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苦い想い
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あの時かかってきた電話はどうやら、そのまま会社を休んでいいと言う連絡だったらしい。
出社したら驚かれ、そのまま家に帰されてしまった。
日の高い時間に帰ることに若干の罪悪感を覚えつつも、家に帰ればそんな気持ちはどこかに吹っ飛んでいってしまう。
気がつけば夜中までぐっすりと寝てしまい、空腹で目が覚める。
まだまだ体の疲れは抜けないが、運良く明日は休日だ。
そのままカップ麺を食べて再びベッドへ潜り込んで、意味もなくスマホを眺める。
「……埋め合わせするって言ったけど、アイツの連絡先知らねぇわ」
別れ際に見た下がり気味の眉をさらにへにょりと垂らし、不安そうな情けない顔を見せた晃成の顔を思い出すと胸の奥がチクチクと痛んだ。
常に一緒に行動していた二人だったが、晃成はモテる。
もちろん彼女がいたことだってあるのだ。
だがそれもほんの一瞬。恋人ができても、ひと月経つ頃には別れていて、月人の元に何事もなく戻ってきていた。
なんなら恋人がいる間ですら、恋人といる時間よりも月人といる時間の方が多いくらいだった。
そんなことを何年も繰り返していたから、月人は晃成に恋人ができても快く送り出していた。
心の中で、どうせすぐに戻ってくると高をくくっていたのだ。
あれは大学最後の年。周りで次々に就職先が決まり出した頃のこと。
今までの平穏が崩れてしまった。
「会社決まったからさ、彼女と同棲しようって話が出たんだよね。この前のデートで部屋まで見にいっちゃった!」
ニコニコと昼食を食べながら報告してくる晃成に、月人は愕然としてしまう。
その発言は、月人の心に鋭いナイフを突き立てた。
明るく、楽しげに笑う晃成が遠くに行ってしまう。その現実に月人は耐えられなかった。
報告を聞いてからトントン拍子で家が決まり、引越しまで終わる頃には月人の心はズタズタになっていた。
変わらず甘えてくる晃成が憎らしくて、でも可愛くて、隣にいることを手放せなくて。
でもそんな醜い感情を見せたくないと葛藤していれば、段々と晃成を相手に上手く笑えている自信が無くなっていた。
「そろそろお前も子離れかぁ」
そう言ったのは友人の一人だ。
大学でできた友人は、親離れ子離れできないやつらと、常に一緒にかいがいしく晃成の世話を焼く月人のことを冗談めかして言っていた。
だが今の月人にはその言葉が妙に、ストンと落ちてしまう。
これからはきっと、別々の道を歩むことになる。
幸せそうに笑う笑顔が好きなのに、この先は別の人の隣で、別の人へ向けられる。
そんな笑顔を間近で見るなんて月人には耐え難かった。
友人が言う通りに離れるべきなんだろうと思うのに、長い年月がそれを踏みとどまらせていた。
そんな煮え切らない思いが断ち切れたのは、悩みながら街中を彷徨っていた時だった。
後方から走ってきた人物と運悪くぶつかり、手にしていたスマホが車道へ投げ出されてしまったのだ。
その直後走ってきた車に見事に轢かれ、拾えた時には見るも無惨な姿になっていた。
ぶつかってきた人物は何事もなかったように走り去っていて、残されたのは唖然としたままの月人のみ。
一部始終をたまたま見てきた通行人が優しく声をかけ、慰めてくれたが意外にも心は晴れやかだ。
バキバキに砕けたスマホを見て、できなかった決意ができた。
それから月人はスマホを買い換えたが、あえて晃成に連絡はしなかった——というよりもできなかったという方が正しい。
壊れたスマホからデータの復旧はできず、連絡先は全て消えた。
どこかに控えているわけではないので、壊れてしまえばそれまでだ。
家の行き来をしているので晃成に会おうと思えば会える。
だがそれだと断ち切った意味がないと、卒業までリゾートバイトをして実家からも離れた。
そのまま晃成に伝えていた就職先とは別の場所で働き始めれば縁は呆気なく切れてしまう。
せっかく忙しい日々の中、寂しさをぶつける先がない憤りも忘れていたというのに。
「なんで、アイツがここにいるんだよ……」
変わらない笑顔が頭に張り付いて離れない。
それと同時に記憶が溢れ出して止まらなくなってしまった。
寝れば夢を、起きていてもテレビやスマホで見る情報の一欠片から記憶が呼び起こされる。
