女神様にスキルを貰って自由に生きていいよと異世界転生させてもらった……けれども、まわりが放っておいてくれません

剣伎 竜星

文字の大きさ
7 / 25
第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活

第6話 厄介極まりない仕事の話

しおりを挟む
「君に任せる仕事はシャルロットを王立学園の入学試験1月前までに魔術を使える様にすることだ」

アイザック・アウロラ公爵の苦渋に満ちた言葉を聞いて、俺にこの厄介極まりない仕事の詳細を教えなかった教授の意図を理解した。理解はしたが、納得はできないので教授への倍返しは確定だ。

「魔法の才が未開花であっても、事態が王立学園在学中に好転する可能性は十分あると思います。王立学園への入学をあの教授が薦めないとは思えないのですが……他に何か理由があるのでしょうか?」

王宮魔術師筆頭だった教授の王国内での影響力はかなりのものだ。王立学園に推薦入学させる力は充分にあると教授と犬猿の仲の学園長が認めている。今の王宮魔術師筆頭と違って、人材の大切さをわかっている王国の未来を憂いている教授がシャルロット公女殿下に推薦状を書かないとは考え難い。

「……ああ。君もこの土地に来て実感したと思うが、私が、我がアウロラ公爵家が建国以来、王家より任されているこの地は寒気で作物が育ち難く、特にこれからの季節は人が住むにはとても過酷な土地だ。周辺国、特に北の帝国から護るために我が公爵家は代々秘術を継承してきた武の家柄だ。しかし、爵位相続に意欲的で真面目な長女はその優しさ故に戦いには向かず、秘術の習得には至っていない。そして、魔力量ではその長女と私すら上回ると言われている次女シャルは肝心の魔術が使ときている。おそらく、武としてのアウロラ公爵家は私の代で終わるのだろう」

アイザック閣下はそう悲しげに告げ、傍に控えているセバスチャンさんはそんな閣下の様子を痛ましげに見ている。

「だが、それでも私はいいと思っている。現在の我が公爵領の武力は我が公爵家のみに頼ったものではないからだ。それに我妻の長年掛けた植物の研究をシャルが手伝う様になってから、その研究は飛躍的に進み、寒さに強い穀物の開発に成功した。領主としてはシャルにはアウロラ公爵領ここに残って研究への協力を続けてほしいところなのだ。だが、その一方で父親としてはあの子の希望を後押ししてやりたいところなのだが……」

悩ましげに公爵閣下はそう続けた。

「奥方様のシャルロット様の王立学園への進学に対するお気持ちとシャルロット様ご自身の意思は如何なのですか?」

俺は苦悩している公爵閣下に尋ねた。

「……妻は#あの娘__シャル__#の王立学園入学に関しては今を逃すと掛け替えのない友を得られる時期を逸するからと前向きに娘を応援する姿勢だ。残念だが、アウロラ公爵領ここでは公爵家という身分が邪魔して、年近い気の置けない友人を作ることはできないからな。作物の研究については既に軌道に乗っているから問題ないと彼女は言っている。

シャル本人も王立学園に入学することに積極的で、筆記試験に関しては教授あいつのお墨付きを既にもらっている。だが、やはり問題は実技の方だ。シャルの体術や杖術の腕は教授あいつの見立てでは実技試験を突破するには厳しいそうだ。せめて、初級魔術でも使えればいいのだがな……。指導方針は君に一任する」

「左様ですか、数点ほどお願いとお答えいただきたいことがありますが、よろしいでしょうか?」

「うむ、いいだろう。言ってみたまえ」

雇われる側の立場としてあまり褒められた態度ではない。しかし、俺には必要なことであるので言ってみたら、予想外に即答で快諾された。

「ありがとうございます。まず、確認ですが僕の仕事はシャルロット様が魔術を使える様になり、王立学園の実技試験を突破できる様に実技面を鍛えることでよろしいですか?」

「ああ。王立学園入学まで魔術が使と言われているフレア嬢が君の助力によって、魔術の才能を開花させ、得意の剣の腕だけでなく、魔術士としても頭角を現したという話は私も聞き及んでいる。君が協力して駄目だったら、残念だが、#あの娘__シャル__#も諦めがつくだろう」

フレアが俺がを教えたことで魔術を使える様になったのは事実ではある。しかし、フレアが使えなかった原因とシャルロット様が魔術が使えない理由が同じとは限らないので、同じ方法で解決するかは未知数だ。
しかも、フレアで解決した手段は彼女からなぜかきつく禁じられている。

「わかりました。次に、最善を尽くすために必要なので、既に教授が実施しているかもしれませんが、シャルロット様の現状を把握するため、僕にシャルロット様を診断する許可をください」

診断と表現したが、意図はスキル【鑑定】の使用許可だ。
【鑑定】スキル持ちは無闇に他人【鑑定】を行ってはいけないという王国が決めた法律がある。もちろん例外はあるけれども、【鑑定】を自身よりも身分が上の人物に対して、勝手に使用するのは無礼討ちをされるに足る理由になる。

「……いいだろう。君に診断許可を与えよう」

アイザック公爵は両目を伏せて、幾ばくかしてから俺に許可を下した。本当になりふり構っていられない状況であるのがわかる。

「ありがとうございます。最後ですが、アウロラ公爵領に英霊教団の教会や拠点、なんらかのつながりはありますか?」

「いや、当家の寄り子貴族で英霊教団と関わりを持っている家はないはずだ……何故そんなことを訊く?」

「かのは王都を始め、各地でなにやら暗躍している様ですので、ご注意ください」

「分かった。気をつけておこう。セバス」

「はっ! お任せください」

公爵主従のやりとりの後、最後の問いを行う前に盗聴を防ぐ目的で張った静音結界の魔術を違和感がないように俺は解除した。

もし、アウロラ公爵家が英霊教団と関わりを持っていたら、俺は即座にこのシャルロット様の家庭教師の仕事を放り出してさっさと王国西へ旅立つつもりでいた。俺にとって、あのクソ教団は不倶戴天の仇で見敵必殺対象だ。奴等はこの世界にも生息し、台所に現れる黒い害虫なみにしぶとく、1人見かけたら、30人はその土地に潜伏していると思っていい。

アウロラ公爵との話はそれで終わり、俺は執務室を後にし、ご年配のメイドさんの案内で用意してもらった部屋で夕食の準備ができるまで休む様言われた。

ハンガーに屋敷に入るときに助けたメイドさんに渡したコートがかけられているのを確認して、俺は旅行鞄のなかからシャルロット様の講義に使う教材を取り出し、夕食の案内があるまで見直しをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...