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第3章 魔王城を目指す覚悟

83.王族の重圧からの解放

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 転がされたテントの中で、リアトリスは自己嫌悪に襲われて蹲る。情けなさに涙が滲んだ。なぜあの言葉を飲み込めなかったのか。他者を羨み努力を怠る者を、冷めた目で見てきた側の自分が……どうして。

 王太子とは羨ましがられ、妬まれる地位だ。その分だけ求められる水準は高かった。勉学も剣術も、学友より優れていて当たり前で、若い頃から政治や帝王学を学び、優雅な振る舞いを身につける厳しいレッスンを繰り返した。寝る時間を惜しんで勉強とレッスンに追われ、ある程度の年齢になって気づいた。

 何もしないくせに、他人は「王太子だから出来るのが当然」「俺だって王子なら出来た」と評価する。王子は出来て当たり前? そんなわけがないだろう。お前達が遊び、寝過ごす時間をすべて注ぎ込んだ結果だ。特別器用なわけでもなく、勉強が得意だったわけでもない。空いた時間をひたすら読書やレッスンにつぎ込んだのは、それが王家の義務だから。

 他人に命令し、時には命すら犠牲にさせる立場に立つ者が、周囲より劣るわけにいかない。「あの王の決定なら従おう」そう納得してもらうために、相応の実力が必要だった。愚王が即位すれば、国は滅びる。

 なのに、国のために命がけで魔王へ向かう旅に同行してくれる彼らに、僕はなぜあんな言葉を吐けた? 生きて戻れない可能性が高く、名誉だけで同行してくれる者などいない。

 謝らなければならない。間違った言葉を詫びて、彼らに許しを請わなければ関係が崩れる。這いずるようにして入り口に近づいたが、恐怖に動きが止まった。

 彼らはもう……僕を見限ったのではないか。命を懸ける価値を見いだせずに、放り出す相談をしているかも。震える手で、そっとテントの縁に手を掛けた。恐る恐る隙間から覗くと、騎士達は夕食の続きを作っていた。

 ……セージ殿が、いない。

 肝が冷えて、慌てて外へ出ようとした。テントから顔を出したところで、上から声がかかる。

「頭は冷えたのか」

 テントの入り口脇に立つセージは腕を組んだまま、リアトリスを見下ろした。反射的に顔をあげたリアトリスが言葉を探すと、ぽんと頭に手を置かれた。

「ったく、いきなり爆発するんじゃねえ。周りが混乱するだろ」

 ぼそっと吐き捨て、乱暴に頭を揺すられた。撫でるには強すぎる所作が終わり、目の前に手を差し出される。ほら、と促されて立ち上がる。

「あ、リアトリス殿下。体調はいかがですか」

「具合が悪いなら隠さないでください」

 隣のセージが頷く姿に、誤魔化してくれたのだと理解して、鼻の奥がつんとした。泣きそうな気持ちを誤魔化すように笑顔を作り、素直に頭を下げる。

「悪かった。またよろしく頼む」

 口々に騎士が心配を向ける状況に、自分の過去の努力や振る舞いが報われた気がして、頬を緩めた。

 肩を抱くようにテントから寄り添うセージの「わかってるな? 余計な発言で気持ちを折るなよ」という圧力に、騎士達はやっぱり……と顔を見合わせる。彼らは恋人同士なのだ――うっかり痴話喧嘩に巻き込まれないようにしよう。誤解の溝はさらに深くなったが、リアトリスは王族として少し成長した。
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