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第二話 牙持つ獣と麗しき踊り子
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駆逐艦「陽炎」一番主砲前。岸壁との間に渡された舷梯を伝い、乗艦者たちが上がってくる。
わたし―初霜実ははその様子を艦橋から眺めていた。
ヴァラララララ・・・・・・・・!
上空から聞こえてきたエンジン音。見上げると、我が艦隊の上空直掩を務める零戦二一型十二機が関西国際空港を離陸し、艦隊上空を旋回して待機していた。
「形式的とはいえ、上空直掩をつけるとは・・・・・・」
永信がつぶやく。
「かなり奮発したね」
甲板では、この任務では暇な美月と渚をはじめとした砲術、水雷科の人員がご来賓の方々を艦内の士官室に案内する。
「じゃあ、そろそろ行ってくるわね」
わたしは永信に言うと、艦橋を出た。
カツ、カツ・・・・・・・
艦内の廊下を歩き、士官室のドアに手をかける。
ガチャッ
ドアを開けると、室内に入った。視線がわたしに集中するのが分かる。
カツ、カツ・・・・・・・
わたしは皆さんの少し歩くと、皆さんの前で立ち止まった。口を開く。
「皆様、本日は我が『陽炎』にご乗艦いただき、誠にありがとうございます。艦長の初霜実です」
ピシッと敬礼し、横に控えていた春奈に合図を出す。
バサッ!
春奈が瀬戸内海全域の海図を広げ、壁に貼った。
「今回の航路を説明いたします」
わたしは手を伸ばすと、海図に書かれた点線をたどる。
「大阪港出港後、神戸港に立ち寄り、さらに南下して呉港に入ります。時間はおよそ一時間。それまで快適・・・・・とは言い難いですが、駆逐艦の旅を楽しみください」
わたしと春奈は一斉に敬礼すると、士官室を出る。そして、お互いの持ち場に戻った。
兵庫県神戸。幕末から開港の地となったことで知られる由緒ある港だ。空母「瑞鶴」や潜水艦「伊―十四」が生まれた川崎重工神戸造船所があることでも知られる。
わたし―初霜実は、その神戸港の一角に憩う純白の船を眺めていた。
チカッ!チカッ!
純白の船から発行信号が放たれる。その先は、我が「陽炎」だ。
「こちら劇場船『STU4〇』。これより貴艦隊に合流す。か・・・・・」
永信が発行信号を読み取って言った。
「あれが噂の劇場船ってヤツね」
わたしはそう言うと、相手の隅々を観察する。
「こっちが牙を持つ餓狼だとすれば、あっちは優雅な踊り子ね」
我々軍艦は、魚雷や砲と言う牙を持ち、相手に襲い掛かる餓えた狼だ。特に、日本の軍艦は英国人に「餓狼」と評されたほど戦闘に特化している。
それに対し、劇場船は敵に見つかる心配なんて気にしない純白に塗装され、砲や魚雷などは一切装備しない非武装。まさに美しさを見せつけるために生まれたかのようだ。
「まあ、用途自体が違うからね」
永信が言う。
ピッ!
インカムが鳴った。
「実、こちら山城」
春奈の声が聞こえてくる。
「実と永信君に面会したい方がいるんだけど、艦橋にお通しする?」
わたしは即座に返した。
「名前は?」
「え~っと・・・・・・」
インカムの向こうで春奈と誰かが話す声が聞こえてくる。どことなく聞き覚えがある声だ。
「セシャトさん。だって」
「今すぐにお通ししなさい」
わたしは即座に返答する。
「了解」
春奈はそう言うと、通信を切った。
駆逐艦「陽炎」艦内の廊下・・・・・・・・
一人の少女が艦内をさまよっていた。
「くんくん・・・・・・こっちだ」
艦内に漂う匂いを嗅ぎながらどんどん進んでいく。
最終的にたどり着いたのは・・・・・・・・・
「あった!ここじゃ!」
烹炊所。いわゆる台所である。
「いい匂いじゃのお・・・・・・」
そのまま食堂内に入っていく少女。金髪が蛍光灯に照らされ、キラリと輝いた。
「お!?」
烹炊所で調理をしていた主計長、山雲風華が少女に気づく。
「なにしてるの~?お腹すいた?」
ちょうど作っていたおにぎりを差し出す。
「おお!これはかたじけない」
少女―実はセシャトとともに乗艦した神様なのだが・・・・・・はおにぎりを受け取ると、口いっぱいに頬張る。
「うまいな!そなた、なかなかの腕前ではないか!」
「ありがと」
風華はそう言うと。近くの冷蔵庫から取り出した中華麺をお湯に入れた。
ザッ!チャッ!チャッ!
手早く湯切りをすると、金属製のお椀に入れてその上からスープとメンマ、痛めた牛肉を加える。
「はいっ!そこら辺のあまりものでごめんなさいだけど,ラーメン」
「うむっ!」
神様はお椀を持ち上げると、スープを一口すする。
ズズズッ!
続いて、麺を口に含む。
「んん!」
その美味しさは、神様がここに居座るという判断をするのに十分たるものだった。
「お久しぶりです」
神戸港を出港し瀬戸内海を航行中の駆逐艦「陽炎」艦橋内。わたし―初霜実はセシャトさんに声をかける。
「ええ。お久しぶりですね・・・・・・・・・」
セシャトさんが言った。
「永信さんも、お久しぶりです」
「はい、そうですね」
永信がそう言うと、セシャトさんに問う。
「今回はおひとりですか?」
「いえ、もう一人神様がいるんですけど、先ほどから姿が見えなくて・・・・・・」
「艦内放送しましょうか?」
わたしはマイクを手に取る。
「いえいえ、大丈夫ですよぅ。あの人なら何されても生きてるから心配いりませんので」
セシャトさんが手をプルプルと振って言う。
「わかりました」
わたしはそう言うと、マイクを元に戻した。
「取り舵十度」
「取り舵十度~」
我が艦隊は現在、およそ十八ノットで瀬戸内海を南下中。駆逐艦たちが副縦陣を組み、その真ん中ほどに劇場船が入っていた。
ヴァラララララ・・・・・・・・!
上空には零戦二一型が舞い。艦隊は呉に近づいていく。
「右舷より貨物船」
「面舵三十度」
「おもかーじ三十度!」
通行する民間船を避け、どんどん進んでいく。
そして、呉港が見えた。
わたし―初霜実ははその様子を艦橋から眺めていた。
ヴァラララララ・・・・・・・・!
上空から聞こえてきたエンジン音。見上げると、我が艦隊の上空直掩を務める零戦二一型十二機が関西国際空港を離陸し、艦隊上空を旋回して待機していた。
「形式的とはいえ、上空直掩をつけるとは・・・・・・」
永信がつぶやく。
「かなり奮発したね」
甲板では、この任務では暇な美月と渚をはじめとした砲術、水雷科の人員がご来賓の方々を艦内の士官室に案内する。
「じゃあ、そろそろ行ってくるわね」
わたしは永信に言うと、艦橋を出た。
カツ、カツ・・・・・・・
艦内の廊下を歩き、士官室のドアに手をかける。
ガチャッ
ドアを開けると、室内に入った。視線がわたしに集中するのが分かる。
カツ、カツ・・・・・・・
わたしは皆さんの少し歩くと、皆さんの前で立ち止まった。口を開く。
「皆様、本日は我が『陽炎』にご乗艦いただき、誠にありがとうございます。艦長の初霜実です」
ピシッと敬礼し、横に控えていた春奈に合図を出す。
バサッ!
春奈が瀬戸内海全域の海図を広げ、壁に貼った。
「今回の航路を説明いたします」
わたしは手を伸ばすと、海図に書かれた点線をたどる。
「大阪港出港後、神戸港に立ち寄り、さらに南下して呉港に入ります。時間はおよそ一時間。それまで快適・・・・・とは言い難いですが、駆逐艦の旅を楽しみください」
わたしと春奈は一斉に敬礼すると、士官室を出る。そして、お互いの持ち場に戻った。
兵庫県神戸。幕末から開港の地となったことで知られる由緒ある港だ。空母「瑞鶴」や潜水艦「伊―十四」が生まれた川崎重工神戸造船所があることでも知られる。
わたし―初霜実は、その神戸港の一角に憩う純白の船を眺めていた。
チカッ!チカッ!
純白の船から発行信号が放たれる。その先は、我が「陽炎」だ。
「こちら劇場船『STU4〇』。これより貴艦隊に合流す。か・・・・・」
永信が発行信号を読み取って言った。
「あれが噂の劇場船ってヤツね」
わたしはそう言うと、相手の隅々を観察する。
「こっちが牙を持つ餓狼だとすれば、あっちは優雅な踊り子ね」
我々軍艦は、魚雷や砲と言う牙を持ち、相手に襲い掛かる餓えた狼だ。特に、日本の軍艦は英国人に「餓狼」と評されたほど戦闘に特化している。
それに対し、劇場船は敵に見つかる心配なんて気にしない純白に塗装され、砲や魚雷などは一切装備しない非武装。まさに美しさを見せつけるために生まれたかのようだ。
「まあ、用途自体が違うからね」
永信が言う。
ピッ!
インカムが鳴った。
「実、こちら山城」
春奈の声が聞こえてくる。
「実と永信君に面会したい方がいるんだけど、艦橋にお通しする?」
わたしは即座に返した。
「名前は?」
「え~っと・・・・・・」
インカムの向こうで春奈と誰かが話す声が聞こえてくる。どことなく聞き覚えがある声だ。
「セシャトさん。だって」
「今すぐにお通ししなさい」
わたしは即座に返答する。
「了解」
春奈はそう言うと、通信を切った。
駆逐艦「陽炎」艦内の廊下・・・・・・・・
一人の少女が艦内をさまよっていた。
「くんくん・・・・・・こっちだ」
艦内に漂う匂いを嗅ぎながらどんどん進んでいく。
最終的にたどり着いたのは・・・・・・・・・
「あった!ここじゃ!」
烹炊所。いわゆる台所である。
「いい匂いじゃのお・・・・・・」
そのまま食堂内に入っていく少女。金髪が蛍光灯に照らされ、キラリと輝いた。
「お!?」
烹炊所で調理をしていた主計長、山雲風華が少女に気づく。
「なにしてるの~?お腹すいた?」
ちょうど作っていたおにぎりを差し出す。
「おお!これはかたじけない」
少女―実はセシャトとともに乗艦した神様なのだが・・・・・・はおにぎりを受け取ると、口いっぱいに頬張る。
「うまいな!そなた、なかなかの腕前ではないか!」
「ありがと」
風華はそう言うと。近くの冷蔵庫から取り出した中華麺をお湯に入れた。
ザッ!チャッ!チャッ!
手早く湯切りをすると、金属製のお椀に入れてその上からスープとメンマ、痛めた牛肉を加える。
「はいっ!そこら辺のあまりものでごめんなさいだけど,ラーメン」
「うむっ!」
神様はお椀を持ち上げると、スープを一口すする。
ズズズッ!
続いて、麺を口に含む。
「んん!」
その美味しさは、神様がここに居座るという判断をするのに十分たるものだった。
「お久しぶりです」
神戸港を出港し瀬戸内海を航行中の駆逐艦「陽炎」艦橋内。わたし―初霜実はセシャトさんに声をかける。
「ええ。お久しぶりですね・・・・・・・・・」
セシャトさんが言った。
「永信さんも、お久しぶりです」
「はい、そうですね」
永信がそう言うと、セシャトさんに問う。
「今回はおひとりですか?」
「いえ、もう一人神様がいるんですけど、先ほどから姿が見えなくて・・・・・・」
「艦内放送しましょうか?」
わたしはマイクを手に取る。
「いえいえ、大丈夫ですよぅ。あの人なら何されても生きてるから心配いりませんので」
セシャトさんが手をプルプルと振って言う。
「わかりました」
わたしはそう言うと、マイクを元に戻した。
「取り舵十度」
「取り舵十度~」
我が艦隊は現在、およそ十八ノットで瀬戸内海を南下中。駆逐艦たちが副縦陣を組み、その真ん中ほどに劇場船が入っていた。
ヴァラララララ・・・・・・・・!
上空には零戦二一型が舞い。艦隊は呉に近づいていく。
「右舷より貨物船」
「面舵三十度」
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