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第四話
しおりを挟むカティアにとって初めての夜会。
馬車の中ではお互い口を利かず、カティアはできるだけ相手を不快にしないよう俯いていた。
到着するとレオナルドは儀礼的に腕を差し出し、カティアは触れるか触れないかの強さでそっと手を添える。
初めて着た上品なドレスは、カティアの胸をときめかせるどころか憂鬱にした。
――高いお金を払わせてしまった。
今日のドレスはレオナルドが用意したものだ。
「お前のドレスは趣味が悪い。用意したからこれを着ろ」
そう言った時のレオナルドの冷たい視線が、迷惑だと告げていた。
――せめて、これ以上の迷惑はかけないように。
ダンスの上達ぶりに太鼓判を押してくれたルーダの笑顔を思い出し、カティアは必死に足を速めた。
会場は、豪華絢爛の一言に尽き、きらびやかなシャンデリアや大勢の人々に圧倒されるカティア。
レオナルドは会場入りするやいなや、
「おとなしくしていろ。くれぐれも迷惑をかけるなよ」
と言い捨て、カティアを一人残し奥の方へと去っていった。
あちこちでグループができ、小鳥がさえずるようにおしゃべりに花を咲かせる女性たち。
カティアは彼女たちの輪に入って行けるはずもなく、ひっそりと壁に佇む。
どれほどそうしていたのだろう。
気づけば周囲のざわめきと共に、国王夫妻とその息子である王太子夫妻と第二王子が入場した。
「今宵は楽しんでいってくれ」
国王陛下の挨拶と共に、楽団がワルツを奏で、人々はおしゃべりを楽しんだり、パートナーと共に踊り始めたりとめいめいに楽しみだす。
そんな人々の姿を眺めながら、カティアは一人ぼんやりとしていた。
――ダンス、踊りたかったな。せっかくルーダに褒められたのに。
カティアと同い年くらいの少女がパートナーの男性と楽し気に踊っている。
無邪気に笑う少女と自分の、一体何が違うのだろう。
心底幸せそうな彼女を、カティアは少しだけ羨ましく思った。
「あら、カティア。あなたこんなところにいたの」
聞き慣れた声が耳に届き、カティアはびくりと肩をすくめる。
俯けていた視線を上げると、そこには義母と義姉の姿が。
「お義母様、お義姉さま……」
絞りだした声は、みっともなく震えていた。
「レオナルド様と一緒ではないのね。当然よね、あんたみたいなみすぼらしい子が妻だなんて。可哀そうだわ」
「ほんとよ。彼が愛しているのはカトリーナ様だもの。お飾りの妻だなんて、私なら耐えられないわ」
口々にカティアを嘲り、嘲笑する二人。
反論する術を持たないカティアは、ただ黙って耐えるしかなかった。
――だって、本当のことだもの。
言われるまでもない。
レオナルドは王太子夫妻が入場するとすぐに彼らの側へ行き、片時も離れない。
彼らと――特に王太子妃カトリーナと――話すレオナルドの表情を一目見て、カティアはすぐに彼が彼女を愛していることに気づいた。
自分に向けられることのない、確かな愛がそこにはあった。
分かっていた。
それでも、どう頑張っても愛されることのない未来をまざまざと見せつけられ、カティアの心は鈍くきしんだ。
マナーも、ダンスも、教養も。
頑張った全てが、今日、何の役にも立たない。
そのことが、悔しくて悲しい。
カティアに対して攻撃的な言葉を吐く義母と義姉の声を聞きながら、一際きらびやかな集団を見る。
一度もこちらを顧みることのない彼の背中が、酷く遠かった。
初めての夜会は、カティアに悲しみと諦めをもたらした。
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