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第1話 ここは何処ですか?
しおりを挟む「またこの夢……」
重い身体をベッドから起こし充電中だったスマホを手に取り時刻を確認する。7時27分、どうやら目覚ましより早めに目が覚めてしまったらしい。何だかいつも同じ夢を見た時はこうして早く目が覚めてしまう、と言っても内容は朧げで上手く思い出せないのだが何となくあ、今日も見たなというのは分かってしまう。
2度寝してしまいたい衝動を抑えながら身体を起こし、んーっと伸ばす。気怠い身体を無理やり動かし顔を洗う。そしてリビングに向かい慣れた手付きでパンを焼いて冷蔵庫から取り出したジュースを飲む。
これがずっと続けてきた私の朝のルーチンワーク。女の子らしくないなぁと思いながらも朝はどうしても弱く簡単に済ませてしまう。
ぱぱっと身嗜みを整えて用意してあった鞄を持てば準備完了。女の子は準備が長いって良く言うが私はそれにあまり時間をかけない、幸いな事に容姿は整っていて化粧がしなくても見栄えがいい私はよくモテる。自分で言うとナルシストのように聞こえるかも知れないけど過ぎた謙遜は失礼とも言うし。と言っても特定の誰かとお付き合いをした事はないのだが。
そんな事はさておき私は幾分か目覚めてきた身体を動かしながら家を出る。
目的地は高校、今日も私 更西 亜里朱の1日が始まる。
勇者ルーンのお話は国際的にも有名な話で誰もが知っている。
その昔世界は1つで繋がっていて侵略者から守り抜いてまた世界を救った、そんな話が現実だなんて思わない。けれどもやれ勇者さまは存在しただの、昔はこの地球もその世界の1部だっただの言われ続けている。
どの国もここが勇者さまの出身地だ、と言い合うように議論や出土物などを見せ合う展覧会は幾つも存在する。この日本でもそういう風潮は珍しくなくやれ島根がどうたら青森がどうたらと激しく各都道府県が凌ぎをけずっていたりする。
「ねぇほんともう飽きたくない?」
「勇者さまが偉大なのは分かったけどさぁ、そんないない人の事こんな勉強してもねぇ」
「だよねぇー」
そんな何処と無く聞こえてきた話し声を亜里朱は全くその通りだと思う。とてつもなくメジャーな勇者さまのお話は迷惑な事に自分たちが学習する範囲にまでくい込んできている。小中高とずっと聞かされ続けてきた生徒が飽きた、と言ってしまうのも無理もない。
英雄だか勇者さまだか何だか知らないがここまで来るといい迷惑なのだ。しかも存在するかも怪しい、というより殆どの人が存在すらしていないと思っているそんな勇者さまの話をここまで引っ張らないで欲しいものだと亜里朱は思う。
窓際の席で晴れた空をぼーっと見ながら亜里朱は思う、きっと勇者っていうのは夢の中に出てくる人の事を言うんだろうなと。
殆ど思い出せない夢の中で一際大きく脳裏に、けれども掠れているある男の子の背中を思い出しながら亜里朱は思った。
亜里朱は特に部活動には所属していない。なので学校が終わればそそくさと帰路につく。友達も多かれ少なかれいるが皆部活動をしていて一緒には帰れない。亜里朱も部活動やればいいのに、と口を揃えて友達は言うが何となく自分はやる気になれなかった。
将来の夢もなければ何かを生きがいにして生きている訳でもない。ただ何となく生きてそれなりに幸せになってそれなりの人生を歩んでいくんだろうと自分でも思っている。
そんなちょっと今どきの女子高生の思考から離れた亜里朱に彼氏持ちの友達が良く、出会いがあれば変わるよー、だなんて言われるが生憎と運命の出会い何てものは信じていない。
そんなロマンチックな想像は小学生で卒業したのだ。さて、今日は何のご飯を作ろうかと歩きながら考える。冷蔵庫には何が残っていただろうか、それによっては作るものを変わってくる。むむむ、と唸りながら歩いていると突然視界がボヤける。
「あれ、なんだろう」
ぱっと前を向くと光り輝く渦のようなものが見える、しかしちょっと遠くにあり過ぎて良く分からない。少し気になった亜里朱は寄り道して帰ろう、そう思った。
