♂入れ替わりゆうしゃさま♀

シュテ

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第3話 これなんてファンタジー?

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「ぜぇ、ぜぇ……もう無理だ」

「だらしないですよ、ほら男の子ならもっと頑張ってよ」

歩き初めて数時間。以前として森は続いており2人はまだ抜けれていない。数時間と言えどもずっと歩き続けていれば疲労は自ずと溜まっていく、だが2人は実に対照的だ。シンは息が上がっており心底辛そうだ、それに比べ亜里朱には微塵も疲れを感じられない。

「んなもん、お前が俺の身体使ってるから……だろ。ていうか絶対運動とかしてないな、この程度で息が上がるとは……引きこもりか?」

「違うよ!?、まぁ確かに運動はろくにしてなかったけど引きこもりではありません。用事がなければ家にいることは多かったのは確かだけど……」

「お前絶対友達いねぇだろ」

「失礼だよっ!?私にも友達ぐらい……いたよ、何人かは」


徐々に萎んでいく言葉、そんな亜里朱にジト目を向けるシン。実際に友達は多くはない、じゃあ浮いているのかと言われればそうでもない。基本的に落ち着いている場所が好きでぼーっと何かを眺めているのが好きだった亜里朱は自然と1人になりがちだった。話し掛けられれば普通に受け答えするし、愛想だって悪くない。けれども友達、と言える程親密な人はさほど多くないのは紛れもない事実だった。

本当は容姿がとても整っていて雰囲気から亜里朱に周りがたじろいて話しかけなかっただけなのだが。実際に告白も何度もされているし、特に仲良くもないのに頻繁に声を掛けられるのもそのせいだ。だがそれは本人が知る由もない。



「あー、疲れたぁ……休憩しようぜ」

「そんな事言ってたら日が暮れちゃいますよ?私、野宿とか絶対やですから」

「えぇ……どう足掻いても街までたどり着かねぇって。だってまだ半分も進んでないっぽいし」

「え、嘘ですよね?」

「ほんとほんと」


嘘ではなく本当だ。まだ身体が入れ替わる前に凡その距離は分かっているシンだからこそ言える事だ。元よりこんな事になるなんて予想打にしていない事もあってか殆どノープランで2人は歩き進めている、入れ替わりさえしなければものの数秒で目的地についていたのだから仕方がないと言えば仕方がない。

しかし運が良いのか悪いのかまだモンスターの類には遭遇していない。少なからずこの世界にはモンスターなるものが生息している、もちろん人に襲い掛かってくるモンスターが殆どなのでこうしてまだ遭遇していないのは紛れもなく幸運である。


「……ん?やべぇな」

「どうかしましたか?」


木に寄りかかって座っていたシンが突然立ち上がる。それにつられて亜里朱も同じように立ち上がる。


「何人かこっちに来てるな。真っ直ぐ向かってきてるから明らかに俺達を追ってきてる」

「ど、どうして……って何でそんな事が分かるの!?」

「魔力を感じるのもそうだが、人の気を感じるのと風が教えてくれたのさ。質からみて明らかに一般人じゃないからこりゃ軍か?取り敢えずこのままいけば直ぐに追いつかれる」


亜里朱にはシンの言ってる事が半分ほど良く分からなかったがそれでも今凄くピンチなんだ、という事は分かった。そうと分かれば早く逃げなければならない、歩きだそうとするが手を引っ張られるのを感じ足が止まる。

「待てよ、どうせあっちはこっちの魔力辿って来てるんだしお前が魔力隠すかしない限り逃げれないぞ」

「ど、どうするんですか!?私達このまま……」

「まぁ捕まったら殺されるか一生牢獄の中だな、俺達身分証明出来ないし山1つ吹き飛ばしたし」

「な、なんでそんな笑ってられるんですか!もうぅ……」


ケラケラと笑うシンに亜里朱は泣きそうになる。一般人ならともかく軍に目を付けられて追われている、ずっと気ままに平和に生きてきた亜里朱からすれば絶望が押し寄せて来ているのと同義なのだ。


「まぁ落ち着けって。逃げられないなら倒しゃいいんだよ」

「そんな事ができるわけないよ……」

「俺だったらそうだな、けどお前なら余裕だ」


キョトンとする亜里朱。私が?というふうに自分を指さす。うんうんとニコニコ笑って首を縦に振るシン。


「無理に決まってるでしょぉぉ!」

「ほらサクッと倒してくれよ」

「だから無理ですって、私自慢じゃないですけど腕相撲ならクラスメイト全員にだって勝てない自身があるからっ!」

「えぇー、ほら『ファイア』でもいいじゃん」

「あれ人に使ったら死んじゃうから……」


明らかに『ファイア』はオーバーキルだ。あんなもの人に使ったら骨ごと消え去るに違いない。

「いたぞ!おい、お前ら……」

「わ、私は逃げるからね!」

「ちょ、おい!」


一目散に亜里朱は逃げ出した。後ろは振り向かずひたすら全力で。勝てるはずがない、なら逃げるしかない。杖やら剣を持った明らかに一般人じゃない格好を見た瞬間戦うだなんて微塵も考えられなかった。

しかし直ぐにシンが付いてきていない事に気が付いた亜里朱は走りながら後ろを振り向いた。


「あれ?誰もいない……」


だが後ろを振り向いてもシンの姿がないどころか武装した軍の人すらいない。訳がわからずキョトン、とする亜里朱だが取り敢えず引き返す事にする。もちろん全力ではなく直ぐに逃げれるように警戒しながらだが。

そこで気が付いた。

「私、もしかしてめちゃくちゃ速い?」


そのまさかだった。







「お前……おいて、くなよ!」


豆みたいなシンと軍を見付けた亜里朱は取り敢えずシンに駆け寄った。近く理解に苦しんでいた亜里朱だが実際にこうも体験してしまえば納得するしかない。自分は今物凄く早い、それこそ最高時速の車より軽く速い。


「だって、こんなスピード出るなんて思わないよ普通」

「いいから……アイツらどうにかしろよ!」


ぜぇぜぇと息を切らしながら後ろを指さすシン。後ろでは剣を抜き走ってくる者や器用に魔法を詠唱しながら走ってくる者もいる、飛んでくる炎の塊や風の塊を辛うじてかわしていくシンを何処か亜里朱は他人事のように見ていた。

もちろん自分にも飛んできているのだが飛んでくるスピードが遅すぎるのでまるで脅威を感じられない、いや充分速いが何故か不思議と脅威を感じられなかった。


「へぇー、それが人にモノを頼む態度?」

「そういうの……ほんと、いいから!」

「冗談だよ。けどあの人達はとてもじゃないけど倒せないよ?」

「大丈夫、だ。まず右手を……大きく振りかぶれ」

「こうですか?」

「んで……思いっきり振り抜け!」


心に余裕があった亜里朱は言われるがままに右手を振り抜いた。しかしこんなことをして何になるのだろうか。直接手が当たれば確かに痛そうだが空をきったところで何になるのか。

そう思ってた頃が亜里朱にもありました。



「な、なに!?うわぁぁぁぁぁ……」

「えぇ……」

「ぜぇぜぇぜぇ……」



亜里朱が右手を振り抜いた瞬間、風が吹き荒れ草木は激しく揺れ始めて大規模な竜巻が発生した。辺りの木や地面を抉るほどの威力の竜巻はあろう事か軍全員を吹き飛ばしてお星様にした。

「完璧だな!」

「これなんてファンタジーなのかな……」


こんな調子でやっていけるのか。
亜里朱はとてもとても不安になった。


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