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060 新たな訓練

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 「ハインツ、此奴等の武器と懐の物を全て取り上げてくれ」

 「良いのか?」

 「襲われたから返り討ち、討ち取った獲物は金にする。冒険者のお仕事だろう。まぁ、死体の片付けは面倒なので、身ぐるみ剥いだら放り出すけど」

 「判った、皆手伝え! あんた達も運が無いねぇ、二度もゴブリンキラーに絡むなんて」

 武器とポケットの中を全て取りだしたところで、魔力を抜いて服を剥ぎ取り易くする。
 パンツ以外剥ぎ取ったら、尻を蹴り上げて立たせる。

 〈立てねえ、糞ッギルドに申告させて貰うからな〉
 〈俺達は何もしてないのに泥棒野郎が〉
 〈此れでお前達は犯罪奴隷確実だな〉

 「立つ気が無いのなら、此処で死んで貰う事になるぞ」

 横たわったまま能書きを垂れる熊ちゃん達に、殺気を浴びせて警告する。
 四人がよろよろと立ち上がったが三人は寝転んだまま悪態をつく。

 〈殺せ! 俺も男だてめえの様な餓鬼に遣られて、ハイハイ従えるか〉

 「あっ、そう」

 ごねる男の胸に、アイスアローを射ち込んで殺すと残りの二人が飛び起きたが、矢傷が痛むのか腹を抱えて呻く。
 死んだ男をマジックポーチに入れ、残り六人をベースキャンプから放り出す。

 「走れ! ヘイエルから消えろ、見掛けたら必ず殺すぞ」

 そう言って六人の尻にアイスニードルを射ち込む。

 「そいつは自由にしてくれ。何か問題になれば俺の名前と身分証の事を話してくれれば良いよ」

 「良いのか、身分証の事は秘密じゃないのか」

 「隠しておくとちょっかい掛けてくる奴が多いので、隠さず叩きのめす事にしたから良いよ。俺や俺の周辺に手を出せば、徹底的に叩き潰す事を知らしめるんだ」

 〈しかし手入れの悪い武器だなぁ〉
 〈これを売りに行っても買い叩かれそうだな〉

 街に帰る途中に茂みに潜むエルクを発見、距離は60メートルオーバー気味だがアイスランスを試してみる。
 俺達が立ち止まりエルクの方を見ているのでエルクも俺達を見る、エルクがその場を離れる為に横を向いたとき、アイスランスを撃ち出す。
 一瞬でエルクに到達し吹き飛び転倒する、頭を狙ったが胴体に当たった様だ。

 〈ほえー〉
 〈凄えなぁ、吹き飛んだぜ〉
 〈あんなに離れていて良く見つけるよな〉
 〈てか、この距離でよく当てるな〉

 回収に行ったが距離としては約70メートルってところか、60メートルを超えると精密射撃は無理だが届くから良しとする。
 お気楽脳凍結もほどほどにして、遠距離射撃の練習も欠かさない様にしよう。
 体長2.5メートルを越える大物なので、マジックポーチに入れてハインツ達と冒険者ギルドに向かう。

 エルクは行動を共にしたハインツ達に渡し、久々に食堂に行きエールで乾杯。
 馬鹿話しながら考え、家が建つまでの間に姉さん達の護衛を任せられる相手と馬車や馬の面倒を見てくれる者を探す必要が有る。
 コーエン侯爵様の様な護衛で無く、不審者から家を守り姉やミリーネの外出時の護衛が出来る者、交代要員も含めると10人前後必要だ。
 それに家事と育児に広い家の掃除は大変なので最低でも2~3人の使用人は必要だろう。

 護衛は俺が雇うが、姉さんの家の使用人は姉さんが雇い、主人が誰かはっきりさせておく必要が有る。
 そんな考えに浸りながら飲んでいると、ホランに声を掛けられた。

 「何を難しい顔をして飲んでいるんだ」

 「良いところに来たな、ホラン達は冒険者を何時まで続ける気だ?」

 「俺達か? まあ、其れなりの蓄えが出来て生活の目処が立てばだな。蓄えはお前のお陰でそこそこ出来たが、引退しても安定した収入の宛が無いからな」

 「つまり安定した収入と生活の場が確保出来たら、引退しても良いのか」

 「そう都合良くは行かないからなぁ。運良く死ななかったら、怪我をしたり身体が動かなくなって来た者から、一人ずつパーティーを抜けていく事になるさ。冒険者の定めだな」

 「相談が有るから、俺の家に来てくれないか」

 ヤハン達には未だ早い話だし、冒険者ギルドの食堂でするには都合が悪いので家に誘う。

 ・・・・・・

 「へぇー、良い部屋を借りてるな」
 〈ハルトの稼ぎなら此れくらいは当然だな〉
 〈羨ましいぜ〉

 大きいテーブルを買っておいて良かった、空間収納から食事を取りだして振る舞い、食後話を切り出す。

 「実は今家を建てているのだけど、姉さんや姪っ子と住むことになるんだ。そこで外出時の護衛と家の警備の者が必要になる。知っての通りクルーゲンの様な野郎や街のチンピラから、家と姉さん達を守ってくれる者を探しているんだ」

 「其れを俺達にか?」

 「無理にとは言わない。侯爵様に頼んでも良いが、借りは作りたくないし貴族の護衛じゃないからな。あんた達は馬に乗れて馬車も扱える、それなりに信頼も出来るし腕も立つ」

 「それなりに・・・か」

 ホランが、苦笑いしながらそう言う。

 「赤の他人で其れなりの信頼を持てる者は少ないからな。護衛と言っても、命を賭けて守れ何て言わないよ。駄目だと思ったら逃げてくれて結構、と言うより逃げて相手が誰だか知らせて貰えた方が有り難い」

 「成る程ね、死んじまったら相手が誰だか判らなくて、助けも仕返しのしようも無いからな」

 「ホランに月銀貨45枚、他の者に銀貨40枚に食事と寝る場所は提供するよ。この部屋程の広さに二段ベッドを入れるか、使用人用の屋根裏部屋に空きがあれば使ってくれて構わない。実質飲み代以外に金を使う必要が無くなるな」

 「まてまて、そんなに大きな家が有るのか?」

 「今建てている最中だ、この建物の縦横二倍だな。三階建てで屋根裏部屋が16室有る。場所はオシエク通りになる」

 「オシエク通りだって、彼処は裕福な者達が住まう場所だぞ」

 「だから揃いの服装も其れなりの物を仕立てるよ」

 〈俺は乗ったぜ〉
 〈ああ、俺も異存は無い〉
 〈ハルトなら、其れなりに信頼出来るしな〉
 〈違いない〉と爆笑されてしまった。
 〈判った、宜しく頼む〉

 ホラン達には屋根裏部屋が売れ残っていたので、家が完成するまでの間は屋根裏部屋を宿舎に使って貰う事にしたが、この建物も俺が建てたと知って呆れていた。

 昼間は街の警備隊に勤め夜には帰ってくるブルースに手伝って貰い、夕暮れ前の一刻冒険者ギルドの訓練場で、対人戦と護衛方法を伝授して貰った。
 剣もそうだが素手での体術は冒険者に必要無いので、ホラン達も馴れない訓練に苦労していたが、命を賭けた闘いに馴れて居るので其れなりの勘があり、上達は早かった。

 ホラン達の訓練とは別に、ヘレナ姉さんの魔力を増やし火魔法の訓練も始めたので森に行くことが出来ず、夜はミリーネと遊ぶ毎日だ。
 姉さんには俺が魔力を増やすことが出来る事を話し、毎日魔力を送り込むことから始めた。
 然し俺が魔力を送り込んでも、相手が耐えられる限界が判らない
 ゴブリンの心臓を喰った時のような、熱暴走を起こしてして死なせては困るので、細心の注意が必要だった。

 然しこれは一週間もすれば解決した、姉さんに耐えられなくなったらストップを掛けて貰えれば良いだけだった。
 姉さん曰く、魔力を送り込まれると身体の中を暖かいものが駆け巡る感じがする。
 それが段々熱いものに変わり、焼ける様な感覚になって来るのでそこで〈止めて〉と言っていると言われた。

 一月もすると生活魔法が強力になり、生活魔法の制御方法から教える。
 ウォーターでカップからジャバジャバ水が溢れたり、フレイムの炎がソフトボール大になるのは不味い。
 ライトも眩しすぎるから、ミリーネが眩しくてびっくりしている。
 ウォーターをカップ一杯、フレイムもミリーネの拳程度に出来る様になってから俺と同じ様に制御する練習に変える。

 生活魔法を使い、調理用ストーブの中でテニスボール大の火球作りから始め、ソフトボール大バレーボール大の三種を自在に作れる様にする。
 二月程で自在に作れる様になり、火魔法のフレイムを使っての火球作りも生活魔法での練習の甲斐あって、一週間もすれば出来る様になった。
 その間毎日姉の魔力アップを続ける、何せ二歳の子供が居るので魔力切れで意識不明ってのは都合が悪い。
 となれば俺が毎日限界寸前まで魔力を送り込んで増やすしかない。

 ある日、何故こんな事をするのかと問われたので、万が一の時自分の身やミリーネを守る為だと言うと納得した。
 何れ治癒魔法も伝授するが、他人に聞かれた時の言い訳も考えているので、火魔法が自在に使える様になったら教えるつもり。

 頼んでいた家が完成したと連絡を受け、引き渡しと精算の為に商業ギルドに出向く。
 二三階の床や壁も石造りにし、それに分厚い板を張って貰ったので追加料金が金貨650枚となってしまった。
 土魔法使いと大工から、見かけより相当手間と金の掛かった家ですよと言われてしまった。
 外部からの攻撃に対処出来る様にし、パニックルームまで作ったので金が掛かるのは仕方がない。

 お引っ越しは簡単便利なマジックポーチを使って、人だけ移動すれば終わり。
 姉さんやホラン達が、家を見てお口パクパクの金魚状態になったのはご愛敬。

 〈確かにこの大きさなら護衛もいるよな〉
 〈ハルトってどれだけ稼いでいるんだよ〉
 〈いやいや何も言うまい〉
 〈そうそう、今までどれだけびっくりさせられてきた事やらだ〉

 正面の俺の家から入るが、入り口横に小さな表札が付けられていた。
 冒険者ギルドと同じ楯に交差する剣と槍が彫られ、横にハルトの文字が刻まれている、大工も気が利いてるね♪
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