いつもは使わない道、少しドキドキするなぁなんて思ってしまった。もしかしたら冒険家とか向いてるのかもなんて思ってそれはないかとクスクスと笑う。
少しずつ光が強くなっていく。
もう少しで何か分かるかも、そう思った瞬間暖かい光が視界全体を覆う。
何かに包まれた感覚があり、何のことか全く訳が分からない亜里朱は突然襲ってきたとてつもない風と浮遊感に閉じていた目を開ける。
「って何で落ちてるんですかぁぁぁ!?」
気が付いたらお空の上だった。
なんのこっちゃ分からず不意に見てしまった下に広がる光景を見てしまって、あこれはダメだと亜里朱の意識は遠のいていく。
亜里朱は高いところがダメなのだ。
――――――――
「あぁ~、だりぃ、しんどい、寝たい」
ふわぁ、と気の抜けた欠伸をする。
何度繰り返しても次元移動というのは慣れない。というより前いた所では時間的にも夜に該当していた訳で、そしてその時間までやるべき事をしていた彼がそう言うのは仕方がないのかも知れない。
「まぁそうは言ってられないよなぁ、さてとお仕事しますか」
そう言って人気のない森の中で目を閉じる。傍から見れば立ちながら寝ている不審者そのものだが別に寝ている訳ではない。
「ふむ、文明レベルはBってとこか?生活基準も悪くない、ただまぁ身分制度かぁ久しぶりにみたな」
そう言って彼はぼりぼりと頭の後ろをかく。
「魔法技術はC、基礎中の基礎だなこりゃ。別段他からの干渉もないしこりゃ久しぶりに楽な仕事かもな」
目を開ける。彼が何をしていたのか、簡単に言えばこの世界そのものを見ていたのだ。別次元からやってきた彼はこの世界について何も知らない、だからこの世界を直接『みた』のだ。とある事情で数多の世界を回ってきた彼はこうして世界にそれぞれの格付けを行う。
どうやら今回の世界はとても平均的な世界らしく比較的平和らしい。
前いた所では文明らしき文明はほぼ存在せず生きる為には人から奪う、そんな事が当たり前な世界だった。そんな世紀末のような世界で立て続けに仕事をしてきた彼にとって今回の世界はとても平和的で欠伸が出るほど簡単に終わりそうな仕事だ。
「ん、なんだあれ?」
遠くの方に何が落ちていってるのが見てる。
「って人じゃんか、ていうかどっから落ちてきたんだろうなぁ」
そんな呑気な事を言いつつふわぁ、と欠伸をする。この世界には空から飛び降りるのが流行っているのだろうか。
「意識ないっぽいし、助けないと不味いよなぁ。めんどくせぇ」
はぁ、と一つため息をする。しゃあねぇか、そう言うと彼は跳んだ彼とその落ちていく人にはかなりの距離がある、それを彼はただ跳んだだけで追い付いて見せた。それもかなりの上空でだ。
頭から落下していっている人を抱き抱えようとしたその時だった。
「ってなんだ、これ!?」
一瞬で視界が光で覆われた。
罠か、そう思ったが優しく暖かい光が全身を包み込むような感覚がしてそれはないとそれを否定する。じゃあそう思わせる為の精神干渉系魔法か、そう思うがこの世界にそんな高度な魔法技術は存在しない。なら、と次の思考にうつるまえに視界が晴れた。
「……なんじゃこれぇぇぇぇぇ!」
ぼやけた視界で辺を見渡す。
はて、私はいつ寝てしまったのだろう。確か私は……
「よう、目覚めたか」
そうやって私が話しかけてくる。
ん?
「あれ、私?」
「そうだな、この身体はお前のだ」
可笑しい、なんだか声が低くなっているような……というより男の人の声になってるような。ていうか何故私は私と話してるんだろう。
ってえ?
「な、なんで私!?」
「やっと意識がはっきししてきたか。取り敢えず、言わせてもらおう」
身体を見る、それは私のいつも見ている身体じゃなくて黒っぽい服にローブのような服を着ているがっしりとした男の人の身体だ。脳内でパニックに陥っている亜里朱をほっといて構わず目の前の私は口を開く。
「お前にはこれから世界を救ってもらう」
もう脳内で処理しきれなかった私はまた気絶した。
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