はごろも伝奇

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26. 天降女の伝説

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 …とうとう大型おおがた連休れんきゅうが始まった…。

 それはつまり、佳奈子の山籠やまごもりの始まりである…。

 佳奈子は、修行をする山へと、車で運ばれた…。

 車を運転しているのは、化け猫のタマである。

 その車には、祖母の絹代きぬよも乗っている。

 そうして佳奈子は、修行をする山、飛立山とびたちやまへとやって来た…。

 この山はなんと、千年以上も前から、佳奈子たちの一族が、所有しょゆうしている山らしい…。

 そして、この山が、飛立山とびたちやまと呼ばれるのには、八乙女家に深く関わる、ある由縁ゆえんがあるのである…。

「…この山が飛立山とびたちやまかぁ…。初めて見るけど、けっこう大きいんだね…」

 車からりた佳奈子は、そう言って、山を見上げる…。

「修行するには、もってこいだろ…?もうすでに、山のまわりには結界石けっかいせきめて、結界を張ってある。ウチの家族以外は、誰も入れないよ」

 絹代が、そう説明する。

「…本当に…?本当に誰も入れない…?絶対…?」

 佳奈子はこれから、ほぼ、すっぱだかになって修行をするのだ…。

 そんな姿、家族以外には見られたくない…。

 なので、不安な佳奈子は、そう確認した。

「ああ。結界をやぶろうとする者がいたら、アタシやタマたちが、すぐに察知さっちして撃退げきたいに向かう。…けどまぁ、例外として、山の鳥たちだけは、えさをとりに、山の外に行かなきゃいけないからね…。そこだけは、カバーできない…。けど、それ以外は、本当に誰も出入りさせないよ」

「…そう…」

 佳奈子は、一応いちおう納得なっとくする。

「それじゃあ、もう一度、説明をするよ。今回の修行は、山の中腹ちゅうふくに作った、野営地やえいち拠点きょてんに行う」

「野営に必要なものは、もうすでに、そこに用意してありますよ…!私と、ネネとウタで運んだんです…!ネネは家でお留守番るすばんしてますけど、ウタはもう、野営地で準備をしてますから、安心してください…!」

 タマがそう、元気に言う。

「だが、修行を始める前に、まずは、ご先祖せんぞ様に、ご挨拶あいさつをしなくてはね…。この山は、ご先祖様とゆかりが深い…。ここに来て、挨拶をしないのは失礼にあたる…。だから、まずは、山頂さんちょうにあるほこらへ向かうよ。いいね?佳奈子」

「…はぁい…」

 佳奈子は、しぶしぶ、了解りょうかいの返事をする。

 そうして佳奈子は、祖母の後に続き、山をのぼり始めた…。

 ちなみに、この山は、当然、観光地かんこうちではない。

 人手ひとでがほとんど入っていないため、登山道とざんどうもなく、歩きづらいこと、この上ない…。

 なので佳奈子は、木のえだに引っかかったり、大きな石に、何度もつまずく…。

 けれど途中とちゅう休憩きゅうけいはさみ、なんとか佳奈子は、山頂さんちょうへと、たどりいた…。

「ほら、佳奈子、ここが山頂だよ」

「や、やっと着いた…!」

 佳奈子はゼーゼーと息をして、フラフラとれながら、安堵あんどの声を上げる。

 そうしてたどり着いた山頂は、木が少ない…。

 これまでのぼってきた山肌やまはだには、あんなに木が多かったのに…と、山頂の景色を、あまり知らない佳奈子は意外いがいに思う。

 山頂の地面じめんは、短い草がえている程度ていどで、あとは大きな岩が、ちらほらと見えるだけ…。

 ところどころ、つちの地面が見えている所もある…。

 そうして佳奈子が、あらいきのまま、山頂の景色をながめていると…、

「ほら、佳奈子。あそこに見えるのが、ご先祖さまのほこらだよ」

 そう言って、絹代が教える。

 そこには、石造いしづくりの、小さな古い祠がっていた…。

「!あれが…!」

 佳奈子は、ハァハァと、息を切らせながらも、祠へ向かおうとする…。

 しかし…、

「あたっ…!」

 フラフラしていた佳奈子は、石につまずいて、ころびそうになる…。

「!佳奈子…?!」

 すると、近くにいたタマが、とっさに佳奈子のうでをつかんで、ささえてくれた。

「大丈夫ですか…?佳奈ちゃん…」

「!あ、ありがとう…!タマちゃん…!」

 佳奈子はタマにお礼を言う。

「…はぁ~。まったくお前は…、修行がりないね…!この程度ていどで、フラフラになって…!そんな格好かっこうじゃ、ご先祖様に、ご挨拶あいさつが出来ないよ…!みっともない…!まずは、汗をいて、いきととのえな…!」

