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一章 降って湧いた災難
もっと俺を喰って大きく、強くなれ。
しおりを挟むあー…途中から来たみんなは知らないかも知れないけど、
鬼族って食人鬼と吸血鬼的なもののハーフのハイブリッド種族なんだけれど、
ここからはちょっと苦手な人がいるかもしれないかな?
《グロ映画とかそういう系のものは、私達の仕事ではそんなのなんて大丈夫でしょう?》
《あんまりにもリアリティのないものは白けるよ。》
まぁ…皆、医者だったり、それ系の研究者だものね。
私が言ったのは、倫理的なものなんだけれど
…感覚が違ってたらごめんね?
◇◇◇
イライラも止まらないしお腹も限界だから、厨の方に何か無いか覗きに行く事にした。
茨木のくれたお菓子は、あいつの持ってきた肉などが酷く不味い時があるので、その時の口直しとして置いておく。
あいつはお菓子とか食べないから無くならないしな。
あいつの奇行に慣れている、皇宮の皆は僕に優しい。
今までも時々、あいつの血以外のものも欲しいだろうからと、色々と気を使ってくれていた。
「百合様もこれから暫くは甘いものは駄目ですから、内緒ですよ?」
「なんですか?それ?」
「あ…すみません。そのうちに若様が、朱点様がお伝えしますよ。」
そんな不思議な事を言いつつ、僕の好きなお菓子もくれた。
◇◇◇
ここからの話は非常に人を選ぶというか…
多分、私達の常識や価値観などが、もう完全に壊れた話だけど…大丈夫?
《シュテンは相当に酷いことが分かってるから大丈夫。》
いや、それだけじゃないんだけどね…
《ここまできてやめるのは酷いわ!》
まぁ…良いか。
あ、次はテキーラを。
こっちに来て良かったのは酒の種類が豊富な事だな。
私の実家もワイナリーを持っているし、このへんは本当に良かったな。
あいつにも飲ませてやりたい。
◇◇◇
厨でお兄さんやお姉さんたちから、お菓子や軽い食事などを貰い、それを持って、あいつの部屋に戻る。
あそこで食べても良かったけど、僕が居なかったら後で機嫌が悪いし、あいつの好きなもの等も、皆がさり気なく渡してくるから、一緒に食べることにした。
断じて、僕が、そうしたかったからとかじゃないからな!
彼らが部屋まで持って行くと言われたが、朱点の兄姉の問題児たちが逃げ出したとかで、忙しくしていたし、
あいつも部屋に、僕や従者以外を入れることを嫌っていたから、お菓子や軽食を抱え、あいつの部屋までの回廊を歩いていた。
暫く歩いていると、向こうから【青】を纏った変なやつらがきた。
僕の家にも居る、あいつに呪詛をかけたりしたという良くない奴らと似たやつだ。
「スゲェいい匂いがするから来てみれば、こんなところにめちゃくちゃカワイイ子がいるじゃん。」
「あいつの【華】を付けて、皇の角を生やしてるし、これが噂のあいつの『運命』か?」
「丁度良い。あいつは弟のくせに生意気で、俺らを差し置いて親父の跡を継ぐとかムカついてたんだよな。皆と一緒にこいつで楽しむか。」
「早く逃げないといけないけれど、この子を連れて行くのも良いわね。」
どうやらこいつらは全員が朱点の兄や姉の様だった。
全部で十人少々いたが、皇の角も【名】さえも持たないうえに、変な【青】が視えた。
「じゃあお前はこっちに来いよ」
あいつの兄らしい変なやつが、僕の手を掴みどこかに連れて行こうとする。
「お離し下さい!
