アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸

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第二章 激闘の前に

第十話 第五駆逐隊入渠ス

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「取り舵いっぱい!」
「はい、取り舵いっぱぁい!」
「戻せ!主砲、撃ち方始め!」
《撃ち―方―始め―!》
―――――――――ッ!》

 ドォォォォォォォォォン!ドォォォォォォォォォン!

「弾―っ着!命中!」
 艦橋内に響き渡るわたしと永信、航海長の春奈の声とインカムから聞こえる砲術長の美月の声。
 主砲からは轟音とともに火炎と煙が吐き出される。
「両舷第三船速!面舵!」
 一気に伝声管に叫んで、今回の演習相手―標的艦「波勝はかち」を見る。
 駆逐艦クラスの艦体に甲板上に取り付けられた十三ミリ機銃。船首楼甲板を延長した全通式の甲板はまるで空母だ。
「右舷同航戦!魚雷戦用意!」
 インカムに向かって叫ぶ。
「敵艦航行速度十九.三ノット!」
 双眼鏡を覗いて叫ぶ永信。

 グイィィィィィィィ・・・・・・・・・

 重々しい音とともに旋回する魚雷発射管。
《こちら水雷科、魚雷発射管指向完了》
 インカムから聞こえる渚の声。わたしは一瞬で返す。
「任意のタイミングで魚雷発射!弾頭、演習用模擬!」
《了解、魚雷、発射開始!》
 渚が叫ぶ。
っ!》

 プシュッ、プシュッ!

 魚雷が海中に射出され、「波勝」に向かって一気に進んでいく。さすが日本の誇る酸素魚雷、航跡はほとんど見えない。

 ピッ!

 インカムが鳴る。
《こちら「波勝」。魚雷、六本中五本命中。機関室、主舵を損傷判定》
「ありがとうございます」
 わたしはそう返すと、無線を切った。












 ゴウンゴウン・・・・・・・グォォォォォ・・・・・・
 主機の音も高らかに、六隻の駆逐艦が入港してくる。
「『陽炎』か・・・・・・・・・」
 わたし―北上未来は双眼鏡を覗いてつぶやいた。
「第五駆逐隊、訓練を終えて予定通りに帰投しました」
 無線で本校舎に連絡すると、もう一度双眼鏡をのぞき込む。
「総員荷物をまとめ!明日には入渠だから、各自の荷物は下ろしておきなさい!」
 艦内放送から聞こえるのは、艦長の初霜が叫ぶ声だ。
 食器や料理道具の類が詰まっていると思われる木箱をラッタルまで運んでいくエプロン姿は主計科だろう。
「初霜、ちゃんと言ったことは聞いていたな・・・・・・・・」
 あいつら―第五駆逐隊は十二月一日に給油艦「速吸」、給糧艦「間宮」、陸軍強襲揚陸艦「あきつ丸」、「神州丸」からなるA51船団を護衛して呉港を出港、パナマ運河経由で欧州に向かう。
「無事に帰ってきてくれよ・・・・・・・・」
 わたしは双眼鏡を覗きこんで、ほかの艦の様子もうかがい始めた。























「実!」
 艦橋内に入ってくる永信。
「乗員全員、私物の揚陸完了。艦内の備品類も揚陸、陸上倉庫への格納が完了したよ」
「弾薬類は?」
「すべて搬出完了。陸上の危険物保管庫に収容済み」
 永信が手元の危険物取扱記録簿をめくって言う。
「ボイラーの火も落としたんでしょ?」
「待って、今機関科にきくから」
 永信がインカムのスイッチを入れる。
「こちら永信。沖田さん、そっちは火を落とした・・・・・?」












「今落とす・・・・・少し待ってて」
 わたし―陽炎機関長の沖田夏芽は、永信君からの質問に返して主罐重油バルブハンドルに手をかけた。
「よいしょっと・・・・・・・・」

 キィィィィィィ

 反時計回りの方向に力を込めると、少しだけ金属がきしむ音を立てて回り始めた。
「第一主罐燃料バルブ『閉』・・・・・・・・」
 次に、もう一つのハンドルに手をかけた。同じように回して「閉」。
「第三主罐燃料バルブ『閉』・・・・・・・」
 すべての主罐への燃料供給を断ち、バーナー燃料噴出用の蒸気も止める。そして、もう一つのバルブも開いた。

 キュキュキュキュキュ・・・・・・・・!

