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1巻
1-2
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目の前の現実を受け止めきれずに、脳が拒否反応を起こしている。そうしている間に、男性は佳乃のほうに近づいてきて、ほんの一メートル先で立ち止まった。
「やあ、お出迎えありがとう。本城です。君が社長秘書の清水佳乃さんかな?」
上質で力強いテノールの声が、佳乃に向けて発せられる。
「は……はい、そうです」
まるで、頭の中をジャンボジェット飛行機が通り過ぎているみたいだった。目の前に見える形のいい唇が、何か話している。しかし、何を言っているのかまるで耳に入ってこない。
佳乃は我が目を疑い、今一度男性を見返してみた。しかし、何度見ても目の前に突きつけられた現実は変わらない。
今、目の前にいる男性こそ、佳乃が五年前に南国の島で一夜をともにした相手に違いなかった。
――キーン……
頭の中に飛行機が発する高周波音が響き渡っている。できる事なら、この場から逃げ出してしまいたい。どんなベテランの秘書でも、こんな不測の事態には対応しきれないのではないだろうか。
「――じゃあ、行こうか」
「はっ? い、行くってどこへですか?」
うっかり、思った事をそのまま口に出してしまった。秘書としてマヌケすぎる発言を悔いたところで、あとの祭だ。鷹揚に微笑んだ本城が、片方の眉尻を上げる。
「役員の方々に、ひと言ご挨拶したい。まだ新しい職場に不慣れだから、案内を頼めるかな?」
唖然として動けずにいる佳乃を見つめながら、本城が微かに首を傾げた。確かに見覚えのあるしぐさに、心がくじけそうになる。しかし、秘書課主任のプライドにかけて、今ここにある危機を回避しなければならない。
「は……はい、かしこまりました。では、こちらへ」
破裂しそうになる心臓を押さえながら、佳乃はなんとか平静を装って歩き出す。
そして、本城の進行の邪魔にならないよう気を配りながら、在室中の役員の部屋を回った。
(落ち着いて、佳乃……。とりあえず今を乗り切らないと)
五年前、南国の島で見た彼は、見るからに軟派そうな微笑みを浮かべ、不遜なほどセクシーなオーラを振りまいていた。
しかし、目の前にいる彼は、いかにも紳士然としており、整った顔立ちにクールな雰囲気をまとっている。佳乃は目前を歩く本城のうしろ姿を見つめた。
(雰囲気がぜんぜん違う。もしかして双子? なんなら三つ子とか、いっそ五つ子とか――)
考えが突拍子もないほうに流れていきそうになり、佳乃はあわてて自分を叱咤する。いくら心が乱れているとはいえ、ここはオフィスであり今は就業時間内だ。
役員室に一通り顔を出し終えると、ようやく本来の顔合わせの時間になった。
集まってくる各部署の部課長達は、もれなく若き代表取締役を見て驚きの表情を浮かべる。
本城は大会議室に集まった社員達を前に、堂々たる風格を見せて就任の挨拶をした。
その間の佳乃はと言えば、相変わらず心の中に嵐が吹き荒れており、彼の言葉を聞きながら平静を装っているのがやっとだ。
佳乃は部屋の隅に立ち、壇上に立つ本城を凝視した。
どう見ても五年前に会った男性と同一人物だ。しかし、そう断言するには相手の反応が薄すぎるような気もする。
(もしかして、私の事を憶えてない……? もう五年も前の事だし、多少は顔立ちも変わっているはず……。それに、あれだけのイケメンだもの。この五年の間にたくさんの女性の相手をしてきたよね)
きっとそうだ。自分はそんな女性達の中の一人にすぎない。それに、一緒にいたのは半日にも満たないほんのわずかな時間だ。
頭の中に、希望的観測がムクムクと広がりだす。
(ああ、お願い! 私の事なんか綺麗さっぱり忘れていますように!)
佳乃は壇上に向かって、精一杯の念を飛ばした。到底効果があるとは思えないが、今の佳乃はまさに藁にもすがる思いでいるのだ。
顔合わせのあと、本城は各部署の部長らと個々に挨拶を交わし、社内を見て回るべく彼らを引き連れてエレベーターホールに向かう。
先行した佳乃は、やってきた無人のエレベーターに乗り込んで操作盤の前に陣取る。本城は周囲と雑談を交わしながら、悠然と中に乗り込んで佳乃の背後に立った。
心なしか、後頭部にものすごく強い視線を感じる。面と向かっているわけではないのに、これほどの威圧感を与えられるなんて……
目的の階に到着し、エレベーターのドアが開いた。
身を硬くして操作盤を凝視していた佳乃は、部課長達が順次フロアに出ていくのを見守る。最後まで残っていた本城が、ドアの外に一歩足を踏み出す。
(とりあえずお役御免――)
佳乃が、ほっと胸を撫で下ろそうとしたとき、本城がふいに佳乃のほうを振り返り、他の誰にも聞こえないような声で言葉を発した。
「騎乗位――」
(えっ……?)
佳乃は、はっとして本城の顔を見つめた。
その顔に浮かんでいるのは、さっきとは打って変わった不遜なほどセクシーな微笑み。佳乃の頭の中に、南国の島で過ごした最後の夜が思い出される。今、目の前にいる本城の瞳と、あの夜ベッドで睦み合った年下男のそれが完全に一致した。
彼はすべてを憶えている!
そう確信した佳乃は、遠ざかる背中を呆然と見送りながら、抱いていた希望をすべて手放し絶望した。
その日一日の仕事を終え、佳乃はいつもどおり電車を乗りついで自宅に帰り着いた。
気分はどんよりと落ち込んでいるし、叫び出したいのを我慢し続けていたせいで神経がこれ以上ないほどすり減っている。
本当にわけがわからない。
いったいなぜ、今頃になってあのときの彼が目の前に現れたのか――
しかも、自分の勤務先のCEO兼代表取締役として、だ。
こんな最悪の巡り合わせがあるだろうか?
