エルフの巫女のガーディアン ~エルフの巫女を護衛するだけの簡単なお仕事って言ったよな?~

玄野ぐらふ

文字の大きさ
37 / 59
第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事

第37話 牢獄大爆発

しおりを挟む
 水の精霊ミスティーが取り出した精霊の卵は、見つけたときよりも大きくなっていた。

「何が生まれるの? ミスティーお姉さん」

 フェルはミスティーに近づき、精霊の卵を観察しはじめた。
 琥珀色で半透明の球体は、まるで宝玉のような光を放っていた。

「フェルちゃん、ごめんなさいね。これは本当の卵ではなくて精霊が冬眠状態になったものなの」

「精霊は冬眠しないよね?」

「動物の冬眠とは違うのよ……休眠と言ったほうが良かったかしら?」

 ミスティーは精霊の卵について説明しはじめた。
 精霊は外部から精霊素エネルギーを吸収できなくなると、省エネモードに形態を変えることがあるらしい。その省エネモードが透明な球体というわけだ。
 精霊たちはその球体のことを精霊の卵と呼んでいる。

「これは何で琥珀色なの?」

「いい質問ね、フェルちゃん。今はそこが重要なの。精霊の卵の色はね、その精霊の属性を表すのよ」

「琥珀色ということは……土属性と言うことかな?」

「その通りよ、フェルちゃん。間違いなくこれは土の精霊よ」

「土の精霊さんの力を借りればこの牢獄から出ることができるのね」

「そうなのよ。だから孵化させないと」

 この場合、卵から孵すわけではないから孵化というのは正しくない。休眠から目覚めさせるというのが正しい表現だが、この際細かいことはどうでもいいのだ。

 先程から何か言いたげだったクラウがミスティーの前に出る。

「どうやってこの卵を孵化するのですか?」

 クラウは精霊の習慣に合わせて孵化と表現した。
 ミスティーはクラウの質問を聞いてニヤリと笑った。その質問を待っていたようだ。

「大量の精霊素が必要よ。わたしはもう限界だから他の人に精霊素を注いでほしいの」

 精霊は自分の体内に精霊素を大量に蓄えることも生成することもできない。その代わり外部から精霊素を取り込んでエネルギーとして使っている。
 それは精霊紋を持つセブンスも同じようなものだった。ミストガルのほとんどの人種は一晩寝たら精霊素が満タンに戻っているのだが……。
 要するに二人ともこのような閉鎖された空間では魔力が制限されてしまうのだ。

「俺もあまり精霊素は残っていないが……」

「それは大丈夫よ。もう少し精霊素を与えれば孵化できるはずだから。それにね、セブンスで孵らなくても巫女さんがいるから大丈夫よ」

 精霊樹の巫女であるセレスティーはハイエルフなのだ。体内に桁違いの精霊素を蓄えることができるし、一晩で総蓄積容量の半分を生成することができる。

「わたしはほぼ満タンよ、ダーリン」
「それなら俺がやってみて足りなかったらセレスティーに頼むよ」
「分かったわ」

 孵化の結果として何が起こっても大丈夫なように、セブンスたちはグラン邸から地下牢へと戻った。グラン邸は最後の砦なので、不確定要素のある実験はするべきではない。

 セブンスは精霊の卵をミスティーから受け取ると、精霊紋のある胸に抱えて精霊素を流し込み始めた。

「それじゃあ早過ぎるわ。もっとゆっくり流し込んで!」
「む、難しいな……これくらいか?」
「まだ早いわ」

 ゆっくりと精霊素を流し込むことが困難なので、セブンスは精霊の卵を精霊紋から少し離してみた。効率は下がるようだが、流れ込む量を制御できるようなので、一メートルほど離して続けた。

「まだかな~」

 フェルが退屈を持て余し始めた時、その異変は起こった。
 精霊の卵は肥大化し続けていたが、バスケットボールよりも大きくなったところでセブンスの手から空中に浮かび、自ら輝きだした。

「ふ、孵化するわよ」ミスティーは同胞に逢えることが楽しいらしい。声が上ずっている。

 精霊の卵は琥珀色の光を放ちながら細かい光の粒に分散し、徐々に再構成されていく。その様子があまりにも美しいので、セブンスたちは時間が経つのも忘れて見入っていた。

 そしてしばらくすると、それは完全体として現れた。

「ここはどこだっ!」

 現れたのは一糸纏わぬ裸体の少女だった。
 だが、様子が変だ。
 その少女の頭部からは黒髪をかき分けて二本の角が生えている。そして、背中には蝙蝠のような羽が見えていた。

「セブンス! この子は精霊じゃないわ!」
「そうだろうな。見れば判るさ」
「おそらく魔族です、セブンスさま!」
「へぇ~、魔族のお嬢さんか」
「ダーリン、大丈夫なの?」
「君を守るのが俺の仕事だからな。任せてくれ」
「ダーリン……」

 セブンスは無駄口を叩きながら、いつでも次元結界が張れるように全員を自分の後ろに誘導した。セレスティーたちもセブンスの意図が分かったようだ。

「如何にもわたしは魔族だ。貴様らだな! わたしをここに幽閉したのは!」
「被害者は君だけじゃない。俺たちも幽閉された口だよ」
「だましても無駄だ。わたしを幽閉したことを後悔させてやる!」
「おい! ちょっと待て!」

 魔族の少女が両手を前に出すと、赤い光の玉が空中に現れ、徐々に大きくなる。

「なんかヤバいぞ。みんな俺の後ろから出るなよ!」

 これが戦いなら、彼女の魔法を受けてやる必要はないが、セブンスは話し合いの余地を残したかったので、彼女の魔法攻撃を受けることにした。

(攻撃が無意味だと解ってくれればいいんだけどな)

 このような狭い地下の牢獄で大爆発を起こせばどうなるか判るだろうに、この少女はそれをやってしまった。

地獄の火炎ヘルフレイム!」
「ばかなっ! ここは地下牢だぞ!」セブンスが叫ぶ!

 まさに大爆発だった――

 その爆発は地上にも達し、巨大なクレーター作った。
 爆炎は地上高く上昇し、一キロメートルにも及ぶきのこ雲を作り、地上に放たれた爆風は森林の木や岩を巻き上げてエルフの町の一部を破壊した。

 セブンスたちは次元障壁で作った五メートル四方のキューブの中に入っていたが、その周りは大量の土砂や岩で埋められていた。

「セブンスさま、障壁の一部を解除してください。外の様子を探査します」
「分かった。でも、小さな穴しか開けられないぞ……これでいいか?」
「それで問題ありません」

 セブンスが明けた直径一メートルほどの円形の窓から土砂が流れ込んできたが、大量に流れ込むことはなかった。

「魔法障壁も結界も吹き飛んだようです」
「誰にも知られずに脱出したかったんだけどな……」
「ごめんなさい。精霊の卵だとばかり思っていたのに……」ミスティーは涙目でセブンスを見つめる。
「仕方ないさ。むしろこれに乗じて脱出することを考えよう。おそらく神官たちは俺たちが爆発で死んだと思うはずだ。そう思われている間に遠くへ逃げよう」
「魔族の少女はどうしますか?」
「生きてるのか?」

 地下牢で爆発系の魔法を使ったのだ。逃げ道はないはず。死んでいても不思議ではない。

「生きています。地上にいますが、移動していません」
「気絶してるのかもな」
「早くここから出たいの、ダーリン。わたし狭い場所が……」

 セレスティーは十六年間もここに幽閉されていたのだ。精神的な限界はとっくに過ぎているはずだ。

「それでは地上に瞬間移動するぞ。みんな俺につかまって!」

 セブンスたちが瞬間移動で地上へ出ると、今まで彼らがいた空間は土砂で押しつぶされた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...