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02 若さ故の過ちでは済まされないこと
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俺の家、王国の東端を治めるセイロン辺境伯家は王国建国以前の同盟時代から東北にある魔境”悪夢の森”からやってくる魔獣達の侵入を防いでいる。
また、東の海で交易品として塩造りと海産物を採り、東南の帝国の侵攻を同じ辺境伯であるスザク家と共闘して、返り討ちにしている。
スザク辺境伯家は代々女当主の家なのだが、この話はここでは割愛する。
■
「話は聴いている、よく来てくれたヘイ・セイロン辺境伯」
俺の風聞を配慮してくださったのか、謁見の間には国王陛下と王妃様、そして、王太子殿下、宰相、近衛騎士団長と最小限の人員しかいなかった。
そんななかで、玉座に座る王としての風格と威厳を備えた俺とは父子程歳が離れている国王陛下が労ってくださった。
「ご無沙汰しております、陛下。王妃様もお変わりなく、王太子殿下も」
「ええ」
「ああ、久しぶりだなヘイ」
俺は臣下の礼をとり、頭を垂れる。王妃様は穏やかな笑みを浮かべられ、殿下も鷹揚に頷かれた。
王太子殿下は俺よりも1歳歳上。父親同士が義兄弟で、母親同士も義姉妹。そういった家族ぐるみで親しい付き合いをしていたことから、俺達も兄弟の様に過ごした時期がある。
流石に俺が実家を継いでからは公務では一線を引いているが、私的な場では相変わらず親しい付き合いは継続中。
特に俺が王都に来るときは毎回、セイロン辺境伯領の特産品を土産として献上している。
「それで、お伝えしました公爵家の件ですが……」
「ああ、メン公爵のことか。あれは申し訳ない。現公爵が事前に王家の許可を得ずにやったことだ」
「それはまた……先代メン公爵はどうされているのですか?」
「公務をケイ公爵に任せて、自分たち夫婦は共に公爵領に引っ込んで隠居している。息子の放蕩については完全に放置して、血縁ということで我等王家に尻拭いを押し付けている」
公爵と同じ歳である王太子殿下は王国貴族、王族にあるまじき公爵家のありようをそう唾棄された。
「はぁ、ケイ公爵は容姿に優れて、早くに公爵家を継いできっちり仕事はこなしてはいるのよ。招待されたパーティでは毎回恋慕している令嬢に囲まれているの。ただ、彼は婚姻せずに平民を溺愛して愛人として囲っているから、社交界での評判は芳しくないわ」
王妃様は片頬に手を添えてため息を吐かれた。
「その愛人だが、密偵の調べに寄れば、流浪の旅の踊り子らしい。公爵に囲われてから贅沢三昧。富を下々に行き渡らせる意図があれば褒められた行為ではある。しかし、徒らに高価な貴金属と宝石類だけを買い漁っている彼女にその意図は皆無だな」
国王陛下も苦々しくそう告げた。
「先代メン公爵夫妻のいる公爵領へ召喚状を持たせた早馬を走らせています。オッド子爵ともども事情聴取して、爵位の降格といったところが落としどころと考えていますが……」
宰相が対応状況を伝えるが……。
「全然足りませんね。来月に予定していた私の挙式には我がセイロン家だけでなく、西のパイフー家、北のザンウ家も力を貸してくれていました」
今の俺は死んだ魚の様な光を失った目をしているだろう。
「「はぁっ?」」
「……」
陛下と殿下は揃って素っ頓狂な声をあげ、王妃様は絶句している。
四辺境伯家のうち、三家が離反・敵対しかねない状況なのだ。
残り一家のスザク家に関しては、この婚姻成立時のいざこざの所為で、前述の三家以上に王家と中央貴族に対していい感情をもっていない。
「グッ…へ……陛下、失礼します!」
そう言うと、真っ青な顔をした宰相は胃を抑えて駆け出し、退室した。
