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最強魔術師は褒められたい 1
最強魔術師は褒められたい 5
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入学して初めての授業をすべて終えたころ、クラス内は既に何組かグループができていた。
女子だけのグループ、男子だけのグループ、男女のグループ。それから、俺みたいな全くの個別行動派。
何人かのグループが「センター街行ってみたい!」「あーね。先輩が本土の街みたいって言ってたから気になってる」「あ、それ俺も一緒に行っていー?」なんて話してるのを聞き流して、俺は早々に学校から退散。
寮前のバス停でバスを降り、昨日とまったく同じように寮の外観に圧倒されてから部屋に入った。
玄関口には靴がない。まだ先輩は帰ってきていない様で、部屋の中も随分と静かだ。
あの人当たりの良さだ。もしかしたらセンター街に行こうと誘われて行っているのかもしれないし、入試の時に生徒会の腕章をつけていたから、その生徒会の仕事で忙しいのかもしれない。
高校ではどんな魔法を学ぶんだろうか。
入試一位通過なんて肩書きなどすぐに流れ去ってしまうようなレベルの授業が行われるのだろうか。
そんなことを期待しつつ、そそくさと部屋に戻る。
鞄を机に置いて、特別棟で行う授業の教科書を引っ張り出しパラパラと捲り、ざっと中身を確認した。
中学で習った、基礎魔法の一つであるシールドのほか、一時的にペアの移動速度を上げるアクセルや、武器の強化、肉体強化の魔法も載っている。
(…流石に複数人相手は、もっと上の学年か…)
中学の必修科目である『自分の身を守るための魔法』とは違って、本格的に『相手をアシストする』魔法を習っていくようだが、教科書を捲って見えてくるのは、あくまでも『一人の対象者にかける』ことを目的としているということだ。
ちょっぴり期待外れというか。
「たっだいまー! …あれ、クロハ、もう帰ってきてる…」
ぱぱーん! と、クラッカーが弾けるような、底抜けに明るい先輩の声が玄関から聞こえてくる。
「…テンション高くないっすか?」
捲っていた教科書を閉じて席を立ち廊下に顔を出すと、声音負けないぐらい明るい表情をした先輩の姿がある。
なんでそんなに元気なんだろうか、この人。
「そりゃあ! 学校から解放されたっていう、あの解放感があるからね。クロハはそういうの、ない?」
「いや、ありますけど…」
いそいそと靴を脱いであがる先輩は確かに嬉しそうで、目を凝らせば小さい花が舞ってるのが見えるんじゃないだろうか。
生徒会を務めるような先輩でも、学校からは解放されたいらしい。
「俺、今日は初めての授業だったし、解放感とかそんな事感じる余裕もないっすよ」
「またまたぁ~。僕のクラスにまで轟いていたよ、クロハの凄さがね」
「え、いや、なんもしてない…」
いったい何が轟いたって?
