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Formation 4
デトネーション・コード
しおりを挟む森岡中尉は、約半月後に控えた日本でのショーに向けて、IDA敷地内のオフィスでショーのプログラム構成の再確認を行っていた。
コンピュータにマニューバーの種類と順序を打ち込み、ディスプレイ上でシミュレートさせてみる。エンターキーを押すと、立体映像の一番機メルセデスから五番機アトロポスまでが、箱庭のようなディスプレイ上を華麗に飛び回り始めた。
全機でのラインアブレスト・ロール、チェンジ・オーバー・ターン。一番機を除く四機でのボントン・ロール、ダイヤモンド・ループ。そして一番機のソロ、スロー・ロール。続けて一番機と二番機のクロスオーバー・ブレイク。四番機と五番機のオポジング・フォー・ポイント・ロール。そして五番機のソロ、シックスティーン・ポイント・ロール。最後に全機でのアップワード・エア・ブルームからのスター・クロスでファイナル。
森岡中尉は顎に手をあてて、ふむ、と小さく息を漏らす。
実機やシミュレータ・ポッドを使用したダイレクト・データ・リンクにより、各機の制御コンピュータに蓄積された機動時の記録や、パイロットのバイタル・データなどの情報を統合して計算し、このシミュレータは動いている。それゆえに、実際に機体を飛ばさずとも、かなりの精度でプログラムの再現が可能なのだ。
今回の構成は、ショーとしては比較的短い部類に入る。じっくりとブルー・フェアリーの曲技を見てもらうためには、本来ならもう少し充実した構成にする必要があったが、今回のショーは港とはいえ海上、ましてやここフロリダ沖から遠く離れた日本だ。
地上でのショーのように、間近で見上げる観客もいない。加えてアメリカ本土と太平洋を一気に横断し、一度日本の厚樹基地に着陸して燃料補給とパイロットの休息を取った後の演技になる。
その意味では、北米大陸各地で行われるショーに比べて遥かに長丁場になるのだ。その分、メンバーたちの緊張は長時間になる。時間が長引けば長引くだけ疲労もたまり、集中力も低下するだろう。
そのため、森岡中尉は華やかさを重視しつつもシンプルに短くまとめる方を選んだのだ。
プログラム構成については、中尉の直属の上官であり、ブルー・フェアリーに関する実質的な統括責任者である、ヴァーノン大佐の了承を得てから確定となる。今回、マキナのソロを採用したのは、森岡中尉の独断だったが、このプログラムを見た大佐は一発でゴー・サインを出した。
マキナのソロとして採用したシックスティーン・ポイント・ロールは、実は非常に難易度の高い技だ。三六〇度の一回のロールで二二・五度のバンク角で計十六回、エルロンロールを停止させる。簡単なように見えて、非常に高度で緻密な操縦技術を要するマニューバーなのだ。
現在、ブルー・フェアリーのメンバーの中でこれができる者はいない。過去にもいなかった。しかしマキナはそうではない。シミュレータ・ポッドのみならず、実際にアトロポスを使った訓練においても、彼女はこのマニューバーを一発で成功させてみせた。
そのため、森岡中尉はサミット合わせというこの華やかなショーで、マキナのソロにこれを採用することと決意したのだ。
UAFのイメージアップににつとめるという、ブルー・フェアリー本来の目的のためには、全員が一丸となった集団での演技ももちろん不可欠だ。
だがショーとして成功させるには、派手さ・華やかさといった大衆が好む要素を取り入れなければならない以上、マキナのように人目を引く演技ができるメンバーの存在は貴重であり、またそれをプログラムにうまく生かすのが森岡中尉の仕事なのだった。
幾度かコンピュータ上でのシミュレートを繰り返し、中尉はようやく手を止めた。このメンバーでのショーは初めてだということを加味しても、まあ問題はないだろうと彼は自己評価した。コンピュータの画面を凝視していたために凝り固まった肩をほぐすように、伸びをする。
その瞳が、デスクの片隅に置かれた携帯電話に注がれる。そこに残っていた、マキナからの着信履歴。
彼女が体調不良でこの日の訓練を休むことはエルフリーデより伝え聞いていたが、折り返し電話をかけても、彼女が出ることはなかった。
風邪だというから、寝込んでいるのだろうか。森岡中尉は眉をひそめる。やはり、昨日スコールに打たれたのがいけなかったか。滝のような冷たい雨の中、力なく佇んでいた少女。
その黒いまなざしが自分を見上げたとき、背筋をぞくりとかけのぼるものがあった。
「君が……鷹羽大尉の、娘?」
そう、ひとりごとのように呟く自分の声が震えているのにも気付かず、森岡中尉は少女の瞳から目をそらすことができない。マキナは小さく、だが確かに頷いた。
「はい。わたしの父は、UAFの軍人でした。中尉もご存知のように、当時UAFに存在していたアクロバット部隊〈スカイ・ドルフィンズ〉のメンバーでもあり、またD‐2と、その後継機であるD‐3のテストパイロットを務めた人間です」
「それじゃあ……時々基地に大尉が連れてきていた小さな女の子は――」
「はい」
再びマキナは頷く。黒髪を伝った雨の雫が、尖り気味の顎の先から零れ落ちた。
「あのときの女の子が、わたしです。まだ小さかったわたしに、中尉――当時は、少尉でしたね――は、エアプレーンで遊んでくださったり、飛行機が飛ぶ仕組みやマニューバーの仕方などを、丁寧に教えてくださった。中尉が語るそれらの話は、夢見る女の子にとってのお伽話のように、当時のわたしにとっては心躍る物語でした。今のわたしが在るのは、半分は父のおかげ、そして残りの半分は中尉のおかげだと、今でも思っています」
「しかし……それなら、君はぼくを恨んでいるのではないか? 君のお父さんを奪ったのはこの僕だ」
自分の声が、こんなにも虚ろに響くものだということを、森岡中尉はどこか他人事のように感じていた。マキナは目を伏せ、今度は首を横に振る。
「それは――」
物思いの海に沈んでいた森岡中尉は、鋭い電子音で我に返った。それはオフィスに備え付けの電話の呼び出し音だった。電話機の小さなディスプレイに踊るのは、ソミス中尉の電話番号。
「はい。森岡中尉だ」
「レナード? 私よ、アレッシア」
「ああ、昨日はありがとう。おかげで助かった」
「水臭いわね。困ったときにはお互いさまよ。中間管理職は大変ね」
「君だってもしかしたら、次の教官に任命されるかもしれないんだぜ」
「まさか。それはないわよ。仮にそうなったとしても私は駄目。とても神経が持ちそうにないわ」
「そう言うなよ」
森岡中尉は苦笑する。
