エルフの巫女のガーディアン ~エルフの巫女を護衛するだけの簡単なお仕事って言ったよな?~

玄野ぐらふ

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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事

第39話 陰謀と逃亡

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 マックス・フレッチャーはノルトライン領が誇る魔導士団の団長を務める魔導師であり、ノルトライン辺境伯の私設魔法研究所の所長でもある。
 アルフェラッツ王国とローデシア帝国との戦において幾度となく帝国を退けた彼の功績は非常に大きい。
 フレッチャーの功績は彼自身の魔力が桁外れに強力であることだけで成し遂げたわけではない。彼の才能の本質は魔導士を育てるこに長けているとと、そして柔軟性のある戦術眼にある。
 カーライル男爵が率いる騎士団とフレッチャーの率いる魔導士軍団が相互に手を組んだときの破壊力は並大抵ではなかった。だからこそローデシア帝国を国境付近で撃退することができたし、カーライル男爵と魔導士フレッチャーの功績はアルフェラッツ王国の歴史に名を残すほどのものだった。

 その偉大な魔導師がノルトライン領の東側にあるルクレツィア草原を北東へ向かって馬を走らせていた。

「なんでこんな事になったんでしょうね? お師匠さま」フレッチャーの右側で騎乗しているルッツが言った。彼はすでに何度も同じことを聞いている。
 彼はフレッチャーが指導した弟子の中でも五本の指に入るほどの優秀な人材である。
 
「あんたは何度同じことを聞いたら気が済むの?」

 フレッチャーの左側で騎乗しているのはルッツと同じくフレッチャーの弟子の一人、ビアンカである。ビアンカとルッツは姉弟であり、姉のビアンカはフレッチャーの下にいる弟子の中でも最上位の魔導士である。

「それは説明したはずだがな。まだ不満があるのか? ルッツ」フレッチャーは視線を前に向けたままルッツに問いかけた。
「不満です。納得行かないですよ。お師匠さまが事実無根の罪を着せられたんですよ」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。あんたの話を聞いていると気分が滅入るから黙ってくれないかしら」ビアンカは強い口調でルッツに言った。
「そりゃあそうなんだけど。悔しくて仕方がないんだ。あんなにノルトライン領のために戦ったのに、辺境伯は俺たちを擁護してくれなかったんだぜ」
「辺境伯のことを悪く言ってはいけないよ、ルッツ。我々を逃してくれたのはおそらく辺境伯だからね」
「カーライル男爵ではないのですか? お師匠さま」
「もちろんカーライル男爵も手を貸してくれたが、逃してくれたのは辺境伯だと思う」
「そうでしたか……。申し訳ありません、お師匠さま」
「ルッツのバカタレ!」

 現在、フレッチャーたちの立場はお尋ね者である。
 彼らは、カーライル男爵の次男であるツバサ・フリューゲルを故意に古代遺跡の転移魔法陣で暗黒大陸に転送した疑いがかけられている。暗黒大陸に渡って、あるいは転送されて王国に戻ってきたものは一人もいない。つまり、暗黒大陸に送られることと死刑は等価なのだ。
 第一級殺人……それがフレッチャーたちに掛けられた嫌疑である。

 ことの発端は三日前に遡る――



    ◇ ◇ ◇



 その日、キーハイム城の応接室でノルトライン辺境伯は顔の半分を仮面で隠した金髪碧眼の青年と対峙していた。
 その青年は若くして王国の宰相補佐官に抜擢されたフランツ・ビットマンである。
 彼は幼い時、顔に酷い火傷を負い、顔の左側を仮面で隠している。
 ビットマンが被る仮面は、意図したものなのか人の注目を集めやすく、それが宰相補佐官に任命された主因ではないかと揶揄する人間があとを絶たない。
 だが、その不当な評価さえも仮面が人の心に強烈な印象を与えた結果なのだということを、彼を批判するライバルたちは気がついていない。

「お忙しいところ、時間を頂き誠にありがとうございます、ノルトライン辺境伯さま」
「うむ、よく来てくれたなビットマン。今日の会談はいつもの領地の査察とは別の件なのだろう。お互いに忙しい身だ。単刀直入に要件を話してくれないか」
「さすが辺境伯さまです。話が早くて助かります」ビットマンは恭しく頭を下げた。

 ビットマンの態度は礼儀正しいといえばその通りなのだが、何故か彼の一挙手一投足が辺境伯の心を逆撫でる。もしかしたら、これも仮面の効果なのかもしれない。

「今日こちらに参りましたのは、カーライル男爵さまのご子息が行方不明になった件の事実確認をさせて頂きたいからです」

 その件でビットマンが会談を申し込んできたことは、辺境伯は事前に掴んでいた。

「といいますのは、我々王国監査団は今年度のノルトライン領監査をする傍ら、ツバサ・フリューゲルさまの失踪事件について調査するようにマティウス王より勅命を受けているからです」

