♂入れ替わりゆうしゃさま♀

シュテ

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第18話 社交界

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「どうしましたか?ミスアリス」
「いえ。少し席を外しますね」
「何処へ.......」
「女性が席を外す時に行き場所は聞かない方が良いですよ」

そうシンが軽くウインクしながら答えると貴族は少し前屈みになりこくこくと頷いた。
そんな様子に内心嫌な顔しながらホールを横切る。台風の目のように歩けば開かれる道。そこを堂々と通る。未だに周りの視線全てを集めている事に嫌気がさす。
ホールから出て外に出ると待っていたのは亜里朱だった。

「なんか凄い事になってるね」
「何人事みたいに言ってんだ。皆お前を見てるんだぞ」
「そう言われると気恥しいというか何というか.......」
「普段みたいなアホの子してないでお嬢品にしてりゃお前でもこんなもんだ。見てくれは可愛いんだからな」
「それ褒めてるの?」

褒めているし貶しているとも言える。
ジト目を向ける亜里朱にシンは言った。

「もうすぐ入れ替わりの時間だ。俺みたいにやれとは言わない。だが確実に根源は近くにいる」
「うっ.......私上手くやれる自信ないよ」
「間違いなく接触してくるだろう。だから出来るだけ誘いは断るな。分かったな?」
「うん。頑張る!」

その気持ちが空回りしなければいいのだが。
視界が光に包まれ晴れると身体が入れ替わる。
もう社交界も終盤であるがメインイベントは残っている。まだ根源は姿を見せていない。いやここに来ているのは間違いない。それは分かるのだが身体が入れ替わっているからか勘が上手く働いていない感じがあった。
しかしこうして元に戻ると分かる。やはりここに根源がいる。
言うなればこれからが本場だと言うこと。

「あの.......」

遠慮がちに亜里朱はシンの袖を引っ張る。
もじもじと頬をほんのり赤く染めて機嫌を伺うようにちらちらと目線を向けてくる姿にシンの心臓は跳ねる。
昨日の事もそうだが今日はいつもと訳が違う。お互いに何処に出ても恥ずかしくないように身なりを整えている。
純白のドレスに亜里朱の金髪はよく似合っていて薄らと施されたチーク、そして羞恥で赤く染まった顔と長く立っていたからか多少の発汗もあり今の亜里朱はどうしてもシンの目からは魅惑的であった。

どうしても重なる。
違うと頭では分かっているのに。どうしても本能と言うべきか何かがシンの心を捉えて離してはくれない。
伝えたかった事がある。一緒にやりたかった事がある。
彼女がいないのは自分が弱かったから。何も出来ないくせにでしゃばって。失敗して。

「良かったらこの後.......踊らない?」

いやそう言う意味じゃなくて。と忙しなく言い訳を綴る亜里朱。
慌ただしく手を振り回す彼女にシンは言った。

「悪ぃな。そういう気分じゃねぇんだ」
「えっ.......」

まさか断られるとは思ってなかったんだろう。呆気に取られている。
自然と断りの言葉は出ていた。こんな気持ちじゃきっと亜里朱にも彼女にも向き合う事が出来ない。

「けど私踊れないし.......」
「大丈夫だ。困ったように踊れないって相手に言えば喜んでリードしてくれるさ」
「けど.......もういいよ!」

拗ねるように怒る亜里朱はその場から走り去る。その瞳から零れ落ちるものに胸が痛む。
もう枯れきって何も感じる事がないと思っていた心。どこまでいっても自分は勇者にはなれないんだと届かない星に向かって手を伸ばした。


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