懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第490話 彼女の一番大切なモノ 後編

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 銃声は短く、クラッカーと聞き間違う程に小さかった。
 しかし、アヤをかばった奏恵が倒れた事で場は改めて騒然となる。

「お……御母様ぁ!!」
「っ! リック! お前は何をしている!!」

 銃を撃ったのは門下生の中でも古株のリックだった。彼は圭介の四番目の弟子で、出掛ける際の送迎なども任命する程に親しみのある人物である。
 その彼が短銃デリンジャーを持ち込み、あまつさえ、娘を狙うなど考えられない。
 だが、圭介は冷静に、起こった結果と、未だに銃口を妻と娘から反らさない様子から更なる悲劇を先読みした。

 リックへコップを投げつける。しかし、先ほどのトランペットを弾いた様を見ていたリックは、体を反らして避けた。そして、二発目をアヤへ向けて――

「リック! 止めろ!」
「お前、なにやってる!」

 撃つ前に近くの警備が間に合った。俯せで取り押さえ銃を手離させる。

「そのまま抑えていろ!」

 思わず語気が荒くなる圭介は、まだ危険が無いかを見回す。

「御母様! 御母様ぁ!」
「医療の心得がある方は協力をお願いします! リタ! 救急車を――」
「既に手配しています!」
「場を封鎖だ! 警備の者は、今一度、観客の身体検査を行え! 来客の皆様! この様な事態ですので協力をお願いします! 会場から一歩も外へ出ぬ様に!」

 この場で非協力的な者は全て疑わしくなる。それを理解している面々は圭介の言葉に素直に従った。
 最低限の指示を場に残し、二人の側へ駆け寄った。

「御父様……御母様が……」

 アヤは血を流す奏恵を支えながら、圭介に涙眼を向ける。容態を確認する。

 弾は……貫通してない。アヤが無事だったのは不幸中の幸いか……しかし……この位置は臓器を――

 奏恵は震えながら手を持ち上げる。それをアヤは力強く握った。

「アヤ……居るのね……」
「御母様……ごめんなさい……私が……御母様の言う通りに避難していれば……」
「あなた……」
「ここに居る」

 圭介はアヤの上から奏恵の手を強く握る。

「あれは……リックじゃないわ……彼が……アヤに銃を向けるハズ……ないもの……」
「ああ。わかっている……」

 すると、後ろから救急措置の心得がある者がやって来た。

「デューク、状態は?」
「弾は貫通していない。恐らく、体内に残ったままだ」
「ハッ……ハッ……」
「御母様!!」
「ショック状態だ……」

 すると、サイレンの音が聞こえてくる。

「頼む……妻を……」
「出来るだけやってみる。姫君は、奥方に呼び掛けてくれ。今、意識を失うと危険な状態だ」
「御母様! 私は……アヤはここに居ます! ここに居ますから――」
「アヤ……お父さんをお願いね……」
「ダメ……ダメです! 御母様ぁ!!」

 止めどなく涙を流すアヤを慰めるように奏恵はそっと頬に手を添える。

「私の……一番大切な……アヤ……」

 その言葉を最後に奏恵から力が抜けた。アヤは母の握り返す力を感じられなくなり、同時に急速に熱が引いていく様を感じる。

「お……かあさん……」

 周囲の音が遠くなっていく。その時、救急隊員が駆けつけ、即座に適切な処置を開始する。

 しかし、奏恵の意識は既に無かった。弾丸は臓器の一部を貫通し、それが致命傷でもある。誰が見てもかなり危険な状態であった。

「アヤ、お母さんと一緒に病院に行きなさい。リタ! 護衛を頼む」
「わかりました。お嬢様……奥様と行きましょう」

 リタは数少ない女弟子であり、アヤの事を妹の様に思ってくれている。

「御父様……私……私の……せい……」

 そのアヤの言葉を遮る様に圭介は告げる。

「お父さんも後で行くから。今はお母さんと一緒に居なさい」

 圭介は優しく送り出すとアヤも救急車に乗せた。そして振り返り、取り押さえているリックへと歩み寄る。





 私は……最後の時まで母の手を握っていた。
 いつも優しく、頭を撫でて、抱き締めてくれたその温もりは決して失われないモノだと疑わなかった。
 でも、分かってしまったのだ。
 冷たくなる母を手を通して……感じて……もう二度と会えないのだと……
 私のせいだ……私が……私が……母を死なせてしまった。

「…………」

 冷たい……少しずつ口から漏れる気泡は私の命の様に消えていく。
 水底へゆっくりと背中が着き、見上げる光景は全てが歪んで、少しずつ……暗転していく。

 ごめんなさい……御母様……ごめんなさい……御父様……

 私は眼を閉じる――――















 ふと、感じたのは温もり。
 誰かが水底に横たわる私の手を取る。伝わる確かな熱は力強く、私を引っ張り起こした。

「……」

 微睡みの様に眼を開けると、そこには彼が居た。彼は私を抱き締めると、水底を蹴って水面に向かって浮上する。

 身を包む様な温もりに、私は……無意識に抱き締め返していた。
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