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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活
第6話 厄介極まりない仕事の話
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「君に任せる仕事はシャルロットを王立学園の入学試験1月前までに魔術を使える様にすることだ」
アイザック・アウロラ公爵の苦渋に満ちた言葉を聞いて、俺にこの厄介極まりない仕事の詳細を教えなかった教授の意図を理解した。理解はしたが、納得はできないので教授への倍返しは確定だ。
「魔法の才が未開花であっても、事態が王立学園在学中に好転する可能性は十分あると思います。王立学園への入学をあの教授が薦めないとは思えないのですが……他に何か理由があるのでしょうか?」
元王宮魔術師筆頭だった教授の王国内での影響力はかなりのものだ。王立学園に推薦入学させる力は充分にあると教授と犬猿の仲の学園長が認めている。今の王宮魔術師筆頭と違って、人材の大切さをわかっている王国の未来を憂いている教授がシャルロット公女殿下に推薦状を書かないとは考え難い。
「……ああ。君もこの土地に来て実感したと思うが、私が、我がアウロラ公爵家が建国以来、王家より任されているこの地は寒気で作物が育ち難く、特にこれからの季節は人が住むにはとても過酷な土地だ。周辺国、特に北の帝国から護るために我が公爵家は代々秘術を継承してきた武の家柄だ。しかし、爵位相続に意欲的で真面目な長女はその優しさ故に戦いには向かず、秘術の習得には至っていない。そして、魔力量ではその長女と私すら上回ると言われている次女は肝心の魔術が使えないときている。おそらく、武としてのアウロラ公爵家は私の代で終わるのだろう」
アイザック閣下はそう悲しげに告げ、傍に控えているセバスチャンさんはそんな閣下の様子を痛ましげに見ている。
「だが、それでも私はいいと思っている。現在の我が公爵領の武力は我が公爵家のみに頼ったものではないからだ。それに我妻の長年掛けた植物の研究をシャルが手伝う様になってから、その研究は飛躍的に進み、寒さに強い穀物の開発に成功した。領主としてはシャルにはアウロラ公爵領に残って研究への協力を続けてほしいところなのだ。だが、その一方で父親としてはあの子の希望を後押ししてやりたいところなのだが……」
悩ましげに公爵閣下はそう続けた。
「奥方様のシャルロット様の王立学園への進学に対するお気持ちとシャルロット様ご自身の意思は如何なのですか?」
俺は苦悩している公爵閣下に尋ねた。
「……妻は#あの娘__シャル__#の王立学園入学に関しては今を逃すと掛け替えのない友を得られる時期を逸するからと前向きに娘を応援する姿勢だ。残念だが、アウロラ公爵領では公爵家という身分が邪魔して、年近い気の置けない友人を作ることはできないからな。作物の研究については既に軌道に乗っているから問題ないと彼女は言っている。
シャル本人も王立学園に入学することに積極的で、筆記試験に関しては教授のお墨付きを既にもらっている。だが、やはり問題は実技の方だ。シャルの体術や杖術の腕は教授の見立てでは実技試験を突破するには厳しいそうだ。せめて、初級魔術でも使えればいいのだがな……。指導方針は君に一任する」
「左様ですか、数点ほどお願いとお答えいただきたいことがありますが、よろしいでしょうか?」
「うむ、いいだろう。言ってみたまえ」
雇われる側の立場としてあまり褒められた態度ではない。しかし、俺には必要なことであるので言ってみたら、予想外に即答で快諾された。
「ありがとうございます。まず、確認ですが僕の仕事はシャルロット様が魔術を使える様になり、王立学園の実技試験を突破できる様に実技面を鍛えることでよろしいですか?」
「ああ。王立学園入学まで魔術が全く使えなかったと言われているフレア嬢が君の助力によって、魔術の才能を開花させ、得意の剣の腕だけでなく、魔術士としても頭角を現したという話は私も聞き及んでいる。君が協力して駄目だったら、残念だが、#あの娘__シャル__#も諦めがつくだろう」
フレアが俺がコツを教えたことで魔術を使える様になったのは事実ではある。しかし、フレアが使えなかった原因とシャルロット様が魔術が使えない理由が同じとは限らないので、同じ方法で解決するかは未知数だ。
しかも、フレアで解決した手段は彼女からなぜかきつく禁じられている。
「わかりました。次に、最善を尽くすために必要なので、既に教授が実施しているかもしれませんが、シャルロット様の現状を把握するため、僕にシャルロット様を診断する許可をください」
診断と表現したが、意図はスキル【鑑定】の使用許可だ。
【鑑定】スキル持ちは無闇に他人【鑑定】を行ってはいけないという王国が決めた法律がある。もちろん例外はあるけれども、【鑑定】を自身よりも身分が上の人物に対して、勝手に使用するのは無礼討ちをされるに足る理由になる。
「……いいだろう。君に診断許可を与えよう」
アイザック公爵は両目を伏せて、幾ばくかしてから俺に許可を下した。本当になりふり構っていられない状況であるのがわかる。
「ありがとうございます。最後ですが、アウロラ公爵領に英霊教団の教会や拠点、なんらかのつながりはありますか?」
「いや、当家の寄り子貴族で英霊教団と関わりを持っている家はないはずだ……何故そんなことを訊く?」
「かの犯罪者集団は王都を始め、各地でなにやら暗躍している様ですので、ご注意ください」
「分かった。気をつけておこう。セバス」
「はっ! お任せください」
公爵主従のやりとりの後、最後の問いを行う前に盗聴を防ぐ目的で張った静音結界の魔術を違和感がないように俺は解除した。
もし、アウロラ公爵家が英霊教団と関わりを持っていたら、俺は即座にこのシャルロット様の家庭教師の仕事を放り出してさっさと王国西へ旅立つつもりでいた。俺にとって、あのクソ教団は不倶戴天の仇で見敵必殺対象だ。奴等はこの世界にも生息し、台所に現れる黒い害虫なみにしぶとく、1人見かけたら、30人はその土地に潜伏していると思っていい。
アウロラ公爵との話はそれで終わり、俺は執務室を後にし、ご年配のメイドさんの案内で用意してもらった部屋で夕食の準備ができるまで休む様言われた。
ハンガーに屋敷に入るときに助けたメイドさんに渡したコートがかけられているのを確認して、俺は旅行鞄のなかからシャルロット様の講義に使う教材を取り出し、夕食の案内があるまで見直しをした。
アイザック・アウロラ公爵の苦渋に満ちた言葉を聞いて、俺にこの厄介極まりない仕事の詳細を教えなかった教授の意図を理解した。理解はしたが、納得はできないので教授への倍返しは確定だ。
「魔法の才が未開花であっても、事態が王立学園在学中に好転する可能性は十分あると思います。王立学園への入学をあの教授が薦めないとは思えないのですが……他に何か理由があるのでしょうか?」
元王宮魔術師筆頭だった教授の王国内での影響力はかなりのものだ。王立学園に推薦入学させる力は充分にあると教授と犬猿の仲の学園長が認めている。今の王宮魔術師筆頭と違って、人材の大切さをわかっている王国の未来を憂いている教授がシャルロット公女殿下に推薦状を書かないとは考え難い。
「……ああ。君もこの土地に来て実感したと思うが、私が、我がアウロラ公爵家が建国以来、王家より任されているこの地は寒気で作物が育ち難く、特にこれからの季節は人が住むにはとても過酷な土地だ。周辺国、特に北の帝国から護るために我が公爵家は代々秘術を継承してきた武の家柄だ。しかし、爵位相続に意欲的で真面目な長女はその優しさ故に戦いには向かず、秘術の習得には至っていない。そして、魔力量ではその長女と私すら上回ると言われている次女は肝心の魔術が使えないときている。おそらく、武としてのアウロラ公爵家は私の代で終わるのだろう」
アイザック閣下はそう悲しげに告げ、傍に控えているセバスチャンさんはそんな閣下の様子を痛ましげに見ている。
「だが、それでも私はいいと思っている。現在の我が公爵領の武力は我が公爵家のみに頼ったものではないからだ。それに我妻の長年掛けた植物の研究をシャルが手伝う様になってから、その研究は飛躍的に進み、寒さに強い穀物の開発に成功した。領主としてはシャルにはアウロラ公爵領に残って研究への協力を続けてほしいところなのだ。だが、その一方で父親としてはあの子の希望を後押ししてやりたいところなのだが……」
悩ましげに公爵閣下はそう続けた。
「奥方様のシャルロット様の王立学園への進学に対するお気持ちとシャルロット様ご自身の意思は如何なのですか?」
俺は苦悩している公爵閣下に尋ねた。
「……妻は#あの娘__シャル__#の王立学園入学に関しては今を逃すと掛け替えのない友を得られる時期を逸するからと前向きに娘を応援する姿勢だ。残念だが、アウロラ公爵領では公爵家という身分が邪魔して、年近い気の置けない友人を作ることはできないからな。作物の研究については既に軌道に乗っているから問題ないと彼女は言っている。
シャル本人も王立学園に入学することに積極的で、筆記試験に関しては教授のお墨付きを既にもらっている。だが、やはり問題は実技の方だ。シャルの体術や杖術の腕は教授の見立てでは実技試験を突破するには厳しいそうだ。せめて、初級魔術でも使えればいいのだがな……。指導方針は君に一任する」
「左様ですか、数点ほどお願いとお答えいただきたいことがありますが、よろしいでしょうか?」
「うむ、いいだろう。言ってみたまえ」
雇われる側の立場としてあまり褒められた態度ではない。しかし、俺には必要なことであるので言ってみたら、予想外に即答で快諾された。
「ありがとうございます。まず、確認ですが僕の仕事はシャルロット様が魔術を使える様になり、王立学園の実技試験を突破できる様に実技面を鍛えることでよろしいですか?」
「ああ。王立学園入学まで魔術が全く使えなかったと言われているフレア嬢が君の助力によって、魔術の才能を開花させ、得意の剣の腕だけでなく、魔術士としても頭角を現したという話は私も聞き及んでいる。君が協力して駄目だったら、残念だが、#あの娘__シャル__#も諦めがつくだろう」
フレアが俺がコツを教えたことで魔術を使える様になったのは事実ではある。しかし、フレアが使えなかった原因とシャルロット様が魔術が使えない理由が同じとは限らないので、同じ方法で解決するかは未知数だ。
しかも、フレアで解決した手段は彼女からなぜかきつく禁じられている。
「わかりました。次に、最善を尽くすために必要なので、既に教授が実施しているかもしれませんが、シャルロット様の現状を把握するため、僕にシャルロット様を診断する許可をください」
診断と表現したが、意図はスキル【鑑定】の使用許可だ。
【鑑定】スキル持ちは無闇に他人【鑑定】を行ってはいけないという王国が決めた法律がある。もちろん例外はあるけれども、【鑑定】を自身よりも身分が上の人物に対して、勝手に使用するのは無礼討ちをされるに足る理由になる。
「……いいだろう。君に診断許可を与えよう」
アイザック公爵は両目を伏せて、幾ばくかしてから俺に許可を下した。本当になりふり構っていられない状況であるのがわかる。
「ありがとうございます。最後ですが、アウロラ公爵領に英霊教団の教会や拠点、なんらかのつながりはありますか?」
「いや、当家の寄り子貴族で英霊教団と関わりを持っている家はないはずだ……何故そんなことを訊く?」
「かの犯罪者集団は王都を始め、各地でなにやら暗躍している様ですので、ご注意ください」
「分かった。気をつけておこう。セバス」
「はっ! お任せください」
公爵主従のやりとりの後、最後の問いを行う前に盗聴を防ぐ目的で張った静音結界の魔術を違和感がないように俺は解除した。
もし、アウロラ公爵家が英霊教団と関わりを持っていたら、俺は即座にこのシャルロット様の家庭教師の仕事を放り出してさっさと王国西へ旅立つつもりでいた。俺にとって、あのクソ教団は不倶戴天の仇で見敵必殺対象だ。奴等はこの世界にも生息し、台所に現れる黒い害虫なみにしぶとく、1人見かけたら、30人はその土地に潜伏していると思っていい。
アウロラ公爵との話はそれで終わり、俺は執務室を後にし、ご年配のメイドさんの案内で用意してもらった部屋で夕食の準備ができるまで休む様言われた。
ハンガーに屋敷に入るときに助けたメイドさんに渡したコートがかけられているのを確認して、俺は旅行鞄のなかからシャルロット様の講義に使う教材を取り出し、夕食の案内があるまで見直しをした。
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