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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第1話 婚約破棄とクソ勇者
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カーライル男爵の息子であるツバサ・フリューゲルは数人の男女に囲まれていた。
「ジュリエッタ、こいつがカーライル男爵の息子か?」
バスターソードを背負った男が隣の女に訊いた。
その男は貴族のような豪奢な服を纏っているのだが、顔つきに品格がなく成金のどら息子にしか見えない。
「そうよガイルさま。この人がツバサ・フリューゲルですわ」
ジュリエッタと呼ばれた少女はノルトライン辺境伯の娘だ。
彼女は高価な臙脂《えんじ》色のローブを着ていて如何にも魔導師といった出で立ちだが、さすがに本物の貴族だけあり育ちの良さがうかがえる。
「自分が不世出の天才剣士といわれているものだから、その名声を傘にしてジュリエッタさまに婚約を迫ったのよ!」
いかにも嫌そうに吐き捨てたのは、豪商コンスティー商会会長の娘、イレーネだ。
イレーネは成金趣味の革鎧を身に着け、弓と矢筒を装備している。どことなくエルフを思わせる雰囲気がある少女だ。
そして、ガイルという男の後方では彼の従者たちがツバサを睨んでいる。
「それはいかんな~坊や。名声で女を手に入れようとするなんて」
ツバサの前に立つ男は、アルフェラッツ王国の勇者であるガイル・アロンソだ。
王国が異世界から召喚した勇者らしい。
ただこの男、悪い噂が後を絶たない。特に女癖が悪く、手当り次第手を付けるという噂だ。
ガイルは勇者パーティーを組んで魔王討伐のために訓練中だったはずなのになんで辺境の地であるノルトライン領にいるのだろうか……。
「僕は名声を傘にしてなんかいない! それにジュリエッタは婚約を喜んでくれたじゃないか!」
「私が喜ぶはずないでしょ! 貧乏貴族のくせに!」
イレーネがすごい剣幕でツバサを罵倒する。
ツバサの父親であるカーライル男爵は王国でも三本の指に入る剣豪で、本来ならば辺境の地で収まる剣士ではなかった。ここで辺境を帝国の手から守ることになったのは辺境伯との友誼のためである。
当然ながらカーライル男爵は貧乏貴族ではない。おそらく、イレーネは男爵だから貧乏だと決めつけているのだろう。それは辺境伯と資産を比べれば雲泥の差であるが、カーライル男爵はへたな子爵よりも収入を得ていて、貧乏貴族には当たらない。
「君たちに一体何があったんだ……」
一年前、ツバサが十五歳になったことを機にジュリエッタはツバサと婚約した。
ジュリエッタの父親のノルトライン辺境伯も祝福してくれたし、婚約披露パーティも開いてくれた。
そもそもツバサとの婚約を切望していたのはジュリエッタだし、友人のイレーネだって笑顔で祝福してくれた。
ツバサは彼女たちの態度が豹変した理由がわからなかったが、勇者ガイルの存在を訝しく思う。
――なんでこいつがしゃしゃり出てくるんだ?
忘れもしない一年前のことである。ノルトライン辺境伯はツバサに言った。
「ツバサ、娘はお転婆の上、十六歳なのに世間知らずだ。こんな娘だが幸せにしてほしい」
「はい、お任せくださいノルトライン卿。ジュリエッタさんと一緒にノルトライン領の繁栄に尽力いたします」
そして、イレーネの父親であるコンスティー会長はたいそう喜んでくれた。
「ジュリエッタさまとツバサさまが結婚してくれたらノルトライン領の基盤も盤石なものになります。後は私の我儘娘の嫁ぎ先が決まれば安心できるのですがな、ハッハッハッ」
「イレーネさんなら間違いなく良縁に巡り合えるはずです。心配いりませんよ」
ところがその幸せは長く続かなかった。
それは、彼女たちにノルトライン教会から神託が下ったからだ。
「ジュリエッタさまとイレーネさんの二人に御神託を賜った。勇者と伴に魔王を倒しなさい」
ノルトライン教会の司祭からたったそれだけが言い渡された。
ツバサは必死でノルトライン辺境伯とコンスティー会長に抗議したが、教会の御神託の前には為す術がなかった。
もちろん、父親のカーライル男爵も尽力してくれたのだが、王国を魔族の脅威から救うという大義名分の前には敢え無く撃沈した。
その時、ツバサは生まれて初めて挫折を味わった――
勇者パーティーに彼女たちを送り出してから、寂しさを紛らすためにツバサは必死で剣の修業をした。その甲斐あって、辺境で最強の剣士である父親のカーライル男爵に勝てるようになったのだ。もっとも、十対一の確率であるが……。
ツバサの強さには謎があった。それは父親の戦闘レベルが52なのに対して、ツバサの戦闘レベルは18だからだ。もちろん、戦闘レベルの差だけが勝負を決めるわけではない。相手の戦闘スタイルとの相性もあるし、戦闘に入る状況や環境にもよるだろう。
しかし、戦闘レベル18が52を破ることなど通常はあり得ないーー
そして今、ツバサと勇者カイルはこうして対峙している。
ガイルはツバサの胸ぐらを掴んでこう言った。
「もう二度と二人に近づくなよ。少しでも近づいたら殺すぞ!」
「お前は何を言ってるんだ!」
ツバサはガイルの手を思いっ切り振り払い、すぐに戦闘態勢をとった。
「あんたバカじゃないの? ガイルは勇者なのよ。あんたとは戦闘レベルが違いすぎるの。勝てるわけ無いでしょ!」
勇者ガイルの戦闘レベルは48に達する。
十六歳のツバサよりも二歳年上というだけなのに、圧倒的に身体能力に差があるのだ。
この世界では人間の戦闘力を示す数値として戦闘レベルが使われている。
戦闘レベルとは身体能力から算出される戦闘力の指標である。
ここでいう身体能力とは、体力・魔素保有量・魔力・力・速さなど、人間の基本性能を示す能力値のことだ。
つまり、人間の戦闘力は戦闘レベルである程度判断することができる。
例えば、普通の騎士で戦闘レベルは25ほどであり、最強の騎士や冒険者の中には100に達する者もいるといわれている。それは既に人間をやめているほどの強さである。
つまり、現在は戦闘レベルの差があり過ぎて、ツバサがガイルに勝てる見込みは皆無だ。
「先手必勝!」
いきなりガイルが翼に殴りかかった。
しかし、ツバサは難なくガイルの攻撃を避ける。
「あなたは本当に勇者なのか?!」
――この品格の無さ……。どうしてこんな男が勇者に選ばれたんだろう? いや、召喚されたんだっけ……。
そしてすかさずツバサも応戦する。
だがツバサの拳は空を切った。
「なんだそれ? 俺を殴ろうとでもしたのか? 遅すぎて欠伸が出るぜ」
しかしそれは、ツバサの布石だった。
すぐさま右手で同じ速さ同じ角度で殴りつけ、避けられることを前提に左手でガイルの腹を狙う。
「グッ!」
ツバサの強力なボディーブローがガイルの腹に食い込んだ。
ガイルは思わずしゃがみ込む。
――こんな簡単なコンビネーションに引っかかるなんて……。
おそらく、ガイルは魔獣との戦闘訓練ばかりで、対人戦闘の訓練を受けていないのだろう。
そしてツバサは蹴りを叩き込もうとした――
「か、体が動かない! なんだこれは!」
ツバサの体には魔力で具現化したロープが巻き付いていた。
「大人しくして貰いましょう」
どうやらジュリエッタが魔法でツバサを拘束したようだ。
「ジュリエッタ! 君はこいつの味方をするのか?」
「あたり前ですわ。私たちはガイルさんと魔王を討伐しなければなりませんの。あなたがいたら邪魔にしかなりませんのよ」
「僕が邪魔だって……」
パチーン! という派手な音が響いた。
イレーネが動けなくなったツバサに平手打ちを食らわしたのだ。
「死ねばいいのに! もう私たちの前に現れないで!」イレーネのテンションが異常に高い。
「ツバサさん、私たちの婚約は破棄させていただきますわ。私たちは勇者さまについていきます」
「婚約を破棄するなら、それなりの仁義があるだろう!」
貴族同士の婚姻は政治的な儀式であって、本人たちの意思など関係ない。それが貴族社会というものだ。
だが、稀にではあるが、当人同士が愛し合って婚姻することがある。
ツバサとジュリエッタの婚姻がまさしくそれに当たるはずだった。少なくとも、ツバサはそう思っていた……。
とはいえ、貴族同士の婚約を破棄をするならば、それなりの手順がある。それをしないのは、何かしらの不都合があるのだろう。
勇者ガイルが鬼の形相で立ち上がる。
「よくもやってくれたな。殺してやる!」
滅多打ちだった――
ガイルは仮にも勇者と言われた男だ。その男が動けない相手を殴る蹴るのやりたい放題。アルフェラッツ王国の人民がこれを見たらどう思うだろうか?
「赦さない! 絶対に赦さない!」
「ガイルさん、それ以上やったら本当に死んでしまいますわよ」
ジュリエッタは形だけガイルを制止した。さすがに元婚約者を殺してしまっては後味が悪いと思ったのだろう。
だがそれは遅かった。すでにツバサは気を失っている。
「別にいいんじゃない。誰も見てないし」
イレーネは臆面もなく言い放つ。
勇者の従者たちは三人の行動に引き気味だ。今まで彼らは魔獣相手の訓練しかしてこなかったので、このようなシーンを目撃することはなかったのだろう。
「いいことを思いついたぞ。ジュリエッタ、ここあるのは古代魔法文明の遺跡だよな?」
「そうですよ。エルカシス遺跡といいます」
「エルカシス遺跡には流刑の転移魔法陣があったはずだ」
「そうね。でも、何をするのですか?」
「こいつを流刑地に飛ばすんだよ」
ジュリエッタはガイルの提案を聞いて絶句した。
彼女には流刑地に飛ばすという意味がよく解かっているようだし、それを忌避するだけの良識は持ち合わせていたようだ。
イレーネはそれを聞いて喜んでいる。
流刑地は暗黒大陸にあるといわれている。
暗黒大陸は魔獣が跋扈する人跡未踏、禁断の地だ。
そこへ足を踏み入れて、帰還した人間はいない。誰も帰ってこないので、大陸の情報がまったくない。故に暗黒大陸と呼ばれるようになった。
転移魔法陣の行き先が暗黒大陸であるということは、古文書で分かったのだろう。実際、だれも帰還した者がいないので、それが正しいとされている。
アルフェラッツ王国は建国以来、その転移魔法陣を王族に仇をなす政治犯を処刑するために使ってきた。
「さすがガイルね。容赦ないわ~」
イレーネが笑いながら手を叩く。
ジュリエッタと違い、イレーネにはあまり常識的な正義感はなさそうだ。
その後、勇者パーティーは気絶しているツバサを馬車でエルカシス遺跡へと運んでいった。
「ジュリエッタ、こいつがカーライル男爵の息子か?」
バスターソードを背負った男が隣の女に訊いた。
その男は貴族のような豪奢な服を纏っているのだが、顔つきに品格がなく成金のどら息子にしか見えない。
「そうよガイルさま。この人がツバサ・フリューゲルですわ」
ジュリエッタと呼ばれた少女はノルトライン辺境伯の娘だ。
彼女は高価な臙脂《えんじ》色のローブを着ていて如何にも魔導師といった出で立ちだが、さすがに本物の貴族だけあり育ちの良さがうかがえる。
「自分が不世出の天才剣士といわれているものだから、その名声を傘にしてジュリエッタさまに婚約を迫ったのよ!」
いかにも嫌そうに吐き捨てたのは、豪商コンスティー商会会長の娘、イレーネだ。
イレーネは成金趣味の革鎧を身に着け、弓と矢筒を装備している。どことなくエルフを思わせる雰囲気がある少女だ。
そして、ガイルという男の後方では彼の従者たちがツバサを睨んでいる。
「それはいかんな~坊や。名声で女を手に入れようとするなんて」
ツバサの前に立つ男は、アルフェラッツ王国の勇者であるガイル・アロンソだ。
王国が異世界から召喚した勇者らしい。
ただこの男、悪い噂が後を絶たない。特に女癖が悪く、手当り次第手を付けるという噂だ。
ガイルは勇者パーティーを組んで魔王討伐のために訓練中だったはずなのになんで辺境の地であるノルトライン領にいるのだろうか……。
「僕は名声を傘にしてなんかいない! それにジュリエッタは婚約を喜んでくれたじゃないか!」
「私が喜ぶはずないでしょ! 貧乏貴族のくせに!」
イレーネがすごい剣幕でツバサを罵倒する。
ツバサの父親であるカーライル男爵は王国でも三本の指に入る剣豪で、本来ならば辺境の地で収まる剣士ではなかった。ここで辺境を帝国の手から守ることになったのは辺境伯との友誼のためである。
当然ながらカーライル男爵は貧乏貴族ではない。おそらく、イレーネは男爵だから貧乏だと決めつけているのだろう。それは辺境伯と資産を比べれば雲泥の差であるが、カーライル男爵はへたな子爵よりも収入を得ていて、貧乏貴族には当たらない。
「君たちに一体何があったんだ……」
一年前、ツバサが十五歳になったことを機にジュリエッタはツバサと婚約した。
ジュリエッタの父親のノルトライン辺境伯も祝福してくれたし、婚約披露パーティも開いてくれた。
そもそもツバサとの婚約を切望していたのはジュリエッタだし、友人のイレーネだって笑顔で祝福してくれた。
ツバサは彼女たちの態度が豹変した理由がわからなかったが、勇者ガイルの存在を訝しく思う。
――なんでこいつがしゃしゃり出てくるんだ?
