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第十六話(レオナルド視点)
しおりを挟む彼女――カトリーナと出会ったのは学園時代。
「どうしてですか! 身分なんて関係ありません。王太子だからって、そんなことにこだわって友人を制限するなんてもったいないです」
そう言って王太子の婚約者だった公爵令嬢に毅然と立ち向かい、いじめを受けるようになってしまった彼女。
「いつも稽古を頑張っていて凄いですね! 強い人って憧れます」
そう言って騎士団長の息子に笑いかけた彼女。
「賢いんですね! よければ私にも勉強を教えてくれませんか?」
そう言って宰相の息子と共に勉強を頑張る彼女。
「もうっ! いっつも眉間に皺を寄せて! そのうち皺が消えなくなっちゃいますよ」
そう言ってレオナルドの眉間の皺を優しく撫でた彼女。
天真爛漫な笑顔と自由な行動力に惹きつけられたのはレオナルドだけではなかった。
王太子も、騎士団長の息子も、宰相の息子も、次期公爵だったレオナルドも。
身分が高いが故に媚を売る人たちに囲まれ続けたレオナルドたちにとって、彼女はまるで春風のような存在だった。
彼女との週に一度のお茶会が終わる度、次の週のお茶会が待ち遠しくて。
だからこそ、彼女を守りたいと思った。自分の隣で笑っていてほしいと、そう思ったんだ。
恨みっこなしだと言ってレオナルドたち4人は彼女に告白し。
そうして彼女が選んだのは王太子で、王太子は婚約者であった公爵令嬢と婚約を破棄し、彼女は王太子妃となった。
5人での週に一度のお茶会は彼女が結婚した今も変わらずに続き、そのたびに彼女に惹かれる自分を抑えられない。
選ばれなかったレオナルドは、それでも今もなお彼女に恋い焦がれている。
彼女以外を愛せないレオナルドはこのまま一生独身でいることが当然のことだと思っていた。
だからこそ勝手に決められた結婚に腹が立ったし、相手に対して嫌悪感を持っていた。
――きっと公爵という地位と財産目当ての女なのだろう。
結婚初夜に初めて顔を合わせたカティアは、何かを期待するような、縋るような眼差しをしていて。
やはりレオナルドの地位と財産を期待しているのだと軽蔑した。
――女なんてカトリーナ以外皆同じだ。
今になって初めて自分がどれほど愚かで傲慢だったのか分かる。
過去に戻れるのなら、迷わず自分を殴りつけるのに。
カティアを傷つけた事実も、自分が行った仕打ちも。無かったことには決してできないのだ。今のレオナルドにできるのは、ただ後悔することだけだった。
あの日。
シャンデリアが落下し、カティアが重傷を負ったあの夜会の日。
「逃げて!」というどこか聞き覚えのある声が聞こえたと同時にシャンデリアが落下し、ガラスの破片が辺り一面に飛び散った。
レオナルドは迷わず側にいたカトリーナを腕に抱きとめて庇い、怪我のない彼女の姿にホッとした。――欠片もカティアを、自分の妻を気にしはしなかった。
頭の中にあるのは、ただ愛しい存在を守れた自分への誇りだけだった。
だから、巨大なシャンデリアの下敷きになり、頭から血を流して意識を失っているカティアを見た時には心臓が嫌な音を立てた。
膝をつき、彼女の肩に触れて、その華奢な身体に胸が締め付けられた。――罪悪感で胸が痛かった。
多くの参加者が負傷し、そこかしこで医者を求めてパニックが起きる中、レオナルドは慌ててカティアを医者に診てもらった。
そして重症の彼女を放置し続けたことを叱られ、改めて自分がカティアに対してどれほど非情だったかを思い知らされた。
何の罪悪感もなくカトリーナの側にいた自分が怖かった。
絶対安静と診断されたカティアのために王太子は城に部屋を用意してくれようとしたが、なぜか胸がざわめいたレオナルドはその申し出を丁重に断り屋敷へと帰宅した。
馬車の中、ずっと膝にのせていたカティアの頭に巻かれた真っ白な包帯が痛々しかった。
屋敷に着き、出迎えたセバスはレオナルドの腕に抱かれたカティアを見て顔色を変えた。
駆け寄って来たマリアは小さく悲鳴を零し、そんな彼らの様子を見てカティアが彼らにとって大切な存在だということを知る。
そうしてセバスから聞かされたカティアの境遇にレオナルドは愕然とし。
彼女の家族に怒りが湧くと共に、それ以上に自分が許せなかった。
傷つくことに慣れ、諦めることが当たり前だった彼女の最後の希望を砕いたのは他ならぬレオナルドだったのだから。
今でも思い出せる。
あの日の彼女の縋るような眼差しを。
そしてレオナルドの一言によって彼女の心が悲鳴をあげた瞬間を。
ありありと思い出せるのだ。
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