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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第54話 フレッチャー vs カトラス
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帝国の偽装商隊は王国第三魔法師団のカトラス団長が放った魔技――魔力探信――によって、全員が昏倒したかのように見えた。
だが、そこには仲間を心配してオロオロと佇む少女の姿があった。
総勢百人ほどの魔法師団を見て、その少女は恐怖に震えていた――
「ご奉公のお嬢さん……リリーさんでしたか。貴女だけが平然としているのはな何故でしょうか?」
ロマリア商会の奉公人が嘘だと知りながら、カトラスはプレッシャーをかける。
彼の目的は彼女が持つ強力な魔力放射の秘密、そして彼女が身に着けている魔道具だ。
おそらくネックレスが魔力放射を抑える魔道具なのだとカトラスは思っていた。
おそらく研究バカのフレッチャーも食いついてくるはずだ。
「わ、私には解りません。何故このような御無体なことをなさったのですか? いくら魔法師団といえども許されることではありませんわ」
「確かにそうですね。理由もなしにこのようなことをやったらただの狂人です」
「納得の行く釈明ができるのでしょうね!」
リリーと名乗る少女は、先ほどとは打って変わって声を荒げた。
それはとても奉公人に思えない態度だが、本人は全く気がついていない。
カトラスは気の強い女性が好きだが、少女は趣味ではない。しかし、年齢に似つかわしくないリリーの毅然とした態度に好感を持った。
――やはり皇族か、その姻戚関係にあるお姫様だな。あと十年もすれば立派なレディーになるだろう。
だがこの際、カトラスにとって彼らの正体は重要ではない。
あくまでもフレッチャーの囮としての役割しかないからだ。
こうしている間にもエリアスの指示で偽装商隊は魔法師団によって次々と縛り上げられていく。
「あなた達を拘束した理由は貴女が思っている理由とだいぶ違うと思いますよ、お姫様」
カトラスはリリー達の正体が理由で捕縛したのではないと言っている。だが、彼女にはそれを理解するだけの余裕がない。
「でもね、そんなに心配しなくても大丈夫です。案外解放は早いかもしれませんよ」
そしてゆっくりとカトラスは振り返った。
振り向いた先には三十代後半と目される壮年の魔法使いが立っていた。
「待たせたな、カトラス君」
「お久しぶりでございます、フレッチャー様」
――まさか一人で逃げて来たのか? たしかに仲間と逃げたという情報はなかったが……。
「カトラス君、敬語はやめてくれないか。昔のように話したい」
「了解したマックス。なんで俺がここにいることが判った?」
「あれほど強力な魔力波は君にしか放てないからな。相変わらずとんでもない魔技だ」
――ここまでは狙い通りだ。出会い頭の戦闘は避けたいからな。
「俺の存在を認識しているのに、何で現れたんだ? 逃げる選択肢もあっただろ?」
カトラスの思惑通りプランAは進行している。つまり、時間稼ぎだ。
「もちろんそれも考えた。君と戦うことになったら面倒だからな。だが、君が悪い。面白そうな餌を垂らすから」
――偶然なんだよ、この餌を見つけたのは。
リリーの強力な魔力放射をフレッチャーも探知していた。これも予定通りだ。
そしてカトラスの都合の良いことに、フレッチャーはリリーの存在をカトラスが用意した餌だと勘違いしてくれた。
「それに釣られる方も悪いだろ、マックス」
「そうとも言うな」
――なんでこんなに余裕なんだ? こちらには第三魔法師団がついてるんだぞ。
いや、こいつは昔からそうだった……。
「お前は自分の立場が解っているのか?」
「たぶん解っている」
「それなら大人しく捕まれ!」
「力ずくで捕まえてみたらどうだ? 君の主義だろう?」
フレッチャーの目が、カトラスの後方で控えている第三魔法師団を捉えた。
――それができりゃ苦労しない。正直言って、全員でかかっても俺達は半壊する。
「俺は平和主義者だからな。力で捻じ伏せるのは嫌いなんだよ」
「そこで転がっている〈お客さん〉は力で捻じ伏せたんじゃないのか?」
「帝国からのお客さんだから丁重に扱っただけだ。それにな、平和主義ってぇのは、相手によって変化するんだよ」
「ずいぶんと都合のいい主義だな」
「ああ、世の中はそんなもんだ」
――後どれだけ時間稼ぎをすればいい……逃亡の理由を訊いてみるか。
「それよりもマックス、何で人を殺した? 相手は剣豪カーライルの息子だと聞いている」
「それは冤罪だ。ガイル・アロンソという名の勇者にはめられた。それに、ツバサは生きている」
――ツバサだと? カーライル男爵の息子の名前か? そいつが生きているって?
