47 / 87
4章 枷と自由
46 地の小人(ノーム)の洗礼
しおりを挟む
一行は坂道を下る。傾斜は緩いが長く、終わりが見えない。水晶の浜辺を抜けてからおよそ三十分経った頃合いか、さすがに緊張感は薄まっていた。
通路は再び洞窟のような様相を呈し、ごつごつとした岩壁がぼんやりと光を放っている。
「地の司どののお住まい……というくらいですし。結構深いんですね」
最初は元気よく先頭を歩いていたキリクだが、今は三番手。殿のセディオのやや斜め前をきょろ、と辺りを見渡しながら歩く。
「まぁね。地の司は、偏屈ではないけど属性には忠実なひとだから」
「属性? 大地の……という以外にも、何かあるんですか?」
「そう。“地”のもつ要素。安定、基盤、堅実、不動、あとは実り、安らぎーーかな。でも、ちょっとお茶目なひとではある」
(……スイみたいだな)
ふ、と口許を綻ばせたセディオの気配を察してか、先頭を歩くスイが肩越しに、わずかに後ろへと視線を流した。
「どうした?」と、めざとく青年は問う。
「いいや?」と答えて頭を振り、スイは再び前を向いた。
「なにも……ただ、アーシィのことだから。人型で、手ぐすね引いて待ってる気がする。そろそろ迎えが来るよ」
「迎え? ……あっ!」
師と手を繋いで歩いていたエメルダが、目を丸くしてちいさく叫んだ。
ぴたり、と足が止まる。予期していたのか、スイは動じず囁いた。
「わかる? エメルダ」
「う……うん。たくさんの、地の元素が動いてる。でも地震とか落盤とかじゃないの。これは……昇ってる。ここ、向かってる??!」
滔々と感覚を表現した少女に、魔術師はにっこりと微笑んだ。
「正解」
ぼこん!
「!!!」
突如、目の前の地面が崩落し、大人が楽に落ちられるだろう穴が開いた。
後方の男子らは、ぎょっとする。
ーーが、罠の落とし穴というわけではなさそうだ。
何か複数の生き物の蠢く気配がする。
セディオ、キリク、エメルダが息をひそめて見つめるなか。それらは順に穴から這い上がり始めた。
“よいしょ”
“よいしょ。よいしょ……っと! 着いた?”
“着いた。当たり”
“当たった! やった!!”
「「「…………」」」
三名は唖然とするなか、スイだけが動いた。
二番弟子の手を放して四歩。穴から現れた茶色い巻き毛、人の子でいうと三歳児ほどの身の丈の生き物達に話しかける。
声を掛けつつ目線を合わせるため、スッと片膝をついた。
“やぁ地の小人。久しぶり”
“久しぶり! 地の司の愛し子!”
“僕らみんなの愛し子!”
“命令なの。迎えに来たよ?”
合わせて三体の地の小人はそれぞれ、よく似た面差しだった。三つ子といっても通じそうだ。
ただ、年の頃は三歳とは言い難い。顔立ちは十四、五歳とも三、四十代ともとれた。凄まじく年齢不詳だ。
耳は細貝のように長い。
が、妖精ほど上端が尖っているわけでもなく形状は獣のそれと近い。身近なものではロバの耳と酷似していた。
「かわいい…」
エメルダがぽつん、と呟く。
膝をついたままのスイが振り向き、にこっと笑んで後方の三名を左の手のひらで差し示した。
“紹介するよ。エメルダとキリク、それにセディオだよ。きのう上層の街に引っ越して来たんだ”
「こんにちは!」
「は……初めまして」
「宜しくな」
“失われた言語”のなかに自分達の名を聞き取った三名は、仲良く三等分したかのような短い挨拶を添えた。
地の小人達は好奇心いっぱいの黒い瞳をきらきらと輝かせている。
”よくわかんないけど、いらっしゃい!“
”いらっしゃい翠の子!“
”よく来たね、人の子!“
ただ一人、この場で両方の言葉を理解するスイは、くすくす……と堪えきれず俯き、肩を震わせ始めた。
「なんて? スイ」
「ふふ……『いらっしゃい』『よく来たね』って。あ、貴方達ときたらお互い言葉は通じてないのに、ちゃんと会話が成立してるものだから。可笑しくて」
「へぇ」
笑われてもいっこうに構わない。むしろ慣れたーーという風情。セディオはまじまじと三体の高位精霊を眺め見た。
すると、それが合図だったかのように小人達はパッと動き出した。
エメルダ、キリク、セディオの三名にそれぞれ一体が近寄り、強引ながら手を繋ぐ。
「えっ」
さすがに動じる人の子ら。エメルダは嬉しそうににこにことしている。
魔術師の女性は優雅な仕草で立ち上がり、ぱんぱん、と控えめに膝の土埃を払った。
“準備よさそうだね。じゃ、ノーム。あとはよろしく。先に行ってる”
“いいよー”
“任せてー”
“あとでねー?”