 絹代がそう言うと、

「はい!どうぞ…!佳奈ちゃん…!タオルです…!使ってください…!水筒すいとうのお茶もありますよ…!」

 そう言って、タマがタオルをわたしてくれる。

「!ありがとう…!」

 佳奈子は、再び、タマにお礼を言い、受け取ったタオルで汗をく。

 そして、お茶をもらい、ごくごくと飲んだ。

「…ぷはぁ~!生き返る~!」

 佳奈子は、元気を取り戻した。

「まったく…、お前は、おおげさだねぇ~」

「ふふっ…!佳奈ちゃんらしいです…!」

 そう、絹代とタマが言い、佳奈子たちは、3人で笑い合った…。

「それじゃ、そろそろ、ほこらのご先祖さまに、ご挨拶あいさつをしようか」

 絹代も、お茶で一服いっぷくしたあと、そう言った。

「あ、うん」

 佳奈子は返事をし、目的のほこらを見る。

「…古い祠だって聞いてたけど…、意外いがいとキレイだね…。もっと雑草ざっそうとかに、もれているのかと思ってた…」

 佳奈子は少し、不思議に思う。

「ああ…!だってここ、この前、私たちが、お掃除そうじしましたから…!この山で修行をするなら、きっと、ここにおまいりするだろうと思って…!」

 そうタマが言う。

「!そうだったんだ…」

「タマ、ありがとうね。あとでウタとネネにも、お礼を言うよ。ちゃんと、このぶんのボーナスと、有給ゆうきゅうも出すからね」

「うふふ…!いえいえ…!どういたしまして…!」

 タマはそう言って笑う。

 そうして佳奈子たちは、古いほこらに向かい合った。

 ちなみに、日本の山の山頂には、ほこらがある事が多い。

 山頂は、天に近い神聖な場所とされ、いのりの場として、祠が建てられているのだ。

 そこの祠に、何がまつられているのかは、地域それぞれによって違い、決まってはいない。

 まつられているのは、有名な神様やほとけ様の場合もあるし、その土地にまつわる、伝説上の人物である場合もある。

 そして驚くべきことに、今、佳奈子たちの目の前にあるこの祠は、なんと、千年以上も前から、ここにあるのだという…。

 そのうえ、ここにまつられているのは、佳奈子たちの先祖せんぞである、伝説の妖怪・天降女あもれおなぐなのである…。

「…佳奈子、ここにまつられているのが、誰なのか、なぜ祀られているのか、お前は、ちゃんとかっているね?」

 絹代がそう聞いてくる。

「うん…。その話は何度も聞いたから、ちゃんとおぼえてるよ…」

 佳奈子はそう返事をし、伝説の妖怪・天降女あもれおなぐの話を思い返した…。



 …はるか千年以上前…、佳奈子の一族が、まだ、「八乙女やおとめ」という苗字みょうじではなかったころのこと…。

 八乙女家の祖先そせんである、一人の妖怪・天降女あもれおなぐが、この地で、人間の男とともらしていた…。

 しかしそれは、天降女あもれおなぐの…、彼女の望んだことではなかった…。

 妖怪である彼女は、陰陽師おんみょうじである人間の男に、無理やり羽衣の力をふうじられ、絶対服従型ふくじゅうがた式神しきがみにされていたのである…。

 その天降女あもれおなぐは、それはそれは美しい女性だったという…。

 彼女は、妖怪たちから、櫻未さくらび、という名前で呼ばれていた…。

 その美しさは、まるで、さくらの女神のようであったという…。

 そんな彼女は、もともと、この地にいた妖怪ではない。

 ここから遠い、とある地から、無理やりれてこられたのである…。

 その、とある地には、力の弱い、白いウサギの妖怪が住んでいた。

 彼女は、その妖怪となかがよく、そのウサギに会いに、よく天からりてきていたのである…。

 しかし、ある時、旅の途中とちゅうの一人の陰陽師おんみょうじが、その地を通りかかった…。