ブルー・フェアリーの教官は、三年を任期としている。森岡中尉は今年がその三年目だった。あと数ヶ月で任期の満了を迎えるのだ。続投の希望を出し、ヴァーノン大佐をはじめ、諮問委員会の了承が得られれば、引き続き教官の任に当たることも可能だが、森岡中尉はそうすべきかどうか迷っていた。
ブルー・フェアリーの教官はやりがいのある仕事だ。UAFのイメージアップに貢献するという責務にも誇りを感じている。それに何より、次代のUAFを担っていくだろう学生たちの成長を間近で見られることは、他の職務では得られない充足感がある。
だがその一方で、直接前線へ投入されることがない分、彼が部隊を抜けてからもずっと前線で経験を積んできた同期たちとの間に、歴然とした差がついているだろうことは明らかだった。
いわば現場感覚のようなものは、一度そこを離れてしまうと、取り戻すことは非常に難しい。任期が終わってから部隊へ戻り、かつてのようにソミス中尉や他の仲間たちと同等に任務を全うできるかというと、正直なところ大いに不安があるのも確かだった。
しかし、だからといってそれを理由に、ブルー・フェアリーという居心地のいい場所に陣取り続けるのも果たしてどうだろうかという問いは、森岡中尉の心の中にずっと引っ掛かっていたのも確かだった。それは単なる甘え、逃げに過ぎないのではないか。
「あなた、大丈夫?」
「なにが?」
「別に」
森岡中尉はもちろんソミス中尉が言いたいことはわかっていたが、惚けてみせる。
電話のむこうで、小さく笑った気配。
「なら、いいのよ。安心したわ。それだけ聞きたかったの」
「そうかい? そりゃあよかった」
森岡中尉もくすりと笑った。
*
ショーのプログラムの確認の他に、サミットの事務局との打ち合わせ等々、森岡中尉がたまっていたデスクワークを終えて溜息を漏らしたときには、既に外は薄暗くなっていた。
ブラインドの隙間から落ちてくる夕陽は、もう名残のそれだ。今日はスコールはないようだ。
コンピュータの電源を落とし、携帯電話をジーンズのポケットに突っ込む。椅子の背にかけてあったジャケットを小脇に抱えると、消灯してオフィスを出た。辺りの空気は既に夜の匂いを吸い込んで、少しひんやりとしている。Tシャツ一枚では肌寒い。
歩きながらジャケットに袖を通した森岡中尉は、薄闇の中に佇む華奢な人影に気付いた。
その人物はIDAのフライトジャケットを着ており、灯りの消えた森岡中尉のオフィスの方向を見上げていた。外灯の間隔が広いせいで、辺りは薄暗い。かすかな灯りが、その人物の肌をより白く見せている。
しかし、目深に被っているキャップのせいで、その表情をうかがい知ることはできない。
だから森岡中尉も、最初はその人物を、IDAの男子生徒かと思った。
近付いてくる彼の足音に気が付いたのか、その人物がはっとしたようにこちらを見遣る。そこではじめて森岡中尉はその人物の顔を見た。
「マキナ?」
「中……尉?」マキナはその目を見開く。
キャップの下から覗く黒い瞳が、その一瞬に、まるで猫のように外灯を反射した。
「風邪だって? 体調はもういいのかい?」
森岡中尉が近付いていくと、マキナはキャップを取り、少しはにかんだようなまなざしを向けてくる。
「はい、食事も取りましたし、薬も飲んだので、今はだいぶ楽です」
「そうか。それはよかった。何度か電話しても出ないから、心配していたんだ」
「あ……」マキナは目を伏せる。
「すみません、ずっと電源を切っていたもので」
「いいんだよ。別に責めているわけじゃない。ただ、心配だっただけさ」
森岡中尉がそう言うと、マキナは小さく目を見開いた。
その白い手が、握り締められる。
「きのうは、失礼しました。つい勢いにまかせて、失礼なことを口走ってしまいました」
「ああ、それかい?」
森岡中尉は苦笑する。
「ぼくは失礼なことだなんて思っていないよ」
「中尉……」
「それよりもこんなところで立っていたから、体が冷えているんじゃないかい? ぼくに何か話があったんだろう?」
マキナはわずかにためらった様子を見せたが、やがて目を伏せたまま小さく頷く。森岡中尉は微笑むと、さきほど出てきたばかりのオフィスに引き返した。
「コーヒーでいいかい?」
「すみません」
「ちょうどミルクもあるから、カフェオレにしてあげよう、待っていて」
マグに注いだコーヒーを受け取り、マキナはほうと溜息をついた。手のひらに伝わる温もりが嬉しい。それで、思ったよりも自分の体が冷えていたことにマキナは気付いた。さきほどまで、ずっとオービター上のカフェで海風に当たっていたせいだろう。
一口飲むと、ほんのりと甘い。それは砂糖の甘さではなかった。思わずマキナが目を瞬いていると、自分の分に口をつけていた森岡中尉は合点したように笑った。
「ああ、これかい。蜂蜜だよ」
「蜂蜜? コーヒーにですか?」
「ああ。昔、鷹羽大尉に教えてもらってね。疲れが取れるからって。慣れればなかなか美味い」
昔を懐かしむように、森岡中尉はその濃青の瞳を細める。マキナは手の中の温もりを慈しむように眺めていたが、やがて一口一口、ゆっくりと味わうように飲んだ。体が温まるにつれて、心の中も温まってくるようだ、そう思いながら。
「あそこに立っていたのは、中尉にどうしてもお聞きしたかったことがあったからなのです。いえ、違いますね、お願いしたいことがあったのです」
「ぼくに?」
「はい」
マキナは顔を上げる。それまでキャップを被っていたせいで、少しだけ乱れた黒髪の毛先が、その白い頬を縁取っている。その真摯な黒い瞳は、あの日、小さなエアプレーンを追っていた、無垢な少女のそれを思い起こさせた。
「森岡中尉、わたしはもう一度、中尉の演技が見たいです」
「ぼくの?」
思いも寄らない言葉に、森岡中尉は目を見開く。
マキナは中尉の目をまっすぐに見据えて頷いた。
「はい」
「でも、もうUAFにはアクロバット部隊――スカイ・ドルフィンズは存在しないんだよ。あの事故と、翌年に編成されたブルー・フェアリーの存在を契機に解散されてしまったんだから」
「確かに、スカイ・ドルフィンズはもうありません。けれど、ブルー・フェアリーがあります。D‐3があります」
「ぼくにD‐3を飛ばせと?」
「はい。もし、それが可能なら」
「困ったね。ぼくはもう、自分ではダルフィムを飛ばさないことにしてるんだ」
森岡中尉の答えは、マキナには予想できていたのだろう。その言葉を聞いても、意外に彼女は引き下がらなかった。
「一度だけでいいんです。たった一度だけで」
「マキナ」中尉は心底困ったように、眉をひそめる。
「ぼくがどうしてダルフィムに乗らなくなったのか、君が一番よく知っているはずだよ」
マキナは俯いて、彼の言葉を聞いていた。膝の上で握り締められたその手が、白く血の気を失っている。やがて、ようやくといった様子で搾り出されたその言葉は、彼女らしくなく、震えていた。
「はい。知っています。だけど――」
最後まで言い切ることができずに、彼女は口を噤んでしまう。懸命に息を整え、歯を食いしばって、マキナは続けた。
「だけど、それでもわたしは見たいんです。父から直接に技術指導を受けた中尉の演技が見たいんです。わたしは、父の曲技は、ほとんど覚えていません。録画された映像の中のものしか知らないんです。だから、一度、たった一度でいいから、お願いします、中尉」
「マキナ――」
驚いたように漏らした森岡中尉の言葉で、マキナは我に返った。
頬を伝う、あたたかい感触。そのとき初めてマキナは、自分が涙を流していたことを知った。
「す、すみません」
狼狽したマキナは、反射的に立ち上がり、ドアへ向けて駆け出す。
しかし、それは寸前で阻まれた。ノブに手を掛けようとした瞬間に、肩越しに伸ばされた森岡中尉の二本の長い腕が、ドアを叩きつけるように押さえ込む。両腕の囲いの中で、マキナが小さく息を飲むのがわかった。
「話は途中だ。逃げるな、マキナ」
「――中尉」
胸の前で両手をかき合わせていたマキナの肩が、かすかに強張った。
そんな彼女を見下ろしながら、なぜか自分の胸の内に、怒りにも似た奇妙な感情がふつふつと湧いてくるのを森岡中尉は感じていた。
「君は、ぼくに父親を重ねて見ているのか」
「――そんな、つもりはありません」
「なら、ぼくの演技を見ても君の慰めにはならないだろう」
「そんなことはありません。そんなことは、ない」
背を向けたまま、マキナはふるふると首を振った。その拍子に零れ落ちた涙が、銀色の雫となって蛍光灯の光を弾く。
「父は父、中尉は中尉です」
マキナはそっと体を回転させて、森岡中尉に向き直る。
見上げてくる黒い瞳は濡れてはいたが、そこには一点の翳りもない。
黒い鏡のようなそこに映る自分の顔が、これ以上ないほどに不安げなことに中尉は気付く。
「あの日、まだわたしが小さくて、飛行機の乗り方なんてもちろん知らなかった頃、中尉と話すことが楽しみで、わたしは父の後について基地に遊びに行きました。中尉がやさしく話してくださる知識は、わたしにとってどれもがきらきら光って聞こえました。おかしな話かもしれませんが、本当にきらきらして聞こえたんです。だからわたしは思いました。いつかきっと、自分も飛行機を操縦できるようになろう。誰よりも上手に飛べるようになろう。そして、それを中尉と父に見てもらうんだ、って思ったんです」
マキナの瞳は、その言葉通り輝いていた。
「小さい頃のわたしにとって、軍人だった父は、少し遠い存在でした。いつも任務で家を留守にしがちで、しかも危険と隣り合わせ。母はそんな父を誇りに思いながらも心配し、心配しすぎて疲れているようでもありました。そんな母と二人の家はいつも少し気詰まりでしたが、他に頼る人もいないわたしにとって、たまに帰ってくる父が連れて行ってくれる基地で会える中尉の存在は、とても大きなものだったのです。きっと、中尉はわたしのことをそんな風に見たことは、なかったと思いますが」
マキナの言葉は森岡中尉の胸を打った。
その刺激が呼び水となったように、正体のわからない感情の奔流が、普段はけっして覗くことのない胸の奥からどっと流れ出す。一度溢れてしまったそれは、最早中尉自身にも止めようがなかった。
「君は、ぼくを恨んではいないのか」
「恨む? どうしてですか?」
「君の父が亡くなったのは、ぼくのせいだから」
「いいえ、それは違います」
マキナは首をふるふると振る。
「父が死んだのは事故です。父も中尉を恨んでなんかいないはずです。空へ上がることを運命付けられた者は、常に危険と背中合わせです。それを知っていながら、飛ばずにはいられない。だから、運命の女神に命の糸を断ち切られるのが空を飛んでいるときなら、それは本望だと皆思うはず。わたしが父の立場だったとしても、中尉を恨んだりなんかしません。それどころか、中尉が無事でよかったと、心から喜んだに違いないです」
「マキナ……」
森岡中尉は、マキナの華奢な肩をそっと抱き寄せた。マキナは驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに肩の力を抜いて、中尉の胸にことりと頭を預けてくる。触れ合った箇所から、布越しに伝わってくる彼女の涙の温かさ。
マキナが言ったことは、もしかしたら自分が一番欲しかった言葉なのかもしれないと、中尉は思った。少しでも気を抜いたら、自分まで涙がこぼれてしまいそうだった。自分の声が、どうしようもなく震えるのがわかる。
「ずっと、悔やんでいた。君の父を奪ったのはぼくなんだって。それどころか、君に飛行機を教え、結果的に戦いの空に導いてしまったのもぼくなんだとも。きっと、鷹羽大尉も君もそんなぼくを心底恨んでいるだろう、そう思っていた」
「いいえ、中尉」
マキナは腕の中から見上げてくる。
「中尉が導いてくれなかったら、わたしは空の素晴らしさに気づくことはなかった。そして、父との絆も、今ほど深いものにはならなかったと思います。大変な仕事だとは思っていても、今ほど身近に父の存在を感じられるようにはならなかったと思うんです。そしてきっとわたしは、何も夢中になれるものを見つけられないまま、日本に残って平凡だけれど鬱屈した一生を送ったでしょう。パパの言うとおりに就職し、結婚して、そして死んだんだろうと思います。でもそれは、わたしが望む生き方じゃない。人間は一度しか生きられない。だから、自分の心が望むものに従って生きたいんです。それは大人だって子どもだって同じでしょう?」
「……そうだね。けれどマキナ、平凡な人生こそ、本当の幸せなんだとも言えるんだ。それを捨ててしまって、後悔しないなんて言いきれないんだよ?」
「確かに、後悔するかもしれませんね。先のことは誰にもわからないから」
マキナはくすりと笑う。そうしている彼女は、いつもよりずっとおとなびて見えた。
「けれど中尉、わたしはやらないで後悔したくないんです。自分に嘘をついたことで、後悔したくない。だから――一度だけでもいいから、中尉の飛ぶ姿が見たいんです。はじめは、どうしてこんなにも見たいのかわからなかった。でも、今ならその理由がなんとなくわかります。こうして中尉と話しているうちに、わかってきたんです」
「理由?」
思わず森岡中尉は首を傾げる。その声音が少年のようにあどけないものだったから、マキナはつい小さく吹き出した。
