クズ公爵を殺すに刃物はいらぬ

剣伎 竜星

文字の大きさ
4 / 11

03 三辺境伯会合。クズい貴族の殺し方

しおりを挟む
「かあーっ、おめぇも大変だなヘイ!」

人懐っこい笑顔をした屈強な肉体の兄貴分の男に俺は同情された。

「話は分かりました。こちらも早急に手を打ち、損きりを行いましょう」

「申し訳ありません」

この場にいるもう1人の腰まで長い黒髪を伸ばした女性と見紛うほどの美丈夫の男性にも俺は頭を下げた。

「いいってことよ。ちゃんと補填と慰謝料代わり、クソ面倒な王家との話をヘイがまとめてつけてくれたからな」

「然り、ただ、オッド子爵家から何の連絡もないのは度し難い」

「フンッ、元はと言えば子爵の野郎も件の公爵と同罪だな。俺の可愛い部下共の努力を台無しにしやがりやがって!」

大柄の男、王国西の辺境伯、ファー・パイフーが苦笑いの後に激怒し、対照的な美丈夫王国北の辺境伯、ユ・ザンウは冷徹に言い放った。

四辺境伯は一般的な王国の名前の付け方と異なる独特の言葉で付けられている。

このこともあって、中央の法衣貴族達は俺達四辺境伯を侮っているのだが、外にそれを出そうものなら容赦なく地獄を見るはめになる。

何故なら、西のパイフー家は代々王国最大規模の商人ギルドの総元締めトップを務め、大部分の商人を牛耳っている。

同じく北のザンウ家は薬草や茶葉の国内最大の生産者。そして、錬金術師ギルドの長で回復薬と奥方達が喉から手が出るほど欲している美容品の生産者だ。

東のセイロン家は海産物と塩の生産流通、海運ギルドの管理。そして、表沙汰にはされないが、王国全土の諜報もしている。

南のスザク家は農作物の生産と流通、鉱山資源の発掘。農作物の王国内での供給量は全体に6割を超えている。

これらに加えて、四辺境伯家は各々の家のある方角から侵攻してくる脅威の迎撃を担当している。

西と北の辺境伯家の現当主との年齢差はおよそ叔父~6歳離れた兄といった感じだ。

そして、四辺境伯は代々国王公認の政略結婚をそれぞれ行っていた。

これに関して王家も仲間に加わろうとしたのが、例外的な俺とアリシアの婚姻だったのだ。

しかし、ケイ公爵の所為でその目論見は台無しになった。

「落ち着いてください、ファー。本件の主な被害者のヘイの提案は貴方も飲むのでしょう?」

ユ辺境伯がファー辺境伯をそう宥める。

「当然だ。俺のギルド内に今回のメン公爵とオッド子爵の横暴は徹底周知している。そっちもそうなんだろう、ユ?」

泣く子が更に大泣きしそうな獰猛な笑みを浮かべるファー辺境伯。

「ええ、勿論です。メン公爵家とオッド子爵家への薬草と茶葉、美容品の輸出は段階的に制限をかけ、最終的には停止します」

中央貴族の婦人、婦女子を魅了する爽やかな笑みで平然と黒いことを言うユ辺境伯。

貴族が生活の維持をできるのはそれらを用意する商人のおかげだ。

今回の件で、その商人を蔑ろにした両貴族家は質の高いものから徐々に用意できなくなり、取引もなくなって、最終的にギルドに所属していない悪質なモグリの商人・錬金術師と割に合わない取引をするしかなくなる。

茶葉に関しては貴族として開く茶会から社交界の風評に影響を与える。高品質、季節物、流行物こういった物を用立てられなくなると社交界での評価は下がり、醜聞が飛び交う様になるのだ。

メン公爵家とオッド子爵家の名実共に貴族としての死は避けられない。

「それにしても、お前の婚約者だったアリシアって女は随分と薄情 な奴だな」

呆れた様子でファー辺境伯が言う。

「たしかにヘイとの政略結婚がどれほど重要ことか認識していればこのような大事にはならなかったのでは?」

ユ辺境伯も疑問を俺に向けてきた。

「彼女の真意は問いただしていないのでわかりかねますが、調べたところ、元凶はメン公爵とオッド子爵で間違いないです。メン公爵は女性関係、オッド子爵は借金返済と結納金に目が眩んだといったところですね」

俺の言葉に2人は心底呆れた顔をした。

「おい、オッド子爵は本物の馬鹿か?」

「おや、ファーは知らないのですか? 現オッド子爵の愚物ぶりを」

そう言ってユ辺境伯はオッド子爵の調書を取り出して俺とファー辺境伯に渡した。

子爵の公務は嫡子でアリシアの兄に任せて自分は飲む・打つ・買うの道楽三昧。

流石に娼館通いはしていないが、悪い面が先々代国王から隔世遺伝してしまったようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...