 ツバサ・フリューゲルはノルトライン領では有名な少年剣士である。しかし、王国とすればツバサはたかが男爵の次男でしかない。それなのにマティウス王は何故ツバサの失踪事件を気にかけるのだろうか? 辺境伯はマティウス王の勅命に胡散臭いものを感じていた。
 実際、この事件には勇者ガイル・アロンソが絡んでいるのである。百戦錬磨の辺境伯にも一抹の不安が心をよぎった。

「そんなこと今更確認せずとも、貴公は調査済みなのであろう?」
「はい、もちろんでございます。小職の調査によると、カーライル男爵が率いる調査隊が、ツバサ殿が最後に目撃されたルクレツィア草原ならびにエルカシス遺跡を三週間ほど捜索したところ、足取りは掴めなかった……と」
「ツバサと一緒に目撃されたのが誰だかわかったのか?」
「いえ……。男性一人と女性二人としか判っておりません」
「ツバサが目撃されたのに一緒にいた人間が誰かわからないとは妙なものだな。貴公もそう思わぬか?」
「ツバサさまは父上のカーライル男爵の次に強いと言われている剣豪であります。有名人の周りに侍る一般人の顔など、誰も覚えておりますまい」
「まあそうだな。しかしな、貴公は巧妙に誤魔化そうとしていないか?」
「とんでもございません、辺境伯。わたしは調査した結果を忠実に述べているに過ぎません」
「それでは問おう。一般人ではなく、有名人が二人だったらどうだ? もう一人の有名人のことは忘れてしまうのだろうか?」
「有名人と言っても、どれだけ印象に残るかどうかの問題ですから……。ツバサさまに匹敵する有名人は、このノルトライン領では限られてしまいますが……。どなたになりますでしょか?」

 この男、再び巧妙に話を逸らそうとしていると、辺境伯は思った。
 辺境伯は有名人としか言っていないのに、ノルトライン領内であるという条件を追加している。

「ふん、まあよい。それではエルカシス遺跡の転移魔法陣についてはどう考える? あれは五十年以上使われていなかったものだが、最近になって使われた痕跡がある」

「ツバサさまが転移魔法陣で暗黒大陸へ転送されたという説でございますね。調査した結果、あの転移魔法陣を起動できる人間は先程の有名人問題よりも更に限りがあります」
「はっきり言っても構わないぞ」辺境伯は我が意を得たと、口元が綻んでしまった。

 ノルトライン辺境伯は、ビットマンの口から勇者ガイル・アロンソの名前が出ることを確信していた。

「魔法研究所の所長であるマックス・フレッチャーならば起動できるという調査結果がでております」
「な、なんだと……」

 辺境伯にとっては青天の霹靂だった。まさかここで身内であるフレッチャーの名前が出るとは、まったくの予想外である。
 だが、よく考えてみると、フレッチャーは辺境一の魔導士なのだ。転移魔法陣を起動できるだけの魔力量を持っていても不思議はないし、辺境伯には心当たりもある。

「辺境伯さま。事件の捜査には鉄則があるのはご存知でしょうか?」
「わたしは素人なのでな、そのような鉄則については知らん」
「はい、それは『第一発見者を疑え』であります」
「う~む、そう来たか……」

 ツバサ・フリューゲルは死体として発見されたわけではないので、その発見者という意味ではない。この場合、ビットマンはエルカシス遺跡の転移魔法陣が使用された痕跡を見つけた第一発見者のことを言っているのだ。

「転移魔法陣が使用された痕跡を発見したのはマックス・フレッチャー殿に相違ございませんか?」
「間違いない。フレッチャーがその痕跡を発見した」
「我々はフレッチャー殿が転移魔法陣を起動できると考えていますが、それについて異論はございますか?」
「いや……、異論はない」

 辺境伯はフレッチャーが無実であることが判っているし、信じている。だから、フレッチャーが取り調べされても何の不都合もないはずだ。
 だが、ビットマンは胡散臭い。それは決して彼の仮面の印象から来るものではない。
 今までに経験したことがないほど、ノルトライン辺境伯の心の中では最大級の警告音が鳴り響いていた。

「それでは早急に、マックス・フレッチャーの身柄を取り調べのために拘束する許可をいただきたいのですが」
「いいだろう。だがその前にわたしからフレッチャーに直接尋問する。その後、貴公に身柄を引き渡そう。それでよいな」
「御意に」

 こうして、ノルトライン辺境伯とビットマン宰相補佐官の会談は終わった――



【後書き】
 ここから第2部のはじまりです。
 今の執筆ベースだと週に2回は投稿できると思います。
 次回は木曜日に投稿できたらいいなぁ~(笑)
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