「冤罪なら何故逃げた。堂々と戦えばいいだろう?」
「君は証拠なしに法廷で勇者と戦えると思うかい? それがどれだけ無駄なことか、解らないカトラス君ではあるまい?」
――まあ、そうだな。その状況なら俺でも逃亡を選択する。だが、どうでもいいことだ。
アルフェラッツ王国では、勇者は必要以上に優遇されている。それはカトラスにも謎だった。
「そう仰いますがね。こんなところに来て冤罪の証拠があるとは思えないがな」
――何を考えているマックス・フレッチャー。お前が無意味なことをするはずがない。
「証拠は暗黒大陸にある」
「暗黒大陸だと……お前は俺を馬鹿にしてるのか? 暗黒大陸へ行って帰ってきた奴は一人もいねぇんだよ。そんなところに証拠が……」
――待てよ……。エルカシス遺跡には罪人を暗黒大陸へ転送するための転移魔法陣があったという。だが、あれは遺跡だ……。
「何か思い出したようだな、カトラス君」
「さあな……」
――まだ捕縛隊は来ないのか? さっきの魔力探信《ピンガー》ではフレッチャーの近くまで追いついていたはずなのに。
『兄貴……、まだ来ませんぜ』
エリアスが心配そうにカトラスに耳打ちをする。
彼は獣人なので狭い範囲ならば魔法を使わなくても生命体の探知ができる。
もし、焦って探知系の魔法を使えば、カトラスの企みがフレッチャーに気づかれてしまうだろう。ここは我慢のしどころだ。
『戦いやすか?』
『……いや、戦わねぇ。今のところプランAは上手く行っている。プランBは使わなくても済みそうだ』
「プランBとは何だ?」
「聞いてやがったのか!?」
「いや、君の唇を読んだ。残念ながら、そこしか判らなかった」
――なんて奴だ! そんな特技があるなんて初めて知ったぞ。
「プランBとは……な、泣き落としだ……」
カトラスにとってプランBは人質を利用した時間稼ぎだったが、この際、エリアスの冗談に付き合うことにした。
「ほう」
フレッチャーは右手で顎を擦りながらカトラスを見つめた。
「俺を蔑んだ目で見るな!」
「私はいつもこんな目だ。もし、そう見えるのならば、それは君自身のせいだ」
「うっ……」
「私はね、感心したんだよ。その発想は私にはない」
「やっぱり俺を馬鹿にしてるだろ?」
「それで……泣き落としとはなんだ?」
――こいつ、判ってて突っ込んできやがる。
「え~い、やめだやめだ!」
カトラスはリリーの腕を引っ張って、フレッチャーの前に突き出した。
つまり、プランCの発動である。
「人質か?」
「この娘がどれだけお前にとって重要な人物か判ってるよな?」
フレッチャーはリリーの前に立ち、仰々しく跪いた。
「ご無沙汰しております。ローデシア帝国第五皇女、アーデルハイト殿下」
「お久しぶりですね。アルフェラッツ王国首席宮廷魔導師マックス・フレッチャー様」
二人の間に和やかな空気が流れる。
お互いに顔見知りのようだ。
「アーデルハイト殿下、今は宮廷魔導師ではないのです。訳あってノルトライン辺境伯様に仕えております」
「まあ、そうでしたの。積もる話もありますし、ゆっくりとお話したいところですが、残念ながら今は囚われの身なのです」
フレッチャーが立ち上がり、カトラスを睨んだ。
「カトラス君、これはどういうことだね」
「何をとぼけてんだ! お前は分かって言ってるだろ!」
カトラスは怒りに震えた。
フレッチャーと話すと自分のペースが崩れる。カトラスも解っているのだが……。
「さあ、何のことやら」
「貴様……」
カトラスはフレッチャーを目の前にすると冷静で居られない。
何もかもが陰謀であり、彼の掌の上で踊らされているように感じてしまう。
「フレッチャー様、お願いでございます。私達をお助けて下さい!」
アーデルハイトの願いに、フレッチャーは悲しい表情で応える。
「アーデルハイト殿下、残念ながら……」
「そ、そんな……」
「すでに助かっている人を助けることはできないのです」
「「えっ!」」
アーデルハイトだけでなく、カトラスもフレッチャーの言動に驚きを隠せなかった。
フレッチャーは黙ってカトラスの後ろを指差す。
敵が目の前にいるのに、カトラスは思わず振り返った。
そこには地面から生えた蔓のようなもので雁字搦めになったカトラスの部下達の哀れな姿があった。
「エリアス、お前まで……」
情けない顔でエリアスはこちらを見つめているが、彼らは首も締められているので声を出すことができない。
カトラスがフレッチャーと対峙する勇気を持てたのは、第三魔法師団全員で戦えば勝算があると考えていたからだ。
実際にフレッチャーと戦うことになった時のための作戦もあった。
ところが、その前提が崩れた。
――俺一人ではフレッチャーに勝てない……。
そこにカトラスを突き飛ばして、アーデルハイトがフレッチャーの前に出た。
「フレッチャー様! お慕いしております」
つまり、アーデルハイトはフレッチャーが大好きだと言ってるのだろう。
ひょっとしたら、彼女が王国に侵入したのはフレッチャーに逢うためなのかも知れない。
だが、アーデルハイトの好意をフレッチャーは聞かないことにした。
そして、そこにルッツが元気いっぱいで現れた。
「お師匠様! 作戦どおりですね!」
「首尾よくいったようだな、ルッツ」
百人ほどの第三魔法師団を一気に捕縛したのはビアンカの捕縛魔法――茨姫――である。
おそらくこの魔法はかなりの魔素を消費するのだろう。
ルッツと対象的に、ビアンカがぐったりとしてルッツに支えられている。
「ビアンカも、よくやったな」
「……はい、お師匠様」
「カトラス君、時間稼ぎに付き合ってくれて、本当に感謝するよ」
「よくもやってくれたな……フレッチャー」
いつも無表情なフレッチャーがニヤリと笑ったように、カトラスには思えた。
無駄話をして時間稼ぎをしていたのはカトラスではなくフレッチャーだった――
「ようやく君と一対一で戦える舞台が調った。もちろん戦ってくれるよね、カトラス君?」
明らかにカトラスは怯えていたが、勇気を振り絞って言った。
「俺は平和主義者なんだ……」
だが、そこには仲間を心配してオロオロと佇む少女の姿があった。
総勢百人ほどの魔法師団を見て、その少女は恐怖に震えていた――
「ご奉公のお嬢さん……リリーさんでしたか。貴女だけが平然としているのはな何故でしょうか?」
ロマリア商会の奉公人が嘘だと知りながら、カトラスはプレッシャーをかける。
彼の目的は彼女が持つ強力な魔力放射の秘密、そして彼女が身に着けている魔道具だ。
おそらくネックレスが魔力放射を抑える魔道具なのだとカトラスは思っていた。
おそらく研究バカのフレッチャーも食いついてくるはずだ。
「わ、私には解りません。何故このような御無体なことをなさったのですか? いくら魔法師団といえども許されることではありませんわ」
「確かにそうですね。理由もなしにこのようなことをやったらただの狂人です」
「納得の行く釈明ができるのでしょうね!」
リリーと名乗る少女は、先ほどとは打って変わって声を荒げた。
それはとても奉公人に思えない態度だが、本人は全く気がついていない。
カトラスは気の強い女性が好きだが、少女は趣味ではない。しかし、年齢に似つかわしくないリリーの毅然とした態度に好感を持った。
――やはり皇族か、その姻戚関係にあるお姫様だな。あと十年もすれば立派なレディーになるだろう。
だがこの際、カトラスにとって彼らの正体は重要ではない。
あくまでもフレッチャーの囮としての役割しかないからだ。
こうしている間にもエリアスの指示で偽装商隊は魔法師団によって次々と縛り上げられていく。
「あなた達を拘束した理由は貴女が思っている理由とだいぶ違うと思いますよ、お姫様」
カトラスはリリー達の正体が理由で捕縛したのではないと言っている。だが、彼女にはそれを理解するだけの余裕がない。
「でもね、そんなに心配しなくても大丈夫です。案外解放は早いかもしれませんよ」
そしてゆっくりとカトラスは振り返った。
振り向いた先には三十代後半と目される壮年の魔法使いが立っていた。
「待たせたな、カトラス君」
「お久しぶりでございます、フレッチャー様」
――まさか一人で逃げて来たのか? たしかに仲間と逃げたという情報はなかったが……。
「カトラス君、敬語はやめてくれないか。昔のように話したい」
「了解したマックス。なんで俺がここにいることが判った?」
「あれほど強力な魔力波は君にしか放てないからな。相変わらずとんでもない魔技だ」
――ここまでは狙い通りだ。出会い頭の戦闘は避けたいからな。
「俺の存在を認識しているのに、何で現れたんだ? 逃げる選択肢もあっただろ?」
カトラスの思惑通りプランAは進行している。つまり、時間稼ぎだ。
「もちろんそれも考えた。君と戦うことになったら面倒だからな。だが、君が悪い。面白そうな餌を垂らすから」
――偶然なんだよ、この餌を見つけたのは。
リリーの強力な魔力放射をフレッチャーも探知していた。これも予定通りだ。
そしてカトラスの都合の良いことに、フレッチャーはリリーの存在をカトラスが用意した餌だと勘違いしてくれた。
「それに釣られる方も悪いだろ、マックス」
「そうとも言うな」
――なんでこんなに余裕なんだ? こちらには第三魔法師団がついてるんだぞ。
いや、こいつは昔からそうだった……。
「お前は自分の立場が解っているのか?」
「たぶん解っている」
「それなら大人しく捕まれ!」
「力ずくで捕まえてみたらどうだ? 君の主義だろう?」
フレッチャーの目が、カトラスの後方で控えている第三魔法師団を捉えた。
――それができりゃ苦労しない。正直言って、全員でかかっても俺達は半壊する。
「俺は平和主義者だからな。力で捻じ伏せるのは嫌いなんだよ」
「そこで転がっている〈お客さん〉は力で捻じ伏せたんじゃないのか?」
「帝国からのお客さんだから丁重に扱っただけだ。それにな、平和主義ってぇのは、相手によって変化するんだよ」
「ずいぶんと都合のいい主義だな」
「ああ、世の中はそんなもんだ」
――後どれだけ時間稼ぎをすればいい……逃亡の理由を訊いてみるか。
「それよりもマックス、何で人を殺した? 相手は剣豪カーライルの息子だと聞いている」
「それは冤罪だ。ガイル・アロンソという名の勇者にはめられた。それに、ツバサは生きている」
――ツバサだと? カーライル男爵の息子の名前か? そいつが生きているって?
「冤罪なら何故逃げた。堂々と戦えばいいだろう?」
「君は証拠なしに法廷で勇者と戦えると思うかい? それがどれだけ無駄なことか、解らないカトラス君ではあるまい?」
――まあ、そうだな。その状況なら俺でも逃亡を選択する。だが、どうでもいいことだ。
アルフェラッツ王国では、勇者は必要以上に優遇されている。それはカトラスにも謎だった。
「そう仰いますがね。こんなところに来て冤罪の証拠があるとは思えないがな」
――何を考えているマックス・フレッチャー。お前が無意味なことをするはずがない。
「証拠は暗黒大陸にある」
「暗黒大陸だと……お前は俺を馬鹿にしてるのか? 暗黒大陸へ行って帰ってきた奴は一人もいねぇんだよ。そんなところに証拠が……」
――待てよ……。エルカシス遺跡には罪人を暗黒大陸へ転送するための転移魔法陣があったという。だが、あれは遺跡だ……。
「何か思い出したようだな、カトラス君」
「さあな……」
――まだ捕縛隊は来ないのか? さっきの魔力探信《ピンガー》ではフレッチャーの近くまで追いついていたはずなのに。
『兄貴……、まだ来ませんぜ』
エリアスが心配そうにカトラスに耳打ちをする。
彼は獣人なので狭い範囲ならば魔法を使わなくても生命体の探知ができる。
もし、焦って探知系の魔法を使えば、カトラスの企みがフレッチャーに気づかれてしまうだろう。ここは我慢のしどころだ。
『戦いやすか?』
『……いや、戦わねぇ。今のところプランAは上手く行っている。プランBは使わなくても済みそうだ』
「プランBとは何だ?」
「聞いてやがったのか!?」
「いや、君の唇を読んだ。残念ながら、そこしか判らなかった」
――なんて奴だ! そんな特技があるなんて初めて知ったぞ。
「プランBとは……な、泣き落としだ……」
カトラスにとってプランBは人質を利用した時間稼ぎだったが、この際、エリアスの冗談に付き合うことにした。
「ほう」
フレッチャーは右手で顎を擦りながらカトラスを見つめた。
「俺を蔑んだ目で見るな!」
「私はいつもこんな目だ。もし、そう見えるのならば、それは君自身のせいだ」
「うっ……」
「私はね、感心したんだよ。その発想は私にはない」
「やっぱり俺を馬鹿にしてるだろ?」
「それで……泣き落としとはなんだ?」
――こいつ、判ってて突っ込んできやがる。
「え~い、やめだやめだ!」
カトラスはリリーの腕を引っ張って、フレッチャーの前に突き出した。
つまり、プランCの発動である。
「人質か?」
「この娘がどれだけお前にとって重要な人物か判ってるよな?」
フレッチャーはリリーの前に立ち、仰々しく跪いた。
「ご無沙汰しております。ローデシア帝国第五皇女、アーデルハイト殿下」
「お久しぶりですね。アルフェラッツ王国首席宮廷魔導師マックス・フレッチャー様」
二人の間に和やかな空気が流れる。
お互いに顔見知りのようだ。
「アーデルハイト殿下、今は宮廷魔導師ではないのです。訳あってノルトライン辺境伯様に仕えております」
「まあ、そうでしたの。積もる話もありますし、ゆっくりとお話したいところですが、残念ながら今は囚われの身なのです」
フレッチャーが立ち上がり、カトラスを睨んだ。
「カトラス君、これはどういうことだね」
「何をとぼけてんだ! お前は分かって言ってるだろ!」
カトラスは怒りに震えた。
フレッチャーと話すと自分のペースが崩れる。カトラスも解っているのだが……。
「さあ、何のことやら」
「貴様……」
カトラスはフレッチャーを目の前にすると冷静で居られない。
何もかもが陰謀であり、彼の掌の上で踊らされているように感じてしまう。
「フレッチャー様、お願いでございます。私達をお助けて下さい!」
アーデルハイトの願いに、フレッチャーは悲しい表情で応える。
「アーデルハイト殿下、残念ながら……」
「そ、そんな……」
「すでに助かっている人を助けることはできないのです」
「「えっ!」」
アーデルハイトだけでなく、カトラスもフレッチャーの言動に驚きを隠せなかった。
フレッチャーは黙ってカトラスの後ろを指差す。
敵が目の前にいるのに、カトラスは思わず振り返った。
そこには地面から生えた蔓のようなもので雁字搦めになったカトラスの部下達の哀れな姿があった。
「エリアス、お前まで……」
情けない顔でエリアスはこちらを見つめているが、彼らは首も締められているので声を出すことができない。
カトラスがフレッチャーと対峙する勇気を持てたのは、第三魔法師団全員で戦えば勝算があると考えていたからだ。
実際にフレッチャーと戦うことになった時のための作戦もあった。
ところが、その前提が崩れた。
――俺一人ではフレッチャーに勝てない……。
そこにカトラスを突き飛ばして、アーデルハイトがフレッチャーの前に出た。
「フレッチャー様! お慕いしております」
つまり、アーデルハイトはフレッチャーが大好きだと言ってるのだろう。
ひょっとしたら、彼女が王国に侵入したのはフレッチャーに逢うためなのかも知れない。
だが、アーデルハイトの好意をフレッチャーは聞かないことにした。
そして、そこにルッツが元気いっぱいで現れた。
「お師匠様! 作戦どおりですね!」
「首尾よくいったようだな、ルッツ」
百人ほどの第三魔法師団を一気に捕縛したのはビアンカの捕縛魔法――茨姫――である。
おそらくこの魔法はかなりの魔素を消費するのだろう。
ルッツと対象的に、ビアンカがぐったりとしてルッツに支えられている。
「ビアンカも、よくやったな」
「……はい、お師匠様」
「カトラス君、時間稼ぎに付き合ってくれて、本当に感謝するよ」
「よくもやってくれたな……フレッチャー」
いつも無表情なフレッチャーがニヤリと笑ったように、カトラスには思えた。
無駄話をして時間稼ぎをしていたのはカトラスではなくフレッチャーだった――
「ようやく君と一対一で戦える舞台が調った。もちろん戦ってくれるよね、カトラス君?」
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「俺は平和主義者なんだ……」
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