ふわり、と柔らかな笑みを溢したスイはそのままひらり、とーーー
目の前の、ぽっかりと空いた穴に身を投じた。
通路は再び洞窟のような様相を呈し、ごつごつとした岩壁がぼんやりと光を放っている。
「地の司どののお住まい……というくらいですし。結構深いんですね」
最初は元気よく先頭を歩いていたキリクだが、今は三番手。殿のセディオのやや斜め前をきょろ、と辺りを見渡しながら歩く。
「まぁね。地の司は、偏屈ではないけど属性には忠実なひとだから」
「属性? 大地の……という以外にも、何かあるんですか?」
「そう。“地”のもつ要素。安定、基盤、堅実、不動、あとは実り、安らぎーーかな。でも、ちょっとお茶目なひとではある」
(……スイみたいだな)
ふ、と口許を綻ばせたセディオの気配を察してか、先頭を歩くスイが肩越しに、わずかに後ろへと視線を流した。
「どうした?」と、めざとく青年は問う。
「いいや?」と答えて頭を振り、スイは再び前を向いた。
「なにも……ただ、アーシィのことだから。人型で、手ぐすね引いて待ってる気がする。そろそろ迎えが来るよ」
「迎え? ……あっ!」
師と手を繋いで歩いていたエメルダが、目を丸くしてちいさく叫んだ。
ぴたり、と足が止まる。予期していたのか、スイは動じず囁いた。
「わかる? エメルダ」
「う……うん。たくさんの、地の元素が動いてる。でも地震とか落盤とかじゃないの。これは……昇ってる。ここ、向かってる??!」
滔々と感覚を表現した少女に、魔術師はにっこりと微笑んだ。
「正解」
ぼこん!
「!!!」
突如、目の前の地面が崩落し、大人が楽に落ちられるだろう穴が開いた。
後方の男子らは、ぎょっとする。
ーーが、罠の落とし穴というわけではなさそうだ。
何か複数の生き物の蠢く気配がする。
セディオ、キリク、エメルダが息をひそめて見つめるなか。それらは順に穴から這い上がり始めた。
“よいしょ”
“よいしょ。よいしょ……っと! 着いた?”
“着いた。当たり”
“当たった! やった!!”
「「「…………」」」
三名は唖然とするなか、スイだけが動いた。
二番弟子の手を放して四歩。穴から現れた茶色い巻き毛、人の子でいうと三歳児ほどの身の丈の生き物達に話しかける。
声を掛けつつ目線を合わせるため、スッと片膝をついた。
“やぁ地の小人。久しぶり”
“久しぶり! 地の司の愛し子!”
“僕らみんなの愛し子!”
“命令なの。迎えに来たよ?”
合わせて三体の地の小人はそれぞれ、よく似た面差しだった。三つ子といっても通じそうだ。
ただ、年の頃は三歳とは言い難い。顔立ちは十四、五歳とも三、四十代ともとれた。凄まじく年齢不詳だ。
耳は細貝のように長い。
が、妖精ほど上端が尖っているわけでもなく形状は獣のそれと近い。身近なものではロバの耳と酷似していた。
「かわいい…」
エメルダがぽつん、と呟く。
膝をついたままのスイが振り向き、にこっと笑んで後方の三名を左の手のひらで差し示した。
“紹介するよ。エメルダとキリク、それにセディオだよ。きのう上層の街に引っ越して来たんだ”
「こんにちは!」
「は……初めまして」
「宜しくな」
“失われた言語”のなかに自分達の名を聞き取った三名は、仲良く三等分したかのような短い挨拶を添えた。
地の小人達は好奇心いっぱいの黒い瞳をきらきらと輝かせている。
”よくわかんないけど、いらっしゃい!“
”いらっしゃい翠の子!“
”よく来たね、人の子!“
ただ一人、この場で両方の言葉を理解するスイは、くすくす……と堪えきれず俯き、肩を震わせ始めた。
「なんて? スイ」
「ふふ……『いらっしゃい』『よく来たね』って。あ、貴方達ときたらお互い言葉は通じてないのに、ちゃんと会話が成立してるものだから。可笑しくて」
「へぇ」
笑われてもいっこうに構わない。むしろ慣れたーーという風情。セディオはまじまじと三体の高位精霊を眺め見た。
すると、それが合図だったかのように小人達はパッと動き出した。
エメルダ、キリク、セディオの三名にそれぞれ一体が近寄り、強引ながら手を繋ぐ。
「えっ」
さすがに動じる人の子ら。エメルダは嬉しそうににこにことしている。
魔術師の女性は優雅な仕草で立ち上がり、ぱんぱん、と控えめに膝の土埃を払った。
“準備よさそうだね。じゃ、ノーム。あとはよろしく。先に行ってる”
“いいよー”
“任せてー”
“あとでねー?”
ふわり、と柔らかな笑みを溢したスイはそのままひらり、とーーー
目の前の、ぽっかりと空いた穴に身を投じた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる