懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第437話 じーぴーえす

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 リンカが風呂から出るとセナは洗い物をやっていた。家に居る時は手の空いた際にセナも家事を手伝う様に動いてくれるのである。

「…………」

 コンセントの近くで充電しているスマホをリンカは手に取る。充電は90%完了。バッテリーの寿命が短くなるので、フル充電は避け、充電コードを抜いた。

「……」

 表面には3件の着信履歴。全てケンゴからだ。まだ起きている時間帯。かけ直せば問題なくとってくれるだろう。
 しかし、アヤとの対面が返信の手を滞らせる。

「リンちゃん」
「なに? お母さん」

 セナに呼ばれてリンカはスマホをテーブルに置くと台所へ。その際にテーブルの上に空けられてない缶ビールがまだ置かれていた。

「お母さん。飲まないならビールは直しとくよ」

 お酒用の小さな冷蔵庫を開けてリンカは缶ビールをその中へ入れて扉を閉める。
 すると、背後からセナは優しく包むようにリンカを抱きしめた。

「お母さん? どうしたの――」
「リンちゃん。頼りないお母さんでごめんね」

 それはとても安心できる温もり。
 心配をかけまいとするリンカの仮面は思わず剥がれそうになる。

「……い、一体、どうしたの? お母さんはいつも頼りになるよ?」
「リンちゃんに不便な想いだけはさせないって……そうすればきっと上手く行くってお母さんはずっと思ってたの」
「大丈夫だよ。あたしは不便だなんて思ったことは一度もないから。お母さんの事、大好きだよ」
「リンカ」

 と、セナは抱きしめながらリンカの頭を撫でた。
 それは、怖い思いや、寂しい思いをした時に駆け寄ってくるリンカを安心させる為にセナがやっている事だった。

「お母さん。どうしたの? あたしは――」

 その時、リンカは涙を流している事に気がつく。いつの間にか頬を伝わるソレを認識した途端、セナの優しい暖かさも相まって、ぼろぼろと溢れてくる。

「あた……しは……大丈夫……だから……お母……さんは……何も……心配しなくて……いいから……」
「リンカ。一人で何とかしようって思わなくていいの。泣いてもいいのよ。その為にお母さんが居るんだから」
「…………う……うぅぅ……」

 心の奥に押し込めた感情が溢れてくる。それは全部マイナスの感情。
 悲しみ、不安、孤独、喪失。その全てがセナの温もりで一気に表に出たリンカは昔のように抱きついて泣いていた。
 そんなリンカをセナは手離さない様に優しく抱き続ける。





「落ち着いた?」
「……うん」

 ひとしきり泣いたリンカは、まだグズりつつもセナの優しい言葉に何とか返事をする。

「リンちゃん。スマートフォンにケンゴ君から連絡が来てたでしょ?」
「…………」
「かけ直してみないの?」

 セナの提案にリンカは首を横に振る。

「……怖いの」

 言葉を交わし、もう戻らないと言われたらと考えると、どうしてもケンゴからのメッセージは受け取れなかった。
 それは、突然海外へ行ってしまった時の様に……いつ帰ってくるのか誰にも解らないと告げられたら――

「リンちゃん。なら、ケンゴ君に会いに行きなさい」
「……え……?」

 肩を掴んでそう告げる母をリンカは見る。

「電話だと伝わらない事があるわ。だから、直接話すのよ」
「……でも……」
「リンちゃん。リンちゃんとケンゴ君の関係はそう簡単に無くなったりはしないわ。一番近くで二人を見てきたお母さんは良く解ってるもの」

 セナから見てケンゴは助けてくれる隣人と言う印象だった。迷惑をかけてしまい申し訳ないと、思いつつもリンカと一緒に笑う彼を見てると次第に本当の兄妹の様に見えたのだ。
 そして、娘が無意識に彼に好意を抱いているとわかると、二人の関係はきっと恋仲になると確信した。

 しかし、唐突にケンゴは海外へ行き、リンカは己の恋心に気がつく。
 そして、ケンゴは海外からこのアパートに戻ってきた。ここ以外にも新しく住む場所はいくらでもあったハズなのに、ケンゴは鮫島家の隣に帰ってきてくれたのだ。

 それが、無意識なのか、自覚があるのかは解らない。けど、これだけは言える。
 二人の過ごしてきた時間は――“絆”は決して無意味なモノにはならない。

「リンちゃんは、ケンゴ君の事好き?」
「……好き」
「どれだけ?」
「……誰にも負けないくらい」
「それならケンゴ君を奪って連れ帰って来ちゃいましょ~。ママさんチームは全面支援を約束しちゃいます~」

 そう言うセナの調子にリンカは思わず微笑むも、次には表情を落とす。

「でも……迷惑にならないかな……」
「ならないわよ~。だってリンちゃん。もっと凄いことを沢山してるじゃない~」

 リンカは口悪く彼に接していた事や、たこ焼き返しや包丁を突きつけていた時の事を思い返す。

「……やり過ぎたかも……」
「その“やり過ぎ”に比べたら~会いに行く程度は屁の河童よ~」
「あはは……うん……そうだね」

 ようやくリンカが笑ってくれた様子にセナは安堵からもう一度強く抱きしめた。





「でも……どうやって会いに行けばいいのかなぁ……」

 知り合いの誰もがケンゴの実家へ行った事も無ければ、その場所は知らない。
 彼の元には年賀状は届いていた様だが最後に見たのは三年前だ。しかも、チラリと横目にやった程度。

「うふふ。リンちゃん~。世の中にはじーぴーえすって言う便利な装置があるのよ~」

 セナは自分のスマホを取り出した。

「これでケンゴ君がどこにいるのか、日本に居ればわかるわ~」
「一体いつの間に……」
「ふふ。ケンゴ君がね~、オレはいつもリンカちゃんと一緒だからGPSを登録しておいてください、っね~」

 ケンゴの声真似も挟みつつセナは説明する。
 今ではリンカもスマホを持っているので停止している機能だが、改めて機能をオン。
 二人は覗き込む様にG○ogleマップに表情をされたケンゴのスマホの位置を確認すると――

「……どこ?」

 それは、マップ上では町も村もない山の中にポツンと表示された。
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