「はい。自分は父のようなパイロットになりたいんだ、とずっと思っていました。でもそれはたぶん、ちょっと違ったんです」
「どんなふうに違っていたのか――、訊いてもいいかな」
マキナは頷く。そして続けた。
「わたしは父が羨ましかったんです。いつも中尉と一緒にいて、一緒に飛べる、そんな父が」
それ以上言わせまいとするかのように、森岡中尉はマキナを抱く腕にそっと力をこめる。
マキナはわずかに驚いたように身じろぎしたが、抗いはしなかった。
彼女の柔らかな黒髪からは、太陽と潮風、そして密やかな決意の香りがした。
*
新型アステロイド、通称AT‐5の稼動実験は奇しくもサミット開催と同日に行われた。
まだ陽も上りきらぬうちにフロリダ沖に浮かぶコメット島から搬出されたAT‐5は、アメリカ海軍空母アフェリオンに搭載され、大西洋へと移動した。
軍事衛星エルビスとのダイレクト・データ・リンクにより、攻撃目標と自らの位置を判断するアステロイドだが、今回は大西洋上に浮かぶ約一メートル四方の、金属性のダミーがターゲットとして設定されていた。旧バージョンであるAT‐4と新型のAT‐5との違いは、主にその搭載プログラムの高性能化にある。より小さく、かつ高速で移動する標的でも高精度で攻撃できるようになっているのだ。
技術部門のニューマン少佐とベケット中尉、そして他にも多数の技術スタッフが見守る中、一機のAT‐5が空母アフェリオンより発射される。
アステロイドは澄んだ空に初期加速用ブースターから赤い炎の尾を長く引きながら、高速で上昇を続ける。そして一定の高度と速度に達したところで、ブースターを切り離し、サスティナーでの巡航に移った。
ここまでは全て想定どおりだ。ニューマン少佐は、アフェリオン艦上の司令室から、エルビスとAT‐5間のデータのやり取りを大型スクリーンでモニタしながら頷く。
想定どおりなら、あと一分程度で大気圏に再突入し、サスティナーから切り離された再突入体が標的に突っ込み、爆発するはずだ。それを確認次第、二機目を射出する予定になっていた。
だが、ブースターが切り離されたまさにその瞬間、異変に気付いたのはベケット中尉だった。
「何だ、これは」
「どうした?」隣にいたベケット中尉の呟きに、ニューマン少佐は眉をひそめる。
「エルビスが、想定外の命令をAT‐5に送っています」
「何だって!?」思わず少佐は声を荒げた。
反射的にスクリーンを見上げるが、情報が撹乱されているのか、表示が乱れている。
「いったい何が起こっている、中尉。想定外の命令とは何だ」
「原因はわかりません。エルビスの暴走かも――AT‐5‐Ⅰ、ほぼ一八〇度進路を変えました」
「標的はどこになっている」
「今呼び出しています――出ました!」
コンソールを操作していたベケット中尉が声を上げる。
それは当初の大西洋上のダミーではなかった。
――UAF 7thAirWing 35th Squadron – 5
スクリーンに浮かぶ、無機質な文字の羅列。それを見た誰もが、戦慄を覚える。
軍事衛星エルビスはこう告げていたのだ。
アステロイド――AT‐5の標的は、その日、日本でのリモート・ショーに向けて既にIDAを飛び立っていた、連合空軍第七航空団臨時第三五飛行隊、つまりブルー・フェアリーの五番機、アトロポスなのだと。
その知らせは、メンバーたちそれぞれを乗せて飛ぶ五機のD‐3に追随して飛ぶ輸送機に乗っていた森岡中尉にも、即座にもたらされた。
「今からエルビスが送ってきたデータをそちらにも転送する。だがのんびりしている時間はない。あと十分程度でアステロイドはそちらに追いつくぞ。五番機に指示して緊急回避行動に入れ。むろん、君たちを含む他の機もだ」
「なぜアトロポスなんです、ニューマン少佐! 何かの間違いではありませんか?」
「こちらもそう思いたいが、あいにく真実だ、中尉。原因の究明は後回しにしろ。今は一秒でも惜しい」
無線を通じて聞こえてくる、ニューマン少佐の言葉は淡々としていた。森岡中尉は血が滲みそうなほどに唇を噛む。いったい何が起こっているのか。それとも起ころうとしているのか。
混乱の渦に突き落とされながらも、森岡中尉は輸送機のパイロットにこのままの進路で飛び続けるよう指示し、ブルー・フェアリーのメンバー五機への通信回線を開いた。
「こちら森岡中尉。これから私が言うことをよく聞け。これは訓練じゃない。ましてや冗談でもない。全て事実であり、真実だ。わかったか?」
「了解」
メンバーは中尉の突然の通信に驚きを感じたようではあったが、それぞれ持ち前のプロフェッショナル精神を発揮して、全員からきびきびと応答が返ってくる。
それを頼もしく思いながら、中尉はヘッドセットに向かって続けた。
「さきほど、フロリダ沖で実験中の兵器、アステロイドが暴走した。空母アフェリオン上から技術部門のニューマン少佐らが自爆指令を送っているが、それも受け付けない状態だ。おそらく軍事衛星エルビスに何者かが介入して、アステロイドに対する指令の上位権限を奪っているんだろうというのがUAF技術部門の見解だ。アステロイドはこちらに向かっている。このままここでぼんやりしていては、あと十分以内に我々は撃墜される。よってこれより我々は全速で緊急回避行動に入る。サミット会場付近での無用な混乱を避けるためにも、この空域をただちに全速で離脱せよ。離脱後は各自、厚樹基地を目指せ。おって指示があるまで、厚樹基地で待機せよ、以上」
「こちらラケシス。いったいどういうことですか?」
案の定、真っ先に飛んできたのはエルフリーデの甲高い声だ。
「意味がわからないわ、中尉! ちゃんと説明して!」
「落ち着け、エリー。今は時間がない。命令に従え」
「これが落ち着いていられますか!」
「こちらメルセデス。中尉の言うとおりよ、エリー。今は黙りなさい」
途中からぴしゃりとイレインが割って入る。それを助け舟に、森岡中尉は続けた。
「暴走したアステロイドは、ニューマン大尉らによる計算によると、あと十分以内にこちらの背中に張りついてくる。だが、こちらは全員がほとんど丸腰同然だ。対抗できる火器は持たない。だから、今できることはただ一つ。ただちにこの空域から最大推力で離脱することだけだ」
「こちらアトロポス」
森岡中尉が言い終わるのを待っていたように、静かな声が割って入る。
「なんだ、アトロポス。今は忙しい、わかっているな?」
「中尉、お願いがあります。アステロイドへの攻撃許可をください」
「な――」
マキナが放ったその一言は、森岡中尉のみならず、メンバー全員を震撼させるものだった。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ、お前も今すぐにこの空域を離脱しろ。これは命令だ」
しかしマキナの反応は、冷静そのものだった。
「中尉、アステロイドの狙いはわたしです。いえ、正確にはわたしを乗せた、このアトロポスです。違いますか」
「それは――」即答できず、中尉は言葉に詰まる。
確かに、ニューマン少佐が告げてきた情報はそのとおりだった。彼からこの輸送機の制御コンピュータへ転送されてきた情報も然り。だが、それをどうして彼女が知っているのか。
森岡中尉は眉間に皺を寄せた。つい語気が荒くなる。
「いったい何を考えている、マキナ。お前は何を知っていて、何を隠している?」
「それは、今は言えません。時間がない。お願いです、中尉」
「これはもう曲技じゃない。戦闘だ。実戦なんだぞ」
「わかっています」
マキナはヘルメットバイザを降ろす。そして、フライトグローブに包まれた手に力を込めた。
「アステロイドはわたしが撃墜します。D‐3に搭載されているバルカン砲の使用許可をください」
D‐3は曲技専用に改良された機体だ。だから通常の戦闘に投入される機体とは異なり、ほとんど武装をしていない。唯一バラスト代わりに残されたバルカン砲があるのみだ。
マキナはそれを使うと言っているのだ。
「無理だ。許可できない」
森岡中尉は眉をひそめる。相手は高性能のミサイルだ。機銃で対抗できる兵器ではない。
それを、元エースパイロットである彼女が知らないはずはないだろうに。今は逃げることが最善の戦法であり、生き残るための唯一の手段なのだ。
「無理かどうかはやってみなければわかりません。中尉、許可を」
「無理だと言っている。お前が言っていることは、銃弾をカタパルト(弩)で撃ち落すようなものだ」
「もちろん回避行動には入ります。しかしアステロイドだって燃料には限りがあるでしょう。フロリダの実験場からここまで飛んでくるのなら、そろそろ推力が弱まる頃。そのタイミングをはかって全力で叩きます。ここで逃げればわたしたちは助かっても、再突入体がどこへ落ちるかまではわかりません。最悪、東京の街を直撃します」
「だが……」森岡中尉は唇を噛みしめる。
「いいではないか、森岡中尉――では、私が許可しよう」
突然回線に割り込んできたその声に、森岡中尉は目を見開き、思わず声を上げていた。
「ヴァーノン大佐!」
「急遽、こちらにもニューマン少佐から連絡が入ったのでな。悪いが回線に割り込ませてもらった。鷹羽少尉の言うことは最もだ。彼女に任せてみようではないか、中尉」
森岡中尉は歯軋りした。
「無理です。危険過ぎます! これは訓練じゃない!」
「そんなことはわかっている。だが時間がない。それに迎撃しなければ、どちらにしろやられるのだ。兵器としての彼女の性能に賭けてみようではないか」
「それは……、命令ですか」
「もちろん」
――この、狸め!
そう毒づきたい気持ちを必死に抑えて、森岡中尉はぎりぎりとヘッドセットを握り締めた。
「アトロポス。ウェポンズ・フリー(自己の判断で兵装を使用して良いの意)だ。これよりアステロイドへの攻撃を許可する」
「ありがとうございます。感謝します」
「ただし条件がある」
「はい?」
思わぬ中尉の言葉に、マキナは軽い驚きを覚えたようで、その声がわずかに裏返る。
森岡中尉は大きく息を吸った。そして、穏やかに微笑む。それが彼女には見えないとわかっていても。
森岡中尉の胸中に、マキナを見守り、マキナに全てを託して墜ちていった、都築中尉の声がよみがえる。あのときの彼も、きっとこんな心境だったのではないか。今なら何となく理解できそうな気がした。
けれど、自分は都築中尉とは違うのだ。自分は彼女に全てを託して、孤独な空に放り出したりはしない。彼女を独りにはしない。
中尉はゆっくりと、一言一言、噛みしめるように呼びかける。
「マキナ、無事に戻ってこい。必ず生き延びろ。それが条件だ」
「……中尉」
「君がぼくのところに無事帰ってきたら、君が見たがっていたものを、一番に見せてやるよ。いいな?」
「見たがっていた、もの?」
咄嗟には、森岡中尉が何を言い出したのか、マキナにはわからなかった。
だがすぐにその言葉の指す意味に気付いて、思わず声を上げそうになる。
しかしマキナは唇を噛み締め、それをこらえて、頷く。今は感傷的になっているときではない。これは自分が招いた戦いなのだ。
マキナはメロー元少尉のことを、結局何一つ森岡中尉には話さなかった。ヴァーノン大佐にも。正確には、話せなかったのだ。メロー元少尉の言うことを全面的に信用していたわけではない、というのがその主な理由だが、たとえそれが偽りの情報であったとしても、彼らに――せめてどちらか一人でも打ち明けていれば、状況はだいぶ変わっていたのだろうとマキナは思う。少なくとも、このような事態になることは避けられたはずだ。
自分の危機管理能力の不足を、マキナはこのとき後悔していた。普段、マキナはほとんど後悔というものをしない。あのときああすればよかったな、もっと違う戦法があったのではないか、という具合に過去を振り返ることはあっても、それは反省または反芻であって、後悔ではない。
後悔とは、悔いても仕方のないこと、取り返しようのないことに、つらつらと思い巡らせることだ。そこには何の生産性もない。言ってしまえば、精神的な自慰なのだ。
たった一つしかない自分の命を抱えて空に昇るというその職務の性質上、飛行機乗りには後ろ向きな生き方をする人間は少ない。いつ墜ちて死ぬかもしれない身で、そんなことに思い巡らせて時間を無駄にするくらいなら、好きに飛んでいた方がいいからだ。
だから自然と、飛行機乗りには多かれ少なかれ楽観的な人間が多くなる。飛んでいる間は、何かを考えることはできない。考える前に撃つ、考える前に動く。そうでなければ墜とされる。そうした世界で生きる人間が、くよくよ考え事などできるわけがない。マキナも自分の中にそうした資質を少なからず感じていた。
だが、おそらく自分が彼らのいずれにも相談しなかった真の理由はそこではないだろう、そうマキナ自身はうすうす気付いてもいた。心のどこかで、メロー元少尉に同調している部分がないわけではなかったのだ。口ではあなたとは違う、と散々言いながら、心のどこかでは彼に共感していたのだ。
だから彼を告発する気にはなれず、かと言ってその手を取るわけにもいかず、結果として放置したことの結末がこれだ。自分が兵器であること、器械であることを自覚しているつもりだった。けれど実際は、そうではなかったのかもしれない。その意味では、おそらくメロー元少尉の方が、その思考回路も含めて、自分という生きものを、よほど正確に把握していたのだろう。
