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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第20話 ガイルの裏工作
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ノルトライン城はローデシア帝国との侵略戦争の際は作戦本部としても使用できるように設計されている。そのため、有事の際多くの将校が寝泊まりするために、客室も必然と多く設置されている。
その中の一室にヒューベンタール男爵は居を構えていた。
ノルトライン城での彼の役割は辺境伯の補佐役であるが、その地位は低く、第四位といったところだろう。従って、会議の場ではあまり発言権はなく、どちらかというと実行部隊に属する。
そのようなヒューベンタール男爵であるが、貴族らしい野望を持っていた。
それは立身出世し、アルフェラッツ王国の役人になることだった。
「いつ帝国との戦争に巻き込まれるか分からない。さっさと最前線のノルトライン領から脱出してやる」
それが彼の口癖だった。
もちろん、側近の従者にしかそのようなことは口にしないが、それは公然の事実となりつつあった。
人の口に戸は立てられないのだ――
「お客様がお見えでございます」
唐突にメイドから来客の知らせがあった。
(今日はこれからツバサさまの捜索に出かけるからアポはとっていないはずだが……)
「あの、勇者のアロンソさまでございます」
「すぐに通せ!」
「かしこまりました」
メイドと入れ替わりに入ってきたのは綺羅びやかな服装――言い方をかえると成金趣味――をした勇者ガイル・アロンソだった。
「久しぶりだな、パトリック。遊びに来たぜ」
「これはこれはアロンソさま。何用かと思えば……」
「まあ、遊びは冗談だパトリック。今日は頼みがあってきたんだ」
「わたしに頼みですか?」
この勇者は怪しい――
パトリックは以前から勇者ガイル・アロンソを警戒すべき人物だと思っていた。
それは畏怖する要人としてではなく、忌避する悪人としてである。
もっとも、そう思っているのは彼だけではないのだが……。
「実は困ったことになってな。例の失踪事件のことだ」
「カーライル男爵の息子の件ですな」
――あの忌々しいカーライルの息子め。失踪してくれて大助かりだ。
パトリックのライバルであるカーライル男爵。
その息子は天才剣士で庶民にはとてつもなく人気があった。
カーライル男爵は彼自身が辺境一の剣士なので、パトリックの一歩も二歩も先を行かれていた。それなのに、その息子もパトリックの立身出世を邪魔しかねない存在なのだ。
彼がツバサ・フリューゲルを忌々しく思っていたことは想像に難くない。
「そうだ、そいつのことで事件に巻き込まれそうなんだ」
「アロンソさまが事件に巻き込まれるとは思えませんが?」
「エルカシス遺跡の地下には転移魔法陣があってな。それが使用された形跡を発見したらしいんだ」
「えっ、何ですと! あれはまだ機能していたのですか?」
「ああ、当然だ。つい五十年ほど前まで使われいたらしいぜ」
「それはそうなんですが……」
パトリックは魔法を熟知しているわけではないし、ましてや魔法陣のことなどまったく解かっていなかった。
当然、五十年も前の魔法陣が使用できることなど、知る由もない。
「つまりだ。捜索隊はその魔法陣を使ってカーライル男爵の息子が転送されたと考えているようなんだ」
つい先程、上席魔導士のフレッチャーがエルカシス遺跡で転移魔法陣が使用された痕跡を発見した。
だが、その事実はフレッチャーとカーライル男爵の側近しか知らないはずだった。
「あれは政治犯を流刑地に送るために使われてたと聞いたことがあります」
「そうらしいな。流刑地は暗黒大陸にあるみたいだぜ」
「暗黒大陸、人跡未踏の地。行った者は誰も帰ってきたことがない……」
「そうだ、それだ。だが、問題はそこじゃない」
「と言いますと?」
「俺がその犯人にされそうなんだ」
「まさか……」
「おいおい、俺じゃないぜ。俺がそんなことするはずないだろう。勇者なんだから」
「もちろん、そうですよね。そうでなければ困ります」
「その理由なんだが、転移魔法陣を起動できるのが俺しかいないからなんだとよ」
「それは本当なんですか?」
「俺の魔力なら起動できるかもしれん。でもな、他にもいるんだよ、それを起動できそうな人間が」
「それは誰でございましょうか?」
「フレッチャーだ」
転移魔法陣が使用された痕跡を見つけた張本人、上席魔導士のフレッチャーが強大な魔力の持ち主であることは信頼できる数人にしか知られていなかった。
フレッチャーの戦闘レベルは150を超える。従って、誰の鑑定能力でも彼の真の戦闘レベルを知ることができなかった。
つまり、彼の自己申告、戦闘レベル98を信用するしかない。
そして当のガイルであるが、彼の戦闘レベルは48だ。つまり、彼の鑑定能力ではフレッチャーの戦闘レベルを覗き見することはできない。
ガイルはフレッチャーの申告戦闘レベルを知らなかったが、そんなことはどうでも良かった。
勇者のガイルよりも戦闘レベルが高いのだから、エルカシス遺跡の転送魔法陣を起動できて当然というのが彼の言い分である。
「なるほど、フレッチャーの戦闘レベルは100付近だと聞いたことがります。その戦闘レベルならば転移魔法陣を起動することが可能なのですね」
「もちろんそうだ」
