幻獣を従える者

暇野無学

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139 ドラゴンの引き渡し

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 二週間ほどすると再び騎士団長がやって来て、一通の書状を差し出した。
 表書きは俺の名になっているのでその場で開封すると、もう一通の書状を包んでいた。
 例に依って王国の紋章が描かれているが、表書きも宛名もなし。
 開封すると、ブレスト・コーエン魔法師団長の処刑命令で、全て俺に任せるとだけの簡素なものだった。

 その書状を黙って騎士団長に差し出すと恭しく受け取ったが、一瞥して眉が跳ね上がる。
 その書状をツアイス伯爵に渡して、明日魔法師団長と出かけると伝えて馬車の手配を頼み、同行者としてアルカン達エルベルト通りの七人を手配してもらった。

 * * * * * * *

 一人でお出掛けできないので、久し振りにアルカン達エルベルト通りの七人とお出掛けだ。
 お供はいない筈だが、ヨハンが当然のような顔で馬に乗って待っていた。

 セドとサンデイが御者席に座り、俺はアルカンに抱っこされて馬車に乗る。
 グレイにジャンプして移動させてもらっても、片手片足ではバランスが取れずに椅子から落ちること三度、諦めておっさんに抱っこされることになった。

 糞野郎は囚人護送用の馬車ではなく、後ろ手に縛られて馬に乗せられたので、怯えた表情で目をキョロキョロさせている。

 両側を護衛騎士に挟まれて街を出たが護衛の騎士達は此処までで、ヨハンが奴の乗る馬の手綱を握って馬車の後に従う。
 俺が寝ている間に野獣の大繁殖も落ち着いたと聞いたので、街道筋は安全なようだ。
 シルバーとブラックにフォックスが先行して、ゴブリンの群れを探してくれているのでのんびりと馬車は進む。

 シルバーからの連絡で街道を外れて暫く進むと、土魔法で作られた塀の中からゴブリンの騒ぐ声が聞こえてきた。

 中を覗いたヨハンが「数が多すぎて腹の足しにもならんぞ」と呟いている。
 あっさり殺す気はない様で、今やヨハンも立派な冒険者の性格になったなと感心する。
 まぁより性格が悪くなったというほうが正しいが、本人は認めていないので黙っておく。

 塀に腰掛けを作ってもらい、魔法師団長を目の前に立たせるとヨハンが処刑命令書を師団長に見せる。

 「あっさり死なせる気はない」

 と告げてから、シルバーに師団長の横の塀に縦の隙間を作らせた。

 「有名なゴブリンだ、奴等のお食事としてお前を提供する。食事のマナーは最低だが、ゆっくり楽しんでくれ」

 アルカン達に命じて衣服を剥ぎ取らせると「止めてくれ! 殺す気はなかったんだ。少し脅すだけのつもりだったんだ!」と騒ぎ出した。
 まぁ、ゴブリンに喰われて死ぬなんて最低の死に方だからな。

 「お前の寝言を聞くために。王国にお前を引き渡すことを拒否したんじゃない」

 これ以上はアルカン達に聞かせられないので離れてもらい、ヨハンに手伝ってもらう事にした。

 「また何か良からぬ事を考えてないか?」

 「疑問に答えてもらうだけだが、彼等には聞かせられないからな」

 「それは俺も聞きたくないぞ」

 「騎士団長の肝っ玉なら、何を聞いても気にしないだろう」

 「やっぱり、お前に関わると碌な事がないな」

 「魔法師団長としてのお前は気位は高いが、自分の身分を天秤に掛けるような危険な真似はしない男だ。なぜあの時俺達に向かって石弩を射たせた?」

 「脅すつもりだったんだ。それ以上の事は考えていなかった、本当だ信じてくれ!」

 「そうか、ヨハン右足の付け根を確り縛ってくれ。血が流れてあっさりくたばられては詰まらんからな」

 「お前って、性格が悪いと言われるだろう」

 そう言いながらも躊躇い無くロープを取り出すと、ぷっくり柔らかそうな太股にロープを巻き付けて締め上げているヨハン。
 性格の悪さでは負けていると思うけどなぁ、それに今ではお前呼ばわりだ。

 シルバーに命じて師団長の前に足一本が通る穴を開けさせると、意味不明な事を喚きながら暴れ出した。

 《シルバー、縛っている方の足に噛みついて。不味そうだから食べなくても良いよ》

 暴れる師団長の足、脹ら脛にがぶりと噛みついたシルバーだが、必死に足を振り回すので、シルバーが振り回されている。

 「噛まれた感想はどうだ? ゴブリンはもっとえげつないぞー」

 「助けてください、お願いです! 何でも喋りますのでお許し下さい!」

 「だから、何故俺達を殺そうとしたんだと聞いている」

 「殺す気はなかったんです! 少し脅かせればと思い・・・」

 「それでアッシュと俺に、二度も石弩を射ち込んでくれたのか。一度目は三斉射、二度目は五斉射もしてくれたよな。脅すにしては矢の数が多すぎると思わないか」

 これ以後は何度聞いても似たような答えが返ってくるばかりで、ゴブリンに足を齧らせても変わらなかった。
 ゴブリンも足一本では腹の足しにもならなかったようで、二本目の足を齧らせているときに師団長の精神が崩壊したのか、ブツブツと呟いているだけになった。

 精神の崩壊した男の呟きを拾い上げて要約すると、アルティナ様に祈りを捧げている時に、男からベルハルト教皇猊下が亡くなられた事や、アルティナ神像を破壊し大神殿を壊したのが俺の使役獣だと聞いた事。
 それをニルバート教皇猊下が嘆かれている、とかなんとか。
 そして俺やグレイ達は不敬極まりないとぶつくさ言っていた。

 ニルバートか、何時までも大人しくしているとは思っていないが、年も改まっていることだし奴等の性根の曲がり具合は直ぐに判るだろう。

 * * * * * * *

 野獣の大繁殖も下火になり、ドラゴンも見掛けなくなったので皆がそれぞれの街に戻りだした。
 俺もグレインに戻る事にしたが一つ問題がある。

 グレイとシルバーにフォーが抱える、スパイクドラゴンとビッグドラゴンの引き渡しだ。
 王国の依頼で討伐しているので受取人は王国である。
 他にも多くのドラゴンが討伐されているので催促はされないが、さっさと渡してしまいたいし、ヨハンとアルカン率いるエルベルト通りの七人に頼みたい事もある。

 ツアイス伯爵にお願いして、王国の依頼で討伐したドラゴンの引き渡しを替わってもらうことにした。
 翌日グレインに戻るアデーレ達にドラゴンの運搬を依頼して、騎士達の屋内訓練場で、ブラックウルフのツウに、スパイクドラゴン17頭とビッグドラゴン9頭を預けた。
 立ち会ったツアイス伯爵や彼の騎士団員、一部は顔見知りの奴もいたが、グレイ、シルバー、フォーから出て来るドラゴンの数に驚いていた。

 引き渡しが終わるとヨハンだけ残ってもらい、グレイが抱えているアッシュを出してもらい、突き立ったままのランスをヨハンに抜いてもらった。

 「どうするんだ?」

 「アッシュ達と出会った場所に埋葬しようと思うので、手伝って欲しいのだが」

 「これ以上の厄介事は無いだろうな」

 「暫く戻って来れないことになるのと、アルカン達にもお願いするつもりだ」

 ヨハンの長いながい溜息を聞かされたが、断られる事はなかったので一安心。
 アルカン達は何も聞かずに、即座に俺と同行するとの返事を貰えた。

 * * * * * * *

 ツアイス伯爵の馬車二台でラッヒェルを旅立ったが、伯爵の護衛とは別にヨハンとエルベルト通りの七人が俺の馬車に従い、ファングドッグの牙の六人は伯爵の馬車に同行する事になる。

 旅立つ前にツアイス伯爵にはゴールデンゴート二頭とシャムを二羽謝礼として提供し、ファングドッグの牙のリーダーであるエドガには、金貨一袋を依頼料として渡しておいた。

 先行するツアイス伯爵の馬車とは直ぐに離れてしまったが、俺達はのんびりとグレインを目指した。
 ハイムントでヨハンが家族と暫しの別れを惜しんでいたので、彼の娘婿のヨルムに貯まっていたシャムの羽根先をたっぷりと渡しておいた。

 * * * * * * *

 屋敷に戻るとハリスンが寝椅子を用意して待っていて、四人がかりで運んでくれるので恥ずかしかったが、暫くの辛抱だと自分に言い聞かせる。

 ハリスンに八人で一年分の食料の用意を命じるが、出来た物はシルバーとフォーが預かると伝えると同時に、料理長に各種スパイス等を大量に用意してもらった。
 勿論羽根先の煮凝りやスープ等も大量に作ってもらい、味の良いエールの樽も10個ばかり仕入れてもらう。

 同時にヨハンに頼んで頑丈な背負子を用意してもらい、俺が座れるように手を加えて貰った。

 全ての準備が整い、俺を運ぶポーターとして一週間程度森に入っても無事に戻ってこられる、頑丈な体躯の男達のいるパーティーを雇って出発した。

 * * * * * * *

 ツアイス伯爵は王都の屋敷に到着すると、その日のうちにヒューヘン宰相に到着の報告をする。

 ヒューヘン宰相は、ツアイス伯爵よりラッヒェルを出立したとの報告を受けて以来ジリジリとしてドラゴンの到着を待っていたので、翌日王城に出頭するようにとの返事を出した。

 翌日エドガとアデーレは、ヴォルグ、ワン、ツウの三頭を連れて、ツアイス伯爵に従って王城へ出向いた。
 侍従の案内でツアイス伯爵の後に続くが、初めて来た王城に二人は緊張でガチガチだった。

 長い通路や幾つもの角を曲がり、階段を上下して綺麗な石畳の広場に出ると漸く止まった。
 ツアイス伯爵が豪華な衣装の男の前に進み出ると、恭しく跪いた。

 「国王陛下で在られる。跪け!」の声に、エドガとアデーレは慌ててツアイス伯爵の後で跪いた。

 「ツアイス、グレイン侯爵の容態はどうだ?」

 「はっ、怪我は治りましたが、失った手足に不自由しております。それ故、討伐したドラゴンを直接陛下にお渡しできないので、彼の冒険者仲間の幻獣がドラゴンを預かって参りました」

 「魔法師団・・・ブレスト・コーエンはどうなった?」

 「ゴブリンの群れと、雄々しく闘ったそうで御座います」

 「そうか・・・では見せてもらおうか」

 陛下の声にツアイス伯爵が立あがると、アデーレに石畳の広場にドラゴンを並べるように指示した。
 ツウがアデーレの指示に従ってスパイクドラゴンを並べて行くが、幻獣が空間収納から次々とドラゴンを出すのを見て、国王陛下や宰相から感嘆の声が漏れる。

 スパイクドラゴン17頭、ビッグドラゴンを9頭並べ終わると一礼して下がった。
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