これは自分のそうした甘さが招いた事態だ。だから自分には、ブルー・フェアリーのメンバーや森岡中尉、そして中尉の乗る機のクルー、更には落下するアステロイドにより被害を受けるかもしれない東京の住人を守る責任がある。
マキナはけれど、絶望はしていなかった。
色つきのヘルメットバイザ越しに見る空。懐かしい感覚だ。
こんなふうに、すぐそこに自分の命を奪おうと狙うものの存在を感じることは、ほんとうに懐かしい。
また自分は失敗して、墜ちるのではないか。そんな不安がないわけではない。
獲物を捕らえるために飛べなくなった鷹は、二度と空には戻れないのではないか、そう誰もが囁いた。
しかし、自分は戻ってみせる。戻らなければならないのだ。
そんな自分の思いを、きっと森岡中尉はわかってくれるだろう。
多くは語らずとも、きっとわかってくれる。
マキナはそう信じて、顔を上げた。
「――了解」マキナは答える。はっきりと。力強い口調で。
「よし」森岡中尉は頷いた。
しかし、納得していなかった人間が、あと一人だけ残っていた。
「ちょっと待って。何二人して勝手に決めてるのよ。あんた一人に抜け駆けはさせないわ」
「エリー?」マキナの驚いた声が上がる。
だがさも当然という様子で、エルフリーデは言い放つ。
「私も行くわ」
「駄目よ! 危険だわ!」
「今さら何言ってるのよ。こうなった以上、どのみち危険なのよ。あんた以外もね。あんたがいったい何を知ってるのかわからないけど、そんなことをうだうだ言い合っている時間はないんでしょ」
「駄目だってば、エリー。止めてください、中尉!」
頑として譲る様子のないエルフリーデに音を上げて、ついにマキナは頼みの綱の森岡中尉にすがる。
森岡中尉は深くなる一方の眉間の皺に手を当てながら、肺の空気を絞るような溜息を漏らした。重なるように、森岡中尉にも負けないほどのマキナの盛大なためいき。
それを合図にしたかのように、他の三機はそれぞれ散開し、この空域を離脱していく。エルフリーデ以外のメンバーは、それ以上何も言わなかった。
おそらく彼女たちとて、訊きたいことはそれこそ星の数ほどあっただろう。だが、今はそんな個人的好奇心を優先してよい場合ではない。的確でドライ、冷徹なまでの彼女たちの状況判断能力をマキナは好ましく思った。ある意味では、彼女たちブルー・フェアリーのメンバーはマキナがこれまで接してきたUAFの正規軍人よりも、より軍人らしいと言えた。
遠ざかってゆく白銀の機体たちを見遣りながら、マキナはちらりと腕時計に目線を走らせる。最初に森岡中尉から通信が入ってからここまで、約六分程度経過していた。あと数十秒もすれば、輸送機とD‐3のレーダーでもアステロイドの機影を捕捉できるだろう。到達まで、もう数分しか時間がない。森岡中尉は覚悟を決めた。
「もういい、二人とも。時間の無駄だ。いいか、それでは作戦を伝える。一度しか言わないから、よく聞け」
「作戦?」
「実は君たちと話している最中にニューマン少佐から通信があったのだが、混乱を招くだけだと思い、言わなかったことがある。しかし、二人にその覚悟があるのなら、話が別だ。ここから南南東へ二十キロメートルの沖合いに、米軍籍の空母ペリフェリオンが停泊している。ペリフェリオンへ向かってアステロイドを誘導することが可能なら、ペリフェリオンに搭載されている迎撃ミサイルでの撃墜を試みる用意があるそうだ」
「迎撃ミサイル?」
声を上げたのはマキナだ。
「しかし、それでは空母にも危険が及びます」
「仕方があるまい。アステロイドはUAFと米軍が共で開発した兵器だ。責任の一翼を担ってくれる、ということだろう」
「いい覚悟だわ。乗ってあげようじゃないの」
エルフリーデが声を上げる。マキナも決意を固めた。
「――了解しました」
「では、ただちに作戦行動に移れ。健闘を祈る」
森岡中尉の言葉を最後に、残された二機のD‐3は大きく旋回し、南南東へ進路を変える。森岡中尉は最大推力で現空域を離脱後、大回りして距離を保ちながら、彼らの後を追って空母ペリフェリオンへ向かうよう、パイロットに告げた。
「アトロポス、先に言っておくけど」
エルフリーデからふいに通信が入る。アフターバーナーに点火する寸前だったマキナは目を瞬いた。
「なに?」
「もし、私に何かあっても、構わないであんたは行きなさいよね。こっちを気にかけて、みすみす墜とされたりしたら、一生笑いものにしてやるから」
「エリー」
「まあもっとも、その逆もあるけど。あんたに何かがあっても、遠慮しないで置いていくわよ。いいわね?」
「うん」
「それに、言っておくけど、これは貸しや借りじゃないから。あたしはあんたを唯一のライバルだと思ってる。そのあんたを、こんなつまらないアクシデントで失いたくないだけよ。だから、これはあたしが趣味でやっていることなの。わかったわね?」
「……うん。うん、わかった」
マキナは力強く頷いた。そんな彼女の反応を見届けたように、ラケシスはアフターバーナーに点火。青い空に、エンジンノズルから赤い炎の尾を引いて、南南東へと飛び去ってゆく。
「さあ、行くよ。アトロポス」
マキナは低く、ひとりごとのように呟いた。
磨き上げられたアトロポスのHUD。そこに移る自分の目は、らんらんと輝いている。こんな状況だというのに。
いいかげん、自分も病気だな。そんなふうにひとりごちて、マキナは操縦桿を握った。
マスターアーム・スイッチをセーフモードからアームモードへ。原則、アクロバット機として開発されたD‐3のマスターアーム・スイッチがアームモードに入れられることは、そもそもほとんど想定されていない。無論、機銃もきちんと点検整備されてはいるが、果たしてそれが実戦でどの程度機能するかは、マキナ自身にもわからない。
スロットルをMAXまで一気に押し上げる。アフターバーナーに点火。エンジンノズルが火を吹いた。ぐん、と背中をシートに押さえつけられるように強烈なGを感じながら、マキナは機銃の発射ボタンを意識する。
チャンスは一瞬。たった一瞬でしかないが、その一瞬が勝敗を分ける。生死を決める。
それだけあれば充分だ、とマキナは小さく呟いた。
*
「なんだ、これは」
『それ』に気が付いて、最初に声を上げたのは、森岡中尉だった。
輸送機の制御コンピュータ画面上に、送信者不明の文章が伝送されてくる。
――My mother has killed me.
――My father is eating me.
――My brothers and sisters sit under the table.
――Picking up bury them under the cold marble stones.
