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曝け出す本心 《高校2年生・冬》
第20話 この瞬間を待っていた〈SIDE: 水都〉
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〈SIDE: 水都〉
君の隣にいたくて。
君の温もりを感じていたくて。
君の声をずっと聞いていたくて。
だから、想いが通じるこの瞬間を待っていた。
誰よりも。何よりも。
「な、んで…なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ…!」
頭ではわかってた。
これは氷神にぶつけていい感情じゃないって。
それでも悔しかった。
氷神の特別になりたかったから。
悔しくて悔しくてたまらない。
「今から言うことは全部俺の独り言。だから…忘れてね」
静かな前置きに、少しの期待と嫌な予感がした。
それでもオレにはほのかに笑った横顔をじっと見つめることしかできない。
「好きだったんだ、スイが。自分でも気付かないうちにすごく好きになってた。一緒にいると何もかもが楽しくて…幸せだった。でも、俺はもうスイの隣にはいられない。来週末の飛行機で行ってくる。今までありがとう、スイ」
穏やかで優しい声が。
オレの大好きなその声が。
『スイが好きだ』ってそう言った。
それがこの間のLINEの返事だってすぐに気づいた。
それと同時に、どこか諦めたような、氷神の中で完結してしまっているような、そんな話し方に違和感を覚えた。
そうして気づいた。
氷神のオレへの思いを告げる言葉はすべて過去形だってことに。
無意識なのか、氷神がそこに込めた思いに気付いて、オレは愕然とした。
全部過去にして、忘れたふりして、いなくなるつもりなんだって。
同時に、言いようのない怒りが込み上げてきた。
「なんだよ、それ……っ!!」
思わずこぼれた自分の声に驚いた。
でももう止められない。
だから顔を見られないように氷神に背を向けた。
そうしたら、両目からボロボロと涙が出てきた。
「“好きだった”ってなんだよ!! “今までありがとう”ってなんだよ!! 過去形なのかよ!!もう終わり!? 氷神が死ぬなんて誰が決めたんだよ!!ふざけんなっ! そうやって突き放すみたいな言い方して、オレの気持ちは無視するのかよっ!!!!」
悔しい悔しい悔しい!
何もかも全部諦めて、なかったことにしようとしてることが。
オレの気持ちさえも気づかないふりをしようとしてることが。
オレの背中を見る氷神が、ハッとするのがわかる。
こんなふうに怒りを爆発させたら、絶対に嫌われる。
それでも胸の中に溢れる思いは止められなかった。
「なんでそんな風に言うんだよっ! オレは氷神のことが好きだって言った。 氷神は信じてないみたいだけどオレは変わってない!! 大体なんだよ『もう死ぬこと決定です』みたいな言い方! 誰が決めた?医者が言ったのか!?」
「医者がそんなこと言うわけないよ。 俺の身体のことは俺が一番よくわかってる。もう、手遅れだよ」
オレの責めに氷神がポロリと漏らした本音。
そのひとことでさらに激情したのは言うまでもなく。
もうどうとでもなれ、とやけっぱちになったオレは、言葉だけじゃどうにもならない氷神のバカな考えを止めたくて、寝そべったままの氷神に跨って襟首を掴んだ。
とにかく腹が立つ。
勝手に終わらせようとしてることが。
生きることさえ諦めようとしてることが。
「ばっかじゃねぇの!?何が手遅れだよ! 医者が何も言ってないなら治る見込みがあるんだよ! 勝手な解釈すんな!! それに…例え氷神の考えが正しかったとしても…オレは信じてる! 氷神は絶対に死なない、生きられるって。 氷神が死ぬなんてオレは絶対許さない!!!!」
死ぬつもりでいるこいつに腹が立って、悔しくて、悲しくて。
病気のことなんてオレには何ひとつわからないけど、それでも、死ぬつもりでいけば死んじゃうじゃないかって。
諦めないで立ち向かってほしい。そう思った。
それに何よりも、オレが氷神に生きていてほしい。
生きて帰ってきてほしい。
「オレは…今でも氷神が好きだよ。氷神がいてくれないとつまんないよ…」
最後にこぼれたのは、思いの外弱った声で。
さっきまで全身を支配していた怒りは、いつの間にかなくなってた。
今はただ悲しいだけ。
次から次へと溢れる涙の止め方がわからない。
拭おうにも、両手にうまく力が入らなくて。
せめて見られないように俯くしかなかった。
そしたら、氷神の手がオレの腕を掴んで、引き寄せた。
横になったままの氷神の胸に抱きこまれるように。
「俺もスイが好きだよ。…だから忘れてほしかったんだ…」
「ばーか。忘れられるかよ…」
「ごめん…」
やっと聞こえた優しい声に。
やっと触れられた甘い体温に。
オレはまたさらに泣いた。
気持ちが通じた嬉しさと、たった一週間しかない悲しさと。
それでも、氷神はまたオレの隣にいてくれる。
