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新人狩人編
第七話 反社から来た物体X
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ある魔法少女は『強さ』について聞かれた時、
「それは冷酷さじゃない?」
と答えている。大半の魔法少女はそう答えるだろう。
魔法少女も元が人間である以上、情という感情が生まれてしまう。情があるから人質を取られると負けてしまう。情があるから油断し、不意を突かれて悲惨な結果を招いてしまう。
「情は魔法少女から切り離さなければならない感情だ」
とある研究員はそう語る。
───
「で、その…なんだっけ?敵に捕まって情報を洗いざらい吐いた雑魚魔法少女はここにいるわけ?」
「単独デビューのあの子、情けないよね」
二人の魔法少女が廃墟と化した工場地帯の門をくぐる。
懸賞金一億四〇〇万。銀髪のツインテールでフレイルを持った少女は、魔法少女協会八期生の「スイーツ・アスナ」だ。自慢のフレイルを振り回し、手当り次第破壊することを得意とする。
懸賞金九三〇〇万。水色でウルフカットの彼女は、六期生の「ラブリー・シオン」だ。彼女は魔法による支援を主とする。
別のグループ同士がペアを組むことはイレギュラーな事例と言えるだろう。本来であれば同じメンバー、スイーツ・アスナであればスイーツガールズ、ラブリー・シオンであればギャルズガールズでペアを組んだ方が協調性もあるので有利のはずだ。
しかし彼女らにはそれが出来ない事情があった。
「あんたのところのギャル、無事だといいね」
「きっと無事だよ。クレアちゃんは強いんだから」
既にギャルズガールズとスイーツガールズは壊滅状態だ。元々七人いたスイーツガールズは、現在アスナを含め三人しか残っていない。三人いたギャルズガールズはシオンただ一人だ。
協会の情報によれば、怪人に負けて捕まってしまったという。彼女らが情報を吐いていないのは幸いと言えるだろう。最も、情報を吐く前に始末された可能性も有り得なくはないが。
「敵はどんな奴なんだろう?」
「さぁ…警戒しないとね。先にバフお願いしてもいい?」
「筋力強化でもかけとくね」
シオンがアスナに触れると、淡い紫の光が彼女を包みこみ消えた。これだけの工程でアスナは今から一時間、通常の三倍の筋力を手に入れる。
「よし…これでもう無敵だね」
「うん、あっ…あれ見て!」
「絶対ここにいる…」
工場地帯にはまるで似合わない大きな穴が二人を待っている。どうやら穴の中にはちゃんと酸素が供給されているようだ。そして、入口はまるで森のように蔓や葉が覆っている。放棄されて数年経っているので自然が戻って来たと言ってしまえばそれまでだが。
「入ろう…か」
───
「………シオン?」
アスナは後ろを振り向いた。
誰もいない。ほんの一瞬前にはシオンがその場に立っていたというのに、姿を消している。
「シオン!どこ!」
刹那、アスナは臨戦態勢に入った。血眼になり敵とシオンを探す。そして倒れているシオンの姿を捉えた。
「そこか!」
圧倒的な跳躍力。
スポーツ選手と比べて三倍以上、地面を蹴った瞬間土煙が上がり、アスナの体が宙に舞う。
コンクリートを踏み抜く勢いで着地し、彼女がどこにいるのかを探した。一瞬遅く、シオンの体が何かに引っ張られて地面に引きずり込まれる。
「…あ!」
引きずり込まれた穴の中は当然だが暗闇で何も見えない。アスナは中を見ようとしたが、背中に感じた敵の気配によりその場で硬直した。
(振り返ったら…死ぬ!)
それほどまでに背中の気配は強かった。
(決着は一瞬、速戦即決で行くしかない…)
フレイルをより一層強く握りしめ、振り向きざま力任せにぶつけた。手応えあり、人肌のような適度に柔らかい感触の物体を破壊した。
「あーあ…痛いじゃん」
高さは二メートルを超える。胴体は植物の───蕾のような、丸い物体で出来ており、花弁の部分には人間の上半身が埋め込まれている。
アルラウネ?
