20 / 59
第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第20話 ガイルの裏工作
しおりを挟む
ノルトライン城はローデシア帝国との侵略戦争の際は作戦本部としても使用できるように設計されている。そのため、有事の際多くの将校が寝泊まりするために、客室も必然と多く設置されている。
その中の一室にヒューベンタール男爵は居を構えていた。
ノルトライン城での彼の役割は辺境伯の補佐役であるが、その地位は低く、第四位といったところだろう。従って、会議の場ではあまり発言権はなく、どちらかというと実行部隊に属する。
そのようなヒューベンタール男爵であるが、貴族らしい野望を持っていた。
それは立身出世し、アルフェラッツ王国の役人になることだった。
「いつ帝国との戦争に巻き込まれるか分からない。さっさと最前線のノルトライン領から脱出してやる」
それが彼の口癖だった。
もちろん、側近の従者にしかそのようなことは口にしないが、それは公然の事実となりつつあった。
人の口に戸は立てられないのだ――
「お客様がお見えでございます」
唐突にメイドから来客の知らせがあった。
(今日はこれからツバサさまの捜索に出かけるからアポはとっていないはずだが……)
「あの、勇者のアロンソさまでございます」
「すぐに通せ!」
「かしこまりました」
メイドと入れ替わりに入ってきたのは綺羅びやかな服装――言い方をかえると成金趣味――をした勇者ガイル・アロンソだった。
「久しぶりだな、パトリック。遊びに来たぜ」
「これはこれはアロンソさま。何用かと思えば……」
「まあ、遊びは冗談だパトリック。今日は頼みがあってきたんだ」
「わたしに頼みですか?」
この勇者は怪しい――
パトリックは以前から勇者ガイル・アロンソを警戒すべき人物だと思っていた。
それは畏怖する要人としてではなく、忌避する悪人としてである。
もっとも、そう思っているのは彼だけではないのだが……。
「実は困ったことになってな。例の失踪事件のことだ」
「カーライル男爵の息子の件ですな」
――あの忌々しいカーライルの息子め。失踪してくれて大助かりだ。
パトリックのライバルであるカーライル男爵。
その息子は天才剣士で庶民にはとてつもなく人気があった。
カーライル男爵は彼自身が辺境一の剣士なので、パトリックの一歩も二歩も先を行かれていた。それなのに、その息子もパトリックの立身出世を邪魔しかねない存在なのだ。
彼がツバサ・フリューゲルを忌々しく思っていたことは想像に難くない。
「そうだ、そいつのことで事件に巻き込まれそうなんだ」
「アロンソさまが事件に巻き込まれるとは思えませんが?」
「エルカシス遺跡の地下には転移魔法陣があってな。それが使用された形跡を発見したらしいんだ」
「えっ、何ですと! あれはまだ機能していたのですか?」
「ああ、当然だ。つい五十年ほど前まで使われいたらしいぜ」
「それはそうなんですが……」
パトリックは魔法を熟知しているわけではないし、ましてや魔法陣のことなどまったく解かっていなかった。
当然、五十年も前の魔法陣が使用できることなど、知る由もない。
「つまりだ。捜索隊はその魔法陣を使ってカーライル男爵の息子が転送されたと考えているようなんだ」
つい先程、上席魔導士のフレッチャーがエルカシス遺跡で転移魔法陣が使用された痕跡を発見した。
だが、その事実はフレッチャーとカーライル男爵の側近しか知らないはずだった。
「あれは政治犯を流刑地に送るために使われてたと聞いたことがあります」
「そうらしいな。流刑地は暗黒大陸にあるみたいだぜ」
「暗黒大陸、人跡未踏の地。行った者は誰も帰ってきたことがない……」
「そうだ、それだ。だが、問題はそこじゃない」
「と言いますと?」
「俺がその犯人にされそうなんだ」
「まさか……」
「おいおい、俺じゃないぜ。俺がそんなことするはずないだろう。勇者なんだから」
「もちろん、そうですよね。そうでなければ困ります」
「その理由なんだが、転移魔法陣を起動できるのが俺しかいないからなんだとよ」
「それは本当なんですか?」
「俺の魔力なら起動できるかもしれん。でもな、他にもいるんだよ、それを起動できそうな人間が」
「それは誰でございましょうか?」
「フレッチャーだ」
転移魔法陣が使用された痕跡を見つけた張本人、上席魔導士のフレッチャーが強大な魔力の持ち主であることは信頼できる数人にしか知られていなかった。
フレッチャーの戦闘レベルは150を超える。従って、誰の鑑定能力でも彼の真の戦闘レベルを知ることができなかった。
つまり、彼の自己申告、戦闘レベル98を信用するしかない。
そして当のガイルであるが、彼の戦闘レベルは48だ。つまり、彼の鑑定能力ではフレッチャーの戦闘レベルを覗き見することはできない。
ガイルはフレッチャーの申告戦闘レベルを知らなかったが、そんなことはどうでも良かった。
勇者のガイルよりも戦闘レベルが高いのだから、エルカシス遺跡の転送魔法陣を起動できて当然というのが彼の言い分である。
「なるほど、フレッチャーの戦闘レベルは100付近だと聞いたことがります。その戦闘レベルならば転移魔法陣を起動することが可能なのですね」
「もちろんそうだ」
パトリックはガイルの薄気味悪いニヤケ顔に恐怖を感じた。