私は部屋に戻り、朱点様と食事をとる予定です。何かございましたら朱点様に言って、許可をお取り下さい。」
「いいからこっちに来いよ!皇子サマの命令だぜ。」
僕は朱点からあまり部屋の外を彷徨くなと言われていた。
多分こういうやつに会わせたくないんだろうと思う。
一応、こういった厄介なのに絡まれた場合の対応を教えてもらったけど、
こいつらには 効かないらしい。
【名】も持っておらず、力も弱い。
本当に朱点の兄弟とは思えなかった。
「あいつも最近は食事を頻繁にしないといけないくらい弱ってるみたいだし、怖くなんてないからな。ハハハハハハ………」
「「「「ハハハハハ…」」」」
「「「アハハハ」」」
どうやら最近僕のせいで、朱点が頻繁に後宮に行っている事を知っているらしい。
どう考えても、こいつらに僕が一人でなんとかするのは無理だ。
「あいつが飢えてるのはいつもの事だけど、渇きもおぼえるなんてね。」
「あはははは…は、ひぃ!」
その時、僕の後ろから恐ろしい気配を感じ、震えた。
最近ずっとそばでよく嗅ぐ匂いもする。
存在そのものが震えるくらいに怖く、恐ろしいそれは口を開いた。
「俺の嫁に何をしている?」
朱点だった。
こいつは『嫁』とか言ったけど僕は了承していないし、そもそもそんな話は聞いていなかった。
それに…僕の【青】も大反対していた。
「ひぃッ!し、朱点…何だよ、この子がなんか沢山色々持ってるから、手伝おうとしただけだよな?みんな?」
「えぇ、そうよ。」
「もちろんだ、可愛い子にこんな大荷物持たせるなんてどうかしているもんな?」
奴らは朱点を異常なくらいに怖れていた。
「その割には俺のお姫様の腕には、貴様の手が痣になってついているな?」
(あ、本当だ、気づかなかったけど、結構強い力で握られていたんだな)
朱点は恐ろしいまでの殺気を出し、やつらを見る。
それはとても兄弟に向けるものでは無い。
こいつが生まれるまで、皇様と后陛下にはろくでもないものしか生まれなかった。
素行が悪く相応しくない酷いものなどは処刑されていた。
今、目の前にいる奴らも近々そうなるのでは?と言われているような奴らだった。
今まで僕は朱点のこんな面は見たことなかった。
いつも僕には『俺のお姫様』とか言って、デロデロに甘やかす。
(それに目の前にいる奴らは皇の鬼の癖に、なんでこんなに【名】無しで弱っちいんだ?)
◇◇◇
解説が必要なので説明するよ。
鬼族の名前の付け方は独特でね、あちらでは【名】というものが非常に強い力を持つんだ。
朱点の名乗っているものだって、通り名で本名じゃない。
《シュテンの本名は何なんだ?》
力の強いものの【名】を呼ぶことは非常に恐ろしく、許されないと呼べない。
あいつの父親の皇陛下や母親の后陛下も、その地位の名で呼ばれていた。
《なるほど、禁止されているのね。》
それで、鬼のΩの名前は、持って生まれた【華】の名前になると言ったが、
鬼のαは魂が持つ色を、母親のΩや后陛下などが、持つ眼で:視|て、名付ける。
鬼のΩにはその眼が備わっているんだ。
【名】を持たないってことは、非常に弱い存在か、もしくは歪なものだ。
私も2つの名前を持っていたけれど、明らかにΩだったから、周りは百合と呼んでいたね。
《リリィにも他に名前はあるのか?》
もう一つの名前?今はまだ秘密だよ。
この話を続けたらもう少し先の方で分かるから。
その時にあいつの本当の名前と一緒に教えるよ。
《楽しみにしているよ。》
《リリィも可愛いけれど?》
《言っても男にそれはないだろう。》
《Ωなんだから可愛くても良いのよ!》
そうよ!
名前を褒めてくれてありがとう?
それからそこの君、Ωは自身の持つ【華】の名を名乗ると言ったよ。
あいつの場合なら、青薔薇、もしくは薔薇だ。
《うぇ?!それは本当に無いな。》
因みに私の姉は紅薔薇だった。
《あら、女の人だとなんかしっくりくるわね。》
《本当の名前が知りたくなるわね!》
《魂の色の名前なんだよな?》
うーん、なんか期待値が高いなぁ…
今日はそこまでいけるか分からないけれど、その時に言ってくれた言葉が、プロポーズかなぁ?