 その陰陽師おんみょうじの名は、伊氏これうじ…。

 「天才陰陽師」と呼ばれる男だったが、とても強欲ごうよくで、傲慢ごうまんな男だった…。

 そんな陰陽師の男は、偶然ぐうぜん、彼女の姿を垣間かいま見る…。

「うっひょ~っ…!なんて別嬪べっぴんの妖怪だ…!マジで俺の好み…!」

 男は、一目ひとめ見て、美しい彼女に、心をうばわれてしまう…。

 すると、彼女に恋した男は、なんとわなを使って、彼女をつかまえる事を計画したのだ…。

 男はすぐに、計画を実行じっこうした…。

 まず初めに、男は、ウサギをらえた…。

 そして、彼女が、そのウサギを、助けに来たところを、わなを使って、らえてしまったのである…。

 男は、まんまと、計画に成功したのだ…。

 そのうえ男は、つかまえた彼女を、して自分に反抗はんこうできないようじゅつをかけて、絶対服従ふくじゅうがた式神しきがみにしてしまったのである…。

「いや~!なんなのよ、アンタ…!気持ち悪い…!放しなさいよ~!」

「グヘヘ~!さぁ~!早く2人で、愛のを作りに行こうぜ~!」

 そうして男は、彼女をれて、自分の故郷こきょうである、この地へと帰ってきた…。

 男は、異常いじょうなまでの独占欲どくせんよくで、彼女を愛したという…。

 やがて、2人の間には、子供も生まれる…。

「あはは~!俺たちの、愛の結晶けっしょうだな~!櫻未さくらび~!」

 しかし…、天降女あもれおなぐの彼女は、して男を、愛してはいなかった…。

 彼女は、自分をわなにはめて、らえた男を、ずっとうらんでいたのである…。

 けれど、彼女が男をうらむのも、仕方のないことだった…。

 なぜなら男は、彼女に、さまざまなおくり物をして、愛しているとは言うものの、彼女が自由に気晴きばらしに出かけることも、彼女の、家族や友人のもとへと帰ることも、して許しは、しなかったのだから…。

 そのため彼女は、にくい男からはなれることができず、心を許せる相手もなく、嫌悪けんおする環境の中で、ずっと一人きりだった…。

 そもそも、彼女の友人たちがいなくなったのは、ぜんぶ男のせいだった…。

 男は、彼女から、それらをうばっていったのである…。

 …ある時など、男は、彼女を解放かいほうしろと言って、追いかけてきたウサギの妖怪を、返りちにしたあと、なわしばった…。

 そして、そのウサギを、彼女に命令し、がけから、投げ捨てさせたのだ…。

 …また、ある時は、夜のあかりにするための妖怪を、男は無理やり、彼女につかまえさせた…。

 そして、その捕まえた、火属性の妖怪たち…、炎をまとった猫の「火車かしゃ」や、炎につつまれた鳥の「ふらり火」、炎を出すことができる子供の「ブナガヤ」…などを、男は余興よきょうだと言って、彼女に柄杓ひしゃくで水をかけさせ、苦しませた…。

 …さらにある時は、彼女を助けにやってきた、仲間の、天降女あもれおなぐたちを、男は彼女に命令し、攻撃させて、深手ふかでわせた…。

 彼女は、命令に逆らえないとはいえ、自分の手で、友人たちを傷つけてしまったことに、激しいショックを受ける…。

 そうして彼女は、友人や仲間たち…、心の支えを、うしなってしまったのである…。

 …人が、心の安定をたもつには、心を許せる相手との会話や、つながりが必要だ…。

 孤独感こどくかんというものが、人の大きなストレスになるからだ…。

 たとえ一人であったとしても、没頭ぼっとうできる趣味があったり、自分にとって心地いい環境をもっている人ならば、そこで楽しんだり、リラックスすることで、ストレスの発散はっさんになっており、一人でも、孤独感を感じることはないという…。

