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一章 降って湧いた災難
既成事実を作ろう! 四
しおりを挟む目の前には、皇一族の金色の双角を持つ、派手な赤毛に金眼と銀眼の大柄で、現実離れしたとても美しい男が居た。
皇の角を持つ男は噂に聞いていた、放蕩皇子と同じ色を持っていた。
何故か小脇にはこの池に泳ぐ、一番大きく立派な鯉を抱えている。
(こいつは怒られたり、罰せられたりとかしないのか?)
普通なら誰もしないような、そんなあり得ない男の行動に呆れてしまう。
(でも何だろう、こいつの匂いが妙に気になるし、自分の熱もより酷くなってきている気がする…)
体の不調などに困惑していると、
「小さいが綺麗な顔をしておる。他も色々と俺の好みだ。お前、名は?」
男は僕に尋ねてきた。
(声もとても良い)
高すぎず低すぎない、よく通る支配するような強さがある。
だが、初対面で名乗らず、先に僕に名を聞く男のあまりに礼を欠いた態度にまた呆れる。
(何か色々と失礼なやつだな。まぁ…隠すものでもないし良いか)
「百合。【青】の家から来ている」
それは僕をじっくりと視た。
(なんてやつだ!)
魂の見定めを初対面でするなんて…
(ほんとうに失礼なやつだな!)
どうやら男は僕の【真名】を知りたいらしい。
残念だがそれはだれにも伝えることが出来ない。
鬼族の僕くらいの歳の子どもであれば、魂の色から名付けられた真名を名乗るものだが、僕は訳あってそれが叶わなかった。
(こいつは眼が随分良いみたいだから、あたりはつけてそうだけど)
「【青】か…あそこは俺への評価が辛い。仕方がない。既成事実を作ろう!」
少し考えるような素振りをしたが、すぐに僕に向かってこんな言葉を告げた。
「ハイ?」(は?なんの事だ?)
投げかけられた言葉の意味がよく分からなかった。
「お前は俺のものになる。俺は朱点だ」
──男の名乗ったそれは噂の放蕩皇子の名前だった。
男はその男にも女にも見える美しい顔を綻ばせ「宜しくな」と言うとにこりと笑った。
(無邪気な子どもみたいな、カラッとした青空のような笑顔だな)
「では、俺の閨に行くか…」
そう言った男の瞳には銀色の環が浮かんでいた。
その瞬間からより体が熱くなり、何故か自分秘めた場所が濡れてきた。
他にも体の色んな場所が敏感になり過ぎて、服を着ていることすら辛い。
足にも力が入らず、思わずへたりこんでしまいそうになった。
「軽いな」
近づいて来た男は鯉を抱える反対の腕で僕を抱えた。
「もっとしっかり食わせて、俺好みに育てねばならぬ。鯉も食わすか?」
そんなことも呟きつつ、男はそのまま僕を抱え、平然とした様子で歩き出す。
(は?!僕を連れ去るというのか!こいつは何を考えているんだ!)
「ハハ…俺は見つけた」
やろうとしていることは誘拐なのにそれを嬉しそうに語る男。
(でも、こいつの匂いを嗅ぐともう、何も考えなくて良い気もしてくるけど……)
熱によって出たおかしな考えを振り払い、僕を誘拐しようとする男に抗議する。
「オイ!僕はこれから父と皇様に会うことになっている。
どこに連れてくんだ!離せよ!!」
手足を振り暴れて抵抗するが、びくともしない。
「親父には後でしっかり紹介してやろう」
そう言うな否や、男は僕を抱え物凄い速度で駆け出した。
◇◇◇
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