穿つ者は戦い抜く

あすとろ

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第一章 異世界への扉

2.ステータスの事故

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「こちらになります。担当の者が遅れるとの事なので、今しばらくお待ちください」

移動した先は先程とは打って変わって、少しじめっとした、明らかに使われていない事を示している様な大広間であった。
部屋の中は暗いが、目を凝らせば部屋の中心部には調理実習でよく使われるような大きな石造りの机が置かれており、その上に、透き通るような水晶玉が鎮座しているのも確認出来た。

王女がいなくなった途端にこの場にいる者の殆どの緊張が解れたようだった。
あちこちで軽口を叩いたり、この状況に興奮する者もちらほらと見られた。
(皆も緊張していたんだな)
と思えば、ドッと疲れが押し寄せて来た。
このよくわからない地に召喚されてまだ1時間も経過していないだろう。それでもこの濃密な時間は向こうの世界では味わえないことだと思うと心が躍った。


魔王の討伐、それは自分達一人一人が勇者・・であること、その事実だけで色々な妄想が捗る。こんな状況になったらああしてやる、なんて考えはもう通用しないだろう。だがそれでも、と思ってしまうのだ。
こんな機会だ、是非とも勇者として華々しい功績を残してやる!!と一人意気込んでいるところで再び王女が姿を現した。
しん、と静まる空気に王女が口を開いた。

「これより皆様方の技能及び職業について鑑定いたします。」
(鑑定なんて言葉、こっちの世界にもあるんだな)
と、1人感心していたが、この言葉に皆一様にそわそわとしだす。
「今から皆様方のステータスを拝見致しますので、一人ずつに個人情報確認用の魔道具である、通称『天職鑑定板ステータスプレート』を配布します」
王女の後ろに付いていた騎士たちが一枚一枚手渡しでプレートを渡してくれる。顔は覆われていないが、嫌な顔を見せずにしてくれるあたりいい人達なのかもしれない。
ステータスプレートは手のひらサイズの小さなモノだった。ここにどのような情報が載せられるのか楽しみで仕方がない。
と、王女の横に一人の男性が並んだ。
ガタイも良いし強面だし、恐らく騎士団長とかそっちの人なのだろう。衣服の隙間から見える肌はとても筋肉質でがっしりしている。
「全員に行き渡ったようですので、これからは私ではなく宮廷魔道士第一師団長のグレース・アイザック殿にお任せ致します。ではアイザック殿、よろしくお願いします。」
あれで魔道士とかこの世界の基準どうなってんだ。
「いえいえ、こちらこそやらせていただきますよ。」
と強面の師団長は表情を崩し、ニヘラと笑った。
こっちに向き直ったその人は豪快な笑いと共に自己紹介を始めた。
「ハッ!!俺は宮廷魔道士第一師団長のグレース・アイザックだ。よろしく頼む!!」
なんか熱血タイプなのかなこの人。
「早速始めるからな。……っと、その前にこれを配っておく。」
と、腰につけていたポーチらしき小袋から針を取り出した。

「この針で自分の指を傷つけて血を出せ。そうしたらその血をステータスプレートのどの面でもいいからグリッて押し付けるんだ。そうすれば個人の登録は済むからな!」

と、針が渡ったところで解説を始めた。
クラスの面々も次々と血をプレートに押し付けていく。
チクッとした痛みが指先を刺激したが、それはこれから起こることへの興奮でかき消された。
血をプレートに押し付けると、わずかな間を置いて光りだした。光の強さや色などもまちまちだ。
「おっ…と、なになに…」
表示されたステータスはこんな感じだ。


  名前:村木涼介むらきりょうすけ
  年齢:17歳
  天職:狙撃手スナイパー

    筋力:200
    魔力:100
   耐久力:50
    知力:100
    器用:150
  
  適正属性:風、雷、無

  保持技能ほじぎのう:翻訳、精密狙撃Lv.0、旋風Lv.0、放電Lv.0

                       』
これが正直どういうランクなのかは分からんが、最低ラインは超えただろう。
「大体が自分のステータスの確認を終えたようだし、全員俺に見せてくれや。今後の訓練の参考にしたいからな。」
まあそういうことならと列になり、次々と見せていく。
見せるたびに感心する声が漏れているようで、騎士団ちょ……師団長の視点から見てもステータスのレベルは高いらしい。
やっと自分の番が来たので板を見せると、チョイチョイと耳元で囁かれた。


「お前さん、なんかしたか?」


なんか事故ったらしい。
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