21 / 59
第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第21話 牢獄からの脱出(1)
しおりを挟む
ツバサが魔法遮断結界w張られた牢獄に収監されて、既に三日が経っていた。
彼を囚えているのはミストガル最異教の種族である龍神族ではあるが、彼は黙って龍神族に従う気はなかった。
「脱獄してやる」
その日、ツバサは脱獄することを決心した。
しかし、物理防御も兼ねている結界を破るのは、いかに戦闘レベルの高いツバサにとっても容易なことではない。
「魔法が発動できないならば、腕力勝負だ!」
その日の夕食後から拳で壁を殴りつけるという地味な作業を続けた。
だが、その作業は意外なほど早く終了した。
二時間ほどで結界の力が及ばない深さまで壁を抉ることに成功したのだ。
そして穴の最深部にグラン邸の扉を出現させる。魔力遮断結界さえなければ扉を岩の中で出現させることは可能だ。なぜなら、グラン邸が存在するのは異次元なのだから。
「さすがに疲れるな~」
ツバサは扉を内側に押し開けて中に入った。
「キャーッ! お兄ちゃーん!」
「ツバサさま!」
フェルとクラウが突撃してきたので、ツバサは転倒しそうになった。
「二人とも元気そうだな!」
「でも、退屈で死にそうだったわ」
「ははは、結界に穴を開けるのに手間取ったからな」
「ツバサさま、これからどうなさいますか?」
「あいつらは結界が破られたことに気がついていないから、俺が居なくなったことを知るのは明日の朝だろう」
「龍神族は大変な騒ぎになるでしょうね」
クラウが何故か嬉しそうにツバサを見つめる。
フェルに至っては目を輝かせているのが判る。
(二人とも嬉しそうだな……)
「当然俺を探しに行くだろう。そうしたら、この辺りの警備が疎かになる」
「そこをどうどうと出て行くのですね?」
「ああ、何か問題があるか?」
「龍神族の国自体に結界が張られていたらどうしますか?」
「それはあるな。絶対あるな。どうしてここは結界だらけなんだろう?」
ツバサは流刑者の谷から結界だらけでうんざりしていた。
もし、結界が張られていたら、瞬間移動で脱出することは不可能になる。
龍神族の結界は、おそらく魔獣が侵入することを防ぐためにあるのだろう。それならば、内側から外に出るのは容易かもしれない。
「やってみるしかないね」
「そうだな。でたとこ勝負というやつだ」
こんな状況に陥っても、ツバサは彼女たちと一緒に笑っていた。そして、楽しんでいる自分がいることに気がついていた。
(なんか……、楽しいい……)
「とりあえず、風呂に入って寝るぞ!」
「は~い!」
「ご一緒させて頂きます」
◇ ◇ ◇
翌日の朝、ツバサが予想していたとおり、龍神族の看守たちが大騒ぎをはじめた。
誰にも破られたことがない牢獄から、戦闘レベル18の人間が消えたのだ。ただ事ではない。
看守の一人が、上官を呼び、その上官がさらに上層部に報告する――
その報せが戦姫のもとへ齎されるのに一時間ほど用した。
「シャルロットさま、申し訳ありません。囚人を逃してしまいました」
龍神王の娘であるシャルロットは先日着ていた白いドレスではなく、真紅の軽鎧を身にまとっていた。まさに、戦姫という出で立ちである。
「オリヴィエは謝る必要ないわ。この牢獄が破られるなんて誰も予測してなかったもの」
シャルロットはツバサが収監されていた牢獄の中を見て、直径が一メートルほど穴が空いている事に気がついた。
「あの穴は何? 妙ね……。看守、結界を解いてちょうだい」
「かしこまりました。今すぐに」
看守の一人が牢獄の横の壁にある赤い魔法陣に魔力を注入すると、その魔法陣は蒼く変化した。
オリヴィエはすぐに牢屋の扉を開くと、戦姫とオリヴィエ、そして看守が中に入った。
