エルフの巫女のガーディアン ~エルフの巫女を護衛するだけの簡単なお仕事って言ったよな?~

黒野ぐらふ

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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事

第53話 激突の序章

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 王国第三魔法師団は強力な魔力放射を放った謎の集団を捕らえるために、三方向から囲いにかかった。
 もちろん、マックス・フレッチャーを誘き出すための布石だ。

「妙だ……」
 あれほど強力な魔力放射が感じられなくなった。
 団長のカトラスが〈お客さん〉の異変に気づいた。
「どうしやした兄貴?」
 副団長のエリアスは、相変わらずカトラスを団長とは呼ばない。
「魔力放射が突然消えた」
「ということは、罠……でもなさそうでやすね」
「魔力探信《ピンガー》で俺たちの存在が気づかれたにしても妙だ」
「魔力放射を消せるなら、初めから消しておけよってことですかい?」
「ああそうだ。それが出来ない理由が思いつかん」

 カトラスの読みどおり、フレッチャー達より先に〈お客さん〉との接触に成功した。
 だが、彼の思いとは違い、〈お客さん〉はたった二台の馬車隊だった。

 ――あの魔力放射からは武装集団を想定していたんだがな。

 カトラス達は商隊の前に立ちはだかり、進行と止まらせた。
「ちょっと停まってくれ。我々はアルフェラッツ王国の第三魔法師団だ。私は団長のカトラス。あなた達は王国の商隊か?」

 商隊が停まると、先頭の箱馬車から商人らしき二人が出てきた。
「はい、私はロマニア商会のビリーと申します。私達は帝国で仕入れた商品を王都まで運んでいるところでございます。もちろん、特別通商許可を受けております」

 ビリーという青年に促されてもうひとりの商人が特別通称許可証を差し出してきた。
 それをエリアスが受け取り、中身を調べ始める。
「それでは、急ぎのところ悪いが荷物を検めさせてもらうぞ」
「承知しました」

 カトラスは他の部下に積荷の検閲を指示した。
 馬車二台の検閲だ。たいして時間はかからないだろう。

 それよりも気になるのが、ビリーという商人だ。彼は見た目に反して老獪な大商人を連想させる。
 カトラスはその商人をよく視た。

 ――商人だと? ふざけるな。お前の色は商人の色じゃない。

 この世界の生命体は魔力が使えなくても魔力を放射する。
 カトラスはそれを共感覚で色と認識するが、その色の違いから職業や精神的な格の違いが判るのだ。
 例えば商人の魔力放射はカトラスの共感覚に赤系と認識される。
 だが、ビリーの色は金色と認識された。

 ――王族か?

 カトラスは怪しい商人から一旦離れてエリアスを呼んだ。
「この通商許可証は正規のものですぜ兄貴」
「そうか……ところでエリアス、お前は王族に詳しいか?」
「あっしのような底辺の魔導師が王族を知ってるわけないっす」
「魔法師団に入った時点で底辺ではないと思うがな」
「それよりも、何か問題でもありやしたか?」
「あの商人は王族かもしれない」
「王族……見たことないっすね」
「王族がお忍びで帝国へ行っていた? それも考え難いな」
「帝国から来たのなら皇族ってこともあるかもしれやせんね」
「突飛な発想のように思えるが……。何れにせよ、何かの陰謀に関わってしまったのかもしれんな」
「怪しい匂いがプンプンしやす」
「そうか、獣人は文字通り鼻が効くんだったな」
「当然のことでやす」
 人狼エリアスの鼻と耳がピクピクと動いた。

 部下たちが検閲をしている間、カトラスは商人達を集めた。
「ビリー殿、ロマリア商会はどの町に本店があるのだ?」
「王都の南にあるベッセルとうい町です。王都にあるのは支店ですが、いずれは本店になると思います。」
「なるほどね。それから、直接全員と話がしたい。名前と職業を教えてくほしい」
「承知しました。それではオルテガから自己紹介をしてくれ」
 ビリーは壮年の商人を最初に指名した。
「同じくロマリア商会のオルテガです」

 ――この男は間違いなく商人だ。おそらくロマリア商会も実在するんだろうな。

 そして次は町娘風の少女だ。
「私はロマリア商会でご奉公させて頂いているリリーと申します」

 ――この娘もビリーと同じ系統の色だな。王族の色を持つ人間が商隊の中に二人もいるだと……。

「奉公人? 本当にそうか?」
「リリーは美少女なので勘違いされやすいのですが、紛れもなくロマリア商会の奉公人でございます」
 勘違いしているのはビリーの方だ。
 カトラスが疑っているのは外見の美しさではない。その中身の色だ。
「まぁ、いいさ。次は?」

「俺は冒険者のレオンといいます。他の三人も冒険者で、俺がリーダーをしています」
 レオンはかなりいい体格をしている。冒険者として違和感がない。
 ただ、精神の在り方は色に出る――

「冒険者パーティーか? 名称があるなら教えてくれ」
「名称はありません。急ごしらえなものですから」
「どこを本拠地にしているんだ?」
「最近は王都の南にあるグリーンナットをねぐらにしています」
「グリーンナットというとバーリンゲン伯爵の領地だったか?」
「閣下、バーリンゲン子爵でございます」
 答えたのはレオンではなくビリーだ。
「おっと、失礼した」

「それにしてもあんたはいい剣を持ってるな。見せてくれないか?」
「使い古した剣ですが……」
 レオンが一瞬だけ躊躇したところをカトラスは見逃さなかった。
 彼が腰に佩いている剣は、柄も鞘も使い古されていて、とても上等な剣には見えなかった。

 レオンは腰から剣を外してカトラスに手渡した。
「ほう、魔法剣か……」
 カトラスは剣を抜いて切っ先を空に向けた。
「物理耐久力向上、魔法耐久力向上、刃こぼれ自動修復……主君を守るにはいい剣だ」
 レオンの眉が一瞬ピクリと動いた。
 魔法剣に与えられた魔法が、カトラスに看破されたからだ。
「だが、冒険者の剣じゃない」

 ビリーとレオンに緊張が走る。しかも、レオンは魔法剣をカトラスに渡してしまっている。
 だが、何も起きなかった。
「いい剣を見せてもらった」
 カトラスは笑みを浮かべて剣を鞘にしまい、レオンに返した。

「積み荷の割には護衛が多いな」
「魔獣に対抗するための最低人数です」
「馬車一台につき護衛が二人……。確かに多いとは言えないか」
 現在、王国と帝国は休戦状態にあり、両国を結ぶ街道には魔獣が出没するようになった。
 護衛なしの行商はありえないのだ。


「ビリー殿、よく判ったよ」
 カトラスは笑顔でビリーに言った。
「それは良うございました」
 ビリー達の表情が緩む。

「エリアス、全員下がらせろ!」
「ガッテンでやす!」
 エリアスの指示で魔法師団がカトラスから離れだした。
 再びビリー達に緊張が走る。

「カトラス様、私どもに何をするおつもりですか? 何か粗相があったのならば謝罪いたしますので、何卒ご容赦を」
「粗相ねぇ~。あんたらは怪しすぎるんだよ。だが証拠がない」
「怪しいと言われましても嘘はついておりません」
「あっ、また嘘ついたな。あんた……王族だろう。もしかしたら皇族かもしれん」
「そ、そんなことはございません」
「まあ、あんたが王族かどうかはこの際どうでもいいんだ」
「待ってくださいません。私どもは王族とも皇族とも何の縁もありません。話し合いで済むことならば……」
「ビリー様、お待ちください」
 オルテガが横から割り込んできた。
「オルテガさんは本物の商人のようだな。この場合、商人ならば取引を持ちかけるのが筋だろう、ビリーさん?」
「うっ……」
「別に命をとろうという訳じゃない。ちょっとだけ大人しくしてほしいだけだ」
 それは嘘ではない。カトラスとしては高貴な方達の陰謀に巻き込まれるつもりはないからだ。
 あくまでも彼の目的はマックス・フレッチャーの捕縛か時間稼ぎ。そのための囮が必要なのだ。
 
 そしてカトラスは彼らから少し離れた。
 あまり近くで魔力探信《ピンガー》を打つと、流石に死人が出る可能性があるからだ。

 護衛の冒険者達が武器を手にして構える。
 ビリーの方を向いて指示を待っているようだが、ビリー自身がどうしていいのか判らないようだ。

「さて、何人立っていられるかな?」
 カトラスから溢れる魔力放射で、冒険者のレオンが叫んだ。
「まさかお前は殲滅の悪魔か!」
 レオンは先の戦争に参加して、王国の魔法師団と対峙したことがある。
 その時に散々苦しめられた魔法師――それがカトラスである。
「その名で俺を呼ぶということは、お前らは帝国の人間だな」

 カトラスはニヤリと笑って魔技を発動する。
「魔力探信《ピンガー》!」
 強力な魔力の波が偽装商隊に向けて放射された。
 魔法が使えない者さえも、頭を抱えて悶絶しながら次々と倒れていく。
 魔力探信《ピンガー》は本来レーダーのように周囲の探知に使うカトラスの魔技であるが、それの直撃を間近で受けると魔力器官が揺さぶられて激痛が走り、殆どの人間は気絶する。

 魔力探信《ピンガー》が終わったのは約十秒後――

 だが、倒れないどころか何が起こっているのか理解できていない者が一人だけいた。
「み、みなさん! どうされたのですか?」
 奉公人の少女が倒れた仲間達の傍でオロオロとしている。

「やっぱり、姫様だけには効果がなかったか」

 もちろん、この時点でカトラスはその少女の正体を知らない。
 だが、それはどうでも良いことだ。彼女の能力と、彼女が首から下げているネックレスさえ押さえれば、カトラスの当初の目的は達成される。

【後書き】
ここから物語は急展開していく予定です。
楽しんでいただければ幸甚なのですが。
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