。そして契約した主も然り』
得意げな大きな黒猫は、尻尾を左右に大きく振った。褒めてもらいたいのかも知れない。手を伸ばして、首の辺りをわしわしと掻いてやった。さらに尻尾が揺れる。
やっぱりただの大きな猫だ。
「ユハだったか、亡命希望でいいのか?」
「はい、よろしくお願いします。ルリ、挨拶して」
「お願いします」
いつの間にやら騎士達とユハが事務的な手続きをしている。注意書きを渡されたユハと少女――ルリというらしい――は、一時的に騎士団の預りとなった。これで殺される心配はないので、一安心だ。
「ユハはオレの部隊に頂戴」
「シフェルに確認してからになるが、問題はないだろう」
「やった」
オレ名義の予算が余っていれば雇えるんじゃないかと考えたが、正解だったようだ。皇帝陛下自らの裁可なので、そう簡単に覆される心配もなかった。
「シフェルは?」
リアムの警護で真っ先に顔を見せると思ったが、見回す面々の中にいない。しかもいつの間にか、奥さんのクリスも消えていた。帰ってきたときは確かにいたのに。
「作戦会議だ。攻め込ませて受ける予定だったが、今回の誘拐事件でキレたらしい。こちらから攻めて一気に滅ぼすと聞いた。意外と血の気が多いからな」
「へ…へえ……」
オレのせいか? オレが悪いのか? ひきつった顔で話を逸らそうとしたところで、助けの手が伸ばされた。多少どころでなく太くて毛むくじゃらの手だ。
『主殿、名は?』
「そうだよな、オレもお前の名前知らないもん」
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