「誰だ、こんなものを送ってきたのは?」森岡中尉は眉をひそめる。
「だいたい、何なんだこれは」
「マザー・グースのようですね」
横からディスプレイを覗き込んでいた、イギリス人パイロットの少尉が呟く。
「マザー・グースだって?」
「ええ。小さい頃、マザー・グースが好きだったのでよく覚えています。これはその中でもMy mother has killed me――つまり『母がぼくを殺したんだ』って、まあ物騒な部類の歌ですよ。中尉、マザー・グースはご存知ですか」
「いいや、ほとんど知らない」
「ごくざっくりと言ってしまえば、マザー・グースはイギリスの代表的な童謡の総称です。童謡とは言っても、この歌のように殺伐とした歌詞のものも多いんですよ。子どもたちが歌っていくうちに歌詞が変わっていって、どんどん物騒になったものもあります。歌詞は変わってないのに、込められた意味だけがどんどん一人歩きして変わっていったものもありますよ。もっとも、そういったことはマザー・グースに限ったことではありませんがね。日本の童謡だって、そうでしょう? 何でしたっけ、あれ、カゴメカゴメでしたっけ? それとも、アカイクツだったかな」パイロットは後半、ほどんとひとりごとのように呟いた。
そう言われてみると、伝送されてきた文章は確かに比較的簡単な英文だ。
訳すと、こうだ。
――母がぼくを殺し
――父がぼくを食べた
――きょうだいたちはテーブルの下に隠れていて
――ぼくの骨を拾って冷たい石の下に埋めたんだ
「この歌には昔から色々な解釈がありますが、大人たちの都合で詐取され虐待される子どもの悲しさを歌ったものだという説がポピュラーですね。似たようなエピソードのグリム童話もあります」
「それはどんな話だ?」
「『ねずの木の話』ってやつです。実の父親と継母、そして継母の娘と暮らす男の子が、ある日、彼を憎む継母に殺されてしまうんです。しかし継母は父親に男の子の肉を食べさせて証拠の隠滅をはかるんです。幼く無知な妹は、兄の死にも、家族にいったい何が起こっているのかも気付かない。やがて鳥に生まれ変わった男の子が、継母の頭上に石臼を落として復讐するというお話です。ストレートに言ってしまうとこういう物語ですが、つまり不遇な子どもによる、親への復讐劇ですよね」
言い終わると、パイロットは視線を前方に戻す。
おそらく、大西洋上に浮かぶ空母アフェリオンのニューマン少佐とベケット少尉の元にも同様の文章が届いているだろうとふんだ森岡中尉は、ヘッドセットに声を張り上げた。
「ベケット少尉、これはどこから送られてきた! トレースできないのか」
ベケット少尉の回答は速やかだった。
「可能だとは思いますが……これはいったい」
「説明は後だ。やってくれ」
確信はなかったが、森岡中尉の勘は当たっていた。
ベケット少尉の反応からして、間違いなくあちらでも同様の事象が起こっている。
「位置、出ました。ですが、これは――」
「どこだ!」
「IDA……アカデミー構内から発信されています」
「何だと?」
「発信元はIDA、それも航空部の構内からです」
「航空部? それは本当か?」森岡中尉は目を見開く。
「データ上は、本当です。ここからでは、位置情報が撹乱されているのはどうかまではわかりませんが」
ベケット少尉から伝送されてきた当該データの情報をよく見ようと、森岡中尉が制御コンピュータのディスプレイを覗き込んだとき、その声はふいに回線に割り込んできた。
「――やあ、俺のメッセージは受け取ってくれたかな。森岡中尉?」
森岡中尉はその声に、どこか聞き覚えがあるような感覚にとらわれた。
そして咄嗟に制御コンピュータのディスプレイを見遣る。
通信回線は大西洋上に浮かぶ航空母艦アフェリオン、そしてアリゾナのヴァーノン大佐のオフィスとも繋がったままだが、赤いランプが点っている。ランプが点いているのは回線が開かれたままだという証、そしてそれが赤なのは、今こうして話しているのは彼らのいずれでもない、という証だ。
最後に残ったたった一つのランプ、グリーンのそれ。回線に割り込んできたこの声の主は、これら関係者のいずれでもない、新たな第三者だということだ。
ヘッドセットを握り締めると、森岡中尉は慎重に言葉を選びながら、口を開く。
「――君は、誰だ?」
「誰だ、ときたか。俺は一度あんたに会ってるぜ。もっとも、あんたのほうは俺を覚えていないかもしれないがな」
「会っている?」
森岡中尉は眉をひそめる。この男は今、『一度』会っている、と言った。となると、この男と自分は少なくとも頻繁に顔を合わせるような間柄でなかったということだ。
「会っている、とはどういうことだ。いつ、どこで会ったというんだ」
「もう忘れたのかい? 俺を冷たく追い返したのはあんただろうに」
「追い返した?」
森岡中尉は再び眉をひそめた。口調はあくまで軽いが、この男性は少なくとも自分に好意を抱いてはいないらしい。
「心外な言い方だな。それではぼくが悪いみたいだ。君は何か、追い返されるような真似をしたのではないか?」
「まあ、そう言われれば否定はできないけれどね」
そう言って声の主はくすくすと笑う。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。森岡中尉は腕時計にさっと目を遣る。時間がない。輸送機のレーダーはAT‐5‐Ⅰの機影をとらえていた。あと数分以内に、目標に到達する。
「あの歌……マザー・グースを送ってきたのは、君だな」
「ああ、そうとも。よくわかったね」
声の主はいかにもあっさりと、それを認めた。
「あれは何だ? ゲームでもしている気分か? いいご身分だな。何が目的だ。狙いはアトロポスか」
「見かけによらず、せっかちなんだな、あんた」
「人を見かけでは判断しないことだ」
「もっともだ。正論だな。だが、俺も正論は嫌いじゃない。あれはジョークだよ。英国紳士としての軽いジョークさ。ジョークはスマートに楽しむのが紳士というものだ。あんたは英国紳士じゃないかもしれないが、日本の武士道も似たようなものじゃないか?」
森岡中尉は嘆息する。これは罠だ。彼の挑発に乗ってはならない。
「君と無駄なおしゃべりをするつもりはない。もしこの一連の騒動が君の仕業なら、ただちに止めることだ。時間が経てば経つほど君の罪は重くなる。UAFは甘くはないぞ」
「俺に脅迫は通用しない」
「では、何が目的だ。ぼくに話があったから、こうして通信してきたのではないのか。君にぼくと交渉する意思がないのなら、強制的に通信を切るぞ」
「あんたにそれはできない。あんたはこうして時間稼ぎをして、その間にUAFに俺の居場所を探らせているんだろう? そのあんたが、通信を切れるはずがない」
「では、そこまでわかっていながら、君が話し続ける目的は何だ?」
森岡中尉はそこまで言って、ふと思いついたように顎に手を当てた。
「そうか、わかったぞ。君はぼくと話したいのではない。ぼくと話すことにかこつけて、別の目的があって接触してきた、そうだな?」
「さすがだな、森岡中尉」
声の主がふ、と小さく笑った気配。
だが、口を開きかけた森岡中尉の耳へ次に飛び込んできたのは、緊迫したベケット少尉の声だった。
「森岡中尉!」
「どうした、ベケット少尉」
「AT‐5‐Ⅰ、ミッド・コース・フェイズに入りました。サスティナーを切り離します。大気圏再突入!」
機内に、一気に緊張が高まる。レーダーに映るアステロイドの影は赤く表示されている。
まさに、天から飛来する隕石のようだ。
しかしアステロイド――AT‐5――は、大多数の隕石がそうであるように、大気圏で燃え尽きてしまうことはない。それどころか、己の意思により軌道を修正しながら、高速で標的に向かって突き進むのだ。
これまで、実戦でアステロイドが使用されたことはない。それを、奇しくも曲技部隊であるブルー・フェアリーが味わうことになるなどと、この兵器を開発した技術部門も予想などできなかったに違いない。
*
いよいよだ。無意識のうちに、マキナは唇を噛みしめる。
フライトグローブの中が、汗でしっとりと湿ってくるのがわかった。
D‐3、アトロポスのレーダーも、先程からアステロイドの機影をとらえていた。
不気味に赤く輝く光点。それがどんどん近付いてくる。今やキャノピィ越しにでも、遥か上空を突き進んでくる明るい点の存在が、マキナには見えた。何て明るさ、何て速さだろう。
この戦いは――もうこれは戦いなんて呼ぶことすらできないのかもしれないが――これまで自分が関わってきた、どんな戦いとも違う。
自分はいったい、何と戦ってきたんだろう。そして今、何と戦っているのか。
すぐそこに命の危険が迫っているのに、そんな感傷的な気分になるのは初めてだった。
感傷的? いや、違うな。そう即座にマキナは自分の意識を訂正する。
――あんたに選択肢はない――
あのとき、メロー元少尉はそう言って笑った。だが、彼にとって意外だったのは、そのときの自分の反応だっただろう、とマキナはあの連絡船オービター上での会話を思い出す。
「選択肢はない、ですって?」マキナは口元に笑みを浮かべた。
「選択肢は外から与えられるものじゃないわ。自分で作り出すものよ」
「それは苦し紛れな言い訳ではないかな」
「言い訳?」
マキナはいったんは立ち上がりかけた腰を再びベンチへと落ち着けた。強くまとわりついていた煙草の香りが、潮風によって洗い流されてゆく。それを心地よいと感じながら、その黒い目をわずかに細めた。
「言い訳すら、結局は自分で作り出すものよ。それがあなたにはわかっていない」
「言い訳を自分で作り出す? 哲学的だな」
「別に哲学的なんかじゃないわ。誰でも無意識にやっていることよ。結果として同じことだったとしても、本人が言い訳だと思えばそれは言い訳になる。けれど、それを自分で掴み取ったと思えば、それは選択したことになるの。わたしはこれまでずっと選択して生きてきた。それは誰にも否定させない。両親にも、ヴァーノン大佐にも、もちろんメロー少尉、あなたにも」
「なるほど、やはりあんたは面白い。面白いよ」
メロー元少尉は、くくっと声に出して笑った。
「さすがのヴァーノン大佐も、飼い猫のそんな心中まではコントロールできないだろうな」
「わたしは猫じゃない」
「冗談だよ」
「冗談は嫌い」
「そうか、こりゃ失敬した」
メロー元少尉はまた笑うと新しい煙草に火を点け、一人合点したように呟いた。
「そう言えば、昔誰かが言っていたな。子どもは親の期待を裏切って育つものだ、ってな。あんたはそれを知るのが早すぎたのかもしれないな。もしくは、もう少し馬鹿だったら、楽な生き方ができただろう。いや、そもそもそうだったら、あんたは今頃こんなところにはいないで、大人しく日本でジョシコーセーでもしていたかな」
「余計なお世話よ。あなたには関係ない」
マキナは苛々して嘆息すると、キャップを被る。そして今度こそ、これ以上話すことはないとでも言いたげに、メローとは目を合わさずに席を立った。その彼女の左手を、咄嗟に伸びてきた彼の腕が掴んで、ぐいと引き寄せる。
「ッ……」
布越しとはいえ、弾体片が体内に残る傷痕を無遠慮に掴まれる不快な感触に、マキナは思わず身をすくませた。メロー元少尉は空いている方の手でサングラスを外す。その碧色の目が、マキナをとらえた。
「鷹羽少尉、もう一度だけ言う。俺は本気だ」
「わたしも本気よ」
マキナは、その黒曜石でできた鏡のような冷えた目で、彼のそれを見据えた。
「わたしには飛ぶことしかできない。あなたの要求はわたしから翼を奪うことだわ。そんなこと、わたし自身が許さない」
「あんたは、そのせいで自分がどうなってもいいというのか? このままではあんたはいずれ、ヴァーノン大佐に殺される。間違いない」
「さっき言ったことを、もう忘れたの?」
マキナは少し表情を崩して微笑う。それが、彼女の本来の年齢からは不釣合いな妖艶さを漂わせていて、メローは知らず、息を飲んでいた。
「選択肢は外から与えられるものではなく、自分で作り出すものよ」
マキナは大きく息を吸い、そして吐く。吐息で酸素マスクがほんの少し、曇る。
――今ならわかる。あれがおそらくは緊急脱出の最後のチャンスだったのだ。
戦闘機からの緊急脱出の際には、パイロットの安全確保のために、爆薬が仕込まれたケーブルであるデトネーション・コード(導爆線)でキャノピィの窓面を粉砕し、射出座席ごとコックピットから脱出する。
だが自分は、自らの判断でそれをしなかった。脱出することは自分の身を守ることだが、それは即ち機体を捨てることでもある。今ここでそれをすれば、確かに自分は解放されるだろう。楽になるはずだ。それはわかっている。
しかしそれは同時に、今度こそ本当に翼を砕くことを意味していた。
戦うための翼だけでなく――ただ純粋に、飛ぶための翼まで。
マキナは顔を上げる。その黒曜石のように輝く瞳は、HUDに映し出された銀色の巨大な弾頭にひたと据えられていた。
――そんなことは、許さない。
「こちらラケシス。そろそろ来るわよ」エルフリーデの凛とした声で通信が入る。
「こちらアトロポス。わかってる」
「ペリフェリオンからのレーダー誘導に従って飛べばいいわ。あとはあっちがうまくやってくれる。何も心配ないわよ」
こんな状況だというのに、エルフリーデはいつもどおりに饒舌だった。彼女もおそらくは恐怖と必死に戦っているのだ。
「レーダー誘導に従って、ぎりぎりまで直進。その後ラケシスは三時方向、こちらは九時の方向へ旋回。いいね?」
きびきびとマキナは答える。そのいかにも軍人然とした硬質な響きに、エルフリーデは素直に頼もしさを覚えたのだろう。その声に力がこもる。
「オー・ケー。乗ってやろうじゃないの」
エルフリーデの応答を合図にしたように、マキナはラダーを左へMAXに踏み込みながら操縦桿を反対側へ倒す。強烈なサイドスリップだ。機体が分解しそうに軋み、悲鳴を上げる。
アトロポスは直進しながら大きく機体を横滑りさせた。
二機の機体が道を空けるように左右へ旋回したその間隙を縫うように、空母ペリフェリオンから射出された迎撃ミサイルが、白い焔の尾を引いて逆方向に飛び去る。
僅かの沈黙。そして、猛烈な衝撃と、爆風。
爆散したアステロイドの破片が、降り注ぐ雨のようにアトロポスとラケシスを襲った。
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