 しかし、彼女の場合はそうではない…。

 彼女は、毎日、男に話しかけられていたが、男は、彼女にとって、嫌悪けんおの対象でしかなかった。

 心の安定に必要なのは、あくまでも心を許せる、心地いいと感じられる相手なのである…。

 彼女は、嫌な事をさせられ、嫌な環境からけ出すこともできず、多大なストレスを受けていた…。

 そのうえ、嫌悪けんおする男との間に、子供まで作らされ、彼女は、すっかり心をんでしまったのである…。

 記録によれば、彼女は、深刻しんこくうつ状態におちいってしまったようである…。

 食べ物はのどを通らず、眠ることも出来なくなり、顔色は悪くなって、ほほはこけ、いつもぼんやりとして、目はうつろ…。

 時には、血をくこともあったという…。

 また突然とつぜん、はらはらと泣き出しては、悲鳴をあげることもあり、何かの幻覚げんかくや、幻聴げんちょうを聞いているようでもあったという…。

 彼女がそんな状態じょうたいになって、さすがに男も心配した…。

 しかし、それでも男は、これまでの自分の態度たいどを、反省はんせいすることはなかった…。

 それどころか、彼女がこんなふうになったのは、自分がいない間に、彼女と会っていた者たちのせいだ…!といって、家の使用人たちをとがめる始末しまつ…。

 そして、そんな時…、彼女たちが暮らす村に、凶悪きょうあく小鬼こおにたちの襲撃しゅげきがあったのである…。

 小鬼こおにたちは、この地のちゅうに、突如とつじょとして出現しゅつげんしたあなから、ぞろぞろとき出してきたのであった…。

 陰陽師おんみょうじの男は、村人たちに願われ、仕方なく自分の財産ざいさんを守るため、村人たちとともに、凶悪きょうあくな小鬼たちの退治たいじに向かった…。

 しかし、小鬼たちは、想像以上に強かったうえ、数も多く、苦戦くせんいられてしまう…。

 そこで村人たちは、この地にある山…、つまり、飛立山とびたちやまの山頂で、呪術じゅじゅつを行い、小鬼たちを弱体化じゃくたいかするじゅつを、大地のエネルギーにのせ、りまこうと考えた。

 そして、その山頂での呪術はこうそうし、ぞろぞろといた小鬼たちは、次々に弱体化していったのである…。

 弱った小鬼たちを、待ってました、とばかりに、たおしてゆく村人たち…。

 しかし、そんな時、なんと一匹の小鬼が、巨大な鬼へと変化へんげしたのである…。

 巨大な鬼は、それまで、小鬼にけて、姿をかくしていたのだ…。

 しんの姿をあらわした巨大な鬼は、自分たちを弱体化させているじゅつの存在に気づいてしまう…。

 そして、その術を止めようと、山頂へと向かい始めた…。

 男と村人たちは、そうはさせてなるものか…と、鬼に立ち向かう。

 しかし、巨大な鬼は、恐ろしく強かった…。

 そうして、男と村人たちは、山頂で鬼に追いつめられてしまう…。

 そして、その時、男は、天降女あもれおなぐの力を封じていた呪具を、その鬼にこわされてしまったのである…。

 すると、それにより、天降女あもれおなぐの彼女は、力を取り戻した…。

 しかも、封じられている間に、ためまれた力は、すさまじいものであった…。

 力あふれる彼女は、羽衣を使い、山頂へと、恐ろしいはやさで飛んでいく…。

 そして、その力で、彼女は巨大な鬼を、あっというまにたおしてしまったのである…。

 もはや命もこれまでか…、と、あきらめかけていた男と村人たちは、命が助かり歓喜かんきする。

 笑顔で、彼女に感謝する男と村人たち…。

 特に陰陽師の男の喜びは大きかった…。

櫻未さくらび…!愛する俺を、助けに来てくれたんだな…?!ああ…!俺の愛しい櫻未…!」

 そう言って、男は彼女に、きつこうとする…。

 しかしその瞬間…、彼女はなんと、陰陽師の男を…、今まで自分をしばっていた男を…、村人たちの前で、惨殺ざんさつし始めたのである…。

らくになんて、死なせてあげない…!」

 そう言って…。

 そう…、彼女は、男を助けに来たのではない…。

 にくい男を、自分の手で殺すために、急いでやって来たのである…。

 それは…、見るも無残むざんな、恐ろしい光景だったという…。

 しかしその時、彼女は、泣きながら、これまでの苦しみを語っていたそうだ…。

 村人たちは、恐怖しながらも、彼女の苦しみを理解した…。

 そして、自分たちが、これまで彼女を助けなかったことを、強く後悔こうかいした…。

 村人たちの中には、前から彼女に同情どうじょうしていた者もいたが、陰陽師の男が恐ろしく、助ける事ができなかったのだ…。

 やがて、男の惨殺ざんさつを終えた彼女は、村人たちにも敵意てきいを向ける…。

 次はお前たちの番だといって…。

 恐怖する村人たち…。

 しかしそんな時…、彼女と、殺された男との間に出来た子供が、まってください…!と言って、立ちふさがったのである…。

 村の人たちを許してください…、と言って。

 この子供は、霊力が強かったため、山頂での呪術に、霊力を提供するため、ここに来ていたのである…。

 子供は、村の人たちも、父上が怖くて反抗はんこうできなかっただけなんです…とうったえた。

 その言葉を聞き、村人たちも、彼女の前に土下座どげざして、これまでの男の仕打しうちを話した…。

 あの男…、伊氏これうじは、気にいらない村人たちに、たびたび暴力をふるい、その家族を人買いに売ったり、家に火をつけたりもしたのだと…。

 あの陰陽師の男は、この鬼よりもおぞましい、鬼のような男だった…と…。

 しかし、その男が、いくら恐ろしかったとはいえ、あなたを助けられなくて申し訳なかった…と、村人たちは謝罪しゃざいした…。

 子供も、彼女に、必死で懇願こんがんしてくる…。

 ここにいる村人たちは、私の大切な人たちなのです…と。

 どうか私にめんじて、彼らを許してください…と言って…。

 すると彼女は、きっ…!とするどい目を子供に向ける。

 そして子供に向かい、罪のない妖怪たちを、私のような目には、決してわせるな…!と、さけんだ。

 お前や、お前の守ろうとする者たちが、罪のない妖怪たちを、私のような目に遭わせたのなら、その時は、必ずお前たちをほろぼしてやる…と…。

 子供と村人たちは、それを聞き、必ず約束を守ります…!と彼女にちかった…。

 そして彼女はその誓いを聞くと、羽衣をまとい、さっ…と、天へとのぼって行ってしまったのである…。

 …その後、村人たちは約束を守り、この村をすくってくれた天降女おもれおなぐを神としてまつった…。

 そして村に神社を建て、山にはほこらを作った…。

 村人たちが約束を守っているためか、以降いこう、この地に、天降女おもれおなぐが天からりてきたことはない…。

 しかし、伝説は語りがれ、この山は、伝説の天降女あもれおなぐが、天へと飛び立った山…、飛立山とびたちやま、と呼ばれるようになったのである…。

 だが、今ではなぜか…「あの山は、悪い鬼の首がち切られて飛んだ場所だから、飛断山とびたちやまって名前なんだ。ちっていう字は、時代がって、ちっていう字に変わっちゃったんだよ…!」と言っている者が多いらしい…。

 まぁ、それも、ウソとは言えないし、由来ゆらいによくある、諸説しょせつあり、ということになるのだろう…。

 佳奈子はそう、考えをまとめる…。

「…佳奈子…。この山にまつわる話は、して忘れるんじゃないよ…」

 絹代がそう、真剣しんけんな声で言う。

「うん…。っていうか、忘れられないよ…。この山のお話、ひどすぎるし…。おもくって、気分がふさいじゃう…。天降女あもれおなぐ櫻未さくらびさまはともかく…、陰陽師の男の方…、ええと…伊氏これうじだったけ…?その伊氏これうじの方は、そんな人と血がつながってるって、考えるだけでイヤになるし…」

 佳奈子はそう言って、顔をしかめる…。

「ああ…。アタシもだよ…。だが、この話はね、多くの教訓きょうくんや、いましめをふくんでるんだ…」

「教訓や戒め…?」

「ああ…。陰陽師の男…、伊氏これうじは、術者として、まれにみる天才だった…。だが、とんでもなく強欲ごうよく傲慢ごうまんな男だった…。自分以外の者の、意見や感情はすべて無視むし…、いつも自分勝手にって、目的のためには手段しゅだんを選ばない…。だが、そんな人間の末路まつろがどうなるのか…、そんな人間が、どれほどの危険を呼び込むのか…、それを考えさせる教えなんだよ…」

「?え~と…、末路は分かるけど…、危険を呼び込む、ってのは、一体なに…?」

「ん…?そういや、お前には、まだ、この話の外伝がいでんを読ませていなかったね…」

「えっ…?!外伝…?!なにそれ…?!そんなのがあるの…?!」

 佳奈子は驚く。

「ああ」

「私も昔、読みましたよ…!」

 タマもそう言う。

「え~っ!そんなの初耳はつみみだよ~!くわしく教えて…!一体どんな内容なの…?!」

「いや、外伝は長いんだよ…。本を貸してやるから、あとで自分で読みな」

「え~っ…!お願い…!ちょっとだけ…!ちょっとだけ今、どんな内容なのかを教えてよ…!」

 佳奈子はねばる。

「…はぁ…。仕方ないねぇ…。じゃあ、ちょっとだけだよ…」

 そう言って、絹代は、飛立山とびたちやま伝説・外伝を話し始めた…。




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