ただシールドを張っただけで名前が轟くなら、誰だって名を馳せることが出来るんじゃないだろうか。シールドの魔法は中学の必修だっていうのに。
「アシスト型の授業、先生に褒められたんだろう?」
「…ああ…いや、別に…」
あれを褒められたと言えるのであれば、きっと俺は今頃、第二性からくる『もっと褒められたい』という欲求を抱えずに済んでいた事だろう。
本井先生のあのニュアンスは、多分、褒めたわけじゃなくて『出来て当然』の部類だ。
ちょっぴり納得がいかないような気持ちを抱えながら、部屋に戻るため踵を返した。
「Stay」
「え…なんすか…」
動き出そうとした足がぴたっと止まって、俺は振り返る。
わざわざCommandを使って呼び止める必要があるということは、なにか、大事な用でもあるんだろうか。
「come」
わざわざCommandを使って俺を呼び止めたり、付いてこいと命令しなくとも呼ばれれば行くのになと思いながらも、俺の体はCommandを受け付けて、リビングへと向かう先輩の後についていく。
不思議ではあるけど、自然とCommandが俺の中に入ってくる感じは…慣れないけど嫌じゃない、と、思う…。
むしろ、心地よさをほんのりと感じてる、かもしれない。小さな花が舞うかのような、ぽやっとしたものとは別だけど。
先輩はリビングに着くとソファに腰かけて、俺に柔らかな笑みを向けながら、ぽんぽんと、自分の隣を軽く叩く。
SitのCommandは出なかったが、素直に従って、先輩の隣のスペースに腰を下ろした。
「うんうん、良い子だね。Good boy」
ふわっと、俺の頭を撫でてくる先輩は、満たされた様に微笑んだ。
この人、多分、こういうことが好きなんだろうな。支配するより甘やかす方が好きだって昨日も言ってたっけ。
けど、まだ二日だ。
今のところ乱暴なCommandを放たれる事もなければ、表向き、俺に対してがっかりした様子も見せないけど、一週間後にどうなってるのかまではわからない。
がっかりされるかもしれないし、もしかしたら、いま俺に見せている先輩の姿は素で、本心で、一週間後もこの調子かもしれないし。
まだまだ観察が必要だ。
「そういや…先輩、今日不可解な事してましたね」
「ん…? 不可解な事かい?」
そう、観察といえば実践訓練についての話も必要だ。
「教室から、三年の武力型の実践訓練やってるのが見えて。サーベルを使ってるはずなのに、敢えて間合いを取り外して頭突きをしにいってましたよね」
「ああ、あれかぁ! 僕はサーベルを使うけど、正直肉弾戦のほうが好きなんだよね。ボコボコに殴り合うの、爽快でたまらないんだ」
(殴り合うことが、爽快でたまらないだって…?)
入学式に何人ものSubや女子生徒を虜にしたその見た目からは想像がつかない発言だ。
しかも、発言に似つかわしくない爽やかな笑みまで浮かべて言い放つなんて、やっぱり、本当はヤバい人なのでは…?
「えっと…。そもそも、魔力器官の魔力を通してるのは肉体じゃなくて武器ですよね…。なんで、敢えて弱体化するんすか…」
にこやかに笑う先輩とは反対に、俺は、乾いた笑いを微かに漏らすだけで精一杯だ。
「最初はグローブだったんだ。でも超至近距離の戦闘は、アシストしてくれるペアの相手を選んでしまうから。それで次点としてサーベルを使うようになったんだよ。だから、弱体化ではなくて、寧ろ頭突きが本気さ」
先輩は「凄いだろう?」と随分と誇らしげだ。
「まあ、確かに…。アシストは基本、武力型のペアの斜め後方…、それなりに間合いをとった距離が定位置だから、肉弾戦だと動きが死角になってタイミングが掴みづらいっていうのは、あるかもしれないですね、普通は」
「だろう?」
「その点、サーベルは初動があるからタイミングは掴みやすいし、初動で生まれるスキは、タイミングがわかればいくらでもアシストが出来る…」
何となくだけど、先輩の考えをなぞるようにしてロジックを組み立ててみる。
ヤバイ人なのかもと思ったが、実際はそういう事ではなかったらしい。乾いた笑みを漏らしてしまったことは少し失礼だったかもしれない。
「うんうん、そういうこと、そういうこと。クロハは賢いね」
