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31.愛される資格がない(SIDEベアトリス)

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*****SIDE ベアトリス



 美しい部屋の中で、整えられたシーツの上に横たわる。ここ数日は、今までの人生で最高の恵まれた時間だった。旅の疲れもあって、体は眠ろうと訴えるのに……胸騒ぎがする。ざわざわと落ち着かない感覚に襲われ、私は身を起こした。

 テラスのガラス戸を開けると、下で警護する騎士が心配するだろう。侍女のソフィを起こしてしまうかも知れない。迷って、隣のリビングに通じる扉をそっと開けた。真正面の壁にある扉の向こうは皇帝陛下であるエリクの寝室になる。今は彼もいないだろう。

 皇帝陛下が留守にしていた間、たくさんの書類が待っていたはずよ。ステンマルク国の王太子殿下の仕事は、私の役目だった。片付けてきたから、あの国より広大な領土を持つフォルシウス帝国の書類量は、その比じゃないと分かる。なのに、食事に付き合ってくれるのね。ゆっくりお茶を飲んで別れたけれど、今頃忙しくしているのかしら。

 灯りを落とした室内は月明かりでほんのり明るい。音を立てないよう歩いて、長椅子に腰を下ろした。エリクはきっと、私の過去を調べるでしょう。皇帝陛下が隣に置こうとする女となれば、執事や騎士が調べてもおかしくありませんもの。

 恐ろしさに全身が震えた。もし知られてしまったら、エリクは私を捨てるかしら。王太子アードルフ様と同じように、罵るかも知れない。ただただ怖かった。魔女として殺されるのは仕方ないけれど。あの優しい空の青を宿す瞳が歪んで、整ったお顔を顰めて「近づくな」と言われたら。

 想像するだけで涙が零れます。初めて私を大切にしてくれた方、私を一人の女性としてみてくれた方です。嫌われたくないし、傍にいたい――私ごときが何を望むのでしょう。高望みにも程があると叱られても、エリクに優しく愛されたいのです。

 あの方は「可愛い」「素敵だ」と褒めてくださいますが、「愛している」と仰いません。愛を偽れないのでしょう。私は愛されているわけじゃない。勘違いしてはいけないわ。

 婚約者に罵られ捨てられる可哀想な女を、一夏の蝶として拾っただけ。私よりエリクに相応しいご令嬢はいくらでもいらっしゃる。あの方に愛されるなら、私は命の最後の一滴まで支払うでしょうね。

 ――この魔女が! お前のせいで!!

 罵る声を思い出し、石を投げつけられた記憶が蘇り、恐ろしくなりました。もつれる足で寝室の扉までたどり着き、ベッドに飛び込みます。頭の上までシーツを被って、自分を抱き締める腕に力が入りました。

 抱き心地の悪い、皮に骨が浮き出た体……可愛げのない振る舞い。私には愛される要素はないのです。思い知らされた記憶にゆっくり蓋をして、震えながら朝を待ちました。

 お願い、早く明るくなって。そうしたら幸せそうに笑ってみせるから。静かな夜は怖いの、お願い。
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