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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活
第14話 問題の確認と報告
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失敗前提でレティとシャルに今覚えているという術式で魔術を使ってもらった。
その結果はレティはたしかに規模は小さくはあったものの、俺がさっき使った水属性の初歩魔術である『水球』の発動に成功。レティの抱えている問題点は使っている術式が術式が長いことに美点を見出す自称魔術師達が使っている術式だったことと、レティの体内の魔術回路は回路内の魔力の通りが悪いという比較的簡単に改善できる内容だった。
一方、シャルはレティと同じ『水球』を発動しようとしたが、水の一滴すら形成されることはなかった。魔術が発動した形跡が全くなかったため、失敗。
しかし、2人の魔術行使の一部始終を俺がスキル【鑑定】の上位スキルである【解析】で視ていたからこの失敗は無駄ではない。
俺の持っているこの【解析】のスキルは【鑑定】をレベルを最大まで上げることで得られるスキルなのだが、あの教授や大戦時代から長生きしている学園長も取得していないレアスキルだ。
この【解析】のおかげで俺は視界で行使される魔術の術式を読み取ることができている。
そして、このスキルのおかげでシャルが魔術が使えない3つの原因を俺は突き止めることができた。
まず、シャルが使っている術式だが、レティの使ったものとは完全に別物。しかも、多くの問題がある欠陥術式だった。術式内に不要な文字がレティが使ったものよりも多いため、初歩の魔術なのに上級魔術並みに術式が長い。更に、要所で必要な文字が欠けてしまって、不要な部分に無駄な文字列が並んでいる。この術式では魔術師として超一流に分類されているフレアでも魔術を発動することはできないだろう。
次に、魔術を発動するためには術式に魔力を流さないといけないのだが、しかし、シャルの体内から術式に魔力が全く流れていなかった。回路の銅線に電流が流れなければ電球が光らないのと同じで、この世界の魔術も術式に魔力を流さないと発動しない。
この術式に魔力を流す動作は魔術行使時に無意識に行われているものなので、できる者にはできない者への説明が難しい。加えて、この世界では失敗の原因を探るために試行するという考えが一般的ではない。なかなかに厄介な問題だ。
そして、シャルの心理状態。成功体験が一度もない上に、これまでの度重なる過剰な失敗と周囲のプレッシャーで完全に心が萎縮してしまっている。魔術行使に必要な成功イメージをもてなくなってしまっているため、それが発動を阻害し、本人は気にしていない素振りをしているものの、心中穏やかではなく完全に悪循環に陥ってしまっている。
今日分かったことは以上だが、特に最後の問題は残念ながら一筋縄ではいかない可能性が高い。
魔術の発動に失敗して気を落ちしているシャルをレティとともに慰めたところで、その日の授業時間の終了時刻を迎えた。
俺は2人にレティの使った術式とシャルが用いた術式を紙面に書き出して、違いを調べる課題を2人に出した。
退室後、俺は遭遇した屋敷のメイドに本日中にアイザック様と面会の時間をとってもらうことはできないか頼んで諸々の準備のために自分の部屋に戻った。
アイザック様にアポをとったのは当然、シャル様達の報告のためだ。一応、魔術が使えない原因を特定できたことの報告のためだ。
授業中に限り呼び捨てにする約束をしてしまったため、授業以外では脳内でもシャルは様付け、レティはさん付けに戻す様にしなければ、授業外などで迂闊にシャル様達を呼び捨てにしてしまう恐れがある。付き合いの浅いアウロラ公爵家内で可愛がられているシャル様達相手に馴れ馴れしい態度は危険すぎる。
フレアに関しては寧ろ、ご両親のウェルダー公爵夫婦が身分を盾に俺に強要じみた許可をしているので問題にはならない。ならないのだが、俺の心労が大きいので勘弁して欲しい。
「シャルが魔術を使えない原因を特定できたと聞いたが、本当かね」
俺は部屋に戻ってすぐにアイザック様の執務室に来る様、セバスチャンさんが迎えにきた。
「はい。本日の授業でレティさんとともにシャル様の魔術行使を診せていただきました。今の所、分かった原因は3つ。1つは術式自体の欠陥。もう1つはシャル様が魔力を術式に流すことができていないこと。最後にこれまでの度重なる失敗がシャル様に精神的な圧力をかけ、更に失敗しやすい悪循環に陥っていることです」
