2 / 3
第1章 出会い
1.
しおりを挟む———— ここはアデルキュア王国。
国土は広くないが、そもそもが農耕国家であったため、国王をはじめ国民も穏やかな気質が多い国であった。
軍事力は強くないが、自然豊かな国で風光明媚な場所が多く、大陸中でも有名なシェルン湖がある。
シェルン湖には光の女神アデルが祀られ、自然豊かな場所と共に観光も盛んな国であった。農耕国家といっても南の領地には金剛石の鉱山があり、観光と金剛石のおかけで貧しい国ではなかった。貧しい国ではなかったが、金剛石を巡りたびたび周辺の国からの脅威にさらされていた。
金剛石を特産とし、国を発展させることはできたが、在りしものは過ぎればいずれ無くなることがわかっていたため、代々の国王は必要な分だけの金剛石を採り、畑を耕し、女神に祈りを捧げる穏やかな日々を送っていた。
情勢が変わったのはアデルキュア王国の山からアウイナイトが発見されたことから始まる。
アウイナイトは希少性の高い石で、0.1ctの大きさでもかなり大きいとされ、同じ青の宝石であるサファイアと比べても、とてつもなく高価な石であった。また、とても柔らかい石であったため、採掘するのに高度な技術が必要で、宝飾品に使うにしてもその技術を持つ職人は世界でも数えるほどだった。
高価な希少石で、採掘にも高い技術が必要。そうなれば否が応でも価値は上がる一方であった。
昔は、アウイナイトは少量なりとも他国でも採れていた。その濃い青は女神アデルの瞳の色とされ、女神の祝福を受けたものとして守護石に用いられてきたのだ。
しかし、いつの頃からかその希少な石を巡り、凄惨な争いが繰り返された。そして、たかが石のために多くの血と涙が流された。
鉱山がある国では莫大な富をもたらし、見た者を魅了する深い青が人々を狂わせていったのだ。
そして徐々にアウイナイトは枯渇し、ここ百年ほどは新たな石が採掘されることはなかった。
怒りと哀しみに染まった人々は、女神アデルが愚かな人間に怒り、争いの元であるアウイナイトを隠したのだと噂し、安堵した。
これでもう愚かな争いはなくなるだろうと。
いつの世も欲は人を狂わせる。
自然を破壊し尽くし、弱者を虐げ、生命を生命とも思わず蹂躙する。
自らの限りない欲望のために。
なぜ在るもので満足しないのか。
もっともっとと。人の欲望には限りがない。
哀しいことに人の欲の前には善も悪もない。
そんな石が発見されたとなればどうなるか。
もうおわかりだろう。
アデルキュアの国王はアウイナイトが発見されたと聞き、恐れ慄いた。かつてのような争いが繰り広げられるのが火を見るより明らかだったからだ。
確かにアウイナイトがもたらすものにより国は豊かになるだろう。国王として国を豊かにし、国民の生活を向上させることは義務でもある。だが、それと共にどれだけのものを引き換えにしなければならないのか。
まして、他国からの侵略に対抗できるだけの軍事力もない。国を、そこに住む人々を、ただただ蹂躙されるのは明らかだった。
悩みに悩んだ国王は、莫大な富より平穏を選び、アウイナイトについて箝口令を敷き、国内はもとより国外に情報を出すことを一切禁止した。議会でもアウイナイトについて議論することさえ禁じたのだ。
「あれは人の手には余る」
苦々しい顔でそう呟いた国王は、端正で、若い頃は令嬢にさぞ人気があったであろう顔が、石が発見されてから一気に老け込んだように見える。
しかし、どこの国にも余計なことをする輩はいるもので、時をおかずしてアウイナイトの噂は他国に知れ渡ることになる。人の口に戸は立てられぬということだろう。
「愚かなことをっ⋯⋯! あれのせいでどれだけの争いが起こったか知らぬ訳ではなかろうに⋯⋯っ」
国王は奥歯をギリギリと噛み締め、憤怒の形相で怒り狂った。
そうして、どうしたものかと日々頭を抱えていたところに、大陸を二分している大国サージアス帝国から使節団を派遣したいとの書簡が届いたのだった。
サージアス帝国とは全く国交がなかった訳ではなかった。
金剛石が枯渇しない程度に取引はあったのだが、このタイミングでの使節団の派遣。
その目的は明らかだった。
国王には使節団を拒否する選択肢はなかった。なにせ国土も違えば経済力・軍事力も格段に上なのだ。
「うぐぐっっ! 石の問題に、使節団の派遣⋯⋯。しかも使節団を派遣したいと言っているが、拒否できないのだから、ある意味脅しではないかっ⋯⋯!」
国王は文字通り頭を抱えた。
「まぁ、このタイミングですからね。あちらの目的は明白です。ですが、アウイナイトとなると今までとは話は変わってきます。金剛石とは比較にならない価値で、どの国も喉から手が出るほど欲しがっていますからね。どんな無理難題を吹っかけられるか⋯⋯」
国王の執務室で同じく王太子も頭を抱えた。
戦々恐々とする国王らを置き去りにしたまま具体的な策もなく、二週間後にサージアスからの使節団が来ることが決まった。
0
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる