僕の番が怖すぎる。

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一章 降って湧いた災難

朱と四色の従者

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 新しく追加した朱点サイドの話になります。
 ───────────


「「「「おめでとうございます!」」」」

 従者たちから祝ぎを受けている。
 今は百合の様子を見に行っている茨木イバラキからの知らせで、
 色々と進めていた事がうまく運んだことを知った。

 だが、どう伝えれば良いのだろうか?
 ここのところ臍を曲げていることの多い、俺のお姫様にどうすれば喜んでもらえるのか?

「お姫様がどうすれば喜ぶのかわからん。」

 俺は悩んでいた。  
 俺がこのような状態になるなんてことは滅多に無い。

 これが恋煩いというやつか?
 この歳まで欲求の解消でしか他人と付き合ったことはない。
 友人と呼べるものもアケくらいで他には居ない。

 部屋で寝ている俺のお姫様を想い、思わず呟いた。
 今、俺の居るこの部屋には、俺の従者たちが定期報告と食事などを持ってきている。

「はぁ…若に春が来たのはとても喜ばしいのですが、うちは嫁に殴られましたよ。」
 
 従者の一人、【青】の星熊ホシクマが話す。
 こいつは青の名を持ち、こいつらの中で一番の変わりものだ。

 その顔には青あざがある。
 とても強く頑丈な鬼であるこいつに痕を残すなど、相当なことをされたと思うが、どうしたんだろうか?

百合ユリ様を娶るためにしたことが…私を真似たものだと、若が…后陛下に伝えたものですから…」

「事実だ。」

 この星熊は【運命】と番っている。
 三十年ほど前に人族じんぞくの貴人を見初め、攫うようにして娶った。
 他の四童子からは『老いらくの恋』などと言われ、からかわれていた。

「ですがね、うちのマツが思い出して怒り狂ったのと、うちの子が【青】に婿入りすることになって大変です!」

 声を荒げ俺に詰め寄る星熊。
 もともとこいつが興した家ではあるが、現在は離れ、一切の関与をしていない。 
 四童子の興した【四家】は人族などで言うところの貴族のようなものだ。
 一族の中で様々な役目を担っている。

「お前の血がまた入るのか。あの家は厄介なことになっている。
少し掃除をするので丁度良い。」

 渋い顔をしているこいつに俺はこれからの予定を伝える。

 先日から父に訴えていることだが、なかなか許可が出ない。
 百合が俺に嫁ぐまでに片付けなければ、落ち着いて来れないだろうから、この件は急ぎ片付けたいのだが。
 この俺に呪詛なども掛けて来る阿呆共なども居るというのに。

 あの糞親父め。

「あぁ…群青済まない…。」

 胸の前での手を組み、どこかに向かって祈りながら何かを話す。

菖蒲アヤメ君はどこか黒い子だから苦手なんだが、二人ならなんとか【青】も立て直せるだろう。
お前が彼を孕ませて連れてきたから怒りはしたが、父は複雑だ…」

 まだ何か呟いている星熊は放っておく。

 他の従者たちが肩を叩いたり、何か言葉をかけて励ましているが、星熊の落ち込みようはなかなか酷い。
【青】の家は『彼方あちら』から来た魂を持つものがよく生まれる。
 故に、こちらには無い知識や価値観、技能を持つものが沢山いる。
 だからこそ重宝されるが、時に厄介なことになる。
 今が正にそうだ。

 俺のろくでもない、兄や姉と呼ぶのもおこがましい、【名】も角さえも持たないあいつらを使い、何かをしようとしているらしい。
 そういえばあいつらも近いうちに始末しなくてはいけない。
 親父は『私は忙しい』だの『面倒だ』など言っては処分を先送りにしている。
アレ』の【末端】、ろくでもないものを始末して、この皇宮で暮らしやすくするまで、俺のお姫様を俺の部屋から出したくはない。
『彼方』の価値観で鬼が天下を取るだとか、年長のものが継ぐのが正しいだとか言っているが、あれらは力を持たんし、【】る事も出来ない。
 そもそもの条件である【至】る事さえ不可能だ。

 他の従者たちが報告などをする。 


「百合様はお菓子がお好きみたいですから、色々とみやこの市で手に入れてまいりました。」

【緑】の熊が話す。
 こいつは緑の名を持つ。温厚そうに見えて実は切れやすい。
 星熊の次に厄介なやつだ。

 確かに百合は、菓子が好きで良く食べる。
 前に一番肥えて美味そうな鯉を食べさせたが、『僕は魚を好まない。臭い!』と一蹴したな。
 あいつは少し偏食のきらいがある。
 肉や魂を与えているが口直しに菓子ばかり喰っている。


