女神様にスキルを貰って自由に生きていいよと異世界転生させてもらった……けれども、まわりが放っておいてくれません

剣伎 竜星

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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活

第11.5話 (別視点)事件の裏側と大人達の密談その1

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◆◆◆教授視点

ふう、やれやれ、がどれだけディーハルト君王宮魔術師ロイヤルソーサラーの採用試験を受けさせるために苦労したか分かっていない自尊心だけは立派な愚か者が多過ぎる。

おかげで根回しをしておいた各所全てに直接出向いて彼が採用試験で不採用になった事情の説明をしなければならなくなった。その約束が後、数十件以上。考えるのはよそう。

同じ苦しみをあのいけ好かない頑固な学園長ご老人がしていると思うと少しだけ私の溜飲は下がった。

ディーハルト君は年齢に見合わぬその大半の偉業とも言える王国への貢献と功績の大半を『紅蓮姫』を継承したフレア嬢のと私達、大人のものとしている。

彼は私の知るあの年齢のプライドの高い貴族男子達がするはずの「あの偉業を自分が成したものだ」と声高に主張して自己顕示欲を満たすといった行動をとらない。

それにディーハルト君が考案し、実用している、私も囚われていた魔術は戦闘専用であるという固定概念を見事に粉砕した、私の半分の年月も人生を送っていない彼が生活を快適にするために術式を構築した【生活魔術】を導入すれば王国国民の生活水準が大幅に向上することは確実だ。

現に彼との信頼関係が密で、積極的に【生活魔術】を導入している彼の養親が治めるアレスター子爵領と南のウェルダー公爵領では一家庭の生産性と生活の質が大幅に向上しているだけでなく、乳幼児の死亡率が限りなく0になったという結果が出ている。

それ程の偉業を成したのにディーハルト君は自分の名は出さず、私との共同研究での成果とした。更に得られた名声は自身が所属している研究室の主である教授に押し付けてきている始末だ。

そう言えば、以前、何故名声を欲しがらないのか訊いたときに彼は

「出る杭は打たれると言いますか、王女殿下とフレア公女殿下のお傍にいるだけで、既に必要以上に僕は悪目立ちしてます。これ以上過剰に僕の名前が売れてしまうと変な色眼鏡で見られて身動きが取れなくなってしまうので、必要性を感じません。ああ、魔術大学の教授の研究室の研究生という肩書きの今が動きやすいです」

と答えていた。それに対して親しい殿下お2人の話を茶化して振ったら、

「僕と王族である王女殿下、南の雄であるウェルダー公爵家の一員であらせられるフレア公女殿下、どちらかと結ばれるといったことは普通に身分差を考えるなら、無理ですね。

恋愛感情ですか? ……僕はお2人に好意を持っている自覚はあるのですが、それが恋愛によるものかはよくわかりません。

それに貴族の結婚は当人達同士だけで完結する単純な問題ではありませんよね。僕は義父母と弟妹達に迷惑をかけるつもりは毛頭ありませんので、最終的なご判断は陛下とウェルダー公爵家の方々にお任せせざるを得まないかと。ただ、僕は向けられた好意を無下にできる人間じゃないんですよね……」

と彼は言葉を濁しながら苦笑いを返してきたな。いっそ陛下の一声でお2人のどちらかとくっついて身を固めてくれるのが私達にとっては最善だが……あちらを立てればこちらが立たずといったことになりかねないな。やれやれ。

彼が王国を見限って、他国に、寒いのは苦手と言っていたから帝国は選択肢にないだろうが、亡命されたら一大事だな。

まず、ディーハルト君に心身を救われて依存傾向にある現『紅蓮姫』のフレア嬢は家を捨ててでも彼を追いかけるだろう。

もし、彼が他所の土地で建国でもしようものなら、彼を慕う私の研究室に所属している研究生はもとより、現在の王立学園の成績優秀で将来有望な生徒達は彼の下に向かう者が多数出て、王国が多くの有能な人材を失うことになるのは想像に難くない。まぁ、彼が建国する可能性はフレア嬢が冗談で話したときに彼自身が強く否定していたから余程のことがない限りまずないだろう。

僅かな可能性ではあるがその脅威を防ぐため、私とあの学園長ご老人、ウェルダー公爵夫婦、国王陛下で話し合って、ディーハルト君王宮魔術師ロイヤルソーサラーにするというを決めたのに、あの愚かな第二王子殿下の横紙破りの愚行によって、水泡に帰してしまった。

未だにアレスター子爵家を逆恨みしている王宮魔術師筆頭殿が裏で妨害したのは学園長ご老人と共につきとめはしたものの、明確な証拠をつかむことはできなかったため奴はお咎めなしだ。そのため、発端は第二王子殿下のディーハルト君への嫉妬による暴走とされた。

加えて、王家の醜聞であるため、緘口令が敷かれて処理されることが決まっていることから、経緯が周知されることはない。ディーハルト君が王宮魔術師試験で不採用になったという結果だけが残ることになる。

出自が下級貴族であったディーハルト君の快進撃とも言える王立学園飛び級卒業、魔術大学同年度記録更新者の1人といった華々しい功績は今回の王宮魔術師不採用によって土が付いてしまった。

このことはかねてより、彼のことを苦々しく思っていた血筋しか誇ることができない王都に巣食う王国の寄生虫どもが一番歓迎している。

先々代の所為で文官武官の質の低下に悩まされている陛下もさぞ頭が痛いことだろうな。



『ようやく来たか』

『どうした教授、君が最後だぞ」

王立学園、魔術大学で同期だったアウロラ公爵アイザックザックとウェルダー公爵アレックスアレクが通信会議用魔導具を繋いで待っていた。私と2人の関係は悪友という表現が一番近い。

今回の会合はザックの要請で急遽私達3人で話し合いの場が設けられた。題目は私がザックの下へ派遣したディーハルト君のことだ。

「失礼。王宮魔術師採用試験の件で各所に事情説明で遅れてしまった。なにかディーハルト君がなにかやらかしでもしたのかね? アウロラ公爵閣下?」

ザックの末の娘のシャルロット嬢は知る人ぞ知るアウロラ公爵家の薬であり、癌であると言える存在だ。私ですら解決できなかった彼女が抱える魔術行使ができないという公爵一族としては致命的な問題の解決をディーハルト君に任せたのだ。

ディーハルト君は面倒見がいい一方で、年下に甘い。フレア嬢との武勇伝が貴族女性の間で取り沙汰されているから、彼に憧れているシャルロット嬢に無作法をすることも考えられる。

『やらかしたのはお前だよ、教授。こちらの事情をきちんと説明せずにディーハルト君をよこしたな?』

うわっ、ザックの顔は笑っているけれども目が見事に笑っていない。

「きちんと説明せずに彼を送り出したのは確かに悪かったと思うけれども、普段の彼だったらいざ知らず、そっちへ送り出す前の精神状態の彼だったら、考える時間を与えるとシャルロット嬢の件を引き受けてくれなかったかもしれなかったんだよ。王宮魔術師採用試験あの件がなければ、彼は話せばわかってくれる人間だけれども、上級貴族は私の紹介でも関わろうとしないだろうね」

私は不合格と聞いたときの彼のなんとも言えない様子を思い出し、嘆息せざるを得なかった。

『彼がメリッサに送ってくれた実技試験の映像を私も確認したが、はないな。例え国王陛下に土下座されても愛娘フレアを侮辱した第二王子アレにフレアをやる気は私にはないし、家族全員が反対している。メリッサもアレの発言を聞いた直後は手に取っていたティーカップがし、表情が抜け落ちる程大激怒したから、あの後第二王子アレを完膚なきまで蹂躙して、我等の溜飲を下げてくれたディーハルト君と彼の家族であるアレスター子爵達を我がウェルダー公爵家は全面的に保護する用意はある』

アレクも怒りの矛先は第二王子と王宮魔術師筆頭だが、ザックと同じく、顔は笑っているけれども、目が見事に笑っていない。

『ほほう、ディーハルト君が蹂躙する姿か……アレク、悪いが『映像水晶なら、フレアがアウロラ公爵領そっちにいるディーハルト君宛ての手紙と同じ騎獣グリフォン便でナターシャ殿宛てで送った。明日、遅くとも明後日にはそちらに届くだろう』助かる』

戦闘民族であるザックの興味を引いたか、ディーハルト君には同情を禁じえないな……んん?

「ザック、君、まさかとは思うが、ディーハルト君と模擬戦したのかい?」

『ああ。ったぞ! すごいな彼はまさか我が公爵家の秘術『氷神魔狼』をその場で模倣するだけでなく、ことをやってのけるなんてな。まさか私が負かされるとは思ってもいなかったぞ!?』

興奮気味に強敵の出現を嬉しそうにザックは語るが、私はジト目になっているだろう自分の視線をディーハルト君と会うなりをした同類アレクに向けた。

『……』

魔導具に映るアレクはバツが悪い表情を浮かべて私の視線を避けていた。

これでディーハルト君は王国の秘術の半数以上を使える様になったことを考えるとますます頭が痛くなるな。私とアレクはこの後、ザックとディーハルト君の模擬戦の記録映像を見て、更に頭を抱えることになった。

◆◆◆
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