遠く離れても、気持ちは近くにいてくれる。
そう思うだけで、幸せな気持ちになれた。
(やっと…伝わった)
君の隣にいたくて。
君の温もりを感じていたくて。
君の声をずっと聞いていたくて。
だから、想いが通じるこの瞬間を待っていた。
誰よりも。何よりも。
「な、んで…なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ…!」
頭ではわかってた。
これは氷神にぶつけていい感情じゃないって。
それでも悔しかった。
氷神の特別になりたかったから。
悔しくて悔しくてたまらない。
「今から言うことは全部俺の独り言。だから…忘れてね」
静かな前置きに、少しの期待と嫌な予感がした。
それでもオレにはほのかに笑った横顔をじっと見つめることしかできない。
「好きだったんだ、スイが。自分でも気付かないうちにすごく好きになってた。一緒にいると何もかもが楽しくて…幸せだった。でも、俺はもうスイの隣にはいられない。来週末の飛行機で行ってくる。今までありがとう、スイ」
穏やかで優しい声が。
オレの大好きなその声が。
『スイが好きだ』ってそう言った。
それがこの間のLINEの返事だってすぐに気づいた。
それと同時に、どこか諦めたような、氷神の中で完結してしまっているような、そんな話し方に違和感を覚えた。
そうして気づいた。
氷神のオレへの思いを告げる言葉はすべて過去形だってことに。
無意識なのか、氷神がそこに込めた思いに気付いて、オレは愕然とした。
全部過去にして、忘れたふりして、いなくなるつもりなんだって。
同時に、言いようのない怒りが込み上げてきた。
「なんだよ、それ……っ!!」
思わずこぼれた自分の声に驚いた。
でももう止められない。
だから顔を見られないように氷神に背を向けた。
そうしたら、両目からボロボロと涙が出てきた。
「“好きだった”ってなんだよ!! “今までありがとう”ってなんだよ!! 過去形なのかよ!!もう終わり!? 氷神が死ぬなんて誰が決めたんだよ!!ふざけんなっ! そうやって突き放すみたいな言い方して、オレの気持ちは無視するのかよっ!!!!」
悔しい悔しい悔しい!
何もかも全部諦めて、なかったことにしようとしてることが。
オレの気持ちさえも気づかないふりをしようとしてることが。
オレの背中を見る氷神が、ハッとするのがわかる。
こんなふうに怒りを爆発させたら、絶対に嫌われる。
それでも胸の中に溢れる思いは止められなかった。
「なんでそんな風に言うんだよっ! オレは氷神のことが好きだって言った。 氷神は信じてないみたいだけどオレは変わってない!! 大体なんだよ『もう死ぬこと決定です』みたいな言い方! 誰が決めた?医者が言ったのか!?」
「医者がそんなこと言うわけないよ。 俺の身体のことは俺が一番よくわかってる。もう、手遅れだよ」
オレの責めに氷神がポロリと漏らした本音。
そのひとことでさらに激情したのは言うまでもなく。
もうどうとでもなれ、とやけっぱちになったオレは、言葉だけじゃどうにもならない氷神のバカな考えを止めたくて、寝そべったままの氷神に跨って襟首を掴んだ。
とにかく腹が立つ。
勝手に終わらせようとしてることが。
生きることさえ諦めようとしてることが。
「ばっかじゃねぇの!?何が手遅れだよ! 医者が何も言ってないなら治る見込みがあるんだよ! 勝手な解釈すんな!! それに…例え氷神の考えが正しかったとしても…オレは信じてる! 氷神は絶対に死なない、生きられるって。 氷神が死ぬなんてオレは絶対許さない!!!!」
死ぬつもりでいるこいつに腹が立って、悔しくて、悲しくて。
病気のことなんてオレには何ひとつわからないけど、それでも、死ぬつもりでいけば死んじゃうじゃないかって。
諦めないで立ち向かってほしい。そう思った。
それに何よりも、オレが氷神に生きていてほしい。
生きて帰ってきてほしい。
「オレは…今でも氷神が好きだよ。氷神がいてくれないとつまんないよ…」
最後にこぼれたのは、思いの外弱った声で。
さっきまで全身を支配していた怒りは、いつの間にかなくなってた。
今はただ悲しいだけ。
次から次へと溢れる涙の止め方がわからない。
拭おうにも、両手にうまく力が入らなくて。
せめて見られないように俯くしかなかった。
そしたら、氷神の手がオレの腕を掴んで、引き寄せた。
横になったままの氷神の胸に抱きこまれるように。
「俺もスイが好きだよ。…だから忘れてほしかったんだ…」
「ばーか。忘れられるかよ…」
「ごめん…」
やっと聞こえた優しい声に。
やっと触れられた甘い体温に。
オレはまたさらに泣いた。
気持ちが通じた嬉しさと、たった一週間しかない悲しさと。
それでも、氷神はまたオレの隣にいてくれる。
遠く離れても、気持ちは近くにいてくれる。
そう思うだけで、幸せな気持ちになれた。
(やっと…伝わった)
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