「……そうだったか。術式に欠陥があることがわかったということは君は術式を読み解くことができる、ということだね?」
「はい。このことは僕は自ら吹聴する気はありませんが、僕に近しい人物と僕の保護者であるアレスター子爵夫婦はもとより、教授と王立学園学園長、ウェルダー公爵家の方々、現国王陛下はご存知です。アイザック様がご存知なかったということはおそらく教授がわざとお伝えしなかった所為ですね」
そう言って、俺は嘆息した。スキル【解析】の能力全てを馬鹿正直に他人に伝えるつもりは俺にはない。知ったことにより、その人に迷惑がかかる恐れがあるからだ。親しい周囲の人間の一部には術式を解読できる程度に思わせている。
魔力の流れを見る技術は熟練の魔術師であれば必須技能だ。しかし、空間に展開される術式を読み取れるのは俺が知る限り、今の所、スキル【解析】を持つ俺以外は確認できていない。
「術式の問題はきちんと行使できる術式を記載した僕の手持ちの#巻物__スクロール__#で誤った術式を上書きすれば解決できます。術式に魔力を流す練習を明日から取り入れる予定です。最後のシャル様の精神的な問題に関しては……微力を尽くしますが、現時点ではどうなるかは分かりません」
シャル様の失敗を恐れる心を救う可能性が高い手段が俺にない訳ではないのだが、その方法をとるのはできれば避けたい。俺の心の平穏のために。
「そして、アイザック様、こちらの紙面に魔力を流してみてください……シャル様が覚えられている『水球』の術式です」
そう言って、俺はアイザック様に魔力を流すだけでその紙面に書き留められた術式の魔術が行使できる簡易魔導具である魔符をセバスチャンさん経由で渡した。
便利そうにみえる魔導具だが、この魔符は1度しか使えない完全消費型であり、高価な特殊なインクと特殊な専用紙が必要。作成時に術式の記入に失敗するとゴミになるというおそろしくコストパフォーマンスが悪い大不人気魔導具だ。俺はこれを馴染みの魔導具屋のお婆さんから大処分特価で大量購入して、【アイテムボックス】に入れている。まだ、在庫は潤沢で、追加購入の必要はない。アイザック様に渡した魔符は俺が執務室に呼ばれる前に部屋で準備した物だ。
「ふむ……確かに発動しないな」
たしかにアイザック様は魔符に魔力を流されたが、やはり水は一滴も発生しなかった。
「……これは最初にシャルの家庭教師を任せたあの男を呼び出して事情をきかなければならなくなったな」
アイザック様は険しい顔で嘆息とともにそう言われ、傍に控えているセバスチャンさんがそれに頷いた。
「探されるのは構いませんが、果たして見つかるかどうか……。また、足跡を辿ることができたとしても生きていないかもしれません」
「それはどういうことだね?」
「根拠はこの術式の製作者が術式のここに書いてある様に、ルツ・ヨウメイだからです。このルツという魔術師は英霊教団で崇められている人物の1人。シャル様にこの術式を教えた人物は教団の関係者。もしくは協力を強制された被害者かもしれません。後者であれば、教団が関わった痕跡となるその人物を教団が生かしておく可能性は低いです」
英霊教団は「英霊が仰っている」で自分達に都合が悪くなったらなんでも済ませるガチ狂信者の集団。こちらの常識や良識は奴等には通用しない。
そもそも、奴等が英雄と崇めている連中は大半が各国で罪を犯して処刑された犯罪者達だ。連続強姦殺人鬼だったり、大量殺戮大魔術を創造した魔術狂い、食屍趣味の残虐非道なサイコパスなどキチ○イばかりだ。
ルツ・ヨウメイに至っては自称世界最高の魔術師と嘯く、稀代の詐欺師だ。当時最大勢力を誇っていた帝国貴族の美形貴公子だったとされるルツが得意としたのは全て光属性の『幻惑』のみ。しかし、それすらも成功率は低かったという帝国の歴史記録が残っている。
そのルツが自分の弟子という信者のために残した各種属性魔術の巻物の術式は当時平民にも使いやすさなどから普及して浸透を始めていた術式を改悪した欠陥術式。
そのルツの最期は愚かにも自分は帝国の皇帝になるという根拠のない妄言と帝位簒奪の公言を繰り返していたため、公開処刑となり、その亡骸は念入りにばらばらにされて罪人の死体を投げ捨てる場所へ投棄されたと伝えられている。
「ならばこれ以上問題を起こされるのを防ぐためにも足跡を辿って、教団関係者がまだ公爵領内にいるのか調べたほうがよろしいですな」
「うむ、差配はセバスに一任する。任せたぞ」
「はっ!」
セバスチャンさんはそのまま執務室から退室した。
その姿を見届けたアイザック様は俺に向き直り、
「よくやってくれた。引き続きシャル達を頼むよ。ディーハルト君」
「はい。微力を尽くさせていただきます」
俺はそう答えて一礼し、アイザック様の執務室を後にした。
その結果はレティはたしかに規模は小さくはあったものの、俺がさっき使った水属性の初歩魔術である『水球』の発動に成功。レティの抱えている問題点は使っている術式が術式が長いことに美点を見出す自称魔術師達が使っている術式だったことと、レティの体内の魔術回路は回路内の魔力の通りが悪いという比較的簡単に改善できる内容だった。
一方、シャルはレティと同じ『水球』を発動しようとしたが、水の一滴すら形成されることはなかった。魔術が発動した形跡が全くなかったため、失敗。
しかし、2人の魔術行使の一部始終を俺がスキル【鑑定】の上位スキルである【解析】で視ていたからこの失敗は無駄ではない。
俺の持っているこの【解析】のスキルは【鑑定】をレベルを最大まで上げることで得られるスキルなのだが、あの教授や大戦時代から長生きしている学園長も取得していないレアスキルだ。
この【解析】のおかげで俺は視界で行使される魔術の術式を読み取ることができている。
そして、このスキルのおかげでシャルが魔術が使えない3つの原因を俺は突き止めることができた。
まず、シャルが使っている術式だが、レティの使ったものとは完全に別物。しかも、多くの問題がある欠陥術式だった。術式内に不要な文字がレティが使ったものよりも多いため、初歩の魔術なのに上級魔術並みに術式が長い。更に、要所で必要な文字が欠けてしまって、不要な部分に無駄な文字列が並んでいる。この術式では魔術師として超一流に分類されているフレアでも魔術を発動することはできないだろう。
次に、魔術を発動するためには術式に魔力を流さないといけないのだが、しかし、シャルの体内から術式に魔力が全く流れていなかった。回路の銅線に電流が流れなければ電球が光らないのと同じで、この世界の魔術も術式に魔力を流さないと発動しない。
この術式に魔力を流す動作は魔術行使時に無意識に行われているものなので、できる者にはできない者への説明が難しい。加えて、この世界では失敗の原因を探るために試行するという考えが一般的ではない。なかなかに厄介な問題だ。
そして、シャルの心理状態。成功体験が一度もない上に、これまでの度重なる過剰な失敗と周囲のプレッシャーで完全に心が萎縮してしまっている。魔術行使に必要な成功イメージをもてなくなってしまっているため、それが発動を阻害し、本人は気にしていない素振りをしているものの、心中穏やかではなく完全に悪循環に陥ってしまっている。
今日分かったことは以上だが、特に最後の問題は残念ながら一筋縄ではいかない可能性が高い。
魔術の発動に失敗して気を落ちしているシャルをレティとともに慰めたところで、その日の授業時間の終了時刻を迎えた。
俺は2人にレティの使った術式とシャルが用いた術式を紙面に書き出して、違いを調べる課題を2人に出した。
退室後、俺は遭遇した屋敷のメイドに本日中にアイザック様と面会の時間をとってもらうことはできないか頼んで諸々の準備のために自分の部屋に戻った。
アイザック様にアポをとったのは当然、シャル様達の報告のためだ。一応、魔術が使えない原因を特定できたことの報告のためだ。
授業中に限り呼び捨てにする約束をしてしまったため、授業以外では脳内でもシャルは様付け、レティはさん付けに戻す様にしなければ、授業外などで迂闊にシャル様達を呼び捨てにしてしまう恐れがある。付き合いの浅いアウロラ公爵家内で可愛がられているシャル様達相手に馴れ馴れしい態度は危険すぎる。
フレアに関しては寧ろ、ご両親のウェルダー公爵夫婦が身分を盾に俺に強要じみた許可をしているので問題にはならない。ならないのだが、俺の心労が大きいので勘弁して欲しい。
「シャルが魔術を使えない原因を特定できたと聞いたが、本当かね」
俺は部屋に戻ってすぐにアイザック様の執務室に来る様、セバスチャンさんが迎えにきた。
「はい。本日の授業でレティさんとともにシャル様の魔術行使を診せていただきました。今の所、分かった原因は3つ。1つは術式自体の欠陥。もう1つはシャル様が魔力を術式に流すことができていないこと。最後にこれまでの度重なる失敗がシャル様に精神的な圧力をかけ、更に失敗しやすい悪循環に陥っていることです」
「……そうだったか。術式に欠陥があることがわかったということは君は術式を読み解くことができる、ということだね?」
「はい。このことは僕は自ら吹聴する気はありませんが、僕に近しい人物と僕の保護者であるアレスター子爵夫婦はもとより、教授と王立学園学園長、ウェルダー公爵家の方々、現国王陛下はご存知です。アイザック様がご存知なかったということはおそらく教授がわざとお伝えしなかった所為ですね」
そう言って、俺は嘆息した。スキル【解析】の能力全てを馬鹿正直に他人に伝えるつもりは俺にはない。知ったことにより、その人に迷惑がかかる恐れがあるからだ。親しい周囲の人間の一部には術式を解読できる程度に思わせている。
魔力の流れを見る技術は熟練の魔術師であれば必須技能だ。しかし、空間に展開される術式を読み取れるのは俺が知る限り、今の所、スキル【解析】を持つ俺以外は確認できていない。
「術式の問題はきちんと行使できる術式を記載した僕の手持ちの#巻物__スクロール__#で誤った術式を上書きすれば解決できます。術式に魔力を流す練習を明日から取り入れる予定です。最後のシャル様の精神的な問題に関しては……微力を尽くしますが、現時点ではどうなるかは分かりません」
シャル様の失敗を恐れる心を救う可能性が高い手段が俺にない訳ではないのだが、その方法をとるのはできれば避けたい。俺の心の平穏のために。
「そして、アイザック様、こちらの紙面に魔力を流してみてください……シャル様が覚えられている『水球』の術式です」
そう言って、俺はアイザック様に魔力を流すだけでその紙面に書き留められた術式の魔術が行使できる簡易魔導具である魔符をセバスチャンさん経由で渡した。
便利そうにみえる魔導具だが、この魔符は1度しか使えない完全消費型であり、高価な特殊なインクと特殊な専用紙が必要。作成時に術式の記入に失敗するとゴミになるというおそろしくコストパフォーマンスが悪い大不人気魔導具だ。俺はこれを馴染みの魔導具屋のお婆さんから大処分特価で大量購入して、【アイテムボックス】に入れている。まだ、在庫は潤沢で、追加購入の必要はない。アイザック様に渡した魔符は俺が執務室に呼ばれる前に部屋で準備した物だ。
「ふむ……確かに発動しないな」
たしかにアイザック様は魔符に魔力を流されたが、やはり水は一滴も発生しなかった。
「……これは最初にシャルの家庭教師を任せたあの男を呼び出して事情をきかなければならなくなったな」
アイザック様は険しい顔で嘆息とともにそう言われ、傍に控えているセバスチャンさんがそれに頷いた。
「探されるのは構いませんが、果たして見つかるかどうか……。また、足跡を辿ることができたとしても生きていないかもしれません」
「それはどういうことだね?」
「根拠はこの術式の製作者が術式のここに書いてある様に、ルツ・ヨウメイだからです。このルツという魔術師は英霊教団で崇められている人物の1人。シャル様にこの術式を教えた人物は教団の関係者。もしくは協力を強制された被害者かもしれません。後者であれば、教団が関わった痕跡となるその人物を教団が生かしておく可能性は低いです」
英霊教団は「英霊が仰っている」で自分達に都合が悪くなったらなんでも済ませるガチ狂信者の集団。こちらの常識や良識は奴等には通用しない。
そもそも、奴等が英雄と崇めている連中は大半が各国で罪を犯して処刑された犯罪者達だ。連続強姦殺人鬼だったり、大量殺戮大魔術を創造した魔術狂い、食屍趣味の残虐非道なサイコパスなどキチ○イばかりだ。
ルツ・ヨウメイに至っては自称世界最高の魔術師と嘯く、稀代の詐欺師だ。当時最大勢力を誇っていた帝国貴族の美形貴公子だったとされるルツが得意としたのは全て光属性の『幻惑』のみ。しかし、それすらも成功率は低かったという帝国の歴史記録が残っている。
そのルツが自分の弟子という信者のために残した各種属性魔術の巻物の術式は当時平民にも使いやすさなどから普及して浸透を始めていた術式を改悪した欠陥術式。
そのルツの最期は愚かにも自分は帝国の皇帝になるという根拠のない妄言と帝位簒奪の公言を繰り返していたため、公開処刑となり、その亡骸は念入りにばらばらにされて罪人の死体を投げ捨てる場所へ投棄されたと伝えられている。
「ならばこれ以上問題を起こされるのを防ぐためにも足跡を辿って、教団関係者がまだ公爵領内にいるのか調べたほうがよろしいですな」
「うむ、差配はセバスに一任する。任せたぞ」
「はっ!」
セバスチャンさんはそのまま執務室から退室した。
その姿を見届けたアイザック様は俺に向き直り、
「よくやってくれた。引き続きシャル達を頼むよ。ディーハルト君」
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俺はそう答えて一礼し、アイザック様の執務室を後にした。
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