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一章 降って湧いた災難
朱と梔子と緋 参
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夢を見た。
俺は日頃は夢を見ぬ。
初めて発情し、箍が外れた故だろう。
生まれ持った力を厭っていた。
俺を形作るもの全てが嫌いだった。
未来も過去もどちらも見たくなどない。
だが、お前の為ならば良い。
お前が俺の姿を気に入り、お前を守れるなら俺はそれを揮う事を躊躇わぬ。
俺のお姫様。
お前と出逢い、初めてαとして目覚めたあの時より、俺はずっとお前に囚われている。
縛られている。
「お前を悩ませ、苦しめるものは俺が消してやる」
横になっていた褥より、静かに起き上がり支度をする。
【青】に巣食う『末端』を始末する為にこれから出て行く。
先ほどまで交わっていたが、疲れ果てた俺のお姫様は深く寝入り夢の中だ。
起こさぬよう小さな声で話しかける。
「お前の憂いを晴らそう」
お姫様の頭をそっと撫でてから部屋を後にした。
──お前が心置きなく俺のもとに堕ちて来れる様にする為に。
◆◆◆
先を急ぐ俺の前方に金色の髪の女が見えた。
茨木だ。
足を止め、問いかける。
「俺の邪魔をしに来たのか?」
「いえ、必要ならお供致します」
「要らぬ」
短い会話の中に強い拒絶、そしてそれを強く促す【呪】も込める。
「…私ではそれに足りえませんか」
こいつの想いは受け止めることが出来ぬ。
ずっとそばで支えてくれていた姉のような存在。
俺が欲求に苦しみ始めた頃に、自からすすんで身を差し出した。
肌寂しさを慰めてくれた。
その優しい【黄】の魂に孤独も慰められた。
だが、こいつは俺のところに来てはいけない。
それだけは嫌だった。
こいつとの間にある情は親愛というものだろうか?
色々とそれ以上のことをしてはいるが、俺と同じになどしたくない。
これから為すことは『 』に睨まれる。
お前も百合も巻き込みたくない。
(これも我儘が過ぎるな)
「すまない、梔子。それには【応えられぬ】」
こいつの本当の名でそれを告げた。
「若!簡単に謝罪してはいけません。あなたの言葉には強い力がある。
どんな言葉もあなたが話せば本当になる。
だから駄目ですよ」
気づいたかと思う。
だが、いつものように柔らかく微笑む。
「無事のお帰りをお待ちしております」
「百合を頼む」
「畏まりました」
このやり取りでこいつの中にあったものは消えた。
こいつが告げようとしたことを、俺に伝える前に【消去】した。
やり方は酷いかもしれないが忘れてほしい。
お前を初めて抱いた後、お前が望んだものは、俺から【名】を与えられることだった。
『なぜ欲しい?』
『貴方様の眷属になりたいのです』
『構わぬが俺は酷い【名】をつけるらしいぞ?』
『貴方様の授けるものなら』
── の名のもとに【黄】の名を与える。──
中指の先を額に付け、【祝福】を与えてやる。
──『茨木』──
『梔子。お前は今から俺の眷属、茨木だ』
『はい!朱点様。より一層この身を賭してお仕え致します』
『お前は固い』
母からもその感性が酷いと言われる俺が付けた名を、気に入って使ってくれた。
俺の眷属ゆえ、茨とお前の色でイバラキ。
我ながら安直だった。
あの時から知っていた。気づいていた。
だが、応えれなかった。
俺にはお前は選べぬし選ばぬ。
例え運命でなくとも俺は百合を愛するだろう。
だからお前にはきっと永遠に応えらぬ。
「茨木に【良き縁を】」
そう呟き、俺は道を急ぐ。
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