そしてその時の感情までも思い出し、苦しい休日を月人は過ごしたのだった。
出社したら驚かれ、そのまま家に帰されてしまった。
日の高い時間に帰ることに若干の罪悪感を覚えつつも、家に帰ればそんな気持ちはどこかに吹っ飛んでいってしまう。
気がつけば夜中までぐっすりと寝てしまい、空腹で目が覚める。
まだまだ体の疲れは抜けないが、運良く明日は休日だ。
そのままカップ麺を食べて再びベッドへ潜り込んで、意味もなくスマホを眺める。
「……埋め合わせするって言ったけど、アイツの連絡先知らねぇわ」
別れ際に見た下がり気味の眉をさらにへにょりと垂らし、不安そうな情けない顔を見せた晃成の顔を思い出すと胸の奥がチクチクと痛んだ。
常に一緒に行動していた二人だったが、晃成はモテる。
もちろん彼女がいたことだってあるのだ。
だがそれもほんの一瞬。恋人ができても、ひと月経つ頃には別れていて、月人の元に何事もなく戻ってきていた。
なんなら恋人がいる間ですら、恋人といる時間よりも月人といる時間の方が多いくらいだった。
そんなことを何年も繰り返していたから、月人は晃成に恋人ができても快く送り出していた。
心の中で、どうせすぐに戻ってくると高をくくっていたのだ。
あれは大学最後の年。周りで次々に就職先が決まり出した頃のこと。
今までの平穏が崩れてしまった。
「会社決まったからさ、彼女と同棲しようって話が出たんだよね。この前のデートで部屋まで見にいっちゃった!」
ニコニコと昼食を食べながら報告してくる晃成に、月人は愕然としてしまう。
その発言は、月人の心に鋭いナイフを突き立てた。
明るく、楽しげに笑う晃成が遠くに行ってしまう。その現実に月人は耐えられなかった。
報告を聞いてからトントン拍子で家が決まり、引越しまで終わる頃には月人の心はズタズタになっていた。
変わらず甘えてくる晃成が憎らしくて、でも可愛くて、隣にいることを手放せなくて。
でもそんな醜い感情を見せたくないと葛藤していれば、段々と晃成を相手に上手く笑えている自信が無くなっていた。
「そろそろお前も子離れかぁ」
そう言ったのは友人の一人だ。
大学でできた友人は、親離れ子離れできないやつらと、常に一緒にかいがいしく晃成の世話を焼く月人のことを冗談めかして言っていた。
だが今の月人にはその言葉が妙に、ストンと落ちてしまう。
これからはきっと、別々の道を歩むことになる。
幸せそうに笑う笑顔が好きなのに、この先は別の人の隣で、別の人へ向けられる。
そんな笑顔を間近で見るなんて月人には耐え難かった。
友人が言う通りに離れるべきなんだろうと思うのに、長い年月がそれを踏みとどまらせていた。
そんな煮え切らない思いが断ち切れたのは、悩みながら街中を彷徨っていた時だった。
後方から走ってきた人物と運悪くぶつかり、手にしていたスマホが車道へ投げ出されてしまったのだ。
その直後走ってきた車に見事に轢かれ、拾えた時には見るも無惨な姿になっていた。
ぶつかってきた人物は何事もなかったように走り去っていて、残されたのは唖然としたままの月人のみ。
一部始終をたまたま見てきた通行人が優しく声をかけ、慰めてくれたが意外にも心は晴れやかだ。
バキバキに砕けたスマホを見て、できなかった決意ができた。
それから月人はスマホを買い換えたが、あえて晃成に連絡はしなかった——というよりもできなかったという方が正しい。
壊れたスマホからデータの復旧はできず、連絡先は全て消えた。
どこかに控えているわけではないので、壊れてしまえばそれまでだ。
家の行き来をしているので晃成に会おうと思えば会える。
だがそれだと断ち切った意味がないと、卒業までリゾートバイトをして実家からも離れた。
そのまま晃成に伝えていた就職先とは別の場所で働き始めれば縁は呆気なく切れてしまう。
せっかく忙しい日々の中、寂しさをぶつける先がない憤りも忘れていたというのに。
「なんで、アイツがここにいるんだよ……」
変わらない笑顔が頭に張り付いて離れない。
それと同時に記憶が溢れ出して止まらなくなってしまった。
寝れば夢を、起きていてもテレビやスマホで見る情報の一欠片から記憶が呼び起こされる。
そしてその時の感情までも思い出し、苦しい休日を月人は過ごしたのだった。
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