彼女が知っているアルラウネと少し姿形は異なっているが、ほとんどアルラウネと言っていいだろう。
それはアスナを見下ろし、破壊された自分の蔓を悲しそうにひらひらと揺らしていた。
「あ…あ……えと…」
「初めまして人間さん。何か言うことはある?」
「や……え、その…」
想定していた敵より遥かに大きく、その異形に恐れおののいたアスナは腰を抜かし、言葉を失った。
「フェーちゃん、痛かったんだけど」
「ごめんなさ───」
言い終わる前に『フェーちゃん』の蔓が鞭のようにアスナの頭を打った。亜音速に達するその鞭は轟音と共にアスナの意識を奪い、遠のかせた。
* * *
「終わったか」
「樋口ちゃん!終わったよぉ~」
フェーちゃんは傍にたっていた女性の顔を見るとぱあっと顔が明るくなる。
「スイーツ・アスナとラブリー・シオンか…怪我は?」
「ちょっと足が飛ばされちゃったけどもう大丈夫だよぉ~」
フレイルに消し飛ばされた跡を笑顔で見せる。
「そうか、じゃあ行くか」
女性とフェーちゃんは二人の魔法少女をズルズルと引きずりながら工場地帯を後にした。
───樋口詩織。
年齢一九歳。トヨハシグループの戦闘員で、絶滅主義を掲げる危険人物としてグループ内でも要注意人物としてマークされている。
彼女にはかつて魔法少女になりたいという夢があった。
「それは冷酷さじゃない?」
と答えている。大半の魔法少女はそう答えるだろう。
魔法少女も元が人間である以上、情という感情が生まれてしまう。情があるから人質を取られると負けてしまう。情があるから油断し、不意を突かれて悲惨な結果を招いてしまう。
「情は魔法少女から切り離さなければならない感情だ」
とある研究員はそう語る。
───
「で、その…なんだっけ?敵に捕まって情報を洗いざらい吐いた雑魚魔法少女はここにいるわけ?」
「単独デビューのあの子、情けないよね」
二人の魔法少女が廃墟と化した工場地帯の門をくぐる。
懸賞金一億四〇〇万。銀髪のツインテールでフレイルを持った少女は、魔法少女協会八期生の「スイーツ・アスナ」だ。自慢のフレイルを振り回し、手当り次第破壊することを得意とする。
懸賞金九三〇〇万。水色でウルフカットの彼女は、六期生の「ラブリー・シオン」だ。彼女は魔法による支援を主とする。
別のグループ同士がペアを組むことはイレギュラーな事例と言えるだろう。本来であれば同じメンバー、スイーツ・アスナであればスイーツガールズ、ラブリー・シオンであればギャルズガールズでペアを組んだ方が協調性もあるので有利のはずだ。
しかし彼女らにはそれが出来ない事情があった。
「あんたのところのギャル、無事だといいね」
「きっと無事だよ。クレアちゃんは強いんだから」
既にギャルズガールズとスイーツガールズは壊滅状態だ。元々七人いたスイーツガールズは、現在アスナを含め三人しか残っていない。三人いたギャルズガールズはシオンただ一人だ。
協会の情報によれば、怪人に負けて捕まってしまったという。彼女らが情報を吐いていないのは幸いと言えるだろう。最も、情報を吐く前に始末された可能性も有り得なくはないが。
「敵はどんな奴なんだろう?」
「さぁ…警戒しないとね。先にバフお願いしてもいい?」
「筋力強化でもかけとくね」
シオンがアスナに触れると、淡い紫の光が彼女を包みこみ消えた。これだけの工程でアスナは今から一時間、通常の三倍の筋力を手に入れる。
「よし…これでもう無敵だね」
「うん、あっ…あれ見て!」
「絶対ここにいる…」
工場地帯にはまるで似合わない大きな穴が二人を待っている。どうやら穴の中にはちゃんと酸素が供給されているようだ。そして、入口はまるで森のように蔓や葉が覆っている。放棄されて数年経っているので自然が戻って来たと言ってしまえばそれまでだが。
「入ろう…か」
───
「………シオン?」
アスナは後ろを振り向いた。
誰もいない。ほんの一瞬前にはシオンがその場に立っていたというのに、姿を消している。
「シオン!どこ!」
刹那、アスナは臨戦態勢に入った。血眼になり敵とシオンを探す。そして倒れているシオンの姿を捉えた。
「そこか!」
圧倒的な跳躍力。
スポーツ選手と比べて三倍以上、地面を蹴った瞬間土煙が上がり、アスナの体が宙に舞う。
コンクリートを踏み抜く勢いで着地し、彼女がどこにいるのかを探した。一瞬遅く、シオンの体が何かに引っ張られて地面に引きずり込まれる。
「…あ!」
引きずり込まれた穴の中は当然だが暗闇で何も見えない。アスナは中を見ようとしたが、背中に感じた敵の気配によりその場で硬直した。
(振り返ったら…死ぬ!)
それほどまでに背中の気配は強かった。
(決着は一瞬、速戦即決で行くしかない…)
フレイルをより一層強く握りしめ、振り向きざま力任せにぶつけた。手応えあり、人肌のような適度に柔らかい感触の物体を破壊した。
「あーあ…痛いじゃん」
高さは二メートルを超える。胴体は植物の───蕾のような、丸い物体で出来ており、花弁の部分には人間の上半身が埋め込まれている。
アルラウネ?
彼女が知っているアルラウネと少し姿形は異なっているが、ほとんどアルラウネと言っていいだろう。
それはアスナを見下ろし、破壊された自分の蔓を悲しそうにひらひらと揺らしていた。
「あ…あ……えと…」
「初めまして人間さん。何か言うことはある?」
「や……え、その…」
想定していた敵より遥かに大きく、その異形に恐れおののいたアスナは腰を抜かし、言葉を失った。
「フェーちゃん、痛かったんだけど」
「ごめんなさ───」
言い終わる前に『フェーちゃん』の蔓が鞭のようにアスナの頭を打った。亜音速に達するその鞭は轟音と共にアスナの意識を奪い、遠のかせた。
* * *
「終わったか」
「樋口ちゃん!終わったよぉ~」
フェーちゃんは傍にたっていた女性の顔を見るとぱあっと顔が明るくなる。
「スイーツ・アスナとラブリー・シオンか…怪我は?」
「ちょっと足が飛ばされちゃったけどもう大丈夫だよぉ~」
フレイルに消し飛ばされた跡を笑顔で見せる。
「そうか、じゃあ行くか」
女性とフェーちゃんは二人の魔法少女をズルズルと引きずりながら工場地帯を後にした。
───樋口詩織。
年齢一九歳。トヨハシグループの戦闘員で、絶滅主義を掲げる危険人物としてグループ内でも要注意人物としてマークされている。
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