エルフの巫女のガーディアン ~エルフの巫女を護衛するだけの簡単なお仕事って言ったよな?~

黒野ぐらふ

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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事

第2話 幼稚な理由

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 エルカシス遺跡は二千年前に失われた古代魔法文明の残滓である。
 荒廃が酷すぎてここが何に使われていた施設なのか、今では謎としかいえない。
 ところが、奇跡的に転移魔法陣の一つが使用可能な状態で残っていた。
 その転移魔法陣は暗黒大陸のどこかへ物体を転送できることが古文書の一部から解っていたのだが、正確な行き先までは判明していない。
 アルフェラッツ王国としては正確な行き先などどうでもよかった。そこが暗黒大陸でさえあればよい。なぜなら、その転移魔法陣を罪人の流刑用として使っていたからだ。

 しかし、時代は流れて近隣のローデシア帝国がノルトライン領に侵攻してきた。そのため、エルカシス遺跡に近づき難くなったことで転移魔法陣の運用は中止となった。
 だが、理由はそれだけではなかった。転移魔法陣を起動できる魔導士が少なくなってきたことも理由の一つである。

 勇者ガイルはその魔法陣を使ってツバサを暗黒大陸へ飛ばそうとしているのだ。
 転移魔法陣を起動するには大量の魔素《マナ》が必要だ。現在の魔導士に一人でそれを起動できる者はいない。もし、起動するならば複数人でかからなければならないだろう。
 だが、ガイルなら一人で起動することが可能だ。それだけの魔素《マナ》と魔力を持ち合わせている。

 その転移魔法陣はエルカシス遺跡の地下にある。

「ふん、俺の魔素《マナ》と魔力ならこの魔法陣を起動できるはずだ」
「さすがガイルね。それができるのは宮廷魔法師くらいじゃない?」
「冒険者ギルドにもいるのですわ」
「そうだな、冒険者の中には化け物じみた魔法使いがいるらしいぞ」
「そうなの? まあいいわ。とりあえず飛ばしてしまえば証拠が残らないしね」
「そうだな。追跡もできないから、完全犯罪が成立するわけだ」

 現代魔法では古代魔法が残した痕跡を解析することはできない。それは、現代魔法が古代魔法をほとんど継承していないからだ。

 ガイルの従者たちがツバサを転移魔法陣の中心に運んだ。
 転移魔法陣は意外に大きく、直径が八メートルほどある。おそらく、物資の転送にも使っていたのだろう。
 これほどの魔法陣は古代遺跡の中でしか見ることができない。

「お前たちは外で待ってろ。大丈夫だ、すぐに終わる」

 ガイルは転送魔法陣を調べながら従者たちを追い払った。

「なるほどな。この場所に魔力を流し込めばいいのか……」

 魔法陣には魔力を注入するポイントがある。魔法陣の知識を持ち合わせていないガイルでも、注入ポイントくらいは判るようだ。

「それだけで転送できるの?」
「ああ、転送先は固定だから魔力を流し込むだけで魔法陣は起動するはずだ」
「ううう……ここは……」

 ようやく翼の意識が戻りつつあった。

「やっと目が覚めたか。何か言い残したいことはあるか?」

 ――言い残したいこと?

「僕をどうする気だ」
「ちょっと暗黒大陸に行ってもらうだけだ。遊び飽きたら戻ってくればいい」
「ふざけた奴め……」

 ツバサは痛みと戦いながらもジュリエッタとイレーネのほうを見た。

「何があったのか知らないけれど、二人ともこれでいいのか?」
「ガイルはね、アルフェラッツ王国の勇者なのよ。あなたのような辺境の剣士とは格が違うんだから!」

 イレーネは捲し立てるように言った。

「ガイルのほうが格上なのは判った。だから君はガイルに付いていくんだね?」
「そうよ! 文句ある!」

 ――そりゃあ勇者のほうが格上だろうな。間違っていない。

「あんたのそういうところが嫌だったのよ! いつもいつも上から目線でものを言って……」
「そうだったのか。イレーネを苦しめていたとは……。気づかなくてごめん」
「謝らないでよ! もう遅いの」
「ジュリエッタもそうなのか? 僕よりもガイルのほうが……」
「そうですわね……。そうよ、ガイルさんのほうが将来性がありますし、お父さまも喜ぶはずですわ」

 ――将来性か。勇者は王族になるかもしれないけど、僕は男爵の息子といえど次男だし……。やはり間違っていないな。

「そうか、よく解ったよ。君たちはガイルを選んだ。そして僕は捨てられた。分かりやすい構図だね。だけどねジュリエッタ、僕たちは子供じゃないんだ。ちゃんと婚約を破棄する手順を踏んでほしかったよ」

 ガイルが魔法陣の中に入ってきてツバサを踏みつけて言った。

「ば~か。そんな面倒くさいことするかよ!」
「面倒くさいってなんだよ!」
「煩い! 要はお前がいなくなれば簡単に片付くんだ。こうなったのはお前の責任だ。自分の不甲斐なさを呪うんだな。来世では頑張りな!」

 ガイルはそう言うと、イレーネに濃厚なキスをした。どうやら自分の非人道的な行いに興奮しているらしい。

「あんっ、ちょっと止めてよ。ツバサが見てるじゃないの」
「見せつけているんだよ」
「二人共! こんな時に非常識ですわ」

 ジュリエッタが冷たい目でガイルを見る。ガイルにはそれが嬉しいらしい。ニヤついている。

「なんだよ。嫉妬してるのか?」
「冗談じゃないわ! その下品なところは直してもらう必要がありますわ」

 ――僕が今まで信じてきたものは何だったんだろう? ジュリエッタ、信頼していたのに……愛していたのに……。

 彼の心は崩壊していく。
 十六年もかけて培ったものが底なしの穴に落ちていく。
 彼の胸には空虚な穴だけが残る。
 彼の心は喪失したはずなのに、何故か涙が流れてくる。
 それが何を意味しているのか、ツバサ自身にもさっぱり解らなかった――

「ガイル、魔法陣を発動して!」
「了解! あばよ! 色男!」

 ツバサは軽い目眩を感じた――

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