第2王子に異世界転生したけれども、お花畑思考な愚兄達がやらかしました。

剣伎 竜星

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第3話 お花畑思考達の辞書に【反省】はない

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できれば辞退したい陛下が下した俺によるルカス達の罪状と処分の解説。

何故、父である国王陛下が本来ならば部下の文官に任せるその仕事を第2王子である俺にそれをやらせるか。

本来は次期国王として、現時点で、王となるのに相応しい能力を身につけているべきルカス。これまではギリギリ及第点だったが、この場での先程の醜態を含め、ルカスは酌量の余地がない失態を犯して、失格となったからだ。

故に、立ち場が繰り上がる俺がきちんと王としての判断が出来るかを見極めるために陛下は俺に命じたのだろう。

また、ルカスの所為で芽生えた貴族達の次世代王族への不安を和らげるためだと思われる。本当にルカスは足を引っ張ってくれるな。

今回のルカスの罪状に該当する王国法準拠の処罰は極刑である公開処刑。

しかし、諸々の事情を鑑みて、国王判断で陛下は処罰内容を修道院送りに変えた。つまり、なぜ死刑囚を修道院送りにしたのかを説明せよとのご命令だ。

正解すると、俺が待ち望んでいた冒険者ライフの門は閉ざされて、代わりに血と呪いにまみれたヴァレンヌ王国国王への道が大歓迎とばかりに開かれる。ああ、ストレスで胃が痛くなりそうだ。勘弁してほしい。

しかし、物理的にも退路が完全に断たれているから、俺はエスケイプ不可能。

そもそも王命だから、俺には拒否権もどこにも逃げ場はなかったよ。チクショウ。

「畏まりました陛下」

さようなら、俺の冒険者ライフ。

「僭越ながら、説明させていただきます。まず、ルカス元第1王子達の罪状ですが、未遂のものを除いて明確なものは3点。

まず1つは既に決定し、現国王のみに決定権がある次期王妃任命権に対する越権行為。

もう1つは国王の承認が不可欠な貴族間の婚約の破棄と成立に対する専横。

そして、公爵令嬢であるロザリア嬢を独断で罰しようとした国王の持つ裁判権に関する越権行為。

これらは王国の最高権力者である国王への不敬罪かつ反逆罪の適用対象行為です。通常、1つでも犯せば死罪になります」

まずは軽くジャブ。近衛騎士に拘束されているルカスは初めて知った!みたいな驚愕の表情しているが、オイこれは王子教育以前の貴族教育の最初の方で習う内容だぞ!?

ルカスが独断でやろうとした前述の行為は全て必ず国王が最終判断を下している内容のもので、国王から正式な委任がない限り、他の者が行うことは許されていない。

陛下は目を閉じて頷いている。ここまでは問題ないようだ。

「続いて、これらの行為をルカス元第1王子は立太子していないにも関わらず、王太子と僭称し、「私は第1王子だ。私が王太子に、王になるのだから、やっても構わないだろう! それに私はロザリアに危害を加えろと命じていない! アフォンが勝手にやったことだ!!」」

俺の発言に被せてきて、勝手に喚き出すルカス。

ルカスの母である側妃は顔色を更に悪くし、彼女の実家であるボンヘッド侯爵家の貴族達もルカスの頭が残念な言動に動揺している。現侯爵は傀儡にするつもりが想定以上のルカスの出来の悪さに頭を抱えているようだ。

対して、他の貴族からの王族どころか、貴族にあるまじき振る舞いを公の場でするルカスに向ける視線は当然険しい。特に陛下とサイフィス公爵、グランヴェル公爵三者のものは絶対零度レベル。

「黙ってもらえませんか。ルカス元第1王子。今発言を陛下に許されているのは私だ。先程の陛下の御言葉を畏れ多くも忘れたのですか? 王籍を抹消された貴方は既に王族はもとより、貴族ですらない平民。この場にいられることすら、陛下の温情であるとなぜ気づかないのですか? ああ、それすらもわからないから、良識ある人間なら絶対にしない恥知らずな行為を平然とロザリア嬢にしたのですね。次に陛下の許可なく発言して話の腰を折るならば、この場での私に対する不敬罪の罪状を追加を陛下に提言します」

話の腰を折ったルカスに俺は慇懃にそう言って軽く威圧する。

本気で威圧をやって以前、ルカスは失禁して気絶したから、今回は気絶しないようにある程度手加減した。

「うっ……あ……う……」

案の定、ルカスは俺に気圧されて言葉にならない言葉を口にして喘いだ。

「全く、部下の所為にしつつ、蛮行を止めなかった輩が記録結晶の証拠も上がっているのに何を言うか。失礼、話しが逸れました。続く罪状は立太子していないにも関わらず王太子を僭称したこと。最後に、身分制度の頂点に次ぐ王族という立場にありながら、その身分制度を無視してマリアンナ・フーリッシュ男爵令嬢を独断で伴侶にしようとしたこと。マリアンナ男爵令嬢とルカス元第1王子の配下の者達もルカス元第1王子を諌める所か、積極的に協力していたため、同罪以上の罪科。最後は余計かもしれませんが、これが主な彼等の罪状になります」

実は立太子式が5日後に執り行われることが決まっていたのだが、まだ誰が王太子になるのかは知らされていない。

俺の母、現王妃と宰相であるサイフィス公爵は陛下に教えられているかもしれないが、俺はまだ知らない。

ルカスに付けている監視からも陛下からルカスに王太子の内定が行っていない確認がとれている。

たとえルカスが王太子になると決まっていたとしても、まだ陛下の口から公表されていないので、ルカスの行った王太子宣言は絶対に許されない。

そして、王族と準王族である公爵家が結婚できる貴族は伯爵位以上であるという決まりがある。

位が高い家から低い家への婿入り・嫁入りは一見、問題ない様に思えるかもしれない。しかし、実際はこっちの方が後々厄介になりがちで、結婚に問題がない場合は国王立会いの下、魔術契約が行われる。

一旦区切った俺の言葉に陛下は鷹揚に頷いている。どうやら、一先ず問題はないようだ。

「では何故ルカス達は死刑にならないのだ?お前の話では死刑が妥当になるのであろう?」

意地の悪い笑みを浮かべて陛下が俺に問いかけてくる。だが、これは当然想定済みの問いかけだ。

「はい。最高権力者である国王の権利を3つも犯したことで通常ならば死刑となります。主犯の存在は最早、国にとって害悪でしかないので早々に死刑にして、その生を終えさせるべきだと私は愚考します。しかし、現在のヴァレンヌ王国の状況から単純に死刑にしたのでは周辺諸国に与える影響が芳しくありません」

ヴァレンヌ王国は近年、著しい技術革新で国力が急増した。それを脅威に感じた周辺国で血の気の多い国々が王国と戦端を開こうとしていた。

ヴァレンヌ王国はその国々以外の周辺国と技術革新で得た知識等を取引する友好条約の締結や同盟など外交手段を駆使して好戦的な国を孤立化させて戦争ができない状態へ持っていった。

その外交の中心人物が次期王妃であるロザリア嬢。彼女の外交手腕は天才的で、周辺国との関係は彼女のおかげで安泰となり、少なくとも俺が生きている間は国家間戦争が勃発する可能性が極めて低くなった。

その功労者であるロザリア嬢を公然と貶めたルカス達をただ杓子定規に死刑にしただけでは周辺国からヴァレンヌ王家、レオン陛下へ抗議が殺到することは想像に難くない。

有能で未婚、婚約者が決まっていない彼女を自国に引き抜こうとする国は多い。幸い、ロザリア嬢自身は全く他国に靡く気配がないので王国は助かっていると言える。

「外交の功労者であるロザリア嬢とサイフィス公爵家への王家の配慮として、主犯の2人には死刑よりも厳しい処罰、社会的処刑として王籍、貴族籍を剥奪した上、厳格な修道院での生涯奉仕を厳命します。また、2人の協力者達は同じく身分を剥奪して貴族は不名誉である犯罪奴隷とすること、平民は不敬罪で公開処刑とすることで、ヴァレンヌ王家がロザリア嬢とサイフィス公爵家への配慮を示し、蔑ろにしていないことを示します」

ルカス達に所業で貴族として不名誉を被ったロザリア嬢とサイフィス公爵家の名誉回復は当然として、容疑者達に名誉的な制裁を加えることで国としての配慮を知らしめる。

ルカスとマリアンナが入れられる修道院は他国にも知れ渡るほど戒律に厳格で、宗教の監獄と渾名されて恐れられている。

最初は刑罰として修道院に入れられたけれども、そこでの生活に馴染むことによって、
宗教に目覚めて、敬虔な信徒になった元貴族が実は少なくない。中には完全に別人に変わってしまった貴族がいることでも有名なので、周辺国にとっても納得のいく処分となる。


俺のこの解答は問題なかった様で、陛下は満足そうに笑みを浮かべて頷いている。

その一方で、ルカスの母である側妃と彼女の実家のボンヘッド侯爵達の顔色はルカスを失うことによる今後の没落を思ってか、悪い。まぁ、自業自得だが。

「理解したか、ルカス? アルトリウスが言ったことがお前が犯した罪だ」

「……」

陛下の言葉にルカス本人は言葉もなく項垂れている。

「……ふむ。アルトリウスよ。お前ならばルカスがマリアンナを穏便に嫁にする方法を考えつくのではないか? 申してみよ」

何を思ったか、陛下が俺にそう仰った。

サイフィス公爵とロザリア嬢はもとより、この場にいる全員から俺は興味深げな好奇の視線の集中砲火を受ける。

え? それも答えないとダメなのか!?
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