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最終話 呉にて
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「両舷前進微速!面舵九度」
「両舷前進びそーく」
チンチンチン!
「おもかーじ九度」
グォォォォォォォォォォ・・・・・・・
主機をうならせ、第五駆逐隊各艦は呉開陽高校専用桟橋に着岸する。
「懐かしいですね・・・・・」
セシャトさんが言う。
「小名浜の時もここから皆さんの手さばきを見ていました。少し上手になりましたね」
「ありがとうございます」
わたしと永信は一斉に頭を下げた。
ヴァァァァァン
上空直掩の零戦たちが校内の飛行場へと飛び去っていく。
「セシャトさん、あの時以来、何してたんですか?」
永信が訊いた。
「う~ん」
セシャトさんは少しだけ考える。
「ずっと古書店経営ですね。いろんなお客さんが来て楽しいんですよ」
キラーン!
永信の目が輝いたように見えた。
「でしたら、今度あるか確かめてほしい本があるのですが・・・・・・・」
何やらセシャトさんに耳打ちする。
「なに二人だけで話してんのよ!」
パシッ!
わたしは永信の頭に一撃必殺の手刀を叩き込んだ。
「ゴフッ!」
永信が後頭部を抱えて体をのけぞらせる。
「何すんのさ・・・・・・・・」
呻く永信は無視して、セシャトさんの方を向く。
「残念ながら、ここでご退艦願いたいと思います。この後の公開の予定もありますので」
「はい、わかりました。あの艦魂さんに出会えなかったのは残念ですが、また今度、お会いしましょう」
セシャトさんがわたしにに背を向けて艦橋から出ていこうとする。
「ご案内しますよ!」
わたしもそのあとを追いかけた。
「ごちそうさまでした!」
駆逐艦「陽炎」の食堂、ラーメンの三杯目を食べ終えた神様が手を合わせる。
「いっぱい食べたね・・・・・・・・」
風華がそう言うと、食器を下げた。
「本当においしかった。感謝するぞ」
「いえいえ」
その時、艦内放送が響く。
「間もなく、呉開陽高校に到着いたします。着岸の際、艦が揺れることもありますので、お近くの手すりなどにお掴まりください」
「・・・・もうこんな時間か」
神様が立ち上がると、風華に手を伸ばす。
「すまない、道が分からなくなったので案内してほしい」
「わかりました」
風華は神様の手を握ると、食堂を出た。
カン、カン、カン、カン・・・・・
セシャトさんの前に立ち、ラッタルを降りる。
カツ、カツ・・・・・・・
靴音を響かせて甲板を歩き、左舷後部の舷梯の前、ちょうど〇娘の陽炎パネルが置いてあるあたりまで来た時・・・・・・
「実さん」
セシャトさんがわたしの耳に口を寄せる。
「あまり永信さんのこと、いじめないでくださいね」
「いじめてないですよ・・・・・・」
セシャトさんは少し笑って言う。
「永信さんが探してたのって、女の子向けの小説だったんですよ。きっと、実さんへのプレゼントです」
「えっ・・・?」
わたしの頬が朱色に染まる。
「おーい!セシャト―!」
遠くから声が聞こえてきた。
「あ、神様じゃないですか!」
金髪の少女が風華に連れられてこっちに来る。
「風華殿、ラーメン美味しかったぞ。また食べさせてくれ」
「了解しました」
風華が敬礼する。
「それでは、行きましょうか」
二人が舷梯を降りていく。その姿は、人混みの中に消えていった。
「両舷前進びそーく」
チンチンチン!
「おもかーじ九度」
グォォォォォォォォォォ・・・・・・・
主機をうならせ、第五駆逐隊各艦は呉開陽高校専用桟橋に着岸する。
「懐かしいですね・・・・・」
セシャトさんが言う。
「小名浜の時もここから皆さんの手さばきを見ていました。少し上手になりましたね」
「ありがとうございます」
わたしと永信は一斉に頭を下げた。
ヴァァァァァン
上空直掩の零戦たちが校内の飛行場へと飛び去っていく。
「セシャトさん、あの時以来、何してたんですか?」
永信が訊いた。
「う~ん」
セシャトさんは少しだけ考える。
「ずっと古書店経営ですね。いろんなお客さんが来て楽しいんですよ」
キラーン!
永信の目が輝いたように見えた。
「でしたら、今度あるか確かめてほしい本があるのですが・・・・・・・」
何やらセシャトさんに耳打ちする。
「なに二人だけで話してんのよ!」
パシッ!
わたしは永信の頭に一撃必殺の手刀を叩き込んだ。
「ゴフッ!」
永信が後頭部を抱えて体をのけぞらせる。
「何すんのさ・・・・・・・・」
呻く永信は無視して、セシャトさんの方を向く。
「残念ながら、ここでご退艦願いたいと思います。この後の公開の予定もありますので」
「はい、わかりました。あの艦魂さんに出会えなかったのは残念ですが、また今度、お会いしましょう」
セシャトさんがわたしにに背を向けて艦橋から出ていこうとする。
「ご案内しますよ!」
わたしもそのあとを追いかけた。
「ごちそうさまでした!」
駆逐艦「陽炎」の食堂、ラーメンの三杯目を食べ終えた神様が手を合わせる。
「いっぱい食べたね・・・・・・・・」
風華がそう言うと、食器を下げた。
「本当においしかった。感謝するぞ」
「いえいえ」
その時、艦内放送が響く。
「間もなく、呉開陽高校に到着いたします。着岸の際、艦が揺れることもありますので、お近くの手すりなどにお掴まりください」
「・・・・もうこんな時間か」
神様が立ち上がると、風華に手を伸ばす。
「すまない、道が分からなくなったので案内してほしい」
「わかりました」
風華は神様の手を握ると、食堂を出た。
カン、カン、カン、カン・・・・・
セシャトさんの前に立ち、ラッタルを降りる。
カツ、カツ・・・・・・・
靴音を響かせて甲板を歩き、左舷後部の舷梯の前、ちょうど〇娘の陽炎パネルが置いてあるあたりまで来た時・・・・・・
「実さん」
セシャトさんがわたしの耳に口を寄せる。
「あまり永信さんのこと、いじめないでくださいね」
「いじめてないですよ・・・・・・」
セシャトさんは少し笑って言う。
「永信さんが探してたのって、女の子向けの小説だったんですよ。きっと、実さんへのプレゼントです」
「えっ・・・?」
わたしの頬が朱色に染まる。
「おーい!セシャト―!」
遠くから声が聞こえてきた。
「あ、神様じゃないですか!」
金髪の少女が風華に連れられてこっちに来る。
「風華殿、ラーメン美味しかったぞ。また食べさせてくれ」
「了解しました」
風華が敬礼する。
「それでは、行きましょうか」
二人が舷梯を降りていく。その姿は、人混みの中に消えていった。
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