「いや、別に…アシストの基本ですし」
チームの主戦力である相手が何を考えて行動しているのかを読み解くことだって、アシスト型の基本であって、別に、賢いわけじゃない。普通だ、普通。…多分。
「でも、頭突き、結局『フリ』だけで入れてませんでしたよね」
「流石に本当に頭突きをしたら可哀想だろう? 訓練なのに」
「僕、石頭なんだ」と先輩は茶化すように自分の額を指差した。
確かに授業で『相手が頭突きで気絶しました』なんて話になったら、気絶させられた方も恥ずかしいだろう。
「五月になれば、僕たち三年と、クロハたち一年はとうとうペアで実践訓練をしていくことになるからね。それまでに、僕の戦闘スタイルの事をどんどん聞いてくれよ。それに、クロハのアシストスタイルも教えてくれるよね?」
「いやいや…。言葉で伝えるだけで、五月から『はいじゃあやってみましょう』とか、出来るもんでもないですよね…」
普通に考えたら、一年はまず追いつけない。
言葉で聞かされていても、実際に動いているものを見てアシストするにはかなりの集中力が要る。
動き回り慣れている相手を初見でアシストするのは、初心者が暴れ馬を手懐けるくらい難しい事だ。それも、その馬が暴れたまま跨らないといけない状態に近い。
だが先輩は、不思議そうに俺を見て瞬きをする。そして、また、柔らかい笑みを浮かべた。
「今までは、どんなふうにアシストをしてきたんだい?」
「どうって…タイミング見計らって、ぽん、と…」
「そのときに使ってたアシスト魔法は?」
「シールドとか、武器強化っすね…」
「クロハなら、アクセルや全体強化も使えるよね?」
「…まあ…そう…っすけど…」
じわじわと苦いものが胸の中を、ゆっくりと満たしていくような感覚。
周りの連中だって、俺が出来ること、普通に出来るだろ? なんて思っていた中学の頃、初めての『魔力器官』の授業に浮足立ったクラスメイトたちのなかには、興味本位で参考書まで買っているやつも居た。
参考書に書かれた魔法を試しにやってみたら、案外うまくいってしまったもので。
「なんか、簡単だけど」なんて言ったが最後、だ。
俺はその日のうちに、学校一の魔力器官を持つ生徒として名が広がってしまった。
それが『何をやっても褒められない』という、乾いたスポンジに、苦い、苦い、ブラックコーヒーを染みこませていくような日々の始まり。
満たされなくなった日々の始まりを思い出して、細く、ため息が漏れた。
「うんうん、ただの天才だね」
「いや、そんなんじゃ…」
微かに、じくりと胸が痛む。
先輩は昨日と変わらず、コミュニケーションの一環のつもりの様で、にこにこと笑っていた。
「いやいや、クロハは天才だよ」
「けど、俺のアシスト魔法、先輩、一回しか見てないだろ」
「けど話を聞いているだけでわかるよ。それに──そんな状態を持て余して、本気を出せないこともね」
「っ!」
あ、っと思った時には、心の中が抉られたようだった。
なんで今、そんなこと言うんだ。
俺、やっぱり同室の先輩にも理解されないのか。
この学校でも、結局異質な存在だったのか。
二日目にして、実は先輩も内心、俺と同室であることを残念がったのではないか?
思わず跳ねた肩に、先輩の手がそっと置かれる。
思ったよりも、その手はじんわりと温かい。
「うん、やっぱりきみを同室に選びたいと先生たちに直談判して良かったよ」
先輩の、まるで弾む心を一生懸命抑えたような声に、いつの間にか下がっていた俺の視線がそろりと上がる。
その碧眼は、別に特別なライトを当てられているわけでもないのに宝石みたいにキラキラと輝いているようだった。
「僕たち、入試試験の時にバチッと決まっちゃっただろう? 同じクラスのアシストの子とも、それこそ僕が一年生の時に同室だった先輩とも、本当に、あそこまで息が合ったことはなかったんだ」
「入学早々悩むことになったのは、いい思い出だよ」なんて、明るく言う先輩の目から、輝きが失われることはない。
「僕は武力型だけど、アシストの子のために拳のグローブをサーベルに切り替えるほどだったんだよ? クロハなら、この意味がわかるんじゃないかな?」
先輩は、優しい笑みを浮かべて俺に問いかける。
どう考えたって、入学二日目にするような話じゃないだろ。
だが、これにはきっと意味があるんじゃないかと思った。
先輩がどうして、今、こんな話をしたのか。先輩として、何か大事なことを伝えようとしてくれてるんじゃないか。
一つ言えるのは、俺も先輩も、この『魔力器官が強い子供が通うに相応しい学校』という場所でさえ、実力を持て余しているという事だけだ。
「僕の『本当の』戦闘スタイルは、授業をしてるだけじゃ見れないよ。だから、今とは言わずとも、近いうちに事前情報の交換をしよう。僕も、クロハが本当はどんな『戦闘スタイル』なのか、気になるからね」
「…あ、はい…」
気がついたら、流されるようにして頷いていた。
女子だけのグループ、男子だけのグループ、男女のグループ。それから、俺みたいな全くの個別行動派。
何人かのグループが「センター街行ってみたい!」「あーね。先輩が本土の街みたいって言ってたから気になってる」「あ、それ俺も一緒に行っていー?」なんて話してるのを聞き流して、俺は早々に学校から退散。
寮前のバス停でバスを降り、昨日とまったく同じように寮の外観に圧倒されてから部屋に入った。
玄関口には靴がない。まだ先輩は帰ってきていない様で、部屋の中も随分と静かだ。
あの人当たりの良さだ。もしかしたらセンター街に行こうと誘われて行っているのかもしれないし、入試の時に生徒会の腕章をつけていたから、その生徒会の仕事で忙しいのかもしれない。
高校ではどんな魔法を学ぶんだろうか。
入試一位通過なんて肩書きなどすぐに流れ去ってしまうようなレベルの授業が行われるのだろうか。
そんなことを期待しつつ、そそくさと部屋に戻る。
鞄を机に置いて、特別棟で行う授業の教科書を引っ張り出しパラパラと捲り、ざっと中身を確認した。
中学で習った、基礎魔法の一つであるシールドのほか、一時的にペアの移動速度を上げるアクセルや、武器の強化、肉体強化の魔法も載っている。
(…流石に複数人相手は、もっと上の学年か…)
中学の必修科目である『自分の身を守るための魔法』とは違って、本格的に『相手をアシストする』魔法を習っていくようだが、教科書を捲って見えてくるのは、あくまでも『一人の対象者にかける』ことを目的としているということだ。
ちょっぴり期待外れというか。
「たっだいまー! …あれ、クロハ、もう帰ってきてる…」
ぱぱーん! と、クラッカーが弾けるような、底抜けに明るい先輩の声が玄関から聞こえてくる。
「…テンション高くないっすか?」
捲っていた教科書を閉じて席を立ち廊下に顔を出すと、声音負けないぐらい明るい表情をした先輩の姿がある。
なんでそんなに元気なんだろうか、この人。
「そりゃあ! 学校から解放されたっていう、あの解放感があるからね。クロハはそういうの、ない?」
「いや、ありますけど…」
いそいそと靴を脱いであがる先輩は確かに嬉しそうで、目を凝らせば小さい花が舞ってるのが見えるんじゃないだろうか。
生徒会を務めるような先輩でも、学校からは解放されたいらしい。
「俺、今日は初めての授業だったし、解放感とかそんな事感じる余裕もないっすよ」
「またまたぁ~。僕のクラスにまで轟いていたよ、クロハの凄さがね」
「え、いや、なんもしてない…」
いったい何が轟いたって?
ただシールドを張っただけで名前が轟くなら、誰だって名を馳せることが出来るんじゃないだろうか。シールドの魔法は中学の必修だっていうのに。
「アシスト型の授業、先生に褒められたんだろう?」
「…ああ…いや、別に…」
あれを褒められたと言えるのであれば、きっと俺は今頃、第二性からくる『もっと褒められたい』という欲求を抱えずに済んでいた事だろう。
本井先生のあのニュアンスは、多分、褒めたわけじゃなくて『出来て当然』の部類だ。
ちょっぴり納得がいかないような気持ちを抱えながら、部屋に戻るため踵を返した。
「Stay」
「え…なんすか…」
動き出そうとした足がぴたっと止まって、俺は振り返る。
わざわざCommandを使って呼び止める必要があるということは、なにか、大事な用でもあるんだろうか。
「come」
わざわざCommandを使って俺を呼び止めたり、付いてこいと命令しなくとも呼ばれれば行くのになと思いながらも、俺の体はCommandを受け付けて、リビングへと向かう先輩の後についていく。
不思議ではあるけど、自然とCommandが俺の中に入ってくる感じは…慣れないけど嫌じゃない、と、思う…。
むしろ、心地よさをほんのりと感じてる、かもしれない。小さな花が舞うかのような、ぽやっとしたものとは別だけど。
先輩はリビングに着くとソファに腰かけて、俺に柔らかな笑みを向けながら、ぽんぽんと、自分の隣を軽く叩く。
SitのCommandは出なかったが、素直に従って、先輩の隣のスペースに腰を下ろした。
「うんうん、良い子だね。Good boy」
ふわっと、俺の頭を撫でてくる先輩は、満たされた様に微笑んだ。
この人、多分、こういうことが好きなんだろうな。支配するより甘やかす方が好きだって昨日も言ってたっけ。
けど、まだ二日だ。
今のところ乱暴なCommandを放たれる事もなければ、表向き、俺に対してがっかりした様子も見せないけど、一週間後にどうなってるのかまではわからない。
がっかりされるかもしれないし、もしかしたら、いま俺に見せている先輩の姿は素で、本心で、一週間後もこの調子かもしれないし。
まだまだ観察が必要だ。
「そういや…先輩、今日不可解な事してましたね」
「ん…? 不可解な事かい?」
そう、観察といえば実践訓練についての話も必要だ。
「教室から、三年の武力型の実践訓練やってるのが見えて。サーベルを使ってるはずなのに、敢えて間合いを取り外して頭突きをしにいってましたよね」
「ああ、あれかぁ! 僕はサーベルを使うけど、正直肉弾戦のほうが好きなんだよね。ボコボコに殴り合うの、爽快でたまらないんだ」
(殴り合うことが、爽快でたまらないだって…?)
入学式に何人ものSubや女子生徒を虜にしたその見た目からは想像がつかない発言だ。
しかも、発言に似つかわしくない爽やかな笑みまで浮かべて言い放つなんて、やっぱり、本当はヤバい人なのでは…?
「えっと…。そもそも、魔力器官の魔力を通してるのは肉体じゃなくて武器ですよね…。なんで、敢えて弱体化するんすか…」
にこやかに笑う先輩とは反対に、俺は、乾いた笑いを微かに漏らすだけで精一杯だ。
「最初はグローブだったんだ。でも超至近距離の戦闘は、アシストしてくれるペアの相手を選んでしまうから。それで次点としてサーベルを使うようになったんだよ。だから、弱体化ではなくて、寧ろ頭突きが本気さ」
先輩は「凄いだろう?」と随分と誇らしげだ。
「まあ、確かに…。アシストは基本、武力型のペアの斜め後方…、それなりに間合いをとった距離が定位置だから、肉弾戦だと動きが死角になってタイミングが掴みづらいっていうのは、あるかもしれないですね、普通は」
「だろう?」
「その点、サーベルは初動があるからタイミングは掴みやすいし、初動で生まれるスキは、タイミングがわかればいくらでもアシストが出来る…」
何となくだけど、先輩の考えをなぞるようにしてロジックを組み立ててみる。
ヤバイ人なのかもと思ったが、実際はそういう事ではなかったらしい。乾いた笑みを漏らしてしまったことは少し失礼だったかもしれない。
「うんうん、そういうこと、そういうこと。クロハは賢いね」
「いや、別に…アシストの基本ですし」
チームの主戦力である相手が何を考えて行動しているのかを読み解くことだって、アシスト型の基本であって、別に、賢いわけじゃない。普通だ、普通。…多分。
「でも、頭突き、結局『フリ』だけで入れてませんでしたよね」
「流石に本当に頭突きをしたら可哀想だろう? 訓練なのに」
「僕、石頭なんだ」と先輩は茶化すように自分の額を指差した。
確かに授業で『相手が頭突きで気絶しました』なんて話になったら、気絶させられた方も恥ずかしいだろう。
「五月になれば、僕たち三年と、クロハたち一年はとうとうペアで実践訓練をしていくことになるからね。それまでに、僕の戦闘スタイルの事をどんどん聞いてくれよ。それに、クロハのアシストスタイルも教えてくれるよね?」