「若が閨でずっと可愛がられていますので、あまり着る機会も少ないとは思いますが、
若の色や【華】の柄の着物なども仕立てております。」

【赤】の虎熊トラクマも話す。
 こいつは俺と同じで赤の名を持つ。
 この世界の気質が強く、こいつらの中で一番の激情家だ。

 百合の銀髪銀目で真っ白な肌に俺の朱は似合うだろう。
 その肌に在る、俺の【分身】と同じ柄も良いな。
 何も身に付けず閨に籠もっていた時もなかなか良かった。
 俺の【華】があいつの真っ白な肌に良く映え、素晴らしく美しい。
 見ているととても嬉しい気持ちになる。
 そしてもっと【華】を咲かせたくなり、抱いてしまう。

 …それではいかんとは思うのだが、なかなか難しい。


「ところで若は百合様とどんなお話をされるんですか?
私どもと話すようにはいかないでしょう?
まだまだ力も足りないでしょうし…」

 最後に【黄】の名を持つ金が話した。
 こいつはこいつらの中で仲裁役をしている、一番温厚な性格のやつだ。
 俺のことも一番の世話を焼いたのはこいつだった。
 
 百合は純血の鬼だけはあり、あの歳ではかなり強いがこいつらには遠く及ばない。
 歳を経ているうえに強い魂を持つ、四色の従者は俺ともある程度の会話ができ、今のように【域】に居るのも苦ではない。

 ふと周りを見回す。

 日にちや時間の感覚などが失われる、空っぽの世界。
 俺の世界は空虚で、そこに長く居れば気が狂う。

 亜神の領域である【域】は俺の精神世界だ。
 何もなく空っぽ。
 未だ成熟しない俺を反映している。

 だからその力に反して、俺の従者は力の強いもの、この四人と茨木しかいない。
 心の弱いΩなどは気を病んでしまうかもしれない。
 百合には発情期の時に過ごさせたが、平時はまだ分からない。
 俺のお姫様が狂うのは見たくない。
 
「毎日抱いて、愛を注ぎ、俺の【華】を咲かせている。
あれと睦み合う際に少し箍が外れたときには語ることもあるな。」

 語りあうことは難しいが、愛だけはたっぷりと与えている。
 もう少しで【域】で多少話せるくらいにはなるかと思うが。

「はぁ…肉体言語だけではいけませんよ。ですが若は自由に喋れませんしね…」
「そんなことでは逃げられてしまいますよ。私も松に家出を何度もされました。」
「若はありえないほどの巨根のうえに絶倫ですから、嫌がられませんか?」
「あの性癖は嫌がられますから暫くはやめないと駄目ですよ!」

 困った顔をして口々に話す従者たち。

 俺に対してこういった小言を言うのは、こいつらか茨木とその母くらいだ。
 母上は俺をアホと呼び叱るが、俺に物凄く甘い。

 …親父は論外だ。

「俺のことを何だと思っているんだ?」

 従者たちに少し、苦情を言う。

「百合様のおかげで」
「若のお相手をすることがなくなりそうですから…」
「「「「我らも必死です!!!」」」」

 仕方のない事ではあったが、俺だって悪いとは思っている。
 どうしようもない欲求と衝動の時には、こいつらか茨木くらいしか、俺の相手は出来ない。

『壊れない』、『側にいたから』百合にそう伝えたが、あいつも呆れていた。

 親父も何人かはαの妾がいるが、似たような理由だろう。
 母上が悲しむ姿を見てなんとも思わないのが腹立たしい。

 俺はそんなことをしたくはないので、まずは囲っている奴らを開放することにした。
 百合を娶ることと合わせて母上に伝えた。
 
 俺の囲っている奴らは、殆どが罪を犯したものたちだ。
 Ωの場合は番が犯した罪を共に償うと言い、奴隷落ちするものが多数だ。
 それに温情をかけて救っていればきりがないので、共に奴隷に落としている。
 これは昔から変わらないそうだ。

 他には番に先立たれたものなどだ。
 可哀想に気が触れたものや、俺の様にどうしようもない欲求を抱えて、苦しんでいるものを相手にしている。

 そういったものたちをまとめて管理するのも茨木の仕事だ。
 あいつは、一族の刑罰などを担当している。

「長らく面倒をかけたな。」

 これは本心だ。
 俺の育ての親たちには本当に色々と世話になった。

「自分の子よりもよほど手間暇かけて」
「更には色々とお世話した…」
「「「「若様の幸せをお祝い致します。」」」」

 嬉しいことを言ってくれる。
 こいつらは親父よりも余程、俺の父親のような事をしてくれた。

まだ・・Ωとしてお目覚めにならなくて良かったです!」
「このままだと誰かが本当に、若の処女を貰わないといけませんでしたから…」
「本当にそれだけは避けたかったので良かったです!」
「いずれΩとして目覚められるので、百合様には感謝しかございません。」

 貴様らは…【しゅ】で縛ってやろうか?


 ん?


 百合!!!

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