もともと悪人面なのに、今は悪魔のように見える。
「それで頼みの……いや、お願いの内容なんだが……」
パトリックの背筋を冷たいものが流れた――
その中の一室にヒューベンタール男爵は居を構えていた。
ノルトライン城での彼の役割は辺境伯の補佐役であるが、その地位は低く、第四位といったところだろう。従って、会議の場ではあまり発言権はなく、どちらかというと実行部隊に属する。
そのようなヒューベンタール男爵であるが、貴族らしい野望を持っていた。
それは立身出世し、アルフェラッツ王国の役人になることだった。
「いつ帝国との戦争に巻き込まれるか分からない。さっさと最前線のノルトライン領から脱出してやる」
それが彼の口癖だった。
もちろん、側近の従者にしかそのようなことは口にしないが、それは公然の事実となりつつあった。
人の口に戸は立てられないのだ――
「お客様がお見えでございます」
唐突にメイドから来客の知らせがあった。
(今日はこれからツバサさまの捜索に出かけるからアポはとっていないはずだが……)
「あの、勇者のアロンソさまでございます」
「すぐに通せ!」
「かしこまりました」
メイドと入れ替わりに入ってきたのは綺羅びやかな服装――言い方をかえると成金趣味――をした勇者ガイル・アロンソだった。
「久しぶりだな、パトリック。遊びに来たぜ」
「これはこれはアロンソさま。何用かと思えば……」
「まあ、遊びは冗談だパトリック。今日は頼みがあってきたんだ」
「わたしに頼みですか?」
この勇者は怪しい――
パトリックは以前から勇者ガイル・アロンソを警戒すべき人物だと思っていた。
それは畏怖する要人としてではなく、忌避する悪人としてである。
もっとも、そう思っているのは彼だけではないのだが……。
「実は困ったことになってな。例の失踪事件のことだ」
「カーライル男爵の息子の件ですな」
――あの忌々しいカーライルの息子め。失踪してくれて大助かりだ。
パトリックのライバルであるカーライル男爵。
その息子は天才剣士で庶民にはとてつもなく人気があった。
カーライル男爵は彼自身が辺境一の剣士なので、パトリックの一歩も二歩も先を行かれていた。それなのに、その息子もパトリックの立身出世を邪魔しかねない存在なのだ。
彼がツバサ・フリューゲルを忌々しく思っていたことは想像に難くない。
「そうだ、そいつのことで事件に巻き込まれそうなんだ」
「アロンソさまが事件に巻き込まれるとは思えませんが?」
「エルカシス遺跡の地下には転移魔法陣があってな。それが使用された形跡を発見したらしいんだ」
「えっ、何ですと! あれはまだ機能していたのですか?」
「ああ、当然だ。つい五十年ほど前まで使われいたらしいぜ」
「それはそうなんですが……」
パトリックは魔法を熟知しているわけではないし、ましてや魔法陣のことなどまったく解かっていなかった。
当然、五十年も前の魔法陣が使用できることなど、知る由もない。
「つまりだ。捜索隊はその魔法陣を使ってカーライル男爵の息子が転送されたと考えているようなんだ」
つい先程、上席魔導士のフレッチャーがエルカシス遺跡で転移魔法陣が使用された痕跡を発見した。
だが、その事実はフレッチャーとカーライル男爵の側近しか知らないはずだった。
「あれは政治犯を流刑地に送るために使われてたと聞いたことがあります」
「そうらしいな。流刑地は暗黒大陸にあるみたいだぜ」
「暗黒大陸、人跡未踏の地。行った者は誰も帰ってきたことがない……」
「そうだ、それだ。だが、問題はそこじゃない」
「と言いますと?」
「俺がその犯人にされそうなんだ」
「まさか……」
「おいおい、俺じゃないぜ。俺がそんなことするはずないだろう。勇者なんだから」
「もちろん、そうですよね。そうでなければ困ります」
「その理由なんだが、転移魔法陣を起動できるのが俺しかいないからなんだとよ」
「それは本当なんですか?」
「俺の魔力なら起動できるかもしれん。でもな、他にもいるんだよ、それを起動できそうな人間が」
「それは誰でございましょうか?」
「フレッチャーだ」
転移魔法陣が使用された痕跡を見つけた張本人、上席魔導士のフレッチャーが強大な魔力の持ち主であることは信頼できる数人にしか知られていなかった。
フレッチャーの戦闘レベルは150を超える。従って、誰の鑑定能力でも彼の真の戦闘レベルを知ることができなかった。
つまり、彼の自己申告、戦闘レベル98を信用するしかない。
そして当のガイルであるが、彼の戦闘レベルは48だ。つまり、彼の鑑定能力ではフレッチャーの戦闘レベルを覗き見することはできない。
ガイルはフレッチャーの申告戦闘レベルを知らなかったが、そんなことはどうでも良かった。
勇者のガイルよりも戦闘レベルが高いのだから、エルカシス遺跡の転送魔法陣を起動できて当然というのが彼の言い分である。
「なるほど、フレッチャーの戦闘レベルは100付近だと聞いたことがります。その戦闘レベルならば転移魔法陣を起動することが可能なのですね」
「もちろんそうだ」
パトリックはガイルの薄気味悪いニヤケ顔に恐怖を感じた。
もともと悪人面なのに、今は悪魔のように見える。
「それで頼みの……いや、お願いの内容なんだが……」
パトリックの背筋を冷たいものが流れた――
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる