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再会
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何度目か分からない欠伸を噛み殺し、重たい瞼をなんとか持ち上げながら松沢月人(まつざわつきひと)は朝の満員電車に揺られていた。
少し長めの軽く癖のついた黒髪は綺麗にセットされ、少しつり上がった目じりは眠さのせいで半目になり、眠気のせいで眉間に皺が寄るので人相が悪い。
背も高く、ある程度の厚みもある体のせいで威圧感もあるだろう。目の前にいる通勤中の男性や女性が目を背けていた。
隈も濃くなる一方なので、どう頑張っても爽やかだと言われていた頃の見た目には戻れそうにない。
社会人になり早三年。慣れ始めたと思った仕事は途端に忙しさを増し、連日帰宅時間が終電間際になっていた。
それでも朝の出勤時間は変わらず、平日は寝不足が続いている。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた鉄の箱の中、のびのびと大きく欠伸をすることもできない。
人が多いせいで酸素も薄く、寝不足で意識も朦朧としていてこれは不味いなと思いながらも、途中下車するという選択肢はなかった。
気晴らしに音楽でも聴ければいいのだが、生憎と吊り革につかまる手を下ろすこともできない状況だ。
早く駅に着いてくれと願いながら揺られていれば、目的地を知らせる車内アナウンスが流れた。
乗車していた人々が扉が開くと同時にじりじりと圧をもって押し寄せ、押し流されるように電車を降りていく。
ふらつく頭のまま、ホームにある椅子に座ろうと足をそちらへ向けてみるが、人波に呑まれるまま改札へ向かう階段へ進まされてしまった。
ここまでくるともうその波から逃れることはできない。
深くため息を吐きながら、今日に限って妙に長く感じる階段を流れに合わせて一段ずつ登っていく。
――あ、ヤバいっ。
革靴の踵が階段の縁を捉え、そのまま足を滑らせてしまう。
体はそのまま前に倒れるのではなく、後ろへぐらりと大きく傾いた。
一瞬にして後方から甲高い女性の短い悲鳴が上がり、同じく登っていた周りの人々が驚愕の表情を向ける。
辺りの景色がスローモーションで流れ、けれども脳内では後ろの人を巻き込んだら大変なことになるだの、夕方のニュースになるかもしれないだのと考えが高速で流れていく。
どこも掴めるものがない空中に投げ出された腕が、むなしく天井を指そうとしたその時。
ぐっと強い力で引っ張られ、後ろに大きく傾いていた体が前方へ戻された。
ドンっと音を立てて、仕立てが良いとわかるスーツを纏った体にぶつかる。
その際鼻を強打し、痛みで涙がぼろっと目からこぼれた。
それと同時に、流れる光景が通常の速度になり大きな騒めきが耳を襲う。
「大丈夫? 月くん」
「――は?」
喧騒の中、懐かしい呼ばれ方に反応して顔を上げる。そこに居たのはかつての幼馴染だった。
*久々の新作です!久々の現代です!
よろしくお願いしますー!!
少し長めの軽く癖のついた黒髪は綺麗にセットされ、少しつり上がった目じりは眠さのせいで半目になり、眠気のせいで眉間に皺が寄るので人相が悪い。
背も高く、ある程度の厚みもある体のせいで威圧感もあるだろう。目の前にいる通勤中の男性や女性が目を背けていた。
隈も濃くなる一方なので、どう頑張っても爽やかだと言われていた頃の見た目には戻れそうにない。
社会人になり早三年。慣れ始めたと思った仕事は途端に忙しさを増し、連日帰宅時間が終電間際になっていた。
それでも朝の出勤時間は変わらず、平日は寝不足が続いている。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた鉄の箱の中、のびのびと大きく欠伸をすることもできない。
人が多いせいで酸素も薄く、寝不足で意識も朦朧としていてこれは不味いなと思いながらも、途中下車するという選択肢はなかった。
気晴らしに音楽でも聴ければいいのだが、生憎と吊り革につかまる手を下ろすこともできない状況だ。
早く駅に着いてくれと願いながら揺られていれば、目的地を知らせる車内アナウンスが流れた。
乗車していた人々が扉が開くと同時にじりじりと圧をもって押し寄せ、押し流されるように電車を降りていく。
ふらつく頭のまま、ホームにある椅子に座ろうと足をそちらへ向けてみるが、人波に呑まれるまま改札へ向かう階段へ進まされてしまった。
ここまでくるともうその波から逃れることはできない。
深くため息を吐きながら、今日に限って妙に長く感じる階段を流れに合わせて一段ずつ登っていく。
――あ、ヤバいっ。
革靴の踵が階段の縁を捉え、そのまま足を滑らせてしまう。
体はそのまま前に倒れるのではなく、後ろへぐらりと大きく傾いた。
一瞬にして後方から甲高い女性の短い悲鳴が上がり、同じく登っていた周りの人々が驚愕の表情を向ける。
辺りの景色がスローモーションで流れ、けれども脳内では後ろの人を巻き込んだら大変なことになるだの、夕方のニュースになるかもしれないだのと考えが高速で流れていく。
どこも掴めるものがない空中に投げ出された腕が、むなしく天井を指そうとしたその時。
ぐっと強い力で引っ張られ、後ろに大きく傾いていた体が前方へ戻された。
ドンっと音を立てて、仕立てが良いとわかるスーツを纏った体にぶつかる。
その際鼻を強打し、痛みで涙がぼろっと目からこぼれた。
それと同時に、流れる光景が通常の速度になり大きな騒めきが耳を襲う。
「大丈夫? 月くん」
「――は?」
喧騒の中、懐かしい呼ばれ方に反応して顔を上げる。そこに居たのはかつての幼馴染だった。
*久々の新作です!久々の現代です!
よろしくお願いしますー!!
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