忘れもしない一年前のことである。ノルトライン辺境伯はツバサに言った。
「ツバサ、娘はお転婆の上、十六歳なのに世間知らずだ。こんな娘だが幸せにしてほしい」
「はい、お任せくださいノルトライン卿。ジュリエッタさんと一緒にノルトライン領の繁栄に尽力いたします」
そして、イレーネの父親であるコンスティー会長はたいそう喜んでくれた。
「ジュリエッタさまとツバサさまが結婚してくれたらノルトライン領の基盤も盤石なものになります。後は私の我儘娘の嫁ぎ先が決まれば安心できるのですがな、ハッハッハッ」
「イレーネさんなら間違いなく良縁に巡り合えるはずです。心配いりませんよ」
ところがその幸せは長く続かなかった。
それは、彼女たちにノルトライン教会から神託が下ったからだ。
「ジュリエッタさまとイレーネさんの二人に御神託を賜った。勇者と伴に魔王を倒しなさい」
ノルトライン教会の司祭からたったそれだけが言い渡された。
ツバサは必死でノルトライン辺境伯とコンスティー会長に抗議したが、教会の御神託の前には為す術がなかった。
もちろん、父親のカーライル男爵も尽力してくれたのだが、王国を魔族の脅威から救うという大義名分の前には敢え無く撃沈した。
その時、ツバサは生まれて初めて挫折を味わった――
勇者パーティーに彼女たちを送り出してから、寂しさを紛らすためにツバサは必死で剣の修業をした。その甲斐あって、辺境で最強の剣士である父親のカーライル男爵に勝てるようになったのだ。もっとも、十対一の確率であるが……。
ツバサの強さには謎があった。それは父親の戦闘レベルが52なのに対して、ツバサの戦闘レベルは18だからだ。もちろん、戦闘レベルの差だけが勝負を決めるわけではない。相手の戦闘スタイルとの相性もあるし、戦闘に入る状況や環境にもよるだろう。
しかし、戦闘レベル18が52を破ることなど通常はあり得ないーー
そして今、ツバサと勇者カイルはこうして対峙している。
ガイルはツバサの胸ぐらを掴んでこう言った。
「もう二度と二人に近づくなよ。少しでも近づいたら殺すぞ!」
「お前は何を言ってるんだ!」
ツバサはガイルの手を思いっ切り振り払い、すぐに戦闘態勢をとった。
「あんたバカじゃないの? ガイルは勇者なのよ。あんたとは戦闘レベルが違いすぎるの。勝てるわけ無いでしょ!」
勇者ガイルの戦闘レベルは48に達する。
十六歳のツバサよりも二歳年上というだけなのに、圧倒的に身体能力に差があるのだ。
この世界では人間の戦闘力を示す数値として戦闘レベルが使われている。
戦闘レベルとは身体能力から算出される戦闘力の指標である。
ここでいう身体能力とは、体力・魔素保有量・魔力・力・速さなど、人間の基本性能を示す能力値のことだ。
つまり、人間の戦闘力は戦闘レベルである程度判断することができる。
例えば、普通の騎士で戦闘レベルは25ほどであり、最強の騎士や冒険者の中には100に達する者もいるといわれている。それは既に人間をやめているほどの強さである。
つまり、現在は戦闘レベルの差があり過ぎて、ツバサがガイルに勝てる見込みは皆無だ。
「先手必勝!」
いきなりガイルが翼に殴りかかった。
しかし、ツバサは難なくガイルの攻撃を避ける。
「あなたは本当に勇者なのか?!」
――この品格の無さ……。どうしてこんな男が勇者に選ばれたんだろう? いや、召喚されたんだっけ……。
そしてすかさずツバサも応戦する。
だがツバサの拳は空を切った。
「なんだそれ? 俺を殴ろうとでもしたのか? 遅すぎて欠伸が出るぜ」
しかしそれは、ツバサの布石だった。
すぐさま右手で同じ速さ同じ角度で殴りつけ、避けられることを前提に左手でガイルの腹を狙う。
「グッ!」
ツバサの強力なボディーブローがガイルの腹に食い込んだ。
ガイルは思わずしゃがみ込む。