 ボイラー内にたまった水が水タンクに戻っていく。そこのバルブを開けたまま、わたしはインカムを入れた。
「こちら沖田。機関すべての停止操作を完了」























「こちら神崎。了解」
 永信がそう言ってインカムを切る。その様子を見ると、わたしはインカムで全員に言った。
「こちら初霜。総員前甲板に集合!」


















 続々と最上甲板前方に集まってくるみんな。わたしは永信と並んでみんなの前に立つ。
「砲術科、全員集合しました」
「航海課、同じく」
「水雷科・・・・」
 各課長の報告で全員がそろったことを確認すると、わたしはメガホンを手にとった。スイッチを入れる。
「皆さん、もう知ってると思いますが、本艦はこれより入渠。十二月一日の作戦開始に備えます。それにより、いったん総員がこの『陽炎』を退艦。乗員全員に休暇が与えられます」
 みんながうなずいた。
「各自、手持ち品をもう一度確認してください」
 みんなが自分の装備品を確認する。
「異常はないようですね。では『陽炎』クルーメンバー・・・・・・・」
 わたしはみんなを見回すと右手を一気に振り上げる。
「いったん解散!」
 みんながこっちに敬礼する。わたしも敬礼を返した。
「それでは、、皆さんお元気でまた会いましょう」
 全員が舷梯を伝って桟橋に降りていく。そして、前甲板上にはわたしと永信だけが残された。
「実さん!」
 わたしの横にぽわんとした光が現れる。中から陽炎が出てきた。
「これからわたしは入渠ですね。次の遠征任務でもお役に立てるよう、しっかり休んできます!」
 こっちに向かってピシッと敬礼。
「うん、しっかり休んできな。入渠してる陽炎にも会いに行くから」
 永信がその頭をポンポンとなでる。
「ありがとうございます」
 陽炎がにっこりと笑う。
「今回は第五駆逐隊ごとの入渠だし、担当してくださるJMUジャパンマリンユナイテッドの方々も熟練だから大丈夫よ」
「でも、実さんもたまには来てくださいよ」
 わたしが言うと、陽炎は少しすねたみたいにわたしの服の裾を引っ張った。
「わかったわよ・・・・・・」
「ありがとうございます!では、これにて失礼しますね」
 わたしもうなずくと、陽炎はにっこりと笑って消えた。
 わたしと永信は、並んで舷梯の前に立つ。
「実、先に降りていいよ」
 永信が舷梯を手で刺して言った。
「いやいや、永信が先に降りなさいよ」
 わたしは首を横に振る。だって、艦長は全員が退艦するのを見届けてから退艦するのが伝統なんだから。
「だったら・・・・・・・・」
 永信が口を開く。
「二人一緒に降りようか」
「永信がそう言うんだったら、特別よ・・・・」
 わたしはそう言うと、舷梯を降り始める。
「はいはい・・・・」
 永信もわたしに並ぶように舷梯を降り始めた。
「よいしょっと・・・・・・」

 ボーーーーー!

 桟橋に降り立つと同時に、汽笛の音が耳に入ってる。「陽炎」をドックまで牽引する曳船タグボートが近づく。
「駆逐艦『陽炎』の艦長さんと副長さんですね」
 わたしと永信の横に光が現れ、中から艦魂が二人出てきた。
「うん、そうだけど・・・・・・・わたしは艦長の初霜実。こっちの馬鹿は副長の神崎永信」
「ちょっと実!」
 永信がギャーギャーいうけど無視!
「わたしは、今回「陽炎」の曳航を担当します株式会社シーゲートコーポレーション所属の曳船『くれ丸』艦魂のくれ丸と・・・・」
「同じく曳船『ひろ丸』艦魂のひろ丸です」
 二人はこちらに向かって深々と一礼する。
(なんか・・・・・・・)
 普段は軍用艦艇の艦魂ばかり見てるから、海軍式じゃない礼をする艦魂は新鮮だ。
「じゃあ、あの子をよろしくね」
『はいっ!』
 わたしが言うと、二人はピシッとしていった。
「曳航索結合完了!」
「了解!」
 二人の本体である「くれ丸」と「ひろ丸」の方では、『陽炎』への曳航索の結合が完了したようだ。
「じゃあひろ丸。行くよ・・・・・・」
「はい!それでは、この辺で失礼します!」
 二人がもう一度頭を下げ、光の中に消えていく。

 ボーーーーー!

 汽笛が鳴り、「くれ丸」と「ひろ丸」が動き出した。曳航索でつながった「陽炎」も動き始める。

 スウッ・・・・・・・・・・・

 いつもの機関の音もなく、陽炎はスルスルと進んでいく。
「陽炎・・・・・・・・」
 陽炎はJMU 呉工場のある方に曳航されていく。
「ゆっくり休みなよ・・・・・・・・・」
 わたしと永信はその後姿に向かって敬礼した。
 他の曳船に曳航され、第五駆逐隊の僚艦たちもドックに向かう。
 十一月二十日、駆逐艦『陽炎』をはじめとした第五駆逐隊の全艦はJMUジャパンマリンユナイテッド呉工場に入渠。海外派遣に向けた艦体の整備に入った。
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