パトリックはガイルの薄気味悪いニヤケ顔に恐怖を感じた。
もともと悪人面なのに、今は悪魔のように見える。
「それで頼みの……いや、お願いの内容なんだが……」
パトリックの背筋を冷たいものが流れた――
その中の一室にヒューベンタール男爵は居を構えていた。
ノルトライン城での彼の役割は辺境伯の補佐役であるが、その地位は低く、第四位といったところだろう。従って、会議の場ではあまり発言権はなく、どちらかというと実行部隊に属する。
そのようなヒューベンタール男爵であるが、貴族らしい野望を持っていた。
それは立身出世し、アルフェラッツ王国の役人になることだった。
「いつ帝国との戦争に巻き込まれるか分からない。さっさと最前線のノルトライン領から脱出してやる」
それが彼の口癖だった。
もちろん、側近の従者にしかそのようなことは口にしないが、それは公然の事実となりつつあった。
人の口に戸は立てられないのだ――
「お客様がお見えでございます」
唐突にメイドから来客の知らせがあった。
(今日はこれからツバサさまの捜索に出かけるからアポはとっていないはずだが……)
「あの、勇者のアロンソさまでございます」
「すぐに通せ!」
「かしこまりました」
メイドと入れ替わりに入ってきたのは綺羅びやかな服装――言い方をかえると成金趣味――をした勇者ガイル・アロンソだった。
「久しぶりだな、パトリック。遊びに来たぜ」
「これはこれはアロンソさま。何用かと思えば……」
「まあ、遊びは冗談だパトリック。今日は頼みがあってきたんだ」
「わたしに頼みですか?」
この勇者は怪しい――
パトリックは以前から勇者ガイル・アロンソを警戒すべき人物だと思っていた。
それは畏怖する要人としてではなく、忌避する悪人としてである。
もっとも、そう思っているのは彼だけではないのだが……。
「実は困ったことになってな。例の失踪事件のことだ」
「カーライル男爵の息子の件ですな」
――あの忌々しいカーライルの息子め。失踪してくれて大助かりだ。
パトリックのライバルであるカーライル男爵。
その息子は天才剣士で庶民にはとてつもなく人気があった。
カーライル男爵は彼自身が辺境一の剣士なので、パトリックの一歩も二歩も先を行かれていた。それなのに、その息子もパトリックの立身出世を邪魔しかねない存在なのだ。
彼がツバサ・フリューゲルを忌々しく思っていたことは想像に難くない。
「そうだ、そいつのことで事件に巻き込まれそうなんだ」
「アロンソさまが事件に巻き込まれるとは思えませんが?」
「エルカシス遺跡の地下には転移魔法陣があってな。それが使用された形跡を発見したらしいんだ」
「えっ、何ですと! あれはまだ機能していたのですか?」
「ああ、当然だ。つい五十年ほど前まで使われいたらしいぜ」
「それはそうなんですが……」
パトリックは魔法を熟知しているわけではないし、ましてや魔法陣のことなどまったく解かっていなかった。
当然、五十年も前の魔法陣が使用できることなど、知る由もない。
「つまりだ。捜索隊はその魔法陣を使ってカーライル男爵の息子が転送されたと考えているようなんだ」
つい先程、上席魔導士のフレッチャーがエルカシス遺跡で転移魔法陣が使用された痕跡を発見した。
だが、その事実はフレッチャーとカーライル男爵の側近しか知らないはずだった。
「あれは政治犯を流刑地に送るために使われてたと聞いたことがあります」
「そうらしいな。流刑地は暗黒大陸にあるみたいだぜ」
「暗黒大陸、人跡未踏の地。行った者は誰も帰ってきたことがない……」
「そうだ、それだ。だが、問題はそこじゃない」
「と言いますと?」
「俺がその犯人にされそうなんだ」
「まさか……」
「おいおい、俺じゃないぜ。俺がそんなことするはずないだろう。勇者なんだから」
「もちろん、そうですよね。そうでなければ困ります」
「その理由なんだが、転移魔法陣を起動できるのが俺しかいないからなんだとよ」
「それは本当なんですか?」
「俺の魔力なら起動できるかもしれん。でもな、他にもいるんだよ、それを起動できそうな人間が」
「それは誰でございましょうか?」
「フレッチャーだ」
転移魔法陣が使用された痕跡を見つけた張本人、上席魔導士のフレッチャーが強大な魔力の持ち主であることは信頼できる数人にしか知られていなかった。
フレッチャーの戦闘レベルは150を超える。従って、誰の鑑定能力でも彼の真の戦闘レベルを知ることができなかった。
つまり、彼の自己申告、戦闘レベル98を信用するしかない。
そして当のガイルであるが、彼の戦闘レベルは48だ。つまり、彼の鑑定能力ではフレッチャーの戦闘レベルを覗き見することはできない。
ガイルはフレッチャーの申告戦闘レベルを知らなかったが、そんなことはどうでも良かった。
勇者のガイルよりも戦闘レベルが高いのだから、エルカシス遺跡の転送魔法陣を起動できて当然というのが彼の言い分である。
「なるほど、フレッチャーの戦闘レベルは100付近だと聞いたことがります。その戦闘レベルならば転移魔法陣を起動することが可能なのですね」
「もちろんそうだ」
パトリックはガイルの薄気味悪いニヤケ顔に恐怖を感じた。
もともと悪人面なのに、今は悪魔のように見える。
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パトリックの背筋を冷たいものが流れた――
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