――こんな簡単なコンビネーションに引っかかるなんて……。
おそらく、ガイルは魔獣との戦闘訓練ばかりで、対人戦闘の訓練を受けていないのだろう。
そしてツバサは蹴りを叩き込もうとした――
「か、体が動かない! なんだこれは!」
ツバサの体には魔力で具現化したロープが巻き付いていた。
「大人しくして貰いましょう」
どうやらジュリエッタが魔法でツバサを拘束したようだ。
「ジュリエッタ! 君はこいつの味方をするのか?」
「あたり前ですわ。私たちはガイルさんと魔王を討伐しなければなりませんの。あなたがいたら邪魔にしかなりませんのよ」
「僕が邪魔だって……」
パチーン! という派手な音が響いた。
イレーネが動けなくなったツバサに平手打ちを食らわしたのだ。
「死ねばいいのに! もう私たちの前に現れないで!」イレーネのテンションが異常に高い。
「ツバサさん、私たちの婚約は破棄させていただきますわ。私たちは勇者さまについていきます」
「婚約を破棄するなら、それなりの仁義があるだろう!」
貴族同士の婚姻は政治的な儀式であって、本人たちの意思など関係ない。それが貴族社会というものだ。
だが、稀にではあるが、当人同士が愛し合って婚姻することがある。
ツバサとジュリエッタの婚姻がまさしくそれに当たるはずだった。少なくとも、ツバサはそう思っていた……。
とはいえ、貴族同士の婚約を破棄をするならば、それなりの手順がある。それをしないのは、何かしらの不都合があるのだろう。
勇者ガイルが鬼の形相で立ち上がる。
「よくもやってくれたな。殺してやる!」
滅多打ちだった――
ガイルは仮にも勇者と言われた男だ。その男が動けない相手を殴る蹴るのやりたい放題。アルフェラッツ王国の人民がこれを見たらどう思うだろうか?
「赦さない! 絶対に赦さない!」
「ガイルさん、それ以上やったら本当に死んでしまいますわよ」
ジュリエッタは形だけガイルを制止した。さすがに元婚約者を殺してしまっては後味が悪いと思ったのだろう。
だがそれは遅かった。すでにツバサは気を失っている。
「別にいいんじゃない。誰も見てないし」
イレーネは臆面もなく言い放つ。
勇者の従者たちは三人の行動に引き気味だ。今まで彼らは魔獣相手の訓練しかしてこなかったので、このようなシーンを目撃することはなかったのだろう。
「いいことを思いついたぞ。ジュリエッタ、ここあるのは古代魔法文明の遺跡だよな?」
「そうですよ。エルカシス遺跡といいます」
「エルカシス遺跡には流刑の転移魔法陣があったはずだ」
「そうね。でも、何をするのですか?」
「こいつを流刑地に飛ばすんだよ」
ジュリエッタはガイルの提案を聞いて絶句した。
彼女には流刑地に飛ばすという意味がよく解かっているようだし、それを忌避するだけの良識は持ち合わせていたようだ。
イレーネはそれを聞いて喜んでいる。
流刑地は暗黒大陸にあるといわれている。
暗黒大陸は魔獣が跋扈する人跡未踏、禁断の地だ。
そこへ足を踏み入れて、帰還した人間はいない。誰も帰ってこないので、大陸の情報がまったくない。故に暗黒大陸と呼ばれるようになった。
転移魔法陣の行き先が暗黒大陸であるということは、古文書で分かったのだろう。実際、だれも帰還した者がいないので、それが正しいとされている。
アルフェラッツ王国は建国以来、その転移魔法陣を王族に仇をなす政治犯を処刑するために使ってきた。
「さすがガイルね。容赦ないわ~」
イレーネが笑いながら手を叩く。
ジュリエッタと違い、イレーネにはあまり常識的な正義感はなさそうだ。
その後、勇者パーティーは気絶しているツバサを馬車でエルカシス遺跡へと運んでいった。
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