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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第42話 亡命者捕縛計画
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「あの女はもう駄目だな。散々いい思いをさせてやったのに」
ガイル・アロンソは部屋着を整えながらソファーに座った。
それを見ているフランツ・ビットマンの表情は冷ややかだ。もっとも、彼は顔の左半分を仮面で覆っているので、表情が捉えにくい。
「辺境伯の娘なので使い道があったんですけどね」
少女の精神を破壊してしまったことは、彼らにとってただの余興に過ぎないようだ。
もっとも、彼らの王国人民に対する数々の惨たらしい行為に比べたら、辺境伯の娘といえども一人の少女に対する行為は些末な問題でしかない。
「まあいいさ。王国を牛耳るにはまだ勢力不足だが、すでに北方と南方は抑えてあるし、この地もじきに落ちるだろう」
「そうは言ってもフレッチャーを味方にできなかったのは痛いですよ。計画の大幅な修正が必要です。アロンソさまがあんな子供にちょっかい掛けるから」
マックス・フレッチャーを味方につけることは、彼らの中では再優先事項であった。ところが、アロンソの戯れによって、それまでの裏工作が失敗してしまった。
「ふん、どうせ辺境伯も丸め込むんだろう。ちょっと道草を食っただけだ」
「丸め込むとは人聞きの悪い。わたしは人の深層心理を探って、ちょっとだけ押してやるだけです。まあ、強いて言えば話術の類」
「話術だと? そんな可愛いもんかね? まさか俺にも何かしているんじゃないだろうな?」
「もしそうだとしても、わたしはアロンソさまの意思を捻じ曲げるようなことはしていません」
アロンソはビットマンを睨みつけているが、一向に動じた様子はない。
「まあいいさ。今はお前の計画に乗ってやる」
「ありがとうございます。それでこそアロンソさまです」
「それで、本題があるんだろう?」
「おっと失礼。大事な報せがありました」
「もったいぶらずに教えろ」
「フレッチャーが逃亡しました」
「何だとっ!」
「帝国方面へ逃げたようです。すでに捕縛部隊が編成されて追跡しています」
「仕事が早いな。お前がやらせたのか?」
「いえ、そのような権限は持ち合わせていません。辺境伯さまにちょっと進言しただけですよ」
「それならばお前がやらせたのと同じようなものだろう」
「まったく違います。誤解無きよう」
「まあ、それはいい。帝国方面へ逃げたということは、亡命するつもりか?」
「それしか考えられませんね」
「たった一人の少年剣士のために地位も名誉も失うとは。哀れだな、フレッチャーめ」
「あなたがそれを言いますか」
「お前の発案だろうが」
「あなたを救うためにやったことです」
ビットマンは心外だというふうに、両手を広げてみせる。
「そうだったな。それにしても帝国に逃げ込まれると、後が厄介だな」
フレッチャーは王国でも稀代の魔導士だ。辺境一と言われているが、実際のところは王国最強の魔導士だと噂されている。
彼を自分の手駒にできなかったことが、今後の計画に悪影響を及ぼすことくらいアロンソには解っていた。何しろアロンソは王国を手中に収めた後、帝国を侵略する計画を立てていたからだ。
「フレッチャーは辺境最強の魔導士ですからね、簡単には捕縛はできません」
「人質を使うか?」
「さすがアロンソさまです。悪知恵が働きますね、クックック」
「バカにしてるのか?」
「そんな事はありません。わたしと発想が同じなので嬉しかっただけです」
「と言うことは、調査済みなんだな」
「フレッチャーはああ見えて非常な人間です。知り合い程度を人質にとっても、眉さえも動かさないでしょう」
「人質候補は居ないのか?」
「宮廷魔導士……、ひょっとしたら人質に使えるかもしれませんが」
「時間もないし、難易度が高過ぎる……」
マックス・フレッチャーに肉親はいないし、非常時には冷酷に人を見放すことができる人間だ。彼と戦ったことがある経験者なら誰もがそれくらい知っている。
そのことがガイル・アロンソには不思議でならなかった。
――あいつは俺以上に騎士や兵士を死に追いやっている。なのに何故、あんなにも慕われているんだ……。
「フランツ! 捕縛部隊はどのくらいの規模なんだ?」
「およそ三千人の連隊規模です」
三千人を一日で動員することは、他の辺境地では難しいはずである。だが、ノルトライン領は帝国と接している紛争地帯がある。このくらいの規模の連隊ならすぐに編成できる。
「それだけで、捕縛できるのか?」
「難しいでしょうね。かなりの被害が予想されます」
「とうぜん手は打ってあるんだろうな?」
「もちろんです。暗黒砦に常駐しているギガース魔法師団と挟み撃ちにします」
「それは面白い。孤高の魔導士マックス・フレッチャー対アルフェラッツ王国最強の魔法師団の戦いが見れるのか? 絶対に近くで観戦したい」
「もちろん、アロンソさまには観戦していただくつもりです。このような戦いは帝国との争いでもなかなか見ることができませんからね」
ツバサ・フリューゲル失踪事件の後始末で計画が頓挫しかけていたことにより、アロンソは不満が鬱積していた。ところが、ここに来て面白い余興が始まろうとしている。
「なんだか楽しくなってきたぞ!」
ガイル・アロンソは部屋着を整えながらソファーに座った。
それを見ているフランツ・ビットマンの表情は冷ややかだ。もっとも、彼は顔の左半分を仮面で覆っているので、表情が捉えにくい。
「辺境伯の娘なので使い道があったんですけどね」
少女の精神を破壊してしまったことは、彼らにとってただの余興に過ぎないようだ。
もっとも、彼らの王国人民に対する数々の惨たらしい行為に比べたら、辺境伯の娘といえども一人の少女に対する行為は些末な問題でしかない。
「まあいいさ。王国を牛耳るにはまだ勢力不足だが、すでに北方と南方は抑えてあるし、この地もじきに落ちるだろう」
「そうは言ってもフレッチャーを味方にできなかったのは痛いですよ。計画の大幅な修正が必要です。アロンソさまがあんな子供にちょっかい掛けるから」
マックス・フレッチャーを味方につけることは、彼らの中では再優先事項であった。ところが、アロンソの戯れによって、それまでの裏工作が失敗してしまった。
「ふん、どうせ辺境伯も丸め込むんだろう。ちょっと道草を食っただけだ」
「丸め込むとは人聞きの悪い。わたしは人の深層心理を探って、ちょっとだけ押してやるだけです。まあ、強いて言えば話術の類」
「話術だと? そんな可愛いもんかね? まさか俺にも何かしているんじゃないだろうな?」
「もしそうだとしても、わたしはアロンソさまの意思を捻じ曲げるようなことはしていません」
アロンソはビットマンを睨みつけているが、一向に動じた様子はない。
「まあいいさ。今はお前の計画に乗ってやる」
「ありがとうございます。それでこそアロンソさまです」
「それで、本題があるんだろう?」
「おっと失礼。大事な報せがありました」
「もったいぶらずに教えろ」
「フレッチャーが逃亡しました」
「何だとっ!」
「帝国方面へ逃げたようです。すでに捕縛部隊が編成されて追跡しています」
「仕事が早いな。お前がやらせたのか?」
「いえ、そのような権限は持ち合わせていません。辺境伯さまにちょっと進言しただけですよ」
「それならばお前がやらせたのと同じようなものだろう」
「まったく違います。誤解無きよう」
「まあ、それはいい。帝国方面へ逃げたということは、亡命するつもりか?」
「それしか考えられませんね」
「たった一人の少年剣士のために地位も名誉も失うとは。哀れだな、フレッチャーめ」
「あなたがそれを言いますか」
「お前の発案だろうが」
「あなたを救うためにやったことです」
ビットマンは心外だというふうに、両手を広げてみせる。
「そうだったな。それにしても帝国に逃げ込まれると、後が厄介だな」
フレッチャーは王国でも稀代の魔導士だ。辺境一と言われているが、実際のところは王国最強の魔導士だと噂されている。
彼を自分の手駒にできなかったことが、今後の計画に悪影響を及ぼすことくらいアロンソには解っていた。何しろアロンソは王国を手中に収めた後、帝国を侵略する計画を立てていたからだ。
「フレッチャーは辺境最強の魔導士ですからね、簡単には捕縛はできません」
「人質を使うか?」
「さすがアロンソさまです。悪知恵が働きますね、クックック」
「バカにしてるのか?」
「そんな事はありません。わたしと発想が同じなので嬉しかっただけです」
「と言うことは、調査済みなんだな」
「フレッチャーはああ見えて非常な人間です。知り合い程度を人質にとっても、眉さえも動かさないでしょう」
「人質候補は居ないのか?」
「宮廷魔導士……、ひょっとしたら人質に使えるかもしれませんが」
「時間もないし、難易度が高過ぎる……」
マックス・フレッチャーに肉親はいないし、非常時には冷酷に人を見放すことができる人間だ。彼と戦ったことがある経験者なら誰もがそれくらい知っている。
そのことがガイル・アロンソには不思議でならなかった。
――あいつは俺以上に騎士や兵士を死に追いやっている。なのに何故、あんなにも慕われているんだ……。
「フランツ! 捕縛部隊はどのくらいの規模なんだ?」
「およそ三千人の連隊規模です」
三千人を一日で動員することは、他の辺境地では難しいはずである。だが、ノルトライン領は帝国と接している紛争地帯がある。このくらいの規模の連隊ならすぐに編成できる。
「それだけで、捕縛できるのか?」
「難しいでしょうね。かなりの被害が予想されます」
「とうぜん手は打ってあるんだろうな?」
「もちろんです。暗黒砦に常駐しているギガース魔法師団と挟み撃ちにします」
「それは面白い。孤高の魔導士マックス・フレッチャー対アルフェラッツ王国最強の魔法師団の戦いが見れるのか? 絶対に近くで観戦したい」
「もちろん、アロンソさまには観戦していただくつもりです。このような戦いは帝国との争いでもなかなか見ることができませんからね」
ツバサ・フリューゲル失踪事件の後始末で計画が頓挫しかけていたことにより、アロンソは不満が鬱積していた。ところが、ここに来て面白い余興が始まろうとしている。
「なんだか楽しくなってきたぞ!」
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