「いやいや…。言葉で伝えるだけで、五月から『はいじゃあやってみましょう』とか、出来るもんでもないですよね…」
普通に考えたら、一年はまず追いつけない。
言葉で聞かされていても、実際に動いているものを見てアシストするにはかなりの集中力が要る。
動き回り慣れている相手を初見でアシストするのは、初心者が暴れ馬を手懐けるくらい難しい事だ。それも、その馬が暴れたまま跨らないといけない状態に近い。
だが先輩は、不思議そうに俺を見て瞬きをする。そして、また、柔らかい笑みを浮かべた。
「今までは、どんなふうにアシストをしてきたんだい?」
「どうって…タイミング見計らって、ぽん、と…」
「そのときに使ってたアシスト魔法は?」
「シールドとか、武器強化っすね…」
「クロハなら、アクセルや全体強化も使えるよね?」
「…まあ…そう…っすけど…」
じわじわと苦いものが胸の中を、ゆっくりと満たしていくような感覚。
周りの連中だって、俺が出来ること、普通に出来るだろ? なんて思っていた中学の頃、初めての『魔力器官』の授業に浮足立ったクラスメイトたちのなかには、興味本位で参考書まで買っているやつも居た。
参考書に書かれた魔法を試しにやってみたら、案外うまくいってしまったもので。
「なんか、簡単だけど」なんて言ったが最後、だ。
俺はその日のうちに、学校一の魔力器官を持つ生徒として名が広がってしまった。
それが『何をやっても褒められない』という、乾いたスポンジに、苦い、苦い、ブラックコーヒーを染みこませていくような日々の始まり。
満たされなくなった日々の始まりを思い出して、細く、ため息が漏れた。
「うんうん、ただの天才だね」
「いや、そんなんじゃ…」
微かに、じくりと胸が痛む。
先輩は昨日と変わらず、コミュニケーションの一環のつもりの様で、にこにこと笑っていた。
「いやいや、クロハは天才だよ」
「けど、俺のアシスト魔法、先輩、一回しか見てないだろ」
「けど話を聞いているだけでわかるよ。それに──そんな状態を持て余して、本気を出せないこともね」
「っ!」
あ、っと思った時には、心の中が抉られたようだった。
なんで今、そんなこと言うんだ。
俺、やっぱり同室の先輩にも理解されないのか。
この学校でも、結局異質な存在だったのか。
二日目にして、実は先輩も内心、俺と同室であることを残念がったのではないか?
思わず跳ねた肩に、先輩の手がそっと置かれる。
思ったよりも、その手はじんわりと温かい。
「うん、やっぱりきみを同室に選びたいと先生たちに直談判して良かったよ」
先輩の、まるで弾む心を一生懸命抑えたような声に、いつの間にか下がっていた俺の視線がそろりと上がる。
その碧眼は、別に特別なライトを当てられているわけでもないのに宝石みたいにキラキラと輝いているようだった。
「僕たち、入試試験の時にバチッと決まっちゃっただろう? 同じクラスのアシストの子とも、それこそ僕が一年生の時に同室だった先輩とも、本当に、あそこまで息が合ったことはなかったんだ」
「入学早々悩むことになったのは、いい思い出だよ」なんて、明るく言う先輩の目から、輝きが失われることはない。
「僕は武力型だけど、アシストの子のために拳のグローブをサーベルに切り替えるほどだったんだよ? クロハなら、この意味がわかるんじゃないかな?」
先輩は、優しい笑みを浮かべて俺に問いかける。
どう考えたって、入学二日目にするような話じゃないだろ。
だが、これにはきっと意味があるんじゃないかと思った。
先輩がどうして、今、こんな話をしたのか。先輩として、何か大事なことを伝えようとしてくれてるんじゃないか。
一つ言えるのは、俺も先輩も、この『魔力器官が強い子供が通うに相応しい学校』という場所でさえ、実力を持て余しているという事だけだ。
「僕の『本当の』戦闘スタイルは、授業をしてるだけじゃ見れないよ。だから、今とは言わずとも、近いうちに事前情報の交換をしよう。僕も、クロハが本当はどんな『戦闘スタイル』なのか、気になるからね」
「…あ、はい…」
気がついたら、流されるようにして頷いていた。
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