《ヒューヒュー!》
《ワァオ!》
《このシュテンがなんて言うのかちょっと怖いな》
まぁ、普通はαやΩに分化したら、それぞれに相応しい【名】を正式に名乗るものなんだ。
だからΩの視る目を持った私からすると奴らは相当おかしかった。
力の象徴の【皇】の角も無い、魂は穢れている。
そんな奴らにあいつのとった行動は凄まじかった。
◇◇◇
「親父も母上も、『まだ駄目だ』と言うから見逃してやってた。
目障りだった【青】も反対する。呪いまできた。
もう我慢することはやめる。」
朱点は普段の調子で事も無げに話した。
その整い過ぎた顔には何の表情も浮かんでいない。
それからとても凄まじい惨劇が僕の目の前で起こった。
まずは僕に声をかけ引っ掴み痣をつけた男を
引裂き、潰し、その腸なども引き摺り出して、バラバラに解体していった。
何故か彼らは鬼の癖にそういったことに免疫が無いらしく、
恐怖の為かその場で凍りつき、動くことが出来ないみたいだった。
朱点はそのまま他の兄弟なども惨殺していった。
ただただ目の前で繰り広げれれる惨劇を、呆然としたまま声さえ上げず、見ていて処分を待つやつらに、生きたままバラされていくやつら、
正直、鬼の僕でもなかなか辛い光景だったが、朱点はそれらを平然と行い、更には彼らを喰らっていく。
お腹を空かせていた僕にも
「こいつを喰って、大きくなれ」
そう言って、その場にいたもの全てを潰して無理矢理食わせた。
目の前で起こった兄弟殺しの上に同族喰い。
聞いていたようにこいつは強い鬼の祖の性質を持ちすぎている。
鬼族では上の身分のものからのこういった制裁なんて当たり前だし、もともと鬼は仲間の肉を食べる。
それによって自分たちが滅びかけたくらいなのに、
これだけの血の濃い性質のものが居たなんて恐ろしかった。
僕も最後の純血の鬼と言われていたし、こういった性質がこれから出てくるのだろうか?
正直不味いし、もともと僕は肉を食さない。
なのに朱点はいつも僕に無理矢理にでもして僕に沢山食べさせる。
「……こいつらも俺も好きなだけ沢山喰って、早く、大きく、強くなれ。」
いつも僕に食べさせるときに言う言葉がより切実で、
心から僕の成長を苦しいくらいに待っているのがわかった。
「もっと俺を喰って大きく、強くなれ」
そう言って、血まで飲ませてきた。
こいつは何故こんなにも焦っているんだろう?
何が苦しいんだろう?
あんなにも純粋で無邪気な子供の様な顔をして、好意を向けたかと思えば
こんな酷く昏く、つらそうな哀しい顔をする。
こいつの考えていることやその行動や発言など全てが理解不能だ。
だけど…僕に対する愛情は確かにあるんだと思えた。
そしてその後、非常に興奮しているこいつは僕を閨に連れ込み、
いつもより乱暴に抱いた。
◇◇◇
あら、………皆、物凄い顔している人と口抑えてる人は大丈夫?
《やっぱりそんなもんばっか食ってたからマリーは味オンチ!》
…………本当にそうだと思うね。
あれ以外持ってきてくれないんだから、閨…ベッドルームのことね。
ほぼそこで暮らす生活だったし、あいつがごはんを持ってこなきゃ動けない。
私もかなり強い力を持つΩだったから大食いだったし、夫が与えてくれなきゃ、眷属の二、三人は余裕で潰してたからね。
まぁ、奴ら下僕の場合は犯罪者とかの刑期中のやつとか、処刑待ちのやつとかだから、
あいつはお腹が空くとよく潰して、私にも食べさせたよ。
《oh……………》
《ぅぇぇ…》
あら…ごめんね?さらに気分悪くなっちゃった?
《シュテンは可哀想なモンスター…》
…そうかもしれないね。
誰からも怖れられていて、簡単に受け入れられなかった為に、その年齢ではあり得ないくらい中身が幼かった。
母親である后陛下が、ベッドルームで過ごすような生活だった事もある。
《全く、父親と母親は何を考えているんだ。》
事情があるんだけれど、それはまた先になるかな。
あいつは乳母だった茨木の母や乳兄弟の茨木、側近の四童子くらいの力のあるものとしか慣れ合えなかった。
そんな彼らでも最初の頃はあいつを怖れていたそうだし。
《シュテン…》
あいつにとって百合は、初めて会った時から自分を全く怖れない存在だったんだ。
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