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一章 降って湧いた災難
朱と四色の従者 四
しおりを挟む最後に黄の名を持つ、金が話しだした。
「耳長の姫君のようにお育ちになられたらしい百合様は、気性の荒い鬼のαは苦手かと思うと、この皇宮での暮らしにも慣れぬだろうと、そう若も気を揉まれていらっしゃいましたよね?」
「そのとおりだ」
こいつはこいつらの中で仲裁役をしている、一番温厚な性格のやつだ。
俺のことも一番に世話を焼いたのはこいつだった。
「【魂喰い】以外の食事については熊に任せたが、お前にはあれの従者候補の選定と身の回りの物などを頼んでおいたな。
百合の部屋はまだ出来ぬのか?」
「まず、従者候補は孫の番の蒲公英に頼み、彼の国から【四家】に来た元耳長の者に集まってもらいました。
百合様は一通り彼らと顔を合わされた筈ですが、お気に召されましたか?」
「他の鬼よりは懐いておるようだ」
百合のことも細かく気にかけ、百合の生まれ育ちが俺たち鬼とは異質な耳長寄りであることなどを俺に指摘し、事細かく皆に指示していた。
それを見て『昔、俺の拾ってきたあの扱いの難しい珍獣のようなやつだ』と思わず言ってしまい、こいつから『若!百合様には絶対にそれを言ってはなりません!!』と厳しく叱られた。
俺のお姫様は自分で着替えすら出来ぬ相当な姫育ちだ。
そんなΩは俺の母と母の世代くらい旧き者なら分かるが『肉を喰らうもの』と『血を飲むもの』の血が相当に混じり、漸く鬼として成り立った今の世代ではほぼ見ない。
あれの父は番が俺の母並みに旧き者であるから分かるが、フレイヤのやつは本当に何を考えているんだろうか?
(深窓のΩにしてもあまりにも何も知らぬし出来きぬ故、驚いたぞ?)
「お部屋につきましては、家具などを彼の国に依頼しております。
【青】でのお部屋を少しばかり覗いてまいりましたが、耳長の国から抜け出してきたのか?というようなお部屋でしたよ。
それがお好みかはわかりませんが、若のお望みは『慣れ親しんだ環境のものをより素晴らしく』
……おかげで私も何度も彼の国に跳んで往復しております……」
やはり金も遠い目をしている。
「まぁ…熊のやつよりかは体は楽ですが、従者候補の元耳長の者たちとなかなか話が合わずそれがツラいですね!
他種族に『異星人並みに話が合わない』と呼ばれるだけはあります。若様………」
「……なんだ?」
こいつからも百合に関する苦言を言われるらしい。
「百合様で本当によろしいんですか?
よくない噂もあの方の弟君などの周りで聞いておりますし……爺も心配です」
「何度も言うがあれはそのようなものではない。明日にでも場を設け、お前たちと会わせよう」
「ですがね若様、我らも陛下方より貴方様を任されておりますし、それに命を捧げ眷属となった身。
若様を心配するからこその我ら爺たちの言葉をお聞き入れくださいませ」
結局こいつからもこのあと愚痴を延々と聞かされる羽目になり、その間俺は別のことを考えやり過ごすことにした。
(誰ぞ悪意のあるものが噂でも撒いておるのか?)
今はそれを考えてもわからぬ。
とりあえずその事を調べるのは後にする。
(これもフレイヤに聞くしかないか…)
従者たちからの報告を聞いた俺は、やつら俺の爺たちのようにお姫様ともこのように話せるようになりたい。
百合は流石は旧き者の流れを汲む純血の鬼だけはあり、あの歳ではかなり強い。
フレイヤに高度な教育を施され鍛えられているが、それでもこいつらには遠く及ばない。
歳を経ているうえに【四色の御子】として生まれ強い魂を持つ、こいつら四色の従者は、このように俺ともある程度の【禁】に関する会話が出来る。
それに今のように【域】に居るのも苦ではない。
ふと周りを見回す。
日にちや時間の感覚などが失われる、空っぽの世界。
俺の世界は空虚で、そこに長く居れば気が狂う。
亜神の領域である【域】は俺の精神だ。
何もなく空っぽ。
未だ成熟しない俺を反映している。
(百合を噛んで番に出来たが、俺はまだどちらかわからぬ。
あれと体を重ね続ければ、そのうちにαに傾いて行くかとは思うが…)
その力に反して俺の従者は力の強い者、この四童子と茨木しかおらぬ。
心の弱いΩなどは気を病んでしまうかもしれぬ。
百合には発情期の時に過ごさせたが、常ならば耐えられるかなど、まだ分からぬ。
(俺のお姫様が狂うなど、そんなもの見たくはない…)
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