西と北の辺境伯家から中央貴族にかけられている圧力を宰相は受け持っているから仕方ない。ストレスで胃がやられたのだろう。ご愁傷様。
スザク家が関わっていないからまだマシと思うのは焼け石に水な考えで慰めにもならない。
「……はぁ……メン公爵家は取り潰しだな」
国王陛下から盛大なため息と共にその言葉が漏れた。
「公爵領の統治はどうするのですか?」
王妃様が当然の疑問を口にする。取り潰しになると領民にも影響が出る。それだけは貴族としても避けねばならない。
「公爵領を王家直轄領に戻し、今後は王太子が統治するしかあるまい」
「……わかりました」
国王陛下の決定に今後、仕事が増える事が確定した王太子殿下が渋々同意する。
「オッド子爵家も引責で潰す。先代と彼の兄は素晴らしい方だったのだがなぁ……」
国王陛下の嘆きが深い。本来なら、オッド子爵の兄が子爵家継ぐはずだったのだが、彼は流行病で先代夫婦と夫人と共に亡くなっている。
オッド子爵家は法衣貴族なので統治している領地がないから、領地問題がないだけメン公爵家よりも幾分マシか。
「今回の被害を受けた三辺境伯家と商人達には王家から補填を行う」
「陛下、公爵領の引き継ぎはすぐにできないので、取り潰しはすぐには行えませんぞ!」
復活した宰相の言葉に国王陛下は頷く。
「……陛下、この場に問題の当人がいないのはどういうことでしょうか?」
「すまぬ。公爵家の屋敷に使いを出したのだが、現メン公爵は公爵領に……夫人共々向かったとあって、先代共々召喚状を持たせた早馬を出しておる」
王都にいないなら仕方ない。だが、あのクズは十中八九、居留守だ。
「……公爵と子爵は殺さないでくれよ。いくらなんでも、他家の貴族当主を殺害したら王家が罪に問わねばならなくなる」
王太子殿下が俺に釘を刺してくるが、心外だ。
「分かってますよ。誰がそんな優しい結末で終わらせてあげますか」
俺の言葉に周囲はドン引きしたが俺は気にしない。
死んだらそれでお終い。それ以上苦しめることができないじゃないか。
また、東の海で交易品として塩造りと海産物を採り、東南の帝国の侵攻を同じ辺境伯であるスザク家と共闘して、返り討ちにしている。
スザク辺境伯家は代々女当主の家なのだが、この話はここでは割愛する。
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「話は聴いている、よく来てくれたヘイ・セイロン辺境伯」
俺の風聞を配慮してくださったのか、謁見の間には国王陛下と王妃様、そして、王太子殿下、宰相、近衛騎士団長と最小限の人員しかいなかった。
そんななかで、玉座に座る王としての風格と威厳を備えた俺とは父子程歳が離れている国王陛下が労ってくださった。
「ご無沙汰しております、陛下。王妃様もお変わりなく、王太子殿下も」
「ええ」
「ああ、久しぶりだなヘイ」
俺は臣下の礼をとり、頭を垂れる。王妃様は穏やかな笑みを浮かべられ、殿下も鷹揚に頷かれた。
王太子殿下は俺よりも1歳歳上。父親同士が義兄弟で、母親同士も義姉妹。そういった家族ぐるみで親しい付き合いをしていたことから、俺達も兄弟の様に過ごした時期がある。
流石に俺が実家を継いでからは公務では一線を引いているが、私的な場では相変わらず親しい付き合いは継続中。
特に俺が王都に来るときは毎回、セイロン辺境伯領の特産品を土産として献上している。
「それで、お伝えしました公爵家の件ですが……」
「ああ、メン公爵のことか。あれは申し訳ない。現公爵が事前に王家の許可を得ずにやったことだ」
「それはまた……先代メン公爵はどうされているのですか?」
「公務をケイ公爵に任せて、自分たち夫婦は共に公爵領に引っ込んで隠居している。息子の放蕩については完全に放置して、血縁ということで我等王家に尻拭いを押し付けている」
公爵と同じ歳である王太子殿下は王国貴族、王族にあるまじき公爵家のありようをそう唾棄された。