「奥行きは二メートルくらいありそうね? でも、そこから先は行き止まりね。オリヴィエ、中に入って一番奥を調べてみて」
オリヴィエは狭い穴に潜り込むと、最深部の岩を素手で触ったり、タガーで突いたりしたが、何の変化も起こらなかった。
「妙ね……、とっても妙だわ。あれをやってみようかしら。二人とも、後ろに下がって」
シャルロットは二人を自分の後ろに下がらせて、看守が魔法防壁を張るのを見極めてから、両手を前に出した。
「龍神火炎弾《ドラゴニア・ファイアーボム》!」
彼女が叫ぶと大爆発が起こった。
岩の破片が熱風を伴いながら激しく魔法障壁に衝突する。
そして、小さな穴があった壁には、代りに大きな穴が空いていた。
「シャルロットさま、何もありません」
その穴は熱を帯びて真っ赤になっているので、すぐに調べることができない。
しかし、これだけの大爆発で何も出てこないとなれば、脱出路が塞がれていたという線もなさそうである。
「これはフェイクかもね……」
「しかし、ここには誰も隠れることはできません。脱獄したのではないでしょうか?」
オリヴィエは自分が言ったことに自信がなさそうだ。
「看守! すぐに警戒態勢、脱獄犯を捜索して!」
「シャルロットさま、すでに捜索は開始されています」
オリヴィエが看守のかわりに返答した。
「そう、なかなか手際がいいわね。脱獄されなかったらもっと良かったのに」
「はい、申し訳ないです」
「だから、あなたの所為ではないのよ」
シャルロットはこの牢獄から囚人が脱獄したことが信じられないらしく、さらに内側の壁を調べてみたが、当然何も出てこない。
「戦闘レベル18の人間が……、どんな手品を使ったのかしら? まさか彼のステータスはフェイク?」
もし、脱獄犯のステータスがフェイクだったとしても、やはり脱獄は不可能に思える。やはり、彼女の結論は一つしかなかった。
「二人とも、引上げるわよ!」
「「はっ!」」
シャルロットは牢獄を見て一瞬だけニヤリと笑った――
彼を囚えているのはミストガル最異教の種族である龍神族ではあるが、彼は黙って龍神族に従う気はなかった。
「脱獄してやる」
その日、ツバサは脱獄することを決心した。
しかし、物理防御も兼ねている結界を破るのは、いかに戦闘レベルの高いツバサにとっても容易なことではない。
「魔法が発動できないならば、腕力勝負だ!」
その日の夕食後から拳で壁を殴りつけるという地味な作業を続けた。
だが、その作業は意外なほど早く終了した。
二時間ほどで結界の力が及ばない深さまで壁を抉ることに成功したのだ。
そして穴の最深部にグラン邸の扉を出現させる。魔力遮断結界さえなければ扉を岩の中で出現させることは可能だ。なぜなら、グラン邸が存在するのは異次元なのだから。
「さすがに疲れるな~」
ツバサは扉を内側に押し開けて中に入った。
「キャーッ! お兄ちゃーん!」
「ツバサさま!」
フェルとクラウが突撃してきたので、ツバサは転倒しそうになった。
「二人とも元気そうだな!」
「でも、退屈で死にそうだったわ」
「ははは、結界に穴を開けるのに手間取ったからな」
「ツバサさま、これからどうなさいますか?」
「あいつらは結界が破られたことに気がついていないから、俺が居なくなったことを知るのは明日の朝だろう」
「龍神族は大変な騒ぎになるでしょうね」
クラウが何故か嬉しそうにツバサを見つめる。
フェルに至っては目を輝かせているのが判る。
(二人とも嬉しそうだな……)
「当然俺を探しに行くだろう。そうしたら、この辺りの警備が疎かになる」
「そこをどうどうと出て行くのですね?」
「ああ、何か問題があるか?」
「龍神族の国自体に結界が張られていたらどうしますか?」
「それはあるな。絶対あるな。どうしてここは結界だらけなんだろう?」
ツバサは流刑者の谷から結界だらけでうんざりしていた。
もし、結界が張られていたら、瞬間移動で脱出することは不可能になる。
龍神族の結界は、おそらく魔獣が侵入することを防ぐためにあるのだろう。それならば、内側から外に出るのは容易かもしれない。
「やってみるしかないね」
「そうだな。でたとこ勝負というやつだ」
こんな状況に陥っても、ツバサは彼女たちと一緒に笑っていた。そして、楽しんでいる自分がいることに気がついていた。
(なんか……、楽しいい……)
「とりあえず、風呂に入って寝るぞ!」
「は~い!」
「ご一緒させて頂きます」
◇ ◇ ◇
翌日の朝、ツバサが予想していたとおり、龍神族の看守たちが大騒ぎをはじめた。
誰にも破られたことがない牢獄から、戦闘レベル18の人間が消えたのだ。ただ事ではない。
看守の一人が、上官を呼び、その上官がさらに上層部に報告する――
その報せが戦姫のもとへ齎されるのに一時間ほど用した。
「シャルロットさま、申し訳ありません。囚人を逃してしまいました」
龍神王の娘であるシャルロットは先日着ていた白いドレスではなく、真紅の軽鎧を身にまとっていた。まさに、戦姫という出で立ちである。
「オリヴィエは謝る必要ないわ。この牢獄が破られるなんて誰も予測してなかったもの」
シャルロットはツバサが収監されていた牢獄の中を見て、直径が一メートルほど穴が空いている事に気がついた。
「あの穴は何? 妙ね……。看守、結界を解いてちょうだい」
「かしこまりました。今すぐに」
看守の一人が牢獄の横の壁にある赤い魔法陣に魔力を注入すると、その魔法陣は蒼く変化した。
オリヴィエはすぐに牢屋の扉を開くと、戦姫とオリヴィエ、そして看守が中に入った。
「奥行きは二メートルくらいありそうね? でも、そこから先は行き止まりね。オリヴィエ、中に入って一番奥を調べてみて」
オリヴィエは狭い穴に潜り込むと、最深部の岩を素手で触ったり、タガーで突いたりしたが、何の変化も起こらなかった。
「妙ね……、とっても妙だわ。あれをやってみようかしら。二人とも、後ろに下がって」
シャルロットは二人を自分の後ろに下がらせて、看守が魔法防壁を張るのを見極めてから、両手を前に出した。
「龍神火炎弾《ドラゴニア・ファイアーボム》!」
彼女が叫ぶと大爆発が起こった。
岩の破片が熱風を伴いながら激しく魔法障壁に衝突する。
そして、小さな穴があった壁には、代りに大きな穴が空いていた。
「シャルロットさま、何もありません」
その穴は熱を帯びて真っ赤になっているので、すぐに調べることができない。
しかし、これだけの大爆発で何も出てこないとなれば、脱出路が塞がれていたという線もなさそうである。
「これはフェイクかもね……」
「しかし、ここには誰も隠れることはできません。脱獄したのではないでしょうか?」
オリヴィエは自分が言ったことに自信がなさそうだ。
「看守! すぐに警戒態勢、脱獄犯を捜索して!」
「シャルロットさま、すでに捜索は開始されています」
オリヴィエが看守のかわりに返答した。
「そう、なかなか手際がいいわね。脱獄されなかったらもっと良かったのに」
「はい、申し訳ないです」
「だから、あなたの所為ではないのよ」
シャルロットはこの牢獄から囚人が脱獄したことが信じられないらしく、さらに内側の壁を調べてみたが、当然何も出てこない。
「戦闘レベル18の人間が……、どんな手品を使ったのかしら? まさか彼のステータスはフェイク?」
もし、脱獄犯のステータスがフェイクだったとしても、やはり脱獄は不可能に思える。やはり、彼女の結論は一つしかなかった。
「二人とも、引上げるわよ!」
「「はっ!」」
シャルロットは牢獄を見て一瞬だけニヤリと笑った――
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる