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第1章 聖女に選ばれし乙女

22.誤解の解けるきっかけは

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 己の力だけで聖女を見つけるのは困難と判断し、王太子リアトリスは父王へ聖女捜索を願い出た。当然ながら、聖女に逃げられた失態を報告しないわけにいかない。国王はすぐに近衛騎士と街の治安を維持する衛兵を召集した。

 迅速な対応を行なったのは、少しでも早く聖女を保護するためだ。息子の失敗を責めるのも、謝罪を受けるのも後で良い。この場での優先事項を見誤らず、国王は組織した騎士や兵に命じた。

 聖女を見つけ、保護せよ。彼女を拘束する存在がいた場合、それが教皇や公爵であっても排除して構わぬ。

 異例の権限を与えられた彼らは、国王の信頼厚い者をリーダーに立て、各地に散らばった。聖女の姿を見失ってからすでに半日以上、一晩過ぎている。もたもたする時間はなかった。

 王太子リアトリス自身も騎士ガウナを引き連れ、王都内の捜索に加わる。そんな中、王宮へ入った知らせは意外な場所からだった。

 夕暮れ時に駆け込んだ使者は、興奮に赤く火照った顔で声高らかに「聖女発見」の報を告げたのだ。





 時は少しばかり遡る。

 自宅での食事を終え、ほっと息をついたクナウティアは、泣いたせいで赤い目元をタオルで冷やしていた。隣で、親友で幼馴染のセントーレアも同様に顔を冷やす。互いに薄化粧などとうに涙で流れてスッピンだった。

「それで何があったのか、話してくれ」

 促す父ルドベキアの声に、クナウティアは躊躇った。どう説明したらいいのかわからない。どこから話せばいいのかしら。タオルで顔が見えないのをいいことに、顔をくしゃりと歪めた。

「あの、ごめんなさい。私がティアを教会に引き渡してしまったの」

 意を決したセントーレアの告白から、国中を巻き込んだ誤解の嵐は少しずつほぐれ始める。

「セレア……」

「教会で、クナウティアが聖女様に選ばれたと聞いたわ。確かに珠は薔薇色に光ったし、本物だと思う。クナウティアは女神色の髪だし」

 幼い頃から羨ましかったピンクブロンドをちらりと視界に収め、セントーレアは言葉を続けた。思い出すのは昨日の出来事だ。

「選ばれたティアを神官様が奥へ連れて行こうとしたわ。ティアは嫌がって、家に帰りたいと叫んでた。私、最初は助けようとしたのよ。でも近くに寄ってみたら、ティアが大股開きでドアに足をかけて抵抗してた。なんだか大人げない気がして、つい……」

「私の足を外したのよね」

 こくんと頷いたセントーレアに、クナウティアは肩を竦めて「仕方ないわ」と笑った。あの状況でどちらが良いとか悪いとか。判断できるわけないし、セントーレアは良かれと思って行動したのだ。

「神官の前で、大股開き?」

 ルドベキアが額を押さえて呻いた。娘のお転婆っぷりを知る彼は、何をやらかしたのか。想像がついてしまったのだ。

「ああ、よく叱られて馬小屋でお仕置きされるときに、やってたやつだね」

 兄セージが苦笑いした。悪いことをしたとき、馬小屋に数時間閉じ込める罰だ。その際に、両足を踏ん張って中に入れられないよう抵抗するクナウティアの姿が思い浮かんだ。あれを教会で神官相手に披露したと言われ、父が呻くのも無理はないと同情する。

 外部の人に知れ渡ったら、嫁の貰い手がなくなりそうだ。その足を隠すように外したセントーレアを責める者は家族にいなかった。逆に母リナリアは、セントーレアに同情する。

「ごめんなさいね、嫌な役をやらせちゃったわ」

「いえ」

 そこまで知られてしまえば、少しずつクナウティアも話し始める。

「教会で神官様に縛られて閉じ込められたのよ。帰れないって言うから、逃げようとしたわ。そしたら2階から落ちてしまって、王子様と騎士の方に助けてもらって、王宮へ向かってた」

「それがどうして、娼……あんな場所に泊まることになった?」
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