「はぁ、ケイ公爵は容姿に優れて、早くに公爵家を継いできっちり仕事はこなしてはいるのよ。招待されたパーティでは毎回恋慕している令嬢に囲まれているの。ただ、彼は婚姻せずに平民を溺愛して愛人として囲っているから、社交界での評判は芳しくないわ」
王妃様は片頬に手を添えてため息を吐かれた。
「その愛人だが、密偵の調べに寄れば、流浪の旅の踊り子らしい。公爵に囲われてから贅沢三昧。富を下々に行き渡らせる意図があれば褒められた行為ではある。しかし、徒らに高価な貴金属と宝石類だけを買い漁っている彼女にその意図は皆無だな」
国王陛下も苦々しくそう告げた。
「先代メン公爵夫妻のいる公爵領へ召喚状を持たせた早馬を走らせています。オッド子爵ともども事情聴取して、爵位の降格といったところが落としどころと考えていますが……」
宰相が対応状況を伝えるが……。
「全然足りませんね。来月に予定していた私の挙式には我がセイロン家だけでなく、西のパイフー家、北のザンウ家も力を貸してくれていました」
今の俺は死んだ魚の様な光を失った目をしているだろう。
「「はぁっ?」」
「……」
陛下と殿下は揃って素っ頓狂な声をあげ、王妃様は絶句している。
四辺境伯家のうち、三家が離反・敵対しかねない状況なのだ。
残り一家のスザク家に関しては、この婚姻成立時のいざこざの所為で、前述の三家以上に王家と中央貴族に対していい感情をもっていない。
「グッ…へ……陛下、失礼します!」
そう言うと、真っ青な顔をした宰相は胃を抑えて駆け出し、退室した。
西と北の辺境伯家から中央貴族にかけられている圧力を宰相は受け持っているから仕方ない。ストレスで胃がやられたのだろう。ご愁傷様。
スザク家が関わっていないからまだマシと思うのは焼け石に水な考えで慰めにもならない。
「……はぁ……メン公爵家は取り潰しだな」
国王陛下から盛大なため息と共にその言葉が漏れた。
「公爵領の統治はどうするのですか?」
王妃様が当然の疑問を口にする。取り潰しになると領民にも影響が出る。それだけは貴族としても避けねばならない。
「公爵領を王家直轄領に戻し、今後は王太子が統治するしかあるまい」
「……わかりました」
国王陛下の決定に今後、仕事が増える事が確定した王太子殿下が渋々同意する。
「オッド子爵家も引責で潰す。先代と彼の兄は素晴らしい方だったのだがなぁ……」
国王陛下の嘆きが深い。本来なら、オッド子爵の兄が子爵家継ぐはずだったのだが、彼は流行病で先代夫婦と夫人と共に亡くなっている。
オッド子爵家は法衣貴族なので統治している領地がないから、領地問題がないだけメン公爵家よりも幾分マシか。
「今回の被害を受けた三辺境伯家と商人達には王家から補填を行う」
「陛下、公爵領の引き継ぎはすぐにできないので、取り潰しはすぐには行えませんぞ!」
復活した宰相の言葉に国王陛下は頷く。
「……陛下、この場に問題の当人がいないのはどういうことでしょうか?」
「すまぬ。公爵家の屋敷に使いを出したのだが、現メン公爵は公爵領に……夫人共々向かったとあって、先代共々召喚状を持たせた早馬を出しておる」
王都にいないなら仕方ない。だが、あのクズは十中八九、居留守だ。
「……公爵と子爵は殺さないでくれよ。いくらなんでも、他家の貴族当主を殺害したら王家が罪に問わねばならなくなる」
王太子殿下が俺に釘を刺してくるが、心外だ。
「分かってますよ。誰がそんな優しい結末で終わらせてあげますか」
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死んだらそれでお終い。それ以上苦しめることができないじゃないか。
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