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68.あの子が無事で安心しました
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覆い被さる腕はカスト様ですね。髪型を気遣いながら顔を上げた私は、両側から抱き締められていることに気づきました。カスト様、伯父様、どちらも私を支えています。
「ありがとうございます」
お礼を言って、二人が見つめる馬車の先へ視線を向けると……少女が倒れていました。もしかしたら間に合わずに、馬が蹴飛ばしてしまったかも知れません。ご両親と見られる方々が駆け寄り、抱き上げてこちらに頭を下げました。両側のお二人の腕を叩いた私は馬車を降りると口にしました。
「危険では……」
渋る伯父様に対し、カスト様は苦笑いして同意します。
「わかった。でも離れないで」
剣に右手を乗せたまま、私をエスコートしてくれました。申し訳ありませんと頭を下げるご両親へ、心配いらないと微笑みかける。まずは安心が大事です。そこから手を伸ばして少女の頬を撫でました。
温かい。見た感じ、傷もなさそうですね。でも蹴られていた場合、見えない場所が痣になる可能性もありますわ。
「姫らしいご判断ですな。俺が残って医者に見せますので、パレードを続けてくだされ。後でご報告にお伺いします」
「お願いします」
アロルド伯父様にこの場を任せることにしました。国民にとって良き日となる今日、この愛らしい少女を犠牲にすることがあってはいけません。カスト様と馬車に戻り、伯父様に手を振りました。
いつも私は考えなしに動き、誰かに後始末をお願いしてきました。これからは王家を支える公爵となり、後片付けをする側に回るのです。しっかりしなくてはいけませんね。顔を上げて微笑みを浮かべ、人々の歓声に応えて手を振る。そんな私をカスト様はしっかり支えてくださいました。
馬車は少し先で待っていたお父様達と合流し、決められたコースを進みます。その後は大きなトラブルや事故もなく、無事にパレードを終えて戻りました。お花を手渡そうと駆け寄る国民や、お祭り騒ぎに興奮して飛び込む子もいます。馬車に触れる前に、騎士達が対応してくれたので助かりました。
ここからは貴族の方々と、王家の顔合わせになりますね。急いで衣装を着替えて髪型や化粧も変えなくては。侍女に急かされ、カスト様と別れて客間に飛び込みました。上階の自室まで戻る時間が惜しいので、お父様やお母様も空いた客間で着替えるはずです。
髪に散らした小花を洗い流し、肌に保湿オイルを塗って着替えました。あら、このオイルはいい香りですわ。気持ちを落ち着けながら、用意された黒いドレスに袖を通しました。胸元にレースを大胆に使い、一分しかない袖も同じ柄のレースで仕上げています。全体に金色の糸が折り込まれて、きらきらと輝く黒絹が夜空のよう。
金髪をハーフアップにして、左側に流します。右側はエスコートするカスト様のために開けて、髪飾りは黒真珠を用意してもらいました。全身をカスト様の色に包んで、真珠と黄金の耳飾りを付けます。胸元にレースがあるので、首飾りは細い鎖のみにしました。
「お綺麗ですわ」
褒める侍女達に声をかけようとして、ノックの音で振り返りました。
「これはこれは……報告のために参りましたが、美しい姫のお姿を一番最初に拝見できるとは、なんとも運が良く光栄なことですな」
「伯父様ったら」
いつもながら優しく包むような伯父様の声に、自然と気持ちや表情が和らぎます。アロルド伯父様から語られた少女はケガもなく、馬に蹴られずに済んだとのこと。ほっと胸を撫で下ろしました。
「ありがとうございます」
お礼を言って、二人が見つめる馬車の先へ視線を向けると……少女が倒れていました。もしかしたら間に合わずに、馬が蹴飛ばしてしまったかも知れません。ご両親と見られる方々が駆け寄り、抱き上げてこちらに頭を下げました。両側のお二人の腕を叩いた私は馬車を降りると口にしました。
「危険では……」
渋る伯父様に対し、カスト様は苦笑いして同意します。
「わかった。でも離れないで」
剣に右手を乗せたまま、私をエスコートしてくれました。申し訳ありませんと頭を下げるご両親へ、心配いらないと微笑みかける。まずは安心が大事です。そこから手を伸ばして少女の頬を撫でました。
温かい。見た感じ、傷もなさそうですね。でも蹴られていた場合、見えない場所が痣になる可能性もありますわ。
「姫らしいご判断ですな。俺が残って医者に見せますので、パレードを続けてくだされ。後でご報告にお伺いします」
「お願いします」
アロルド伯父様にこの場を任せることにしました。国民にとって良き日となる今日、この愛らしい少女を犠牲にすることがあってはいけません。カスト様と馬車に戻り、伯父様に手を振りました。
いつも私は考えなしに動き、誰かに後始末をお願いしてきました。これからは王家を支える公爵となり、後片付けをする側に回るのです。しっかりしなくてはいけませんね。顔を上げて微笑みを浮かべ、人々の歓声に応えて手を振る。そんな私をカスト様はしっかり支えてくださいました。
馬車は少し先で待っていたお父様達と合流し、決められたコースを進みます。その後は大きなトラブルや事故もなく、無事にパレードを終えて戻りました。お花を手渡そうと駆け寄る国民や、お祭り騒ぎに興奮して飛び込む子もいます。馬車に触れる前に、騎士達が対応してくれたので助かりました。
ここからは貴族の方々と、王家の顔合わせになりますね。急いで衣装を着替えて髪型や化粧も変えなくては。侍女に急かされ、カスト様と別れて客間に飛び込みました。上階の自室まで戻る時間が惜しいので、お父様やお母様も空いた客間で着替えるはずです。
髪に散らした小花を洗い流し、肌に保湿オイルを塗って着替えました。あら、このオイルはいい香りですわ。気持ちを落ち着けながら、用意された黒いドレスに袖を通しました。胸元にレースを大胆に使い、一分しかない袖も同じ柄のレースで仕上げています。全体に金色の糸が折り込まれて、きらきらと輝く黒絹が夜空のよう。
金髪をハーフアップにして、左側に流します。右側はエスコートするカスト様のために開けて、髪飾りは黒真珠を用意してもらいました。全身をカスト様の色に包んで、真珠と黄金の耳飾りを付けます。胸元にレースがあるので、首飾りは細い鎖のみにしました。
「お綺麗ですわ」
褒める侍女達に声をかけようとして、ノックの音で振り返りました。
「これはこれは……報告のために参りましたが、美しい姫のお姿を一番最初に拝見できるとは、なんとも運が良く光栄なことですな」
「伯父様ったら」
いつもながら優しく包むような伯父様の声に、自然と気持ちや表情が和らぎます。アロルド伯父様から語られた少女はケガもなく、馬に蹴られずに済んだとのこと。ほっと胸を撫で下ろしました。
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