玄関の鍵を開けながら、佳乃は最後に見た本城の顔を思い出す。
あの顔は、きっと何か企んでいるに違いない。そう思うと、人生初の一大事にして最大の危機の真っただ中に放り出された気分になった。
「あああああ~! なんで!? どうしてなの?」
家に入り、履いていたパンプスを蹴り飛ばす勢いで式台に上がる。廊下を進もうとして、上がり框に思いっきりつま先をぶつけた。
「いったあ……い……」
あまりの痛みに、廊下に倒れ込んで転げ回る。
こんな姿、絶対に会社の人達には見せられない。日頃、完璧な秘書というイメージをまとっている佳乃だが、プライベートはまるで違う。
実際、家では真逆と言っていいほど気を抜いて過ごしていた。
ようやく痛みがとおり過ぎ、佳乃はのろのろと起き上がる。そして、ため息を吐きながら居間のちゃぶ台の前でへたり込んだ。
「もう、何なのよ……。私が何をしたっていうのよ~」
不平不満を漏らしても、何の解決にもならない事はわかっている。だけど、そうせずにはいられないほど心身ともにダメージを受けていた。
じっとしていられず、立ち上がって庭を囲む縁側をうろうろと歩き回る。
佳乃が住んでいるのは、都内下町にある築七十数年の一軒家。
持ち主は母方の叔父で、夫婦が十年前に海外に移住したのを機に佳乃が移り住んだ。
あれこれと使い勝手は悪いものの、住み心地は悪くはない。今は毎月気持ちばかりの家賃を払っているが、叔父さえよければここを買い上げて終の棲家にしようかと思いはじめているところだ。
「いったいどうすればいいの? まずい……いろいろとヤバすぎるでしょ」
頭の中に、スーツ姿の本城が思い浮かぶ。
彼は事前に聞いていた経歴にふさわしい外見をしていたし、顔を合わせた者を一瞬で懐柔してしまうほど強烈なオーラを放っていた。
彼は渡米して大学に通っている間に、主だった経済関係の資格を取得した上にインターネット関連の起業まで果たしている。のちにそれを売却したときに得た金額は、日本円にして十億はくだらなかったと聞く。
そんな名実ともに超一流のビジネスマンである彼が、なぜ今になって佳乃の前に現れたのだろう。
彼は「七和コーポレーション」に佳乃がいると知った上でやって来たのか。
そうだとしたら、いったいいつのタイミングでそれを知ったのか。
それとも、それはただ単に偶然の巡り合わせだったのか。
(……偶然に決まってるよね? だって、もう五年前の話だし……)
うろうろしながら考え込んだ末に、佳乃はそう結論を出した。
恐らく本城は意図的に佳乃の前に現れたわけではなく、あくまでもビジネスとして「七和コーポレーション」の要職に就く事になっただけだ。
そして、思いがけず五年前にベッドをともにした相手と再会した。きっと、それまで佳乃の事など綺麗さっぱり忘れていたに違いない。
いい加減歩き疲れ、佳乃は居間の壁にもたれかかるようにして座り込んだ。
いつもなら、家に帰り着くなりリラックスし、すぐにゆるゆるのプライベートモードに入る。だけど、今日に限っては心の中に大型の台風が吹き荒れている感じだ。
本城が去り際に言った言葉を思い返すたびに、とうの昔に忘れ去ったはずの思い出がありありと蘇ってくる。
再会の理由はさておき、五年前に彼とただならぬ仲になったのは事実だ。
「ああ……もう、最悪……」
今後は会社のトップに就いた彼のもとで、勤務を続けなければならない。仕事をする上で彼に従う事には何ら不満はなかった。
問題は、本城が佳乃との過去をどう思っているかなのだ。
もし彼が二人の間に起こった出来事を、会社の誰かしらに漏らしたとしたら――
その可能性を考えただけで、全身が縮み上がって息苦しくなってくる。
この世に生を受けて三十二年。今までコツコツと積み上げてきたものが、たった一度の過ちのせいで崩壊するかもしれない。佳乃は畳の上に仰向けになって倒れた。
そして、本城とはじめて会ったときの事を思い出す――
事の発端は、五年前に行った南国の島で起きた出来事だった。
十日間の旅を締めくくる最後の夜。
佳乃は一人、ビーチサイドで沈みゆく夕日を見ながらたそがれていた。
南国の空や海は素敵だし、出会った現地の人々は皆幸せそうに暮らしている。それらを見ているだけで晴れやかな気分になるし、知らず知らずのうちに溜め込んでいたストレスも発散できたような気がしていた。
だけど、夜になって広々としたベッドに一人眠るときや、こうして一人ぼっちで何もせずにいるときなど、ふととてつもない寂寥感に囚われて泣きそうになる。
わざわざ遠い異国の地までやってきて、自身の心の奥底に隠れていた孤独に気づくなんて。
(帰りたい……)
こんな気持ちになるくらいなら、旅行なんかやめて自宅にこもっていればよかった。
そんな事を思いながら海を見続けていたら、現地の若い女性二人に声をかけられた。
言葉が通じないながら身振り手振りで話すうち、一緒に近くのレストランで食事をする事になり、連れ立って店に向かったのが午後五時頃だっただろうか。
そのときの自分は、寂しさのあまり著しく危機管理能力が低下していたのだと思う。
相手が女性だったから油断していたのもあった。だけど、一緒に歩くうちに何となく違和感を覚えはじめる。しかし、適当な理由を作って帰ろうと思ったときには、現地の人しか利用しないようなレストランの二階に連れ込まれてしまっていた。
しかも、席についてしばらくすると、座っていたボックス席に男性が三人合流してきた。現地の言葉で話しかけられ、こちらがわからないのをいい事に明らかに度数の高いアルコールを注文され、一気飲みを促される。
必死に断るも、執拗に言い寄られて困惑が恐怖に変わった。そんなとき、ふらりと近寄ってきて佳乃を救い出してくれたのが本城だった。
『ごめん。この子、俺の彼女なんだ』
こんがりと焼けた小麦色の肌に、よれよれのTシャツとサーフパンツ。
なにより驚いたのは、彼が思わず見とれてしまうほどの容姿をしていたという事。くっきりとした目鼻立ちに、完璧な口元。おまけに、一流のモデルばりにスタイルがよく、一見しただけで身長が百八十センチを優に超えているのがわかった。
くしゃくしゃに伸びた前髪を指先でかき上げ、微笑みながら言った日本語が彼らに通じたとは思わない。けれど、彼が放つ強烈なオーラが、一瞬にしてその場にいた者を掌握してしまったみたいだ。
大声を上げるわけでも、下手に出るわけでもない。本城がにこやかに話しかけるうちに、彼らはものの見事に抑圧され、あっさりと佳乃を解放したのだった。
去っていく彼らの顔が、一様に蛇に睨まれた蛙みたいだった事を今でもよく覚えている。
佳乃は彼に何度も助けてくれたお礼を言い、せめてもの気持ちとして彼に夕食を奢る事にした。
イケメンでモテ男のオーラ全開の本城を前に、最初はひどく気後れをして上手く喋れなかったように思う。けれど、彼は思いのほか気さくで、その上話し上手の聞き上手だった。
少々アルコールが入っていたせいもあり、佳乃は問われるまま自分がなぜ一人ぼっちで南国の島に来たかを話しはじめた。
話すうちについ感情が高ぶってしまい、彼の前で大泣きするという醜態を晒してしまったのは、今思い返してみても顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
けれど、結局はそれをきっかけに一気に距離が縮まり、慰められつつどちらからともなくキスをして、お互いの身体にきつく腕を回していた。
それはごく自然な流れだったように思う。
決して、どちらかが無理にそうしたわけではないし、彼の宿泊先に行くと決めたのも自分だ。
でも、ともに夜を過ごすにあたり、佳乃はひとつだけ彼に条件を出した。
それは、お互いに名前や素性を明かさない事――
不思議がる本城に、佳乃はせめて朝が来るまではそうしてほしいと頼んだ。
話をする中で、お互いの年齢だけはわかっていた。しかし、それ以上の事は知りたくなかったし、聞こうとも思わなかった。なぜかと言えば、彼の事を知れば知るほど記憶に残るし、そのせいで離れがたく思ってしまうのを避けたかったからだ。
『秘密主義者なのか?』
本城はそう言って佳乃をからかい、面白がってわざと自分の名前を告げようとした。
佳乃はそのたびに彼の唇をキスで塞ぎ、なおも言おうとする本城の上に跨り淫らな行為に及んだ。
あのときは、自分でも信じられないほど奔放な振る舞いをした。本城との行為で生まれてはじめての絶頂を迎え、あとはもう我を忘れて彼の腕の中で乱れたのだ。
一晩のうちに、いったい何度彼とキスをし、身体を交わらせただろうか。
『もうこんなに親密な関係になっているのに、まだ名前を教えられない?』
行為の合間の小休止に、彼に訊ねられた。
『俺が信用できない?』
そう問われたとき、佳乃は返事に窮してしまった。
『そうじゃないの。――そういうわけじゃないんだけど……ただ、もう少しだけ時間がほしいかなって……』
もともと男性に対する警戒心は強いほうだし、元カレの件をきっかけに男性不信ぽくなっていたのも事実だ。
それなのに、思いがけず本城と出会い、本来の自分ではありえない経験をしている。
性的な享楽を味わっている今だけではなく、それ以外のときにも彼はたくさんの甘い言葉をかけてくれた。けれど佳乃は、それらを真に受けるほど初心でも世間知らずでもなかった。
所詮、旅先でのアバンチュール。しかも、相手は三つも年下の超絶イケメン。
『明日の朝起きたら、ぜんぶ言うって約束する。だから、今夜だけはお互いに何も知らない者同士って事にして』
それは完全にその場しのぎの言葉だった。
すでに佳乃は、次の日の朝、彼が起きる前にいなくなろうと心に決めていたのだ。
今思えば、よくもそんな嘘を吐けたものだと思う。どう考えても彼に対して不誠実だったし、たとえどんな理由があろうと嘘は嘘だ。
しかし、いかにも女性の扱いに慣れた様子の彼が、ごく普通の容姿で三つも年上の自分と本気で付き合いたいなどと思うはずがない。
彼の甘い言葉に心がとろかされる一方で、警戒心が高まっていったのは過去の恋愛で傷つきすぎていたせいだろう。
彼と一緒にいたいと思う気持ちと、今がずっと続かないという事実。彼との関係を終わらせたくないという本音と、アバンチュールと割り切って関係を断ち切ろうとする決意。
相容れないふたつの気持ちが、そんな不実な言い逃れをさせたのかもしれない。
夜更け過ぎまで抱き合い、疲れ果てて本城が眠ってしまったあとも、佳乃はまんじりともせず一人悶々と考え続けていた。
いったい、自分はどうしたらいいのか……
本城と過ごしているうちに、どんどん彼に惹かれていく自分に気づいていた。けれど、どう考えても旅先で出会った年下のイケメンとの未来などありはしない。
結局、佳乃は予定どおり、まだ日が昇る前にベッドから抜け出した。そして、ぐっすりと眠る本城を残して自分の宿泊先に戻り、そのまま帰国の途についてしまったのだ。
頭の中に、あの夜に見た彼の寝顔が思い浮かぶ。
(嘘、ついちゃったんだよね私……)
両親や祖父母から厳しく教えられていたという事もあり、佳乃は子供の頃から嘘だけは吐かないよう心掛けてきた。もちろん社会人になった今は、仕事をする上で便宜的に嘘を吐く事はある。でも、それにすら多少の罪悪感を持ってしまうのだ。
『嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれちゃうよ』
昔よく祖母が言っていた言葉に続いて、幼い頃よく口ずさんでいたわらべ歌が頭の中に蘇ってくる。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、か……」
五年前に吐いた嘘だ。
謝罪しようにも、今さらどんな顔をして謝ればいいのだろう?
誠意をもって「ごめんなさい」と言えば、許されるだろうか?
いや、許されるはずがない。
五年間も放置していたくせに、どの面下げてごめんなさい、だ。
(どっちみち、遅すぎるよね……)
いずれにせよ、本城は過去の出来事を佳乃の鼻先に突き付けてきた。
そうでなければ、あんな捨て台詞を残したりはしないだろう。
佳乃は畳の上からのろのろと起き上がり、ちゃぶ台に頬杖をつく。
とりあえず、なるべく彼に近づかない事だ。
仕事上、完全に接触を断つ事は不可能に近い。
本城が佳乃との過去をどう扱うつもりかわからないが、彼は超一流のビジネスマンであり、そういう人物は、決して軽はずみな言動はとらない――と、思いたかった。
いずれにせよ、油断してはいけない。
今後の展開がどうなろうと、取り乱さずに対処できるよう心構えだけはしておいたほうがいいだろう。佳乃は、そう自分に言い聞かせながら姿勢を正した。
そして、本城とは二度と個人的な接触を持つまいと心に誓うのだった。
熟睡できないまま朝を迎え、出勤の準備に取りかかる。
佳乃の朝は早い。遅くとも午前六時には目を覚まし、スマートフォンのアプリで今日一日の天気と気温を確認する。
居間に続く縁側を歩きながら、ふと庭に咲いている紫陽花に視線を向けた。
(もう梅雨入りしたんだったな……。ジメジメ気分を一新するためにも、今年こそ布団を買い替えよう。いいかげん圧迫死しちゃいそうだし)
ここ何年か使ってきたのは、昔ながらの綿布団だ。レトロな柄を気に入っているし、温かくていいのだが、如何せんずっしりと重くて容易に寝返りも打てない。
(だから、あんなおかしな夢を見たのかも……)
ウトウトとまどろんでいる最中に、人の大きさほどもある緑色のビール瓶にのしかかられる夢を見た。あろう事か、瓶には本城が跨っており、苦しがる佳乃を見下ろしながら鷹揚に微笑んでいた。
驚いて飛び起きた佳乃は、エレベーターホールに置かれていたビール瓶の事を思い出す。そして、あれを置いたのは本城に違いないと確信したのだ。
「ふぁああ……」
寝不足のせいで、ひっきりなしに欠伸が出る。
台所に行き、いつもよりも濃いめのコーヒーを淹れた。十二畳ある居間に入り、ちゃぶ台の隅に置きっぱなしにしているノートパソコンを開く。すると、一気に脳内が仕事モードに切り替わった。
まだ自宅にいるとはいえ、佳乃の秘書としてのルーチンワークはすでにはじまっているのだ。
いつもなら主要新聞のネットニュースをチェックし、必要と思われる記事を閲覧する。しかし、今日に限っては、それを後回しにして主だった企業の人事ニュースを開く。
「あった……『七和コーポレーション』CEOに本城敦彦氏。米国名門大学院修了。東京都出身。二十九歳――」
前もって取材の予定が組まれていたらしく、本城は昨日の午後大手経済新聞社の取材を受けていた。記事に添付されている彼の写真は、驚くほどイケメンに写っている。
図らずも胸の奥がじんわりと熱くなり、佳乃はあわてて写真から目を逸らした。
(は? 今の反応は何? ……まさか私……いや、ない! っていうか、あっちゃダメでしょ!)
佳乃は、とっさに自分を戒め、冷静になるべく深呼吸をする。過去は過去として、すっぱり切り離して考えなければ、馬鹿を見るのは自分自身だ。
佳乃は唇をきつく結び、ふたたび記事を読み進めた。
「――米国公認会計士、公認内部監査人資格取得……。起業したコンサルティング会社で得た利益の大半を世界各国のNPOなどに寄付。自らも発展途上国に出向き、現地に学校や病院を設立するなど、慈善事業にも積極的……へえ、そうなんだ……」
本城敦彦は、成功した起業家であるばかりか、本物の慈善家でもあるらしい。
いつもなら坦々と進む朝の時間なのに、今日に限っては胸の中がざわついて仕方がなかった。
「ああ……もう、ほんと勘弁して!」
昨日から、いろいろと調子が狂いすぎている。その原因は明らかに本城だし、彼のせいでこんなにも心を乱している自分を、我ながら不甲斐ないと思う。
佳乃は視線だけ動かして、パソコンの画面に表示された本城の写真を見た。
濃紺のスーツに同系色のネクタイを締めている彼は、五年前に見たときよりも格段に男振りが上がっている。もともとあった目力は、さらにパワーアップしているし、きちんとした格好をしていても体格のよさは相変わらずだ。
なんだかんだ言って、五年経った今もまったく忘れられていない。本城本人の事はもとより、彼とともに眺めた南国の夕日の色や、彼がどんなふうに自分に触れたのかも――
「わあああああ! わ、わ、私ったら、何を懐かしく思い出しちゃってんのよ!」
いつの間にか閉じていた目をカッと開けると、佳乃は弾かれたように座布団から立ち上がった。
用意した朝食をそそくさと平らげ、無心を心掛けながら出勤の準備を済ませ玄関を出る。
そして、自宅から自席に着くまでの間、これ以上余計な事を考えなくて済むよう、ずっと頭の中で一人しりとりを続けたのだった。
始業時間を迎え、その日のスケジュールを確認したあと、パソコンを開けて会員制のビジネスデータベースにアクセスする。
数ある新聞や雑誌記事はもとより国内外の企業情報を集積したそれは、役員のみならず彼らをサポートする秘書にとっても欠かせないツールだ。
(あ、タタラ物産の副社長がヘッドハンティングされたって噂、本当だったんだ……。森本本舗、七年ぶりの赤字転落、か……)
新しい情報を脳内にインプットしつつ、朝一で配信された記事をチェックして業界や市場関係の記事を閲覧する。中でも重要と思われるものを選び出し、自分用に保存した。
一通り朝のルーチン業務を終えると同時に、内線電話が鳴った。時計を見ると、始業時間ジャストだ。
「はい、清水です」
『ああ、清水さん、おはよう。本城だけど、ちょっと執務室まで来てもらってもいいかな?』
彼の声を聞いた途端、受話器を持つ手がわずかに震えた。
自身の過剰反応に戸惑いつつ、佳乃は自分に秘書としての立場を貫くよう言い聞かせる。
「おはようございます。わかりました。すぐに伺います」
即答し、小さく深呼吸をしながら席を立つ。隣席の岡に一声かけ、佳乃は本城の執務室に向かった。
「やあ、お出迎えありがとう。本城です。君が社長秘書の清水佳乃さんかな?」
上質で力強いテノールの声が、佳乃に向けて発せられる。
「は……はい、そうです」
まるで、頭の中をジャンボジェット飛行機が通り過ぎているみたいだった。目の前に見える形のいい唇が、何か話している。しかし、何を言っているのかまるで耳に入ってこない。
佳乃は我が目を疑い、今一度男性を見返してみた。しかし、何度見ても目の前に突きつけられた現実は変わらない。
今、目の前にいる男性こそ、佳乃が五年前に南国の島で一夜をともにした相手に違いなかった。
――キーン……
頭の中に飛行機が発する高周波音が響き渡っている。できる事なら、この場から逃げ出してしまいたい。どんなベテランの秘書でも、こんな不測の事態には対応しきれないのではないだろうか。
「――じゃあ、行こうか」
「はっ? い、行くってどこへですか?」
うっかり、思った事をそのまま口に出してしまった。秘書としてマヌケすぎる発言を悔いたところで、あとの祭だ。鷹揚に微笑んだ本城が、片方の眉尻を上げる。
「役員の方々に、ひと言ご挨拶したい。まだ新しい職場に不慣れだから、案内を頼めるかな?」
唖然として動けずにいる佳乃を見つめながら、本城が微かに首を傾げた。確かに見覚えのあるしぐさに、心がくじけそうになる。しかし、秘書課主任のプライドにかけて、今ここにある危機を回避しなければならない。
「は……はい、かしこまりました。では、こちらへ」
破裂しそうになる心臓を押さえながら、佳乃はなんとか平静を装って歩き出す。
そして、本城の進行の邪魔にならないよう気を配りながら、在室中の役員の部屋を回った。
(落ち着いて、佳乃……。とりあえず今を乗り切らないと)
五年前、南国の島で見た彼は、見るからに軟派そうな微笑みを浮かべ、不遜なほどセクシーなオーラを振りまいていた。
しかし、目の前にいる彼は、いかにも紳士然としており、整った顔立ちにクールな雰囲気をまとっている。佳乃は目前を歩く本城のうしろ姿を見つめた。
(雰囲気がぜんぜん違う。もしかして双子? なんなら三つ子とか、いっそ五つ子とか――)
考えが突拍子もないほうに流れていきそうになり、佳乃はあわてて自分を叱咤する。いくら心が乱れているとはいえ、ここはオフィスであり今は就業時間内だ。
役員室に一通り顔を出し終えると、ようやく本来の顔合わせの時間になった。
集まってくる各部署の部課長達は、もれなく若き代表取締役を見て驚きの表情を浮かべる。
本城は大会議室に集まった社員達を前に、堂々たる風格を見せて就任の挨拶をした。
その間の佳乃はと言えば、相変わらず心の中に嵐が吹き荒れており、彼の言葉を聞きながら平静を装っているのがやっとだ。
佳乃は部屋の隅に立ち、壇上に立つ本城を凝視した。
どう見ても五年前に会った男性と同一人物だ。しかし、そう断言するには相手の反応が薄すぎるような気もする。
(もしかして、私の事を憶えてない……? もう五年も前の事だし、多少は顔立ちも変わっているはず……。それに、あれだけのイケメンだもの。この五年の間にたくさんの女性の相手をしてきたよね)
きっとそうだ。自分はそんな女性達の中の一人にすぎない。それに、一緒にいたのは半日にも満たないほんのわずかな時間だ。
頭の中に、希望的観測がムクムクと広がりだす。
(ああ、お願い! 私の事なんか綺麗さっぱり忘れていますように!)
佳乃は壇上に向かって、精一杯の念を飛ばした。到底効果があるとは思えないが、今の佳乃はまさに藁にもすがる思いでいるのだ。
顔合わせのあと、本城は各部署の部長らと個々に挨拶を交わし、社内を見て回るべく彼らを引き連れてエレベーターホールに向かう。
先行した佳乃は、やってきた無人のエレベーターに乗り込んで操作盤の前に陣取る。本城は周囲と雑談を交わしながら、悠然と中に乗り込んで佳乃の背後に立った。
心なしか、後頭部にものすごく強い視線を感じる。面と向かっているわけではないのに、これほどの威圧感を与えられるなんて……
目的の階に到着し、エレベーターのドアが開いた。
身を硬くして操作盤を凝視していた佳乃は、部課長達が順次フロアに出ていくのを見守る。最後まで残っていた本城が、ドアの外に一歩足を踏み出す。
(とりあえずお役御免――)
佳乃が、ほっと胸を撫で下ろそうとしたとき、本城がふいに佳乃のほうを振り返り、他の誰にも聞こえないような声で言葉を発した。
「騎乗位――」
(えっ……?)
佳乃は、はっとして本城の顔を見つめた。
その顔に浮かんでいるのは、さっきとは打って変わった不遜なほどセクシーな微笑み。佳乃の頭の中に、南国の島で過ごした最後の夜が思い出される。今、目の前にいる本城の瞳と、あの夜ベッドで睦み合った年下男のそれが完全に一致した。
彼はすべてを憶えている!
そう確信した佳乃は、遠ざかる背中を呆然と見送りながら、抱いていた希望をすべて手放し絶望した。
その日一日の仕事を終え、佳乃はいつもどおり電車を乗りついで自宅に帰り着いた。
気分はどんよりと落ち込んでいるし、叫び出したいのを我慢し続けていたせいで神経がこれ以上ないほどすり減っている。
本当にわけがわからない。
いったいなぜ、今頃になってあのときの彼が目の前に現れたのか――
しかも、自分の勤務先のCEO兼代表取締役として、だ。
こんな最悪の巡り合わせがあるだろうか?
玄関の鍵を開けながら、佳乃は最後に見た本城の顔を思い出す。
あの顔は、きっと何か企んでいるに違いない。そう思うと、人生初の一大事にして最大の危機の真っただ中に放り出された気分になった。
「あああああ~! なんで!? どうしてなの?」
家に入り、履いていたパンプスを蹴り飛ばす勢いで式台に上がる。廊下を進もうとして、上がり框に思いっきりつま先をぶつけた。
「いったあ……い……」
あまりの痛みに、廊下に倒れ込んで転げ回る。
こんな姿、絶対に会社の人達には見せられない。日頃、完璧な秘書というイメージをまとっている佳乃だが、プライベートはまるで違う。
実際、家では真逆と言っていいほど気を抜いて過ごしていた。
ようやく痛みがとおり過ぎ、佳乃はのろのろと起き上がる。そして、ため息を吐きながら居間のちゃぶ台の前でへたり込んだ。
「もう、何なのよ……。私が何をしたっていうのよ~」
不平不満を漏らしても、何の解決にもならない事はわかっている。だけど、そうせずにはいられないほど心身ともにダメージを受けていた。
じっとしていられず、立ち上がって庭を囲む縁側をうろうろと歩き回る。
佳乃が住んでいるのは、都内下町にある築七十数年の一軒家。
持ち主は母方の叔父で、夫婦が十年前に海外に移住したのを機に佳乃が移り住んだ。
あれこれと使い勝手は悪いものの、住み心地は悪くはない。今は毎月気持ちばかりの家賃を払っているが、叔父さえよければここを買い上げて終の棲家にしようかと思いはじめているところだ。
「いったいどうすればいいの? まずい……いろいろとヤバすぎるでしょ」
頭の中に、スーツ姿の本城が思い浮かぶ。
彼は事前に聞いていた経歴にふさわしい外見をしていたし、顔を合わせた者を一瞬で懐柔してしまうほど強烈なオーラを放っていた。
彼は渡米して大学に通っている間に、主だった経済関係の資格を取得した上にインターネット関連の起業まで果たしている。のちにそれを売却したときに得た金額は、日本円にして十億はくだらなかったと聞く。
そんな名実ともに超一流のビジネスマンである彼が、なぜ今になって佳乃の前に現れたのだろう。
彼は「七和コーポレーション」に佳乃がいると知った上でやって来たのか。
そうだとしたら、いったいいつのタイミングでそれを知ったのか。
それとも、それはただ単に偶然の巡り合わせだったのか。
(……偶然に決まってるよね? だって、もう五年前の話だし……)
うろうろしながら考え込んだ末に、佳乃はそう結論を出した。
恐らく本城は意図的に佳乃の前に現れたわけではなく、あくまでもビジネスとして「七和コーポレーション」の要職に就く事になっただけだ。
そして、思いがけず五年前にベッドをともにした相手と再会した。きっと、それまで佳乃の事など綺麗さっぱり忘れていたに違いない。
いい加減歩き疲れ、佳乃は居間の壁にもたれかかるようにして座り込んだ。
いつもなら、家に帰り着くなりリラックスし、すぐにゆるゆるのプライベートモードに入る。だけど、今日に限っては心の中に大型の台風が吹き荒れている感じだ。
本城が去り際に言った言葉を思い返すたびに、とうの昔に忘れ去ったはずの思い出がありありと蘇ってくる。
再会の理由はさておき、五年前に彼とただならぬ仲になったのは事実だ。
「ああ……もう、最悪……」
今後は会社のトップに就いた彼のもとで、勤務を続けなければならない。仕事をする上で彼に従う事には何ら不満はなかった。
問題は、本城が佳乃との過去をどう思っているかなのだ。
もし彼が二人の間に起こった出来事を、会社の誰かしらに漏らしたとしたら――
その可能性を考えただけで、全身が縮み上がって息苦しくなってくる。
この世に生を受けて三十二年。今までコツコツと積み上げてきたものが、たった一度の過ちのせいで崩壊するかもしれない。佳乃は畳の上に仰向けになって倒れた。
そして、本城とはじめて会ったときの事を思い出す――
事の発端は、五年前に行った南国の島で起きた出来事だった。
十日間の旅を締めくくる最後の夜。
佳乃は一人、ビーチサイドで沈みゆく夕日を見ながらたそがれていた。
南国の空や海は素敵だし、出会った現地の人々は皆幸せそうに暮らしている。それらを見ているだけで晴れやかな気分になるし、知らず知らずのうちに溜め込んでいたストレスも発散できたような気がしていた。
だけど、夜になって広々としたベッドに一人眠るときや、こうして一人ぼっちで何もせずにいるときなど、ふととてつもない寂寥感に囚われて泣きそうになる。
わざわざ遠い異国の地までやってきて、自身の心の奥底に隠れていた孤独に気づくなんて。
(帰りたい……)
こんな気持ちになるくらいなら、旅行なんかやめて自宅にこもっていればよかった。
そんな事を思いながら海を見続けていたら、現地の若い女性二人に声をかけられた。
言葉が通じないながら身振り手振りで話すうち、一緒に近くのレストランで食事をする事になり、連れ立って店に向かったのが午後五時頃だっただろうか。
そのときの自分は、寂しさのあまり著しく危機管理能力が低下していたのだと思う。
相手が女性だったから油断していたのもあった。だけど、一緒に歩くうちに何となく違和感を覚えはじめる。しかし、適当な理由を作って帰ろうと思ったときには、現地の人しか利用しないようなレストランの二階に連れ込まれてしまっていた。
しかも、席についてしばらくすると、座っていたボックス席に男性が三人合流してきた。現地の言葉で話しかけられ、こちらがわからないのをいい事に明らかに度数の高いアルコールを注文され、一気飲みを促される。
必死に断るも、執拗に言い寄られて困惑が恐怖に変わった。そんなとき、ふらりと近寄ってきて佳乃を救い出してくれたのが本城だった。
『ごめん。この子、俺の彼女なんだ』
こんがりと焼けた小麦色の肌に、よれよれのTシャツとサーフパンツ。
なにより驚いたのは、彼が思わず見とれてしまうほどの容姿をしていたという事。くっきりとした目鼻立ちに、完璧な口元。おまけに、一流のモデルばりにスタイルがよく、一見しただけで身長が百八十センチを優に超えているのがわかった。
くしゃくしゃに伸びた前髪を指先でかき上げ、微笑みながら言った日本語が彼らに通じたとは思わない。けれど、彼が放つ強烈なオーラが、一瞬にしてその場にいた者を掌握してしまったみたいだ。
大声を上げるわけでも、下手に出るわけでもない。本城がにこやかに話しかけるうちに、彼らはものの見事に抑圧され、あっさりと佳乃を解放したのだった。
去っていく彼らの顔が、一様に蛇に睨まれた蛙みたいだった事を今でもよく覚えている。
佳乃は彼に何度も助けてくれたお礼を言い、せめてもの気持ちとして彼に夕食を奢る事にした。
イケメンでモテ男のオーラ全開の本城を前に、最初はひどく気後れをして上手く喋れなかったように思う。けれど、彼は思いのほか気さくで、その上話し上手の聞き上手だった。
少々アルコールが入っていたせいもあり、佳乃は問われるまま自分がなぜ一人ぼっちで南国の島に来たかを話しはじめた。
話すうちについ感情が高ぶってしまい、彼の前で大泣きするという醜態を晒してしまったのは、今思い返してみても顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
けれど、結局はそれをきっかけに一気に距離が縮まり、慰められつつどちらからともなくキスをして、お互いの身体にきつく腕を回していた。
それはごく自然な流れだったように思う。
決して、どちらかが無理にそうしたわけではないし、彼の宿泊先に行くと決めたのも自分だ。
でも、ともに夜を過ごすにあたり、佳乃はひとつだけ彼に条件を出した。
それは、お互いに名前や素性を明かさない事――
不思議がる本城に、佳乃はせめて朝が来るまではそうしてほしいと頼んだ。
話をする中で、お互いの年齢だけはわかっていた。しかし、それ以上の事は知りたくなかったし、聞こうとも思わなかった。なぜかと言えば、彼の事を知れば知るほど記憶に残るし、そのせいで離れがたく思ってしまうのを避けたかったからだ。
『秘密主義者なのか?』
本城はそう言って佳乃をからかい、面白がってわざと自分の名前を告げようとした。
佳乃はそのたびに彼の唇をキスで塞ぎ、なおも言おうとする本城の上に跨り淫らな行為に及んだ。
あのときは、自分でも信じられないほど奔放な振る舞いをした。本城との行為で生まれてはじめての絶頂を迎え、あとはもう我を忘れて彼の腕の中で乱れたのだ。
一晩のうちに、いったい何度彼とキスをし、身体を交わらせただろうか。
『もうこんなに親密な関係になっているのに、まだ名前を教えられない?』
行為の合間の小休止に、彼に訊ねられた。
『俺が信用できない?』
そう問われたとき、佳乃は返事に窮してしまった。
『そうじゃないの。――そういうわけじゃないんだけど……ただ、もう少しだけ時間がほしいかなって……』
もともと男性に対する警戒心は強いほうだし、元カレの件をきっかけに男性不信ぽくなっていたのも事実だ。
それなのに、思いがけず本城と出会い、本来の自分ではありえない経験をしている。
性的な享楽を味わっている今だけではなく、それ以外のときにも彼はたくさんの甘い言葉をかけてくれた。けれど佳乃は、それらを真に受けるほど初心でも世間知らずでもなかった。
所詮、旅先でのアバンチュール。しかも、相手は三つも年下の超絶イケメン。
『明日の朝起きたら、ぜんぶ言うって約束する。だから、今夜だけはお互いに何も知らない者同士って事にして』
それは完全にその場しのぎの言葉だった。
すでに佳乃は、次の日の朝、彼が起きる前にいなくなろうと心に決めていたのだ。
今思えば、よくもそんな嘘を吐けたものだと思う。どう考えても彼に対して不誠実だったし、たとえどんな理由があろうと嘘は嘘だ。
しかし、いかにも女性の扱いに慣れた様子の彼が、ごく普通の容姿で三つも年上の自分と本気で付き合いたいなどと思うはずがない。
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いったい、自分はどうしたらいいのか……
本城と過ごしているうちに、どんどん彼に惹かれていく自分に気づいていた。けれど、どう考えても旅先で出会った年下のイケメンとの未来などありはしない。
結局、佳乃は予定どおり、まだ日が昇る前にベッドから抜け出した。そして、ぐっすりと眠る本城を残して自分の宿泊先に戻り、そのまま帰国の途についてしまったのだ。
頭の中に、あの夜に見た彼の寝顔が思い浮かぶ。
(嘘、ついちゃったんだよね私……)
両親や祖父母から厳しく教えられていたという事もあり、佳乃は子供の頃から嘘だけは吐かないよう心掛けてきた。もちろん社会人になった今は、仕事をする上で便宜的に嘘を吐く事はある。でも、それにすら多少の罪悪感を持ってしまうのだ。
『嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれちゃうよ』
昔よく祖母が言っていた言葉に続いて、幼い頃よく口ずさんでいたわらべ歌が頭の中に蘇ってくる。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、か……」
五年前に吐いた嘘だ。
謝罪しようにも、今さらどんな顔をして謝ればいいのだろう?
誠意をもって「ごめんなさい」と言えば、許されるだろうか?
いや、許されるはずがない。
五年間も放置していたくせに、どの面下げてごめんなさい、だ。
(どっちみち、遅すぎるよね……)
いずれにせよ、本城は過去の出来事を佳乃の鼻先に突き付けてきた。
そうでなければ、あんな捨て台詞を残したりはしないだろう。
佳乃は畳の上からのろのろと起き上がり、ちゃぶ台に頬杖をつく。
とりあえず、なるべく彼に近づかない事だ。
仕事上、完全に接触を断つ事は不可能に近い。
本城が佳乃との過去をどう扱うつもりかわからないが、彼は超一流のビジネスマンであり、そういう人物は、決して軽はずみな言動はとらない――と、思いたかった。
いずれにせよ、油断してはいけない。
今後の展開がどうなろうと、取り乱さずに対処できるよう心構えだけはしておいたほうがいいだろう。佳乃は、そう自分に言い聞かせながら姿勢を正した。
そして、本城とは二度と個人的な接触を持つまいと心に誓うのだった。
熟睡できないまま朝を迎え、出勤の準備に取りかかる。
佳乃の朝は早い。遅くとも午前六時には目を覚まし、スマートフォンのアプリで今日一日の天気と気温を確認する。
居間に続く縁側を歩きながら、ふと庭に咲いている紫陽花に視線を向けた。
(もう梅雨入りしたんだったな……。ジメジメ気分を一新するためにも、今年こそ布団を買い替えよう。いいかげん圧迫死しちゃいそうだし)
ここ何年か使ってきたのは、昔ながらの綿布団だ。レトロな柄を気に入っているし、温かくていいのだが、如何せんずっしりと重くて容易に寝返りも打てない。
(だから、あんなおかしな夢を見たのかも……)
ウトウトとまどろんでいる最中に、人の大きさほどもある緑色のビール瓶にのしかかられる夢を見た。あろう事か、瓶には本城が跨っており、苦しがる佳乃を見下ろしながら鷹揚に微笑んでいた。
驚いて飛び起きた佳乃は、エレベーターホールに置かれていたビール瓶の事を思い出す。そして、あれを置いたのは本城に違いないと確信したのだ。
「ふぁああ……」
寝不足のせいで、ひっきりなしに欠伸が出る。
台所に行き、いつもよりも濃いめのコーヒーを淹れた。十二畳ある居間に入り、ちゃぶ台の隅に置きっぱなしにしているノートパソコンを開く。すると、一気に脳内が仕事モードに切り替わった。
まだ自宅にいるとはいえ、佳乃の秘書としてのルーチンワークはすでにはじまっているのだ。
いつもなら主要新聞のネットニュースをチェックし、必要と思われる記事を閲覧する。しかし、今日に限っては、それを後回しにして主だった企業の人事ニュースを開く。
「あった……『七和コーポレーション』CEOに本城敦彦氏。米国名門大学院修了。東京都出身。二十九歳――」
前もって取材の予定が組まれていたらしく、本城は昨日の午後大手経済新聞社の取材を受けていた。記事に添付されている彼の写真は、驚くほどイケメンに写っている。
図らずも胸の奥がじんわりと熱くなり、佳乃はあわてて写真から目を逸らした。
(は? 今の反応は何? ……まさか私……いや、ない! っていうか、あっちゃダメでしょ!)
佳乃は、とっさに自分を戒め、冷静になるべく深呼吸をする。過去は過去として、すっぱり切り離して考えなければ、馬鹿を見るのは自分自身だ。
佳乃は唇をきつく結び、ふたたび記事を読み進めた。
「――米国公認会計士、公認内部監査人資格取得……。起業したコンサルティング会社で得た利益の大半を世界各国のNPOなどに寄付。自らも発展途上国に出向き、現地に学校や病院を設立するなど、慈善事業にも積極的……へえ、そうなんだ……」
本城敦彦は、成功した起業家であるばかりか、本物の慈善家でもあるらしい。
いつもなら坦々と進む朝の時間なのに、今日に限っては胸の中がざわついて仕方がなかった。
「ああ……もう、ほんと勘弁して!」
昨日から、いろいろと調子が狂いすぎている。その原因は明らかに本城だし、彼のせいでこんなにも心を乱している自分を、我ながら不甲斐ないと思う。
佳乃は視線だけ動かして、パソコンの画面に表示された本城の写真を見た。
濃紺のスーツに同系色のネクタイを締めている彼は、五年前に見たときよりも格段に男振りが上がっている。もともとあった目力は、さらにパワーアップしているし、きちんとした格好をしていても体格のよさは相変わらずだ。
なんだかんだ言って、五年経った今もまったく忘れられていない。本城本人の事はもとより、彼とともに眺めた南国の夕日の色や、彼がどんなふうに自分に触れたのかも――
「わあああああ! わ、わ、私ったら、何を懐かしく思い出しちゃってんのよ!」
いつの間にか閉じていた目をカッと開けると、佳乃は弾かれたように座布団から立ち上がった。
用意した朝食をそそくさと平らげ、無心を心掛けながら出勤の準備を済ませ玄関を出る。
そして、自宅から自席に着くまでの間、これ以上余計な事を考えなくて済むよう、ずっと頭の中で一人しりとりを続けたのだった。
始業時間を迎え、その日のスケジュールを確認したあと、パソコンを開けて会員制のビジネスデータベースにアクセスする。
数ある新聞や雑誌記事はもとより国内外の企業情報を集積したそれは、役員のみならず彼らをサポートする秘書にとっても欠かせないツールだ。
(あ、タタラ物産の副社長がヘッドハンティングされたって噂、本当だったんだ……。森本本舗、七年ぶりの赤字転落、か……)
新しい情報を脳内にインプットしつつ、朝一で配信された記事をチェックして業界や市場関係の記事を閲覧する。中でも重要と思われるものを選び出し、自分用に保存した。
一通り朝のルーチン業務を終えると同時に、内線電話が鳴った。時計を見ると、始業時間ジャストだ。
「はい、清水です」
『ああ、清水さん、おはよう。本城だけど、ちょっと執務室まで来てもらってもいいかな?』
彼の声を聞いた途端、受話器を持つ手がわずかに震えた。
自身の過剰反応に戸惑いつつ、佳乃は自分に秘書としての立場を貫くよう言い聞かせる。
「おはようございます。わかりました。すぐに伺います」
即答し、小さく深呼吸をしながら席を立つ。隣席の岡に一声かけ、佳乃は本城の執務室に向かった。
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