【完結】ハッピーライフのその先は。

関鷹親

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09.地獄の幕開け2

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 壁際に追い詰められたまま、気がつけば遼佑に唇を奪われていた。
 暫く感じていなかった熱に体がカッと温度を上げる。

 求めていたものが手に入ったような感覚に志貴の思考は溶かされ始めたが、暖簾の先にある通路を通る人の話し声に我に返った。

「外だよりょーちゃん、これ以上は……」

 服の裾から入りかけていた手を押さえて止めれば、目を細めて一瞬不愉快そうに遼佑が眉を顰めたが、すぐににこやかに笑う。

「確かにここじゃぁな。出ようか」

 伝票を持ち先に席を立つ遼佑に唖然としたままだった志貴だが、次の瞬間には高揚感に包まれた。
 速くなる鼓動を抑え、顔に溜まった熱を逃すようにグラスに残っていた水を流し込むと、慌てて遼佑のあとを追う。

 だが浮かれていられたのもそれまでだった。
 遼佑が当然このように自分の家へ向けて足を進めていたからだ。
 今までならばそんなこと気にした試しがなかった。なんなら嬉しかったくらいで。

 頭をよぎるのは当然のように、遼の婚約者だと名乗ったあの女性の姿。
 二人だけの空間だと勘違いしていたが、実際はそうではなかった。
 ということは、当然あの部屋で遼佑があの女性と体を合わせていてもおかしくないのではないか。
 鍵を持っているし、ましてや婚約者なのだから。

 そのことに気がついてしまった志貴の足取りは途端に重くなる。
 先程まで高揚していた気分は今や、風船が萎むように縮んでしまっていた。

「どうした志貴」

 気がつけば足は止まっていて、先を歩いていた遼佑がそれに気が付き伺ってくる。

「あ、えっと……たまにはりょーちゃんの部屋じゃないとこがいいなって思ってさー」
「なら志貴の部屋?」
「そうじゃなくてあの……っ、そうそう! この前行ったとこが良かったから、そことかどうかなって」

 視線がなかなか定まらず、指を意味もなくもぞもぞと動かしてしまう。
 素直に遼佑の部屋は嫌だと言えたら良いが、そうなると理由を問われる羽目になる。
 だったら最初から別の場所を提案するだけだ。

「ふーん……そう、そこがいいなら構わないけど」
「本当!? じゃあこっち!」

 今度は志貴が道案内をするために先を歩く。
 ほっとしていた志貴だが、その背を遼佑が機嫌が悪そうに見ていたことに気づけるはずもなかった。

 咄嗟に出した提案だったため、志貴は歩きながら必死で最近利用し尚且つ近場のホテルを頭の中で引っ張っりだしていく。

 ホテルなどどこもごろごろして睡眠を取るだけ、か体を重ねるだけなので中身は然程変わらないと志貴は普段から思っていた。
 良かった場所なんて覚えていない。
 一生懸命に頭を捻り、女性達がどこそこが良いとか違いを話していたことを思い出して、志貴はその中の一つを目指した。

 辿り着いた先、平日の夕方前なので部屋はどれも空いていて、志貴はほっと胸を撫で下ろした。
 これで満室だったらきっと遼佑が面倒だからと、結局家に帰ることが目に見えていたからだ。

 部屋に入れば外の雑多な喧騒は聞こえてこない。
 静まり返った部屋で二人の会話は不意に途切れ、どことなく気まずい空気が流れた。
 先にベッドの端に腰掛けた遼佑が少ししてから手招きする。志貴は一瞬目を彷徨わせたが、大人しくそれに従うことにした。
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