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しおりを挟む突然で大変申し訳ないが、私、ラインツバード侯爵家の次女。カナリヤ・エル・ラインツバード──三日後に誕生日が来て6歳になる──はどうやら前世の記憶を思い出したようだ。
個人名、生い立ち、家族の細かい情報など、凡そ個人情報と呼ばれそうなものは殆ど忘れているようで記憶というよりは知識に似たものだろうか?
正直今の家族が大好きな私にとって前世(?)の家族の記憶など関係はないし、はっきり言って邪魔でしかないからこの点だけは感謝をしたい。
夢の中で、前世の追体験をした。
この世界よりもずっとずっと奇妙な進歩の仕方をした場所で過ごす夢はまるで絵巻物を読んでいるような淡々としたものだった。
……しかしなんとなくだがこういう時は神に送られたり、頭痛と共に思い出したりするのではないか。
普通に寝て起きたら転生を受け入れてたことに前世の自分が抗議をしている気がする。
「知ってる天井だ」
生まれた時から見てるんだから当たり前だが、ふと口から出ていた。
この変なジョークは一体いつ覚えたのだろうか。
ベットの上ででそんな馬鹿なことを考える。
最高級の手触りのぬいぐるみや枕を巻き込むように抱き着き、寒い時期には嬉しい保温性の高い羽毛布団に潜り込んだ。
そう、今は冬。女神が悲しみのあまりすべてを凍てつかせる冬なのだ。だからこうやって風邪をひかないように温まるのは仕方ないことなのだ。
ぬくぬく、ぬくぬく。
モコモコの動物の姿をした私よりも大きなぬいぐるみは柔らかく前世的に言うなれば人をダメにするぬいぐるみだろうか。
どうしよう、起きたくない。
ぐだぐだと侯爵令嬢としてはありえないほどだらしない姿勢で自分の手を見てみる。
「ふくふくしてる」
もみじのようとは言い切れないがまだ子供特有の柔らかさをもっている小さな手。
髪の毛は真っ黒で腰くらいまであるせいで寝る前は軽く三つ編みにしている。
コシが強くて癖のないこの髪質はお父様似らしい。
光の当たり方で深緑にも、深い藍色にも見えるこの髪は家族の誰にも似ていないから少し嫌い。
「うう……そろそろ起きないと、でも寒いなぁ」
今は冬、新米の執事が寝る前に、暖炉に火を入れてくれてたから床はあったかいはずと、怠けたがりの足を叱咤しながらクローゼットの前にある姿見に向かった。
姿見に映る私は自画自賛だが可愛らしい。
りんごのようなほっぺはすべすべもちもちで我がほっぺながらいつまでも触っていたい気がする。
唇もぽてっとして紅を差さなくても愛らしく色付いている。
ただ目が、緑と紫のオッドアイで釣り目なのだ。
それに紫の左目の下の黒子が妙に気が強そうな、めんどくさそうな印象を醸し出している。
スチルで見た時とは当然異なるが私は確信する。
記憶は相当ふんわりとしているが、それだけは妙に覚えていた。
「星屑ノ語り手」
確かそんな名前の乙女ゲームだった。
ありがちな、剣と魔法のファンタジーな世界観だが、豪華な声優陣と美麗なスチル、そしてストーリー性がとてもしっかりしていた上に値段もそこそこリーズナブルな価格だったせいで私は熱狂していた……らしい。
ストーリー展開はとても王道といえる。
魔法を教える学園で平民だった主人公が王太子、貴族、裕福な商人、異国の王族その他何人かの男たちを落としていく恋愛ゲーム。
みんな心に傷があるのをうまく傷を癒して上げなければいけないのだ。
そして、貴族の攻略キャラには共通点がある。
婚約者がいるのだ。
その気持ちを自分に向けさせる、一時にはねとりゲームとも呼ばれていたらしい。
……ねとりって何かしら?
まあ、いい。
私はそこで悪役の、カナリヤ・エル・ラインツバード公爵令嬢として登場する。
王太子の許嫁として登場し、性格、魔力の素質、自分の持てる全てのものに勝る主人公に嫉妬し、狂ったように陰湿ないじめを仕掛け、最後は一族郎党処刑されるというありがちなキャラクターだ。
ちなみに他のルートでも、いじめの主導者として大体殺されたり、奴隷になったり、追放されたりするので救いようが無い。
……人生とはままならないものだ。
「どうしたらいいのかな……」
起きた直後は鮮明に覚えていたゲームに関する記憶は今や遠いもやのなかにいる。
攻略の仕方も、攻略キャラクターも思い浮かばない。
ただ、自分の終わり方だけが鮮明に思い出せる。
──嫉妬に狂い。
──愛していた許嫁に捨てられ。
──私のせいで一族郎党処刑される
何故前世の私が死んだのかわからないし、もしかしたらここは、前世の私の妄想の世界なのかも知れない。
だけどカナリア(私)を産んでくれて、愛を持って育ててくれた私の家族を、私の自身勝手さに死なせるわけには行かない。
「カナリアお嬢様、起床のお時間になりました。入室の許可を」
「どうぞ」
「失礼致します。」
侍女が告げる一日の始まりに私は決意した。
家族は、死なせない